看護師は、患者の命や健康を預かる仕事のため、「自分のプライベートを犠牲にしても患者に尽くすべき」という雰囲気もあり、残業の多くなりうる職種として知られています。
しかし、長時間残業が続くと看護師の心身にもストレスが蓄積し、過労により倒れてしまうリスクがあります。また、長時間残業が常態化している病院では、適正な残業代が支払われていない可能性もあります。そのため、残業の多い職場で働く看護師の方は、自らの権利や健康を守るためにも、労働時間や残業についての正しい知識を身につけることが大切です。
今回は、長時間勤務で残業がつらいと感じる看護師の方々に向けて、看護師によくある残業の問題と相談先をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
看護師は、残業の多い職種として知られていますが、それには主に以下のような理由があります。
看護師は、患者の命や健康を預かっていますので、緊急事態への対応が求められるケースが多い仕事です。看護師は、患者の急な体調の悪化に備えて、待機することも業務のひとつです。
勤務終了後であっても急なナースコールや急患があれば、残業をしてでも対応せざるを得ませんので、必然的に残業が多くなる可能性があります。
「看護師の仕事に残業は当たり前」という考えが一部あることも、看護師に残業が多くなる要因のひとつといえるでしょう。
待機中も業務から解放されていないのであれば業務時間
本来、休憩時間中は業務から完全に解放されていなければなりません。
休憩時間中もナースコール対応が義務付けられている場合には、休憩時間ではなく労働時間として扱わなければなりません。
看護師は、看護に関する知識や技術のスキルアップが求められますので、勉強会や研修への参加が義務付けられている病院もあります。
勤務時間中は、通常の業務がありますので、勉強会や研修に参加するには、どうしても業務時間外や休日になってしまいます。
定期的にさまざまな研修が行われている病院だと、それに参加するために、残業も多くなってしまいます。
本来は研修や勉強会も業務時間にあたる
研修や勉強会への参加が義務付けられている場合、使用者による指揮命令下に置かれていると評価できますので、労働基準法上の労働時間に該当します。
また、明確に参加が義務付けられていなかったとしても、研修や勉強会への不参加が勤務評価に影響するような場合であれば、労働時間に含まれると考えられる場合もあります。
このように研修や勉強会への参加が義務付けられているのに残業代が支払われないというのは違法となります。
長時間労働が常態化している病院では、看護師の離職率も高く、慢性的な人手不足に悩まされているところもあります。そのような病院では、看護師ひとりあたりの負担も大きくなり、残業をしなければ業務を処理することができないというケースも多いです。
人手不足が理由で残業が発生したのであれば、その分の残業代は当然支払われるべきです。
通常の業務だけでも忙しいのに、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症が流行すると、そちらの対応にも追われますので、必然的に残業時間も長くなっていきます。
このような状況下であっても、当然ながら残業代が支払われなければなりません。
入院患者のいる病院では、交代勤務制がとられていますので、定時前に出勤して引き継ぎを受けたり、定時後は引き継ぎのために残業をするケースが多く発生します。
これを「前残業」、「後残業」といい、いずれも労働時間に含まれます。
しかし、病院によっては、このような前残業・後残業をサービス残業として扱っていて、適切な残業代を支払っていないところもあるようです。
もしも、「自分も同じような問題で悩まされている!」という看護師の方は、違法な状態である可能性があります。後述する外部の相談先に相談してみるとよいでしょう。
「看護師は残業代が出ない」などと言われることがありますが本当なのでしょうか。
以下では、看護師に多い残業の悩みと看護師の残業代について説明します。
看護師の仕事は、上記のような理由から残業の多い仕事になりますが、看護師も労働基準法が適用される「労働者」ですので、残業をしたときは病院に対して残業代を請求することができます。
本来は新人看護師もベテラン看護師も労働者の権利のひとつとして残業代が請求できる職業です。残業に関する基本的な知識を身につけて、未払い残業代がある場合は、病院に対して請求していくようにしましょう。
法律で残業はどのように規制されているのでしょうか。
以下では、残業に関する法律上の基本的なルールと看護師によくある残業時間の問題について説明します。
労働基準法では、1日8時間・1週40時間という法定労働時間を定めています。
これを超えて働かせるためには、使用者と労働者の過半数代表者との間で36協定を締結し、労働基準監督署に届け出をする必要があります。
また、36協定の締結・届け出をしても無制限に残業をさせられるわけではありません。
上限は月45時間まで、年360時間までです。
ただし、臨時的な特別の事情がある場合には特別条項付きの労使協定を締結することで、残業時間の上限を超えて働かせることができます。
しかし、その場合でも以下の上限を超えることはできません。
労働基準法では、残業をした場合、残業時間に応じた残業代を請求できる権利が定められています。
看護師も労働基準法が適用される労働者ですので、残業をすれば病院に対して残業代を請求することができます。
残業代の計算は、基本的には以下のような計算式によって行います。
また、残業した時間に応じて、以下の割増率が適用されます。
簡単に自分の残業代を知る方法は?
自分で計算するのが難しいと思った場合は、残業代チェッカーがおすすめです。
おおよその残業代を最短30秒ほどで簡単に診断できますので、ぜひ試してみてください。
ただし、あくまで簡易的な計算結果になりますので、正確な残業代を知りたい方は、弁護士に相談することをおすすめします。
長時間残業でお悩みの看護師の方は、以下のような外部の相談先に相談してみるとよいでしょう。
看護師が加入できる外部の労働組合には、全日本国立医療労働組合(全医労)や日本医療労働組合連合会(日本医労連)などがあります。
労働組合には団体交渉権という法律上の権利がありますので、会社と対等な立場で労働条件や労働環境の改善などに向けた交渉を行うことができます。
個人で病院を相手に争うのが難しい場合でも、労働組合という組織の力を借りれば、労働者側の要求を認めてもらえる可能性があります。
長時間労働に関するお悩みは、労働基準監督署などの行政窓口で相談することもできます。
そのため、違法状態を取り締まってもらいたいと思っている人にはおすすめです。
ただし、労働基準監督署の指導や是正勧告には強制力がなく、未払い残業代があったとしても労働者の代わりに直接請求してくれるわけではありません。
個人的な残業代の請求に関しては、自分で行う必要があるので、注意しましょう。
労働基準監督署などの公的機関に相談しても、未払い残業代がある場合には、看護師個人で対応しなければなりません。
病院を相手に個人で対応するのが不安だという方は、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士は、労働基準監督署とは違い「個人の労働問題の解決」を目的としています。
依頼者の代理人として相手方と交渉することができますので、病院との交渉をすべて任せることができます。
また、病院側も弁護士から残業代請求があれば、真剣に対応せざるを得ませんので、任意の交渉により解決できる可能性が高くなります。
詳しくは弁護士に依頼するメリットで解説しています。
弁護士への相談は、
・残業代をきっちり支払ってもらいたい
・でも法律の知識もないし、残業代請求なんて不安…
・極力、自分の手間や時間はかけずに、残業代を請求したい
と思っている人におすすめの方法といえます。
残業代問題を弁護士に相談すると、以下のような方法で問題を解決してもらうことができます。
病院に対して残業代請求をするには、まずは残業代の証拠を集めて、それに基づき未払い残業代の金額を計算しなければなりません。
弁護士に依頼すれば、会社に対して必要となる証拠の任意提出を求めたり、証拠保全の手続きにより証拠を確保することができます。
また、複雑な残業代計算もすべて弁護士に任せることができますので、看護師の方の負担はほとんどありません。
証拠収集と残業代の計算ができたら、病院との交渉を始めます。
まずは、病院に対して内容証明郵便を送付するのが一般的ですが、これは残業代が時効で請求できなくなるのを阻止するという意味があります。
残業代請求には時効は3年!
残業代請求権には、3年の時効があり、支払月毎に判断されます。
そのため、長期間残業代が未払いになっていると、過去のものから順次残業代が時効により消滅してしまいます。
内容証明郵便を利用して残業代請求をすれば、時効の完成を6か月間猶予することが可能です。
病院との交渉により未払い残業代の問題が解決すればよいですが、交渉が決裂したときは、後述するような法的手段を講じる必要があります。
労働審判とは、労働者と事業者との間で生じた労働トラブルを迅速かつ実効的に解決するための裁判所の手続きです。
原則として3回以内の期日で審理を行い、調停または審判により紛争を解決しますので、裁判よりも早期かつ柔軟な解決が期待できます。
なお、労働審判に不服があるときは、審判書の送達を受けた日から2週間以内に異議申し立てをすれば、労働審判は効力を失い、訴訟手続きに移行します。
病院との交渉や労働審判でも解決できないときは、最終的に裁判所に訴訟を提起します。
訴訟では証拠に基づいて未払い残業代の有無や金額などが認定されますので、看護師側に有利な判決を得るには、主張を裏付ける証拠が不可欠です。
また、裁判は非常に専門的かつ複雑な手続きですので、弁護士のサポートを受けながら進めていきましょう。
以下では、看護師が病院側に勝訴した事例を紹介します。
【事案の概要】
原告の看護師は、始業時刻よりも前に業務を行うという「前残業」を行っていましたが、病院からは前残業に対する残業代は支払われていませんでした。
そこで、原告は、パソコンのログイン時刻などから前残業を立証し、病院に対して約372万円の未払い残業代請求を行いました。
【裁判所の判断】
裁判所は、看護師が前残業をしていることを看護師長らが把握していたにもかかわらず、それを禁止またはやめるように指導することなく放置していたことから、病院の指揮命令下で前残業が行われていたと認定しました。
その結果、病院側に対して約42万円の未払い残業代の支払いを命じました。
請求金額と差が生じた理由は、終業時刻と休憩時間に関する看護師の側の主張が認められなかったことによるものです。
※さいたま地裁 令和4年7月29日判決
【事案の概要】
看護師は、勤務時間外であっても常に携帯電話を所持するよう指示され、勤務先からの呼び出しがあればすぐに応答・対応しなければならない状態でした。
しかし、このようなオンコール待機時間は、労働時間として扱われていなかったため、勤務する居宅介護サービス会社に対して、未払い残業代として約1100万円の請求を行いました。
【裁判所の判断】
裁判所は、看護師が勤務先からの呼び出しに直ちに駆けつけることが義務付けられていて、実際の対応頻度も少ないものとはいえないなどの理由から、オンコール待機時間は労働時間に含まれると認定し、未払い残業代として約990万円の支払いを命じました。
※横浜地裁 令和3年2月18日判決
「看護師は残業が当たり前」という理由でサービス残業を強いられている看護師の方もいらっしゃるでしょう。
しかし、看護師であっても残業をすれば残業代を請求できますので、残業代が未払いになっている方は、諦める前に労働基準監督署や弁護士などに相談しましょう。
残業代請求をお考えの看護師の方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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