労基(労働基準監督署)は、会社に労働基準法違反の疑いがあれば、調査を行ったり、是正を求めたりする機関です。未払い残業代について相談・申告することもできます。ただし、労基が労働者の代わりに未払い残業代を計算し、会社と交渉してお金を取り立ててくれるわけではありません。
また、相談すれば必ず調査に入ってもらえるとも限らないため、労基に動いてもらうには証拠をそろえるなどの準備も大切です。残業代を実際に回収したい場合には、労基への相談だけでなく、弁護士への依頼を検討した方がよいでしょう。
今回は、残業代が未払いになっている方に向けて、労基にできること・できないことや、労基に動いてもらうためのポイントをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
残業代が支払われていない場合、労基(労働基準監督署)へ相談・申告することで、会社に対する調査や是正指導につながる可能性があります。
ただし、労基の役割は、労働基準法などに違反している会社を監督し、違反状態の改善を図ることです。労働者一人ひとりの代理人となって、未払い残業代を回収する機関ではありません。
まずは、労基がどこまで対応してくれるのかを整理しておきましょう。
労基は、労働基準法などのルールが会社で守られているかを監督する行政機関です。
残業代の未払いも労働基準法違反にあたるため、労働者からの申告をきっかけに調査へ進むことがあります。
調査では、労働基準監督官が会社へ立入調査を行ったり、会社関係者に労基への出頭を求めたりして、タイムカードや賃金台帳などの資料を確認し、事情を聴き取ります。
そこで残業代の未払いが確認されれば、是正勧告などを行い、未払い分の支払いを含めた改善を求めるのが一般的な流れです。
さらに、是正勧告を出して終わりではありません。
その後、違反が改善されたかを確認するため、再び会社を監督する「再監督」が行われる場合があります。
それでも是正されないなど、重大・悪質な事案については、労働基準監督官が捜査を行い、事件を検察庁へ送検することがあります。
労基の指導をきっかけに、会社から未払い残業代が支払われるケースはあります。
実際、令和7年に労基が取り扱った「賃金不払事案(未払い残業代以外の事案も含む)」2万2605件のうち、2万1731件(96.1%)では、労基の指導により賃金の全部または一部が支払われています。
ただし、労基の役割は、労働基準法違反を調査し、会社に是正を求めることです。
労働者の代理人として未払い残業代を請求し、会社と交渉して回収するわけではありません。
そのため、労基へ申告しても、必ず未払い残業代を全額回収できるとは限らない点に注意が必要です。
労基には、残業代の未払いだけでなく、長時間労働や労働災害など、さまざまな相談・申告が寄せられています。
その数は全国で膨大なため、相談・申告をしたすべての案件について、必ずすぐに立入調査などが行われるとは限りません。
中でも、タイムカードや給与明細などの証拠が乏しく、法令違反の事実を確認しにくいケースでは、直ちに調査へ進まない可能性があります。
そのため、労基への相談だけで解決を待つのではなく、できるだけ早く動いてもらえるよう、申告の仕方や事前の準備を工夫することが大切です。
労基に相談するのであれば、未払い残業代があることを具体的に説明できるよう準備しておくことが大切です。
ここでは、労基への相談を無駄にしないために押さえておきたい5つのポイントを紹介します。
労基に具体的な対応を求めるうえで、まず準備したいのが残業の事実を裏付ける証拠です。
たとえば、次のような資料が役立ちます。
タイムカードなどを会社が管理していて手元にない場合も、そこで諦める必要はありません。
などの方法で、今から記録を残しておきましょう。
「いつ、どのくらい残業したのか」を具体的に示せる状態にしておくことが、労基への申告だけでなく、その後の残業代請求でも役立ちます。
電話やインターネットで労基に話を聞いてもらうだけの「相談」と、労働基準法等違反について行政指導・是正を求める「申告」は異なります。
「いつ、どのような残業代の未払いがあったのか」を具体的に示せるよう準備しておきましょう。
労基への相談や情報提供は匿名でも可能です。
一方、自分自身の未払い残業代について行政指導を求める「申告」をする場合には、氏名や連絡先などを確認されることがあります。
会社に知られたくない場合
なお、会社への調査にあたって自分の氏名を明かさないでほしいと希望を伝えることはできます。会社に知られることが心配な場合は、申告時に担当者へ相談しておきましょう。
もっとも、申告者の秘匿を優先すると調査が一般的・全般的となり、個別の申告事項の詳細確認や違反確認が難しくなる場合があります。
匿名でも絶対にバレないとは言い切れない
ただし、匿名にすれば絶対に会社へ知られないとは言い切れません。
たとえば、特定の部署や従業員だけに起きている残業代トラブルであれば、調査の内容から申告者を推測される可能性があります。
不利益な取り扱いは禁止されている
もっとも、会社が労基への申告を理由として労働者を解雇したり、その他の不利益な取り扱いをしたりすることは、労働基準法で禁止されています。
労基へ申告しても、未払い残業代を必ず回収できるわけではありません。
是正勧告には裁判の判決のような強制力がなく、会社が支払いに応じないケースもあるためです。
また、残業代には消滅時効があります。
2020年4月1日以降に支払期日が到来した賃金は、消滅時効期間が法律上5年ですが、経過措置により当面は3年とされています。
時効は、それぞれの賃金の支払期日から進行します。
労基に相談している間にも時間は経過します。
任せきりにせず、証拠を集めながら、時効が迫っている場合には残業代請求の手続きも進めることが大切です。
残業代の時効については、こちらのコラムで詳しく解説しています。
残業代が支払われなければ、会社に不満をぶつけたくなるかもしれません。
しかし、準備をしないまま会社と対立すると、証拠を確保しにくくなったり、その後の交渉が難しくなったりするおそれがあります。
退職を考えている場合も、タイムカードや業務メールなど、残業を裏付ける資料をできるだけ先に確保しておきましょう。
退職後は社内システムなどにアクセスできず、証拠を集めにくくなるためです。
もっとも、証拠が十分にないからといって、残業代請求を諦める必要はありません。
労基だけでは回収まで進まない場合も含め、弁護士へ相談することで解決につながる可能性があります。

・「固定残業代が給料に含まれている」
・「管理職だから残業代は出ない」
などと会社から説明され、請求を諦めている方もいるかもしれません。
しかし、こうした理由だけで残業代が一切発生しなくなるわけではありません。
ここでは代表的な2つのケースについて詳しくみていきましょう。
固定残業代とは、一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支払う仕組みです。
制度そのものは違法ではありません。
ただし、基本給など通常の賃金と固定残業代が明確に区別され、何時間分の残業代としていくら支払われているのかがわかるようになっている必要があります。
また、実際の残業代が固定残業代を上回った場合、会社はその差額を追加で支払わなければなりません。
そのため、「固定残業代を払っているから、何時間残業しても追加分は出ない」という扱いは認められません。
さらに、要件を満たさず固定残業代が無効になれば、その金額は残業代を支払ったものとして扱われず、未払い残業代が生じる可能性があります。
「店長になった途端、残業代が出なくなった」というケースも注意が必要です。
会社で店長や部長などの役職に就いていることと、労働基準法上の「管理監督者」にあたることは同じではないからです。
管理監督者に該当するかどうかは、経営者と一体的な立場で重要な仕事や判断を任されているか、出退勤について十分な裁量があるか、役職にふさわしい待遇を受けているかなどから実態に即して判断されます。
名ばかり管理職に要注意!
肩書だけが管理職で、実際には上司の指示どおりに働き、勤務時間も自由に決められないのであれば、いわゆる「名ばかり管理職」として残業代を請求できる可能性があります。
また、労働基準法上の管理監督者に該当する場合でも、深夜労働に対する割増賃金の規定は適用されます。
そのため、「管理監督者ならどのような時間帯に働いても割増賃金が一切発生しない」というわけではありません。
固定残業代が有効なのか、管理監督者に該当するかの判断や、正確な残業代の計算は専門的な知識が必要です。
「自分も請求できるのでは」と思ったら、勤務記録や給与明細などを持参して弁護士へ相談し、請求できる金額を確認してみるとよいでしょう。
自分に未払い残業代があるとわかっても、会社がすんなり支払ってくれるとは限りません。
特に、手元に十分な証拠がない場合や、会社が残業時間・金額を争っている場合は、自力での回収が難しくなるでしょう。
そこで頼りになるのが、労働者の代理人として会社に残業代を請求できる弁護士です。
労基の目的は、労働基準法等に違反する会社を取り締まり、行政指導によって改善を促すことです。
これに対して、弁護士は依頼者の代理人として、個人の残業代を回収するために動くことができます。
たとえば、会社に勤務記録などの開示を求め、証拠をもとに未払い額を計算したうえで支払いを請求します。会社が金額を争うのであれば、そのまま交渉を任せることも可能です。
それでも解決しなければ、労働審判や訴訟対応も任せられます。
このように「会社の違反を是正してもらう」のではなく、自分に支払われるべき残業代を実際に取り戻したい場合には、弁護士への依頼が有力な選択肢といえるでしょう。
実際にベリーベスト法律事務所では、労基への相談だけでは解決できなかったものの、弁護士への依頼によって数百万円の残業代を回収できたケースもあります。
30代男性のAさんは、3年間にわたり月100時間を超える残業をしていました。
しかし、手元にあったタイムカードは6か月分だけ。
労基へ相談したところ、約50万円しか請求できないとの回答を受けました。
そこでベリーベスト法律事務所へ依頼し、弁護士が会社に残りのタイムカードの開示を求めたところ、勤務記録を入手することに成功。その結果、最終的に600万円の残業代を回収できました。
手元にある証拠だけで判断せず、会社が保有する資料まで確認することで、回収額が大きく変わった事例です。
30代男性のBさんは、朝8時から22時近くまで働き、休日出勤もしていましたが、残業代が支払われていませんでした。
労基へ相談したものの、自分で会社へ残業代を請求するよう案内され、さらに手元にはタイムカードなどの勤務記録もありませんでした。
ベリーベスト法律事務所へ依頼した後、弁護士が会社にタイムカードの開示を請求。開示された記録から残業代を計算して交渉した結果、480万円を支払ってもらう内容で和解が成立しました。
「証拠が手元にないから請求できない」とは限りません。
会社側に残されている勤務記録を取得できれば、そこから残業時間を立証し、回収につなげられる可能性があります。

未払い残業代を請求するときは、残業代そのものだけでなく、支払いが遅れた分の遅延損害金も請求できます。
会社が本来の支払日に残業代を支払わなかったことに対する「遅れて支払うことへのペナルティー」のようなお金のことです。
また、訴訟(裁判)になった場合には、法定時間外労働・法定休日労働・深夜労働に対する割増賃金について、裁判所が未払い額と同額までの「付加金(ふかきん)」の支払いを会社に命じることがあります。
たとえば、未払いの残業代(法内残業代を除く)が100万円あった場合、裁判所が認めれば、ペナルティーとしてさらに100万円の付加金がプラスされます。訴えを起こした労働者に対し、最大200万円が支払われます。
付加金が認められれば、本来の残業代とは別に金銭を受け取れるため、より多くのお金を受け取ることが可能です。
また企業側は、この「倍返しのペナルティー」を避けたいと考えるため、付加金の存在は、裁判前の任意の支払いや、早期解決を促す効果があります。
いずれも、残業代をきちんと支払わなかった企業へのペナルティーの意味合いがありますが、主に以下のような違いがあります。
| 遅延損害金 | 残業代の支払いが遅れたことに対する「利息」のようなペナルティー(自動的に発生) |
|---|---|
| 付加金 | 労働基準法を破った会社への「罰則」のようなペナルティー(裁判でのみ発生) |
残業代が支払われていない場合、労基へ申告することで会社への調査や是正指導につながる可能性があります。ただし、労基は個人の残業代を取り立てる機関ではありません。
実際に未払い残業代を回収したいのであれば、労基への相談とあわせて弁護士への依頼も検討してみてください。
弁護士に依頼すれば、手元に十分な証拠がなくても、会社が保管している勤務記録などを取り寄せ、未払い残業代の回収につなげられる可能性もあります。
ただし、残業代には当面3年の時効があるため、対応が遅れるほど請求できる金額が減ってしまうおそれがあります。取り戻せる残業代を失わないためにも、早めに行動することが大切です。
ベリーベスト法律事務所には、労働トラブルの解決実績がある弁護士が多数在籍しております。残業代請求のご相談は何度でも無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
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