サービス残業が当然のように行われていた時代から、平成27年に電通の女性新入社員が過労自殺した問題もあり、長時間労働への風当たりは年々強さを増しています。
働き方改革関連法が平成31年4月から順次施行されるなど、法的な手当てもなされるに至っています。こうした流れを受け、企業・労働者双方の労働時間に対する意識が変わり、サラリーマンの残業時間は年々減少傾向にあります。
その一方で、業務量自体は変わらないことから、持ち帰りの仕事を行わざるを得ないなど、残業代が支払われない、サービス残業をしている人もいると思われます。こんなに働いているのに実労働時間に見合った給料をもらえていない、と不満を抱える方は少なくないでしょう。
今回は、日本のサラリーマンの平均残業時間を把握した上で、残業代を請求できる労働及び残業時間の上限規制について解説し、未払いの残業代を請求する際のポイントについてもお伝えいたします。
いったい日本のサラリーマンは月にどのぐらい残業をしているのでしょうか。
また、それに対して相応の残業代を受け取っているかどうかは皆様も気になるところではないでしょうか。
しかし、残業時間に関する統計結果は、集計方法等の違いなどから調査団体によって異なっており、いずれの統計が正確かはわかりかねます。
参考までに、厚生労働省が発表している毎月勤労統計調査から業種ごとの所定外労働時間をみていきましょう。
平成30年分結果速報より、各産業における月の所定外労働時間は以下のとおりです。
調査対象となった産業のうち、もっとも所定外労働時間が少ないのが医療、福祉業界であり、もっとも多いのが運輸、郵便業となっています。
前年と比べると情報通信業のように10.4%減と大幅に減少している業種もあれば、鉱業、採石業等のように30.8%増と大幅に増加している業種もあります。
それでは、残業はどのような原因で生じることが多いのでしょうか。
過労死等の実態把握のため、平成27年度に企業及び労働者双方に対して行われた厚生労働省の委託調査「過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業 報告書」によると、残業が発生してしまう理由として挙げられた理由のうち、企業側・労働者側双方で多かった回答は以下のとおりです。
上記のうち、①と②は常態化している傾向が強い一方で、③~⑤が要因となる残業は、月によって発生する残業時間数が上下する可能性が高いものと考えられます。
①や②のような日常的な業務量の多さ、人員不足による残業はもちろん、繁忙期の業務増加、顧客の要望、突発的なトラブルなどに応える必要があるために時間外労働をしていることから、③~⑤を理由とする残業に対して残業代を請求するのは労働者の当然の権利と言えます。
まず残業時間の上限規制について簡単に解説します。
なお、ここでいう「残業時間」とは労働基準法上の法定労働時間を超過した時間をいいます(労働基準法32条1項、2項等)。
企業が労働者に対して法定労働時間を超えて労働させたり休日に労働させたりするためには、労働者と企業との間で36協定を結ぶ必要があります(労働基準法36条1項)。
もっとも、その場合でも無制限に残業をさせてよいというわけではありません。
法律が定める残業時間の上限は、月間45時間、年間360時間です(労働基準法36条4項)。
臨時的な特別な事情があり、特別条項付き36協定が労働者と企業の間で結ばれていたとしても、年間の上限は720時間以内と定められています(労働基準法36条5項)。
また、その特別条項が適用される月からさかのぼって1ヶ月~6ヶ月それぞれの月平均残業時間が80時間以内であり、かつ月の上限は100時間未満と決められています(労働基準法36条6項2号、3号)。この時間には休日の労働時間も含まれています。
さらに、原則的上限である月間45時間の残業時間を超過することが許されるのは、年間6ヶ月までである点にも注意が必要です(労働基準法36条5項)。
なお、月間80時間の残業時間は、1日あたりで換算すると、約4時間の残業時間となります。
あなたが上司の指示等により所定労働時間を超えて勤務した場合、原則として、企業に対してその分の残業代を請求することができます。36協定が締結されているか、残業時間の上限規制を超えているかどうかなどは関係ありません。
タイムカードと実労働時間に乖離がある場合や、仕事を自宅に持ち帰って行った場合などであっても、それが上司など企業の指示によって行われたのであれば、法律上、企業は労働した時間分の賃金を払わなければなりません。
また、それが法定労働時間を超える場合や休日の勤務であった場合には後述のように一定の割合を上乗せした割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条1項)。
① 年俸制
残業代に関する規定の適用は月給制のサラリーマンに限ったことではありません。
年俸制であっても、所定時間外労働をした場合は残業代が発生します。
ただし、以下の要件をすべて満たす場合は年俸に残業代を含むことが可能です。
② 事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制は、
に適用が認められる制度であり、この適用がある場合には、事業場外の勤務時間は所定労働時間分の労働をしたものとみなされます(労働基準法38条の2第1項)。
また、業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされます(労働基準法38条の2第1項ただし書き)。
そのため、使用者は、この業務の遂行に通常必要とされる時間については残業代を支払わなければなりません。
③ 裁量労働制
法所定の業務について労使協定等でみなし労働時間数を定め、実労働時間に関わらず当該労働時間数の労働をしたものとみなす裁量労働制(労働基準法38条の3、38条の4)もありますが、こちらも、みなし労働時間数が法定労働時間を超過した場合にはその分の残業代を支払う必要があります。
月給制のサラリーマンの残業代が具体的にどのくらいの金額になるのかについては、基本的に、以下の計算式で算出することが可能です。
1時間当たりの賃金額は以下の数式で求めることができます。
実際の労働時間が法定労働時間(労働基準法32条1項、2項等)を超過している場合、その超過部分について、使用者は労働者に対し、25%以上の割増賃金を支払うよう義務付けられています(労働基準法37条1項)。
また、これが法定休日の労働の場合には35%以上の割増賃金を支払うよう義務付けられています(労働基準法37条1項、労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)。
また、法定時間外労働が1ヶ月に60時間を超過すると、割増率は25%から倍の50%に上がります(労働基準法37条1項)。
平成31年4月より順次施行されている働き方改革関連法案により、これまで適用が免除されていた中小企業についても、2023年4月1日以降は、月の残業が60時間を超えた時間外労働に対して50%以上の割増賃金を支払うこととされました。
さらに、1ヶ月に60時間を超えた時間外労働に深夜労働が加わると、割増率は最高75%にまで増加します(労働基準法37条4項)。
タイムカードの改ざんや、持ち帰り残業などによって生じた未払いの残業代を請求するには、実際の労働時間を立証する証拠が必要となります。労働した証拠などがない状態で、ただ計算が合わないと伝えただけでは、企業側も動いてくれない可能性が高いでしょう。
もし裁判になった場合でも、証拠がないのでは不当性や違法性を訴えることはできません。
そこで、実際に働いたことが客観的に分かる以下のような証拠を集めることが大切です。
労働時間をタイムカードで管理している場合はそのコピーを集めましょう。タイムカードがない場合には業務日誌や業務日報でも代用できる場合があります。
タイムカードを押した後に上司の命令で仕事をしている場合、その時間働いていたことの証拠として、メールやパソコンのログイン・ログオフの履歴、オフィスビルの入退館記録等も有力な証拠になりえます。
さらに、ご自身がつけている日記や、自宅に帰る旨を家族に連絡したメールなども証拠として活用できる可能性があります。
もし上記のような証拠を自分でそろえることができない場合は、企業にタイムカードなどの勤務情報を開示してもらうよう請求する必要があります。
これらの証拠を集めたとしても、通常の時間外労働に加え、休日出勤、深夜労働がある場合には、適切な割増率を用いて正しい残業代を計算することは非常に手間がかかるものであり、煩雑な作業といえます。
この点、労働問題や残業代未払いなどの解決実績が豊富な弁護士事務所に依頼することで、こうした煩雑な残業代の計算を任せることができます。どんなものが証拠になるのか、どうやって集めたらいいのか、といったことで悩んでいれば、その点に関する適切なアドバイスを受けることもできます。
また、企業との交渉は弁護士が対応してくれますし、もし企業が未払い残業代の請求に応じないケースでも、労働審判や訴訟の手続きを依頼することができます。
働き方改革関連法施行にともない、サラリーマンの残業時間は減少傾向にあります。
一方で、虚偽の残業時間の記録がされているケースや、表面上の法令順守のために持ち帰り残業をさせられているケースもあり、実際には労働時間が減らないばかりか本来もらえるはずだった残業代が支払われないこともあるようです。
しかし、労働者には法律の規定どおりに計算された残業代を請求し、受け取る権利があります。
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