経営不振などの理由で、会社が労働者をやむを得ず解雇することを、整理解雇といいます。しかし、整理解雇には厳格なルールがあり、単に経営が苦しいからと軽々に労働者を解雇することはできません。
また、会社に整理解雇を言い渡されても、不当解雇であれば労働審判を申し立てることによって、解雇とならない可能性があります。
本コラムでは、無効な整理解雇の特徴などを詳しく説明し、会社から解雇通告を受けた際にすべきことや労働審判の流れ、弁護士に依頼するべき理由を解説します。
解雇とは、会社からの申し出による一方的な労働契約の終了のことです。
解雇は、懲戒解雇と普通解雇の2つに分類されます(※)。
「整理解雇」とは、経営上必要とされる人員削減のためにおこなう解雇のことです。普通解雇の一種にあたります。「リストラ」をイメージすると分かりやすいかもしれません。
※解説サイトによっては、懲戒解雇・普通解雇・整理解雇で3種類と分けているケースもあります。
整理解雇が有効であるかどうかについては、次の4つの要素を考慮して判断されます。
4つの要件がひとつでも満たされていない場合は、原則として整理解雇が無効であるという考え方もありましたが、現在は、4つの要素に関する事情を総合考慮して、整理解雇の有効性を判断する考え方が主流の考え方です。
たとえば、「人員削減が必要だと整理解雇を言い渡されたが、役員報酬は変わっていない」といったケースです。
会社が立ち行かなくなるほどの経営不振であれば、役員報酬がカットされてしかるべきでしょう。
しかし、それが実行されていないとなると、「解雇を回避するための最大限の努力がおこなわれている」とはいえないわけですから、無効な整理解雇と判断される可能性があります。
また、「説明なしに突然、整理解雇通知を受けた」などのケースも、「労使間で十分に協議をおこなった」という要素に問題があり、無効な整理解雇と判断される可能性があります。
整理解雇の有効性の検討にあたっては、前述した4要素に照らし、会社側の行動が厳しくチェックされます。
労働基準法19条には、解雇制限の規定が設けられています。
以下の期間中は解雇が制限されます。
この解雇制限期間中に整理解雇が通告された場合、違法となる可能性があります。
また、労働基準法20条は、
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない
と規定しています。
整理解雇の理由が正当とされても、30日前には解雇予告をする必要があり、予告の日が30日に満たない場合には不足日数分の平均賃金を、解雇予告手当として支払わなければなりません。
解雇予告や解雇予告手当の支払いが適切におこなわれていない場合、違法となります。
解雇の不当性と併せて確認しておきましょう。
会社の就業規則を確認し、退職関連の項目をチェックしましょう。
退職金などについて就業規則に明記されていれば、整理解雇であっても請求権は発生します。
なお、就業規則に「経営悪化など事業の都合により解雇の可能性がある」などと規定されていても、実際に適正な解雇であったかは、前述した整理解雇の4つの要素を考慮して判断されます。
整理解雇を告げられたら、解雇理由証明書を会社に請求しましょう。
解雇理由証明書とは、会社が労働者をどんな理由で解雇するのかを記した書類です。
労働基準法22条は「労働者が」「証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない」と規定しています。
証明書に記載されている解雇の理由が、自身の解雇理由に該当しているかどうかを確認しましょう。
整理解雇に応じる意思がない場合は、会社との直接交渉で解決を目指しましょう。
交渉不成立の場合は、解雇理由証明書などを手元に残し、解雇理由に納得していない旨を会社に伝えておくことが重要です。
後に労働審判や裁判に発展した場合、解雇理由証明書自体が証拠になります。
解雇理由に納得していたと推認されるような事実があると、後の労働審判や裁判で不利になる可能性もあります。
都道府県労働局では、会社と労働者の間のトラブルを解決するため、「あっせん」という制度を設けています。これを利用して交渉するのも選択肢のひとつです。
あっせんは、弁護士、大学教授、社会保険労務士など労働問題の専門家である「あっせん委員」が、中立公正な立場で労働者と会社の間に入り、話し合いを進める制度です。
あっせんにより当事者間で解決の合意に至った場合は、民法上の和解契約として取り扱われます。
あっせん開始の通知を受けた被申請者が手続に参加する意思がないことを表明したときや、会社側と労働者の意見の隔たりが大きいときなど、解決の見込みがないとあっせん委員が認めた場合、あっせんは打ち切られます。
直接交渉、あっせんで解決に至らなければ、労働審判や訴訟に進むことになります。
労働審判は、裁判所を介して、労働者と会社の個別労働紛争を解決するための制度です。
解雇や給与の未払いなど、会社と労働者における民事上のトラブルを、柔軟・迅速に解決することを目的としています。
労働審判は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織する労働審判委員会がおこないます。労働審判員は、雇用関係や労使慣行に関する知識や経験が豊富な人の中から最高裁判所が任命する仕組みです。
労働審判の手続きは原則、3回以内の期日で、おおむね3か月以内に完了します。
裁判と比べ、迅速に結論を出すことができるのが、労働審判の利点です。
労働審判を利用するためには、当事者は、裁判所に対して、申立書を提出します。
申立書には、証拠書類を添付します。
申し立てから40日以内に第1回期日が指定され、その後3回以内の期日の中で、労働審判委員会が当事者の言い分を聞き、争点を整理するほか、必要に応じて関係者の事情聴取などもおこないます。
労働審判委員会は、まずは話し合い(調停)による解決を目指します。
話し合いがまとまると、調停が成立し、手続きは終了します。
話し合いがまとまらず調停が成立しない場合は、労働審判委員会が、手続きの経過を踏まえた判断、すなわち労働審判を下すことになります。
この労働審判に対して、2週間以内に異議がなければ労働審判は確定となり、手続きは終結します。
一方で、異議が申し立てられると労働審判は効力を失い、自動的に訴訟に移行します。
その後は、地方裁判所で、訴訟を進めることになります。
労働審判は、個人で申し立てることも可能です。
しかし、手続きを円滑に進め、調停を成立させるポイントとして、労働問題の解決実績がある弁護士に相談をすることがあげられます。
労働審判は期日が短いため、申し立てをする段階で、十分な主張が盛り込まれた申立書と、申立書の内容を証明する証拠を準備する必要があります。
審理に入ってからも、相手方の提出書類を精査し、自分の主張をしっかりとまとめた上で、労働審判委員会に対し口頭で言い分を述べなければなりません。
労働問題の実績がある弁護士に依頼すれば、申し立ての段階から必要十分な準備をし、審理で的確な主張、立証をおこない、スムーズな労働審判の進行が期待できます。
整理解雇が有効かどうかは、他の解雇より厳しく判断すべきものと考えられています。
整理解雇が有効かどうかの判断は、上述の4つの要素に関する諸事情の総合的な判断によりされる考え方が主流です。
整理解雇を告げられても、不当であると感じたら、まず弁護士への相談を検討しましょう。会社との直接交渉、あっせん、労働審判、解決に至らない場合は訴訟まで、労働問題の実績のある弁護士に一任することができます。
不当な整理解雇にお悩みの際は、労働問題の経験が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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