会社から解雇を言い渡された場合や退職勧奨された場合、多くの方は「クビになった……」と動揺してしまうでしょう。
同時に、このまま退職を受け入れるべきなのか、今後の生活や再就職のことなど、さまざまな疑問や不安が生じるものです。クビを宣告されてしまったとき、どのような対応をとるべきなのでしょうか。
本コラムでは、退職する前に確認しておくべき点や注意点、解雇の無効を主張する方法について弁護士が解説します。
会社が労働者を「クビ」にしよう(辞めさせよう)とする行為を法律的に分析すると、「解雇」と「退職勧奨」に分けられます。それぞれどのようなケースを指すのでしょうか。
① 解雇には3種類ある
解雇とは、会社が一方的に労働契約を解約することをいいます。
解雇は、解雇をする理由に応じて、一般的に「整理解雇」、「懲戒解雇」、「普通解雇」に分けることができます。
このように解雇を区別するのは、適用される労働契約法上の条文が異なっていたり、解雇が無効となる要件が判例等において区別されていたりするためです。
② 解雇する際には、解雇前に予告をする必要がある
もっとも、いずれの解雇についても、解雇しようとする日から30日前までに予告をしなければならず、30日前に予告をしない会社は30日分以上の平均賃金を支払わなければならないこととされています(労働基準法第20条第1項)。
「退職勧奨」とは、会社が労働者に対して、自主的に退職するよう説得することをいいます。
退職勧奨をされても労働者は退職を拒むことができ、最終的に退職するかどうかを決めるのは労働者自身という点で、解雇とは意味合いが異なります。
裁判例でも以下のとおり判示されています。
判例:鳥取地裁昭和61年12月4日判決判タ624号101頁
退職勧奨そのものは雇用関係にある者に対し、自発的な退職意思の形成を慫慂するためになす事実行為であり、場合によっては雇傭契約の合意解約の申入れ或いはその誘因という法律行為の性格をも併せもつ場合もあるが、いずれの場合も被勧奨者は何らの拘束なしに自由に意思決定をなしうるのであり、いかなる場合も勧奨行為に応じる義務はないものである……
ただし、企業のなかには、執拗(しつよう)に退職を促す発言をする、パワハラやいじめのような言動によって職場に居づらい雰囲気を作るなどし、労働者が自ら退職を申し出るように仕向けるといった悪質なケースもあります。
このような社会通念上の限度を超えたものは、退職推奨ではなく、退職強要と呼ばれています。退職を強要されているといえるような状況があれば、会社に対して損害賠償請求ができる可能性や、刑法第223条に規定されている強要罪が成立する可能性もあります。
クビになったとき、特に困るのは当面の生活費や再就職活動にかかる費用など、お金の問題ではないでしょうか。
退職時には以下の金銭を請求できる可能性があります。
未払いの賃金(時間外、休日及び深夜の割増賃金など。)があれば、退職時に請求しましょう。
「役職者だから」「外回りの営業だから」など、残業代の支払対象ではないと思い込んでいる方もいらっしゃるかもしれませんが、そのような方でも残業代(割増賃金)を請求できる可能性があります。
しかし、請求をしようと思っても、「タイムカードを改ざんされていて残業した証拠がない」など、請求にあたり困る場面も出てくるでしょう。
こういった場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
具体的な行動をはじめる前に相談すれば、未払いの賃金があるのか、未払いの賃金を請求するためにはどのような証拠を集めたらよいのかなど、見通しを立てることもできるでしょう。
また、しっかりと事前準備をした上で会社へ請求することができるので、スムーズに進むことが期待できます。
雇用契約書や就業規則などに退職金制度が定められているのであれば、退職にあたり退職金を請求できます。
解雇になった場合も、「懲戒解雇の場合は不支給とする。」など別段の定めがない限り、退職金が支給される可能性はあります。
ただし、雇用契約書や就業規則などに退職金制度が定められていない会社の場合は、原則として退職金を請求できません。
退職金は毎月支払われる給与(賃金)とは異なり、労働基準法に退職金請求権を直接根拠づける規定がないためです。
会社への請求とは異なりますが、退職にあたり知っておきたいのが雇用保険です。
一定期間、雇用保険に加入しているのであれば、退職した際に雇用保険の基本手当(失業手当)を受給できます。
離職票に記載された離職理由が、自己都合の場合や懲戒解雇の場合には、7日間の待期期間に加えて3か月間または2か月間の給付制限(受給できない期間)※が適用される可能性があるため注意しましょう。
※雇用保険法の改正により、令和2年10月1日以降に退職した方については、正当な理由のない自己都合退職の場合であっても、5年間のうち2回までは給付制限期間は2か月間となりました。
会社からクビの宣告を受けた際には、次の点に注意する必要があります。
解雇は労働者の生活の基盤をおびやかす重大な行為であるため、これを有効に行うためには厳格な要件があります。法律上、以下のとおり定められています。
労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする
事例1:能力不足や勤務態度の不良で解雇されるケース
たとえば、能力不足や勤務態度の不良などを理由として普通解雇された場合、「能力不足や
ミスについて上司等から具体的に注意を受けていないこと」、「指摘されているミスが重大なものとはいえない、あるいは多数回に上るとはいえないこと」等の事情がある場合は解雇が無効となる可能性があります。
事例2:婚姻・妊娠・ケガ・病気などを理由に解雇するケース
また、女性の婚姻や妊娠を理由にした解雇、業務上のケガや病気により休業している間の解雇などは、法律によって禁止されています(男女雇用機会均等法第9条第2項ないし第4項、労働基準法第19条第1項等)。
①会社都合による退職なのに、自己都合にされたら要注意!
離職票上の離職理由が事実と異なる場合も注意が必要です。
よくあるのは「会社都合による解雇だったはずなのに、離職票には『自己都合』と記載されている」ケースです。
自己都合扱いになると、上述したように給付制限によって雇用保険の基本手当(失業手当)の給付開始が遅くなる、給付日数が短くなるなどの不利益が生じますので、離職票の確認は必須です。
ハローワークが離職票を作成する前に、会社は離職証明書等を作成しハローワークに提出します。その後離職票はハローワークから会社に送られ、会社を通じて労働者に離職票が渡されることになるということが多いです。
②退職理由を会社都合に訂正してもらうには?
会社から事前に離職証明書を示された場合はまず離職理由を確認しましょう。会社が主張する離職理由に納得できない場合は、記載を改めるように要求しましょう。
要求が通らない場合、「離職者本人の判断」の欄において、「異議有り」を「〇」で囲みましょう。
続いて、ハローワークが作成した離職票を会社から交付された場合も内容を確認しましょう。会社が事実と反する事情を記載している場合には、記載を改めるように要求しましょう。
要求が通らない場合、「離職者記入欄」と「具体的事情記載欄(離職者用)」に事実に合致した事情を必ず記載しましょう。
また、「離職者本人の判断」の欄において、「異議有り」を「〇」で囲みましょう。
会社から解雇予告がなかった場合には、会社は平均賃金の30日分以上を、解雇予告手当として支払う義務があります(労働基準法第20条第1項)。
なお、解雇予告手当を支払うことで予告期間の短縮が可能です。
たとえば、解雇の10日前に予告があった場合は、20日分の平均賃金を支払うことで、会社は30日以上前の解雇予告をしていなくても、解雇することが可能となります(労働基準法第20条第2項)。
もっとも、会社が解雇予告手当を支払った場合でも、解雇を有効に行うためには、すでに述べた「客観的に合理的な理由」と、「社会通念上の相当性」が必要となります(労働契約法第16条)。
正当な理由もなくクビを宣告されれば、多くの方が「納得できない」と感じるでしょう。
不当な解雇である旨を上司に訴えたとしても聞き入れられない可能性が高いため、まずは適切な窓口・機関へ相談することが大切です。
そのうえで、解雇の無効を主張するなどの対応を検討しましょう。
① 労働組合
相談先としては、まず労働組合があります。とくに整理解雇のように大規模な解雇が実施されているケースでは、団体での交渉が有効でしょう。
もちろん、懲戒解雇や普通解雇の場合にも大きな助けとなるでしょう。
② 労働組合がない場合
労働組合がない場合や、あっても機能していないような場合は、
お近くの労働局や
労働基準監督署内にある総合労働相談コーナーへの相談が考えられます。
必要に応じて都道府県労働局長による助言・指導がされたり、紛争調整委員会によるあっせんの申込みをすることもできます。
会社に対して解雇が無効だと主張する場合は、ご本人の希望に応じて次のような方法をとることが考えられます。
① 復職を求めるケース
1つ目は、会社に解雇を撤回させたり、裁判所を使った手続を通じて解雇の無効を確定させたりして、復職を求めるケースです。解雇が撤回されたり、無効が確認されたりすることによって、これまでの日常を取り戻すことができます。
また、会社と解雇の有効性を争っていて働けていなかった分の未払賃金(いわゆるバック・ペイ)を請求することもできます。
② 復職をせず、金銭請求をするケース
2つ目は、復職はしないが金銭請求をしたいケースです。
上述の解雇予告手当や逸失利益、慰謝料等の損害賠償請求をすることができる可能性があります。
いずれの主張をする場合であっても、法的な知識や証拠をもとに会社に主張する必要があります。
① 解決に向けてのアドバイスやサポートが受けられる
ご本人だけで会社に対して解雇が無効であることを主張することが難しいと感じる場合は、弁護士に相談してみましょう。
弁護士に相談すれば、解雇の無効を主張できるのかといった法的な判断や解雇の無効を主張するための証拠の収集に関するアドバイス、会社との交渉や未払賃金の請求などのサポートが受けられます。
② 訴訟にはならず、話し合いで解決するケースも多い
「弁護士に相談すると訴訟になってしまうのではないか?」と不安になる方もいらっしゃるかもしれませんが、すぐに訴訟になるケースは多くはありません。
ご本人のご希望に応じて、まずは会社との交渉から始めることが多いです。
弁護士が代理人となることで、ご本人とは交渉をしなかった会社が、交渉のテーブルについてくれる可能性もあります。弁護士が介入することで、話し合いによって折り合いがつき、訴訟に至る前に解決をするケースも多いです。
「会社をクビになった」と一言でいっても、個別の事情によって対応策は異なります。
解雇にあたるのか、退職推奨にあたるのか、会社の都合による解雇なのか、自身に非があって解雇されたのかなど、解雇の状況を整理することが大切です。そのうえで、しかるべき対処をとる必要があります。
解雇の理由や退職勧奨の方法に少しでも納得できない点があれば、
弁護士に相談することをおすすめします。
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