会社の規定では休憩時間になっている時間帯でも、電話番や来客対応に追われて休憩できないといった状況は決して珍しくないようです。「会社の決まりだから仕方がない」「顧客対応のためにはやむを得ない」とあきらめている方も多いでしょう。
しかし、実のところ休憩時間中であるにもかかわらず従業員に労働させる行為は、労働基準法違反にあたる可能性があることをご存じでしょうか。
そこで本コラムでは、法律では「休憩時間」についてどのように規定しているのか、違法であれば誰に相談してどのような解決方法をとるべきなのかについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
本ページはベリーベスト法律事務所のコラム記事です。
労働基準監督署(労働局、労働基準局)との間違いに、ご注意ください。
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労働基準法第34条では、休憩について次のように規定しています。
ここで登場する「使用者」とは、会社などの雇用主を指します。「事業場」は働く場所です。そして「労働者」とは、雇用されて働く方、つまり従業員などを指します。
なお、ここでは、正規雇用なのか、パート・アルバイト・派遣社員・契約社員などの非正規雇用であるのかを区別していません。
つまり、雇用形態を問わず、所定の休憩時間が与えられていないと違法になります。
労働基準法 第34条第1項では、会社が従業員に対して最低限与えなければならない休憩について定義されています。簡単にいえば以下のとおりです。
定義されているのは、あくまでも「1日の労働」に対する規定です。
つまり、たとえば9時に出社して17時に帰社するというルールで、30分休憩が1回と15分休憩が1回あるという会社があったとしましょう。
この場合、労働時間は7時間15分で休憩は45分与えられているため、労働基準法に違反する働き方ではないといえます。
さらに、「残業中には休憩時間を与えなくていいのか?」という疑問を感じる方も少なくないはずです。しかし、労働基準法では8時間超で少なくとも1時間としているだけで、それ以外は特段の定めがありません。
ただし、法令をもって休憩を与えることを義務付けているのは、労働災害や労働者の酷使を防ぐ目的が背景にあります。
したがって、長時間の残業が発生することが予定されている会社では、社内の規則として残業中の休憩が設けられているケースもあるでしょう。
休憩中でも電話や顧客対応をしなければならなかったり、オフィスから出てはいけないルールになっていたりすれば、「休憩とは名ばかりだ」と感じていることでしょう。
前述のとおり、労働基準法の解釈によれば「休憩時間」として認められるには3つの原則があります。つまり、この原則に該当しない場合は、お感じになっているとおり法的には休憩時間ではなく、会社側が労働基準法違反を犯しているおそれがあります。
休憩は労働の途中で付与されなくてはなりません。
たとえば、8時間働かせて1時間休ませた後に退社、といった付与は違法となります。もちろん、出社して1時間休ませた後に8時間働かせるという形態でも同じく違法です。
休憩中は労働から完全に解放されている必要があります。しかも、その間は会社が労働者の行動を制限できません。
具体的には、以下のような休憩の与え方をしている会社は労働基準法違反に該当している可能性があります。
上記のような状態は、一時的に通常業務から解放されているとはいえ完全に解放されているとはいえません。
したがって、労働時間として扱ったうえで、別のタイミングで休憩が与えられている必要があります。
休憩は、その職場の労働者に対して一斉に付与される必要があります。
ただし、トラック運転手などの運輸業、バスやタクシー運転などの交通業、接客中心の販売業など一定の事業に従事している場合は、一斉付与の原則から除外されています(労働基準法施行規則31条、労働基準法別表第一)。
また、会社側と労働者の間で労使協定を結んで、別の休憩時間を与える方法などが取り決められていれば、例外的に一斉付与をしないことが認められます。
休憩時間が適切に与えられていない、休憩時間とは名ばかりで実際には労働に従事させられているといったケースは、どのように解決していけばよいのでしょうか?
①まずは人事・労務の担当者に相談
まずは会社内で人事・労務を担当している部署の担当者に相談して、改善を求めるべきです。ただし、担当者も現場レベルの現状を知らない、そもそも法律に関する正しい知識をもっていないといったケースが少なからずあります。
最初から強硬姿勢をとるのではなく「まずは相談」という姿勢をとるとよいでしょう。
②改善しない場合は労働基準監督署に相談
担当者に相談しても改善が図られない場合は、労働基準監督署に相談することがひとつの手になります。
労働基準監督署は会社が労働基準法に違反していないかをチェックし、指導してくれる機関です。労働基準監督署で相談する場合には、まずは休憩時間の付与が法令に違反していることを伝え、対応についてのアドバイスを求めましょう。
その際は、休憩時間の付与に関する証拠として就業規則などを、休憩中も労働に従事していたことの証拠となりうるものを持参することをおすすめします。電話・来客対応の当番表や、離席しないように伝えるメールなどの証拠となり得るものがあれば、スムーズに話ができるはずです。
休憩時間に限った話ではありませんが、実際に令和3年度、行政機関に「労働基準法等の違反の疑いがある」として相談された件数は17万70件に上りました。それだけ労働基準法違反かもとお悩みの方が多いという証左であるといえるでしょう(出典:厚生労働省ホームページ「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」より)。
相談したことによって、労働基準監督署が会社に対して法令を遵守するよう指導してくれる可能性があります。
しかし、必ずしも会社がこれに従うとは限りません。
残念ながら、無視をしても大きなデメリットはないと考える会社も少なからず存在します。行政指導自体には法的な強制力がないためです。
労働基準監督署は個人の労働問題について話を聞いてくれますが、個人の要望をかなえるために行動してくれるわけではありません。
もしあなたが休憩時間中の労働に対して賃金の支払いを求めたい、労働基準監督署に手続きを対応してほしいと考えたとしても、あなたの代理人として行動してくれるわけではありません。
あくまでも、会社など雇用主側を監督する立場であるため、会社に対して改めるよう指導するなどの行動にとどまります。つまり、個別のサポートは行わないという点は理解しておく必要があります。
休憩という名目でも実際には労働時間として評価される場合は、賃金の支払いを求めるのが当然です。では、どのような場合に請求できるのでしょうか?
会社では休憩時間とされていても、法律的には労働時間として評価される可能性のあるケースの代表格が「手待時間」と「仮眠時間」です。
「手待時間」とは、使用者からの命令によって直ちに労働に従事できる状態で待機している時間を指します。
電話番や来客対応のほか、出動命令があれば即座に現場へと急行する警備員の待機時間などもこれに含まれます。
「仮眠時間」は、長時間勤務や深夜勤務などで設けられている時間です。
仮眠時間と定められていても、実質的には労働時間と評価されることがあります。
仮眠時間が労働時間にあたるのか、それとも休憩時間にあたるのかの判断は、次のポイントを考慮して、労働者が会社の指揮監督下にあると評価できるかどうかを基準に行われます。呼出しあった場合や警報が鳴った場合に対応をとることを義務付けられているのであれば、会社の指揮監督下にあると評価できます。
では、手待時間や労働時間と評価される仮眠時間があった場合の賃金の請求はどうすればいいのか、見ていきましょう。
手待時間や労働時間と評価される仮眠時間で発生していた賃金が未払いである場合、会社にはこれを支払う義務があります。
本来、労働時間と評価されるべきだったものの休憩時間として支払われなかった分の賃金を請求するには、次の5つの方法が挙げられます。
労働者本人が会社に対して書面を送付し、賃金支払いを求めます。
この方法では、会社が対応する可能性は高いとはいえず、解決に至らないケースが多いでしょう。それでも、ただ単に賃金を支払うべきだと認識していなかったという理由で未払いであったという可能性は否定できません。
ここで支払ってもらえれば、トラブルは速やかに解決します。
労働基準監督署に賃金の未払いがあることを申告して、会社に対して是正勧告を出してもらいます。
ただし、前述のとおり労働基準監督署は個人の労働問題のために活動する機関ではないため、必ず解決することができるとは限りません。
労働局の総合労働相談コーナーに相談し、労働局長による助言・指導を求める方法です。
基本的に助言・指導を受けての自主的な解決を求める制度なので、主張を譲らない場合は解決には至りません。
また、会社によっては個人の従業員を相手にしても誠実な対応をしないという可能性があります。
ADRとは、裁判所が提供する手続きを踏まずに解決を目指す方法です。
英語で「Alternative Dispute Resolution」といい、略してADRと言われます。
日本語に翻訳すると「裁判外紛争解決手続」のほか、「代替的紛争解決手続」などと呼ばれることがあります。
ADRを行うためには、労働紛争解決センターなど、ADRに対応している機関に相談し、裁判外での和解を目指すことになります。
ADRは、裁判のように勝ち負けを決めるものではありません。互いに主張を譲らない場合は和解に至らないおそれがあるでしょう。
弁護士に相談すれば、休憩中も労働に従事していた証拠を集めて、合理的な主張をもとに労働者の代理人として賃金支払いを求めることができます。会社が主張を譲らない場合は裁判所の手続きを利用して支払いを求めることも可能です。
訴訟となって判決が下った場合、得られる金額がより大きくなることもあり得ます。
ただし、非常に時間や手間がかかる方法であるともいえます。
ここで挙げたどの方法が良いのか自分では判断がつかない場合にも、弁護士に相談することをおすすめします。
どの方法が適しているのかなど、弁護士が適切なアドバイスをしてくれます。
労働中の休憩時間は、労働基準法によって厳密に規定されています。
長時間勤務でも休憩時間がない、休憩中なのに電話・来客対応などを強いられるなどの状況であれば、労働時間として賃金支払いの対象になる可能性があります。
体裁のうえでは休憩時間になっていても、会社の指揮命令下におかれている場合は休憩時間とはいえません。すみやかに会社の担当部署に相談して改善を求めるか、労働基準監督署に相談してアドバイスを受けるべきでしょう。
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