ある日突然、解雇を言い渡されたら、「本当に会社の言い分は正しいのか」「解雇されるほどの理由なのか」と疑問に思うのは当然の事です。解雇される側にとっては生活がかかっている以上、そう簡単に解雇を受け入れられるものではありません。
そこで、会社はどんな時に解雇できるのか、解雇を言い渡されたらどうしたらいいのか、その対処方法や相談先について、解説します。
解雇を3つの類型に分類すると、以下のとおりです。
会社の業績が思わしくなく経費削減のために人員カット、つまりリストラをすることを整理解雇といいます。
会社の秩序を著しく乱した労働者に対して制裁として行われる解雇を懲戒解雇といいます。
上記以外の解雇一般を普通解雇といいます。
例えば、遅刻欠勤等の勤務態度・勤務成績の不良、職業上の適性・能力の欠如、違反行為を理由に解雇する場合などが普通解雇にあたります。
客観的に合理的な理由がない解雇は無効となります(合理的な理由)。
また、客観的に合理的な解雇理由があったとしても、解雇するほどの理由(相当性)でなければやはり解雇は無効となります(労働契約法16条)。
この点、懲戒解雇については、合理的な理由と相当性があることの他に、就業規則に懲戒の種別(懲戒解雇、出勤停止、降格、減給、けん責・戒告等)と理由を定めて労働者に一般的に知らせておかなければ無効となります。
また、整理解雇については、合理的な理由と相当性の基準とは別に、
の4要件に着目して有効かどうかの判断が行われることになります。
したがいまして、普通解雇や懲戒解雇の無効を主張する場合には、解雇に合理的な理由があるか、あるとしても解雇するほどの理由か否かを検討することになります。
また、整理解雇であれば、整理解雇の要件を満たすかどうかを判断することになります。
整理解雇については、こちらのコラムで詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
もしも会社から解雇を言い渡されたら、次の確認を行いましょう。
解雇を通告する方法について法律上の定めはありませんが、解雇が口頭で言い渡された場合、解雇通知書を交付するよう請求しましょう。 裁判所で解雇が無効と判断された場合、解雇時点に遡って賃金請求権が発生します。そのため、解雇通知書を受け取っていれば、会社が「解雇した日」を明らかにすることが可能となり、裁判所で解雇が無効と判断されれば、その日からの賃金を請求することができます。 また、解雇の種類がどのようなものであるかによって、争い方も異なってくるため、その点も解雇通知書で確認することができます。
解雇理由によって労働者が何を検討し、争うべきかが決まります。
そのため、会社は、解雇しようとする労働者に対して、解雇理由を明確に説明しないケースも多々あります。
その場合には、会社に「解雇理由証明書」の発行を求めましょう。
労働基準法では、労働者からの求めがあれば、会社は詳しい解雇理由を記載した解雇理由証明書を発行しなければならないと定められています(労働基準法22条1項、2項)。
会社がそれらしい言い訳を考えないうちに、早期に解雇理由証明書の発行を請求しましょう。
もしも会社からの通告が「解雇予告」であれば、「解雇予告のための期間」が十分に設けられているか確認しましょう。
労働基準法上、使用者が労働者を解雇するときには、基本的に「30日以上前に予告」をしなければなりません。もしも30日に満たない場合には、日数分の「解雇予告手当」を支払わなければならないことになっています(労働基準法20条1項)。
解雇予告義務違反を理由とする解雇無効を主張して裁判で争った場合には、30日に満たない日数分の未払い賃金請求については認められますが、解雇自体は有効と認められることになります。
次に解雇予告手当の計算方法をご説明します。
解雇予告手当とは、会社が30日前に解雇を通知できなかったときに支払わなければならない、不足する日数分の手当です(労働基準法20条1項)。
たとえば解雇予告が20日前になされたのであれば10日分の解雇予告手当、解雇予告が10日前になされたのであれば20日分の解雇予告手当を、会社は労働者に支払わなければならないとされています。
ただし、解雇理由が労働者に解雇予告手当を支払う必要のない程度に重大または悪質なものである場合には、会社は解雇予告手当を支払わなくてもよいとされています(労働基準法20条1項但書)。
解雇予告手当の計算式は、以下の通りです。
解雇予告手当=1日あたりの平均賃金×不足日数
「1日あたりの平均賃金」を計算する際、まずは直近の給料の締め日から3ヶ月間の賃金総額を計算します。ここには源泉所得税や社会保険料なども含みます(ただし賞与は含みません)。
次に、その期間の総日数を計算します。たとえば30日、31日、30日なら総日数は91日です。
こうして求めた賃金総額を労働日数で割り算して、「1日あたりの平均賃金」を求めます。
ただし、その数字が「最低保障」を下回る場合には、「最低保障」を「1日あたりの平均賃金」と置き換えて解雇予告手当を計算します。 「最低保障」の計算式は、以下の通りです。
直近3ヶ月に支払われた賃金総額÷その期間中に働いた日数×0.6
たとえば、解雇された労働者の解雇予告前3ヶ月の給料が30万円、35万円、33万円で、その間の総日数が92日だった場合を考えてみましょう。
この場合、1日あたりの平均賃金は98万円÷92日=10652円
不足日数が10日なら、10652円×10日=106520円の解雇予告手当が必要となります。
解雇されたとき、会社が退職金を払ってくれないケースが多々あります。
しかし、解雇されたからといって退職金を請求できないとは限りません。
以下のようにして確認と請求の手続きを進めましょう。
退職金は、それを支給するか否か、どのような基準で支給するか否かが、会社の裁量に委ねられている限りは、賃金ではありません。
しかし、労働協約、就業規則、労働契約などで退職金を支給することや支給基準が定められている場合には、賃金と認められます(昭和22年9月13日発基17号)。賃金と認められれば、労働者は未払いに対して請求することができます。
したがいまして、退職金を請求するためには、まず、労働協約、就業規則、労働契約などで退職金の支給や支給基準が定められていることが必要です。
そもそも退職金規定のない会社では、自己都合であろうと解雇のように会社都合であろうと、退職時に退職金を請求することはできません。もっとも、退職金規定がないときでも、退職金の支給について確立した労使慣行(規定に基づかない取扱いが長い間反復継続して行われ、それが会社と労働者の社内ルールとして機能していること)がある場合には、その慣行に従った退職金を請求できると解されています。まずは労働協約、就業規則、労働契約などで退職金の支給や支給基準が定められているか確認しましょう。
もし、退職金規定がないときでも、退職金の支給や支給基準について確立した労使慣行があるかどうかについても、過去の退職者に確認するなどして、調査してみましょう。
懲戒解雇されたときには、会社から「退職金を支払わない」と言われるケースが多々あります。実際、就業規則や労働協約などに、退職金の支給基準として「懲戒解雇の場合には退職金を支給しない」と定められているケースもあります。しかし、こういった定めがあるからといって、退職金の全額または一部の不支給が認められるとは限りません。
懲戒解雇の事案で退職金の全部または一部の不支給が認められるのは、退職金規定などに明記してあることを前提に、労働者のそれまでの勤務の功労を抹消(全額不支給)ないし減殺(一部不支給)してしまうほど著しく信義に反する行為があった場合に限られます(大阪高判平成10.5.29労判745号42頁日本コンベンションサービス事件)。したがいまして、たとえ懲戒解雇されたとしても、退職金の全額または一部の請求が認められる場合があります。
会社から「退職金を支払わない」と言われたとしても、退職金の請求を諦めず、「本当に退職金を不支給にできる事案かどうか」を検討する必要があります。
解雇されてさらに退職金を支払ってもらえなかったとき、労働者が自分一人で会社に退職金を請求するのは困難です。
労働問題に通じた弁護士に相談しながら進めていきましょう。
弁護士であれば、労働契約や就業規則等の内容を分析し、どのくらい退職金を請求できそうか凡その計算ができますし、会社に対して退職金の請求をすることも可能です。
弁護士に依頼すれば自分で請求するよりもスピーディーかつ効果的に回収できるので、退職金の不払いにお困りであれば、お早めにご相談ください。
解雇に納得できないのであれば、泣き寝入りすべきではありません。
以下のような場所で相談をしてみましょう。
労働基準監督署は、企業に労働関係法令を守らせるための機関です。
刑事的な処分を行う権限を持っており、労働関係法令に違反している企業があれば立ち入り調査を行ったり、是正勧告や指導を行い、悪質な場合には逮捕したり送検したりできます。
したがいまして、会社に解雇予告手当の不支給や残業代未払いなどの労働基準法に違法する行為があれば、労働基準監督署から会社に対して指導・是正勧告してくれます。
しかし、労働基準監督署は、民事的な問題を解決する機関ではないので、「解雇が有効か」「退職金を払ってほしい」などの相談をしても、直接的に「解雇が無効」などの判断や会社に対して「退職金を支払いなさい」などの命令をしてもらうことはできません。
都道府県の労働局では、労働問題を解決するための話し合いをあっせんしてくれます。
労働局では「解雇が有効か」「退職金を払ってほしい」などの相談も受け付けてくれますし、話し合いのあっせんによって解雇問題を解決できる可能性もあります。
ただし、会社のあっせん手続きへの参加は任意ですので、会社があっせん手続きに参加しない可能性があります。
また、あっせん手続きは、あくまで「話し合い」による解決方法なので、お互いに譲歩できなければ決裂して終わってしまう可能性もあります。
労働組合は、労働者が団結して権利を守るための団体です。
会社に適切な労働組合がなければ、社外のユニオン(合同労組)に頼ることも可能です。労働組合に相談をすると、労働組合が会社に「不当解雇」について団体交渉を申し入れてくれて、会社に対して解雇撤回等の改善・対応を求めてくれます。会社は労働組合からの団体交渉申し入れを不当に拒絶することは許されませんので、労働組合から団体交渉の申し入れがあれば、ひとまず会社は労働組合との団体交渉に応じることになるでしょう。
ただし、団体交渉も話し合いによる解決方法である以上、会社が労働組合との団体交渉に応じたとしても、労働組合からの要望を聞き入れない可能性は十分あります。
解雇問題が発生したとき、労働基準監督署、労働局、労働組合に相談をしても、以上のように最終的な解決ができない可能性があります。
最終的な解決を望んでいるのであれば、労働問題に取り組んでいる弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談すると、以下のようなメリットがあります。
解雇問題解決のためのアドバイスを受けられます。解雇を言い渡されたとき、どのように対応するのが最適か確認することができます。
会社に解雇通知書や解雇理由証明書の発行を求めるときなどにも、弁護士に方法を教えてもらったり、代わりに請求してもらったりできます。
解雇問題を有利に解決するには、証拠が必要です。弁護士であれば事案ごとにどのような証拠が必要かを判断し、的確にアドバイスすることが可能です。
また、弁護士であれば必要に応じて弁護士法23条照会を利用して、通常ルートでは入手しにくい資料を入手することもできます。
労働者が、解雇や退職金不支給を争う場合、まずは会社に対して解雇の撤回や退職金の支給を求める交渉を開始することになります。
しかし、労働者が、一人で会社と交渉するとなると、普段法律に接することのない労働者にとって不利益な内容で和解させられる可能性があります。会社が弁護士に依頼すれば、より一層労働者が不利な立場に追い込まれかねません。そこで、労働者が、解雇や退職金不支給を争う場合、会社との交渉を法律の専門家である弁護士に依頼すれば、一方的に不利益な内容で和解させられるリスクを回避することができます。
また、労働者にとって、解雇された会社との交渉は、大きな精神的苦痛を伴うものですので、弁護士に依頼すればその苦痛からも解放されるというメリットがあります。
労働者が、解雇や退職金不支給を争う場合、会社と交渉をしても合意できずに決裂するケースもあります。
その場合、労働者が、解雇の撤回や退職金の支給を望むのであれば、会社に対して、労働審判の申立てや訴訟提起をしなければなりません。しかし、自分一人ではなかなか対応できない方が多いでしょう。
弁護士は、労働組合とは異なり、労働審判や訴訟においても、代理人として活動する資格を有しています。
交渉を依頼していた弁護士に労働審判や訴訟を依頼する場合には、交渉段階で会社とやりとりした内容が労働者にとって有利な内容であれば、労働審判や訴訟において主張することも可能です。
また、交渉段階から引き続き同じ弁護士に依頼することができるため、労働審判や訴訟の準備もスムーズに進めることができます。
ある日突然、「会社を辞めろ」「お前はクビだ!」などと言われても、納得できない理由であるなら、退職に応じる必要は一切ありません。
もしも、既に退職させられてしまったとしても、解雇の撤回を求めたり、退職することを前提とした解決金や慰謝料の請求など、金銭的な解決ができる可能性があります。
不当に解雇させられそう、または、解雇されてしまったからといって、泣き寝入りする必要はありません。
まずはベリーベスト法律事務所の弁護士まで、お気軽にご相談ください。
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