退職金は多くの方にとって、退職後の生活を支えるものであり、老後の人生設計を左右するものでもあります。しかし、長年勤務した会社から退職金が支払われない、聞いていたより大幅に減額されていたなど、退職金にまつわるトラブルは少なくありません。
このようなとき、労働問題の相談先として労働基準監督署を思い浮かべる方が多いようですが、果たして退職金の未払い問題を解決してくれるのでしょうか。労働基準監督署への相談以外で退職金トラブルを解決する方法はないのでしょうか。
今回は、退職金の未払い問題を軸に、退職金の性質、相談先としての労働基準監督署の有効性、請求の方法について解説します。
本ページはベリーベスト法律事務所のコラム記事です。
労働基準監督署(労働局、労働基準局)との間違いに、ご注意ください。
労働基準監督署の所在地はこちら
労働基準法では、労働者に対して支払われる金銭のうち、賃金、給料、手当、賞与といった名称のいかんを問わず「労働の対償」として支払われるものを「賃金」と呼びます(労基法第11条)。
賃金は法律上、会社に支払いが義務づけられている金銭であるため、仮に賃金の未払いがあれば、当然会社に対して請求することが可能です。
一方、退職金の性質はもう少し複雑です。
退職金は労働基準法で必ず支払いが義務づけられているわけではなく、次のような法的性格を併せもつと解釈されています。
未払いになっている退職金がどのような法的性格をもつのかは、個別の事情によって判断されます。
具体的には、退職金の支給条件について、就業規則や労働協約、労働契約等に明記されている場合には労働基準法の「賃金」にあたることになり、支給条件を満たしている場合には会社に支払義務が発生します。
また、これらの書面に記載はなくとも、労使慣行で退職金が支払われていた場合にも、請求できる可能性があります。
たとえば、これまで同じ職場で退職した人には必ず退職金が支払われてきたのに、ある年から急に支払われなくなったようなケースです。
他方で、退職金について特段の規定がなく、もともとごく一部の人にだけ退職金が支払われていたような場合は、会社によって恩恵的に支払われてきただけですから、退職金を請求できない可能性が高いでしょう。
退職金トラブルについて、第三者に相談して問題解決を図る方法があります。
その相談先として「労働基準監督署」を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。
退職金に関する相談に限った件数ではありませんが、実際に、労働基準監督署などの行政機関の窓口(総合労働相談コーナー)に労働相談された件数(総合労働相談件数)は令和3年度124万2579件に上りました。
※出典:厚生労働省サイト「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」よりhttps://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000959370.pdf
労働基準監督署は、労働基準法や労働者災害補償保険法、最低賃金法などの労働基準関係の法律(労働基準関係法令)を遵守するように会社を監督する機関です。
厚生労働省の出先機関として全国に設置されています。労働基準監督署は、会社に労働基準関係法令の違反がある場合に、会社に対して調査、指導、是正勧告を行ったり、さらには逮捕して送検する権限も有しています。
ただし、これらは裏を返せば、労働基準関係法令の違反がない場合には、労働基準監督署に相談しても対応してもらえない可能性があることを意味しています。
また、労働基準関係法令の違反があったとしても、労働基準監督署の管轄外の相談であれば対応してもらうことは難しいでしょう。
そもそも、労働基準監督署の役割は、あくまで労働基準関係法令の違反の有無を調査し、違反しているのであればこれを是正することです。労働者個人の労働問題の解決を直接の目的として労働基準監督署に対応してもらうことは難しいでしょう。
退職金の未払いは労働者個人の労働問題にあたりますし、前述したように、本来、退職金は法律上の支払義務がありません。つまり、退職金未払いは、労働基準監督署では対応してもらえない可能性が高い相談内容になります。
就業規則の退職金規定等に支給条件が明示されており、明らかに賃金としての性質を有する退職金であれば対応してもらえる可能性があります。
しかし、退職金の支給条件が明確でないため退職金が賃金としての性質を有しているかどうか判断が難しい案件では、労働基準監督署で対応してもらうことは難しいでしょう。
また、毎月の賃金と比較し、退職金の未払いが即座に生活困窮と直結するとは考えにくいため、緊急性という点においても、労働基準監督署が積極的に対応してくれることは期待できません。
行政による解決を求めるのであれば、都道府県の労働局へ相談するほうがよい場合もあります。
未払いの退職金をどのように請求するのか、その方法を確認しましょう。
まずは証拠がなくては始まりません。退職金の支払義務を示す証拠として、退職金に関する規定が記載された就業規則や労働契約書、労働条件通知書等があります。
また、退職金の支給条件を満たしていることの証拠としては、例えば、勤続年数の条件を満たしていることを証明するために、勤続期間中の給与明細等があります。
書面で請求を行います。
内容としては、会社に支払義務があり、支給条件を満たしていることのほか、請求額や支払期日、振込先、さらには支払いがなければ法的手段に訴える予定であると記載しておきます。
書面の送付は「内容証明郵便」に「配達証明」を付けることが望ましいです。
「内容証明郵便」は、書面の内容や書面を出した日時等を郵便局が証明するサービスですが、相手が書面を受け取ったことや受け取った日時は証明してくれません。
したがって、「そんな書面は届いていない」と言われるリスクを回避するために、相手が書面を受け取ったことや、受け取った日時を郵便局が証明する「配達証明」も付ける必要があります。
「内容証明郵便」は、文字数や行数、訂正方法等、細かくルールが決められていますので、郵便局のサイトを参考にする等して、ルールに沿って書くように注意しましょう。
労働局には、弁護士や社労士等の有識者からなる紛争調整委員会が設置されています。
紛争調整委員会の委員の中からあっせん委員が指名され、個別の労働紛争の解決に向けてあっせん(双方の主張を整理し、話し合いを促進すること)を行います。
労働組合と会社との間の紛争や労働者どうしの間での紛争、裁判等他の制度で係争中の紛争を除き、個別の労働紛争が広く対象となるため(募集や採用はあっせんの対象から除かれます)、退職金問題を解決するのに適しています。
また、「ADR」を利用する方法もあります。
積極的な対応は期待できませんが、最初の相談先として労働基準監督署を選ぶことは間違いではありません。
一般的な流れや制度、法律上の取り扱い等の情報提供、一定のアドバイスを受けることができるからです。労働基準監督署で対応できない内容でも、労働局の相談窓口を紹介してくれたり、紛争調整委員会のあっせんについて説明してくれたりする場合があります。
「十分な退職金を得たい!」とお考えであれば、早めに弁護士に依頼するべきです。
労働基準監督署への相談、証拠収集、書面による請求をしても、会社が請求に応じない場合があります。紛争調整機関の利用についても、有効な方法ではあるものの、裁判外の手続きであるため、会社が手続きに参加しなかったり、合意に至らず不成立に終わる場合があります。
交渉・労働審判・紛争調整機関などを利用しても問題が解決の見込みがない場合には、裁判を利用すれば、最終的に決着をつけることができます。
しかし裁判を起こせば、相手方は通常弁護士を立てますので、法的知識に乏しい個人の方では効果的な主張ができず、退職金が得られなかったり、本来得られる金額よりも少額になる等、不満の残る結果に終わる可能性があります。
ですが、弁護士に早い段階で相談することで、裁判に発展する前に解決するケースも少なくありません。
弁護士に相談することのメリットとして、裁判になった場合に備えて、裁判で有利になる証拠集めのアドバイスを受けられることが挙げられます。
さらに、弁護士に依頼すれば、裁判で弁護士が法律にもとづいた論理的な主張をします。
煩雑な裁判手続きを代わってもらえる点でも、ご自身の生活を優先させ、精神的な負担を減らす効果があるでしょう。
また、退職金の問題を含め、これまでの会社の対応があまりに不誠実な場合や悪質な場合は、最初から弁護士へ相談し依頼したほうがよいでしょう。会社への請求や交渉などを一任でき、相手への心理的なプレッシャーを与える点においても効果が期待できます。
退職金は法律上の支払義務がありませんので、必ずしも請求できるわけではありません。
ただし、就業規則や労働契約書等に退職金の規定があり、支給条件を満たしていれば会社には支払義務が生じます。会社に支払義務があるにもかかわらず、退職金が支払われていないのであれば違法ですので、未払い分を請求するべきです。
退職金トラブルの相談先としては、労働基準監督署や労働局等さまざまな機関がありますが、実際の請求を行う際にはお一人で対処せず、弁護士に相談したほうがスムーズでしょう。
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