残業代未払いや長時間労働の問題は、多くのメディア、報道などで取り上げられており、社会的な関心が高いテーマです。
労働問題で悩んだときには労働基準監督署へとよくいわれますが、その多くが民間企業で働く方に関するものであり、公務員については見えない部分が多くあります。
中には「公務員は国へ奉仕する性質上、労働法は一切適用されず、残業代も支払われない」という方がいますが、果たして本当なのでしょうか。今回は、公務員における労働法の適用や相談先を中心に、弁護士が解説します。
本ページはベリーベスト法律事務所のコラム記事です。
労働基準監督署(労働局、労働基準局)との間違いに、ご注意ください。
労働基準監督署の所在地はこちら
民間企業で働く方は、労働基準法をはじめとする労働法のルールに従うことを前提とし、細かい決まりについては企業が独自に定めた就業規則が適用されます。
他方、公務員には民間企業のような就業規則はありません。
国家公務員法や地方公務員法、人事院規則、一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律といった複数の法令および規則にもとづき働くことになります。公務員にとって、これらが就業規則にあたるわけです。
給与については、国家公務員(一般職)は人事院による給与勧告の対象となります。
人事院が民間企業の給与・ボーナスとの比較や情勢などを考慮したうえで勧告されます。
地方公務員の場合、給与は条例主義をとっています。
人事委員会が民間の給与水準との均衡を図ることを基本として給与の報告および勧告を行い、地方公共団体の議会が制定した条例にもとづき給与が決定されるという流れになっているのです。
また、国家公務員法第98条第2項および地方公務員法第37条第1項にもとづき、公務員にはストライキなどの労働争議が禁止されています。
民間で働く方は、いざとなれば社内外の労働組合に相談して労使交渉ができますので、これは大きな違いです。
もっとも、公務員全般として「職員団体」という団体を結成し、国や地方公共団体などと交渉すること自体は可能です。
したがって、勤務条件の維持改善を求める手だてがない、というわけではありません。
しかし、合意事項の法的拘束力はなく、あくまでも紳士協定として道義的な責任が発生するにとどまります。
書面による協定は地方公務員にのみ許されていますが、これにも法的な拘束力はありません。もっとも、書面による協定は、当該地方公共団体の当局及び職員団体の双方において、誠意と責任をもって履行しなければなりません(地方公務員法第55条第10項)
公務員は、職種によって労働法の適用に一定の制限がかかるという意味では民間で働く方と大きな違いがあります。
ここでは主に労働基準法の適用について確認しましょう。
原則として、国家公務員には労働基準法が適用されません。
根拠となる国家公務員法附則第16条では、以下のとおり規定されています。
附則抄 国家公務員法 第16条
労働組合法(昭和24年法律第174号)、労働関係調整法(昭和21年法律第25号)、労働基準法(昭和22年法律第49号)、船員法(昭和22年法律第100号)、最低賃金法(昭和34年法律第137号)、じん肺法(昭和35年法律第30号)、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)及び船員災害防止活動の促進に関する法律(昭和42年法律第61号)並びにこれらの法律にもとづいて発せられる命令は、第2条の一般職に属する職員には、これを適用しない。
なお、国家公務員は、特別職と一般職に区別されます。
特別職とは、職務の性質上、国家公務員法の適用がなじまない職種を指します。
三権分立(行政、立法、司法)にかかわる職種が該当し、たとえば、内閣総理大臣や国務大臣、国会議員の秘書や国会職員、裁判官などが挙げられます。そしてこれ以外を一般職といいます。
ただし、「特定独立行政法人等の労働関係に関する法律」が適用される職種については、上記の附則第16条が除外されるため、原則として労働基準法などの労働法が適用となります。
たとえば、国立公文図書館や造幣局、国立印刷局などの職員らがこれにあたります。
地方公務員にあたる職種は、たとえば県や市の職員、公立学校の教員、消防士などが挙げられます。
地方公務員法第58条第3項の規定により、一部の労働基準法が適用されますが、同項で一部の規定が除外されているため、労働基準法が適用される部分と、そうでない部分があります。
また、労働組合法、労働関係調整法、最低賃金法は適用されません。
給与についても、前述したとおり人事委員会による給与勧告や条例にもとづくため、労使交渉を通じて決定することができません。
もっとも、「地方公営企業等の労働関係に関する法律」の対象となる方については、地方公務員法第58条の規定から除外されるため、原則として、労働基準法が適用されます。
たとえば、水道局や交通局の職員などがこれにあたります。
一般的に、労働問題で悩んだ際には労働基準監督署へ相談するという流れを思い浮かべる方は多いでしょう。法違反があれば企業への指導・監督をしてくれますので、労働者にとっては心強い味方です。
しかし、公務員の相談先は異なります。それぞれ確認しておきましょう。
基本的に労働基準監督署へ相談できません(国有林野事業の職員や特定独立行政法人の職員などを除く)。
その代わりではないですが、人事院への相談が可能です。
電話、面談、手紙で相談する場合は、人事院公平審査局職員相談課および人事院地方事務局で受け付けています。メールの場合は人事院のホームページに相談フォームがあります。
また、所属府省の人事担当部局など組織内に相談窓口もありますので、そちらへ相談してもよいでしょう。
地方公務員の場合は、職員の区分ごとに相談先が異なります。
まず、以下の区分に該当する方は労働基準監督署に相談できます。
一方、以下の方は労働基準監督署に相談することができません。
ただし、人事委員会または人事担当部局に設置された窓口へ相談が可能です。
人事委員会では、労働基準監督署などの監督機関に代わって、職員が働く事業所に対する指導監督を行っています。
また教員の場合、相談内容によっては教育委員会へ相談する方法もあるでしょう。
公務員には残業代が支払われないといわれることが多くあります。
たとえば公立学校の教員は、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」の第3条第2項で「時間外勤務手当および休日勤務手当は支給しない」と定めています。
ただし、教員の過労が社会的に知られるところとなり、現役の教員が残業代の支払いを求めて裁判を起こすなどの動きもあるため、将来的に見直される可能性はあるでしょう。
一般職の国家公務員は、「一般職の職員の給与に関する法律」の第16条により、超過勤務手当を請求できます。同法第17条、18条でも休日給や夜勤手当について規定していますので、休日出勤や深夜労働をした場合でも同様に請求できます。
なお、特別職については、職種別の法令に従います。
たとえば国会職員の給与は「国会職員法」に、自衛隊員の給与は「防衛省の職員の給与等に関する法律」に定めてあります。
一般職の地方公務員については、一部の職種を除き残業代支払いに関する労働基準法の規定が適用されるため、残業代の請求が可能です。
実際に、地方公務員が残業代を求めて裁判を起こし、認められたケースもあります。
今回は公務員における労働法の適用や労働問題の相談先について解説しました。
国家公務員は原則として労働基準法が適用されず、地方公務員は一部を除き適用されます。相談先についても労働基準法の適用に関連し、一部の地方公務員を除いては労働基準監督署へは相談できません。
ただし、人事院や人事委員会など相談できる先はありますので、ひとりで抱え込まずに相談しましょう。
残業代を請求する場合は、公務員の特殊性から高いハードルが待ち受けていますので、弁護士への相談も検討しましょう。
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