残業代未払いやハラスメントなど、企業と労働者との間で発生する問題は多岐にわたります。そのため、実際に労働紛争に巻き込まれたとき、どのような機関に対し、何を相談すればよいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。
その結果、労働者側が泣き寝入りをして転職するケースも少なくありません。
そこで今回は、労働問題における相談先について解説します。その中でも特に「労働基準監督署」の役割や権限を中心にお伝えします。労働問題でお困りの方は、相談先に関する情報としてお役立てください。
本ページはベリーベスト法律事務所のコラム記事です。
労働基準監督署(労働局、労働基準局)との間違いに、ご注意ください。
労働基準監督署の所在地はこちら
企業への不満を感じた経験がある方なら、労働基準監督署という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
労働問題を相談できる機関とのイメージがありますが、具体的には何をしてくれるのでしょうか。
労働基準監督署は、厚生労働省の出先機関として、労働基準法や労働契約法、労働組合法などの労働関係に関する法令(以下、「労働基準法等」といいます)を守らない企業を取り締まるための機関です。
略称で「労基」「労基署」などと呼ばれ、全国で管轄する企業の監督や労災の手続きなどを行っています。
企業と労働者は本来、対等な立場であるべきですが、企業の方が労働者よりも立場が強くなってしまう傾向にあります。
そのため、労働者が企業から不当な扱いを受けたとしても、労働者自ら企業に対してその不当性を主張することは容易ではありません。
労働基準監督署は、企業の労働基準法等の違反に対し、労働者が泣き寝入りをせずに申告できる先としても存在しています。
それぞれの労働基準監督署によって違いはありますが、主に監督課、安全衛生課、労災課、業務課の4つに分かれており、このうち監督課が労働者の相談を受け付けています。
労働基準監督署に相談するメリットは主に2つあります。
ひとつ目は無料であることです。労働基準監督署に相談する場合、お金はかかりません。
2つ目は、各種法律に詳しい職員が相談にのってくれるということです。その問題に関する適切なアドバイスを受けることができます。また、明確な法令違反があった場合、会社に対し指導をしてくれることもあります。
労働基準監督署に相談するメリットは2つですが、反対にデメリットも主に2つ存在します。
たとえば、企業に法令違反が認められた場合には、労働基準法等に従うように是正勧告はしますが、労働者の個別の権利を守るため(たとえば残業代請求など)民事的な損害賠償請求を行うことはできません。残業代の請求などをしたい場合には、ご自身もしくは弁護士などを通じて会社と交渉や裁判をしなければなりません。
また、企業に対して警察のように捜査権や逮捕権も持っていますが、あくまでも労働基準法等の違反に限られます。
労働基準監督署がすべての問題を解決できるわけではないのです。
ここでは労働基準監督署の業務範囲と、他の機関との違いを解説します。
労働基準監督署は、労働者の相談に対して、どのような解決方法や手続きがあるのか、どの労働基準法等に違反している可能性があるのかなどのアドバイスを行います。
また、労働基準監督署は、企業に労働基準法等の違反があった場合などに取り締まるための機関ですので、残業代が支払われないなどの労働基準法等に違反する行為が発覚した場合、労働基準監督署から企業に対して残業代を支払うように是正勧告をしてくれます。
それによって残業代の支払いが受けられる可能性があります。
もっとも、労働基準監督署の是正勧告には強制力がないので、必ずしも残業代の支払いがなされるとは限りません。労働基準監督署は、弁護士のように労働者を代理して、裁判などを利用し、残業代を強制的に支払わせることはできません。
労働基準局とは、簡単に説明すると労働基準監督署や都道府県労働局の上部組織として、これらの窓口を指揮監督する機関です。最低賃金法や労働基準法などの解釈や運用について通達を発するのも、労働基準局です。
都道府県労働局や労働基準監督署と混同されやすいですが、全く異なる機関です。
厚生労働省の中にあり、労働者の個別の相談には基本的に応じていません。
都道府県労働局も厚生労働省の出先機関で、各都道府県に設置されています。
主な対応業務は、労働者への仕事紹介、労働保険料の徴収、労働紛争を解決するためのあっせんなどです。労働者からの相談も受け付けています。
労働基準監督署へ実際に相談に行くと、どのような形で企業に対応するのか気になる方も多いでしょう。相談後の流れについて解説します。
まず、労働問題に巻き込まれたら、労働基準監督署に相談に行くところからスタートします。
その際、労働基準監督署から、具体的な相談内容や企業の違法行為などを聞かれます。
もしも企業の違法行為を証明できるものがあれば、あらかじめ準備しておくと話がスムーズでしょう。
たとえば、未払い賃金の相談であれば、タイムカードや給与明細などの、勤務時間と給与の関係がわかる書類などが挙げられます。
相談の内容によって労働基準監督署は、事実関係を確認するために対象となっている企業を訪問し、調査する場合があります。ここでは、最低賃金法や労働基準法などの各種法律を軸に、企業が行っていることに労働基準法等の違反がないかの確認を行います。
企業への調査の結果、労働基準法等の違反が認められた場合は、問題の解決をするように企業に是正勧告を行います。
たとえば、残業の未払い賃金問題が慢性化されている企業には、時間外賃金の支払いを行うように勧告します。
労働基準監督署が行う是正勧告は、あくまでも法的な強制力のない行政指導ですので、是正勧告に従わない企業がすぐに逮捕されることはありません。
しかし、そもそも労働基準監督署が行う是正勧告は労働基準法等を根拠に行われているので、是正しない場合は「法律違反」の状態が継続していることになります。
そのため、是正勧告を無視していると、経営者が逮捕される場合があります。
たとえば、法律の根拠がなく賃金の不払いを繰り返していたり、賃金が最低賃金を下回っていた場合などがあります。
労働基準監督署は、企業の労働基準法等の違反についての労働者からの通報を受け、違法状態を是正する組織であり、労働者と企業との間の紛争解決を直接担うわけではありません。
労働問題でお悩みの方は、ご自身の事情に合わせて相談先を選択するとよいでしょう。
ここでは、その他の相談窓口について解説します。
労働総合相談コーナーは、全国の都道府県労働局や労働基準監督署に設けられています。
無料で、解雇やパワハラなどの労働問題全般を専門の相談員に相談できます。
企業に労働基準法等の違反があるという確信がなくても、まずは相談を希望する方はこちらのほうがよろしいでしょう。労働基準法等の違反の疑いがある場合は、労働基準監督署などとの連携により動いてもらえる場合があります。
もっとも、すでに具体的に残業代の請求などをご検討の方は、総合労働相談コーナーでも弁護士にご相談をされることをすすめられますので、そのような方は直接に弁護士にご相談されてもよろしいかと思います。
労働総合相談コーナーは、労働問題をどう解決していくかまでは考えていないが、取りあえず労働問題に知見のある人に相談してみたいという方に適しています。
法テラスは、弁護士に依頼したいが費用がないなど、経済的余裕がない方が利用できる機関です。法務省所管の機関なので、弁護士への無料相談などが行えます。
もっとも、法テラスは弁護士費用の問題から弁護士に依頼できない方々のために、国が支援して創設された機関です。
ですので、一定程度の収入がある方は利用できない可能性があります。
社会保険労務士は、年金問題や労働問題に特化した業務を行う士業で、国家資格が必要です。
社会保険労務士に労働問題を相談すると、知識や経験に基づいたアドバイスが受けられます。社会保険労務士は、労働者と企業を和解させるためにあっせんという方法で、労働問題の解決を図ることができます。
しかし、あっせんには強制力がなく、企業が労働者から提示されたあっせん案に同意しなければ解決を図ることはできません。
また、話し合いでは解決せず、裁判となった場合、社会保険労務士は、弁護士とは異なり、代理人になることはできません。
労働問題の悩みは弁護士に相談すると効果的です。
弁護士は、法律のエキスパートです。法律家としての観点から、労働問題のアドバイスを受けることができます。さらに、弁護士に依頼すると、企業との交渉や、裁判になった際の代理人も重ねて依頼することができます。
初回は無料相談をしている法律事務所もありますので、未払いの残業代があるかだけでも相談することをおすすめいたします。
労働問題を弁護士に相談するメリットを解説します。
弁護士は、依頼者からの要望に基づき、企業に対して個別に未払い賃金の請求を行うことができます。
また、賃金が適正に支払われていない事実を証明するために必要な書類についても、適切なアドバイスを受けられます。
労働問題の改善や受けた損害への賠償を求めるには、企業と交渉する必要があります。
ところが、労働者個人が企業と交渉するのは簡単ではなく、精神的な負担も大きいでしょう。
弁護士に依頼すれば、企業との交渉を一任できます。
ただし、退職から何年も経過した後に未払いの残業代を請求する訴えを起こしても時効が完成して、請求できない事態になりかねないので、できるだけ早く相談することが大切です。
企業が違法行為や損害賠償を認めないケースでは、労働審判や裁判に発展することもあります。
そのような際に弁護士に依頼すると、労働審判や裁判を有利に進めるためのアドバイスや証拠集めのサポートを受けられます。
また、労働審判や裁判の手続きをとる場合、弁護士が代理人となることで、訴状などの書面の作成を一任できますし、これまでの経験や専門的な見地に立って、依頼者にとって有利な主張をすることができます。
今回の記事では、労働基準監督署の役割や権限、労働基準監督署以外の機関について解説しました。
労働問題を解決するためには、労働基準監督署を利用して解決を図ることはできますが、裁判とは異なり、企業への強制力がありません。
そのため、実行力のある解決を望むのであれば、弁護士へ相談されるとよいでしょう。
弁護士であれば、裁判までを見据えつつ、さまざまな選択肢の中から最適な方法を提案してくれます。
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