残業時間の平均は、働いている業種によって異なり、建設業・ドライバー・医師などは残業時間の多い職種として知られています。残業時間には法律上、上限が設けられていますので、平均的な残業時間を超えて働いているような場合、違法な残業を強いられている可能性もあります。
このようなケースでは残業代の未払いが発生していることもありますので、未払い残業代の有無をチェックし、残業代が未払いになっている場合はしっかりと請求していくことが大切です。
今回は、残業時間の平均や上限規制、未払い残業代の計算方法や請求方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
厚生労働省が公表している「毎月勤労統計調査 令和5年分結果確報」では、業種ごとに残業時間の平均がまとめられています。
それによると、全労働者(事業所規模5人以上が調査対象)を対象とした月の残業時間(所定外労働時間)の平均は以下のようになっています。
業種別の残業時間の平均をみると、残業が多い業種は以下の通りです。
ただし、厚生労働省の統計資料には、サービス残業などは計上されていません。
実際には、建設業、ドライバー、医師などが残業時間の多い業種として知られており、過労死なども発生するなど、深刻な社会問題となっています。
長時間残業が深刻な社会問題になっていることを受けて、残業時間の上限規制が設けられるようになりました。
以下では、残業時間の上限規制の概要について説明します。
労働基準法第32条では、法定労働時間として1日8時間・1週40時間が定められており、これを超えて働かせるためには、36協定の締結・届け出が必要になります(労働基準法第36条)。
36協定の締結・届け出により残業が可能となりますが、残業時間は無制限ではありません。原則として月45時間・年360時間という上限が設けられています。
ただし、臨時的な特別の事情がある場合には、36協定の特別条項を締結することで、例外的に上限を超えた残業が可能となります。
このような残業時間の上限規制に違反している場合、残業代が未払いになっている可能性があります。未払い残業代の有無をしっかりとチェックすることが大切です。
残業時間の上限規制は、平成31年4月から施行されましたが、中小企業については適用が猶予されており、令和2年4月からの適用となっていました。
また、残業時間が多い業種として知られている建設業、運送業(ドライバー)、医師についても令和6年3月31日まで上限規制の適用が猶予されてしました。
しかし、令和6年4月1日からはすべての企業を対象として、残業時間の上限規制が適用されています。
残業代が支払われておらず、会社に確認したところ「そもそも、残業代が支払われない労働契約になっている」と言われるケースもあります。
特殊な労働契約の場合、残業時間はどのように扱われるのでしょうか。
以下では、年俸制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制、管理職についての残業時間の取り扱いを説明します。
年俸制とは、業績や成果に応じて年単位で給与総額を決める制度をいいます。
給与総額は、前年度の業務実績や評価などが基準になりますので、主に成果主義の企業において採用されている賃金制度です。
年間の給与総額が決まっている年俸制では、残業代が発生しないと誤解している人も多いですが、年俸制であっても会社には残業代の支払い義務があります。
法定労働時間を超えて働いた場合には、年俸制で決められた給与額とは別に残業代を請求することができます。
事業場外みなし労働時間制とは、労働時間の算定が困難な場合に、実際の労働時間にかかわらず一定時間労働したものとみなす制度です。
事業場外みなし労働時間制は、以下の条件を満たす労働者に適用されます。
たとえば、外回り営業職、旅行会社の添乗員、新聞記者、保険外交員などがこれらの要件を満たします。
適用された場合
事業場外みなし労働時間制が適用されると実際の労働時間ではなく、以下のいずれかの「みなし労働時間」が適用されます。
みなし労働時間として所定労働時間が適用される労働者については、実際に残業をしたとしても会社に残業代を請求することができません。
しかし、「業務の遂行に通常必要とされる時間」や「労使協定で定めた時間」に残業時間が含まれる場合には、残業代を請求することが可能です。
裁量労働制とは、実際の労働時間ではなく、会社と労働者との間であらかじめ定めた時間を働いたものとみなし、その時間分の賃金を支払う制度です。
裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、いずれも適用対象となる業務が限定されていますので、誰にでも適用される制度ではありません。
裁量労働制においてみなし労働時間を8時間と定めた場合、実際の労働時間が10時間であったとしても8時間分の賃金しか請求することができません。
そのため、みなし労働時間の定め方によっては、残業代を請求できないケースもあります。
管理監督者とは、経営者と一体的な立場にある労働者を指します。
労働基準法では、管理監督者に該当する労働者に対しては、労働基準法上の労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されませんので、残業をしたとしても会社に残業代を請求することはできません。
ただし、深夜手当(22時~5時までの残業に対する割増賃金)については、管理監督者であっても支払われますので、深夜手当が未払いの場合は、請求をすることが可能です。
また、管理監督者は、名称や肩書などの形式面で判断するのではなく実態に即して判断します。そのため、肩書だけのいわゆる「名ばかり管理職」に該当する労働者であれば残業代を請求することが可能です。
残業代の基本的な計算方法は、以下のとおりです。
これだけではよくわからないという方も多いと思いますので、以下では各項目について詳しくみていきましょう。
1時間あたりの基礎賃金
1時間あたりの基礎賃金は、以下のような計算式によって計算します。
手当は除外
なお、「月給」は、「基本給+諸手当」となりますが、残業代計算では以下の手当を除外しなければなりません。
割増賃金率
残業時間の種類に応じて、以下のような割増賃金率が定められています。
残業時間には、「法定内残業」と「法定外残業」の2種類があります。
そのため、残業代計算においては、法定内残業と法定外残業を区別して計算することが重要です。
残業代計算は非常に複雑な計算になりますので、正確な残業代を知りたい方は、弁護士に相談することをおすすめします。
なお、簡単におおよその残業代を知りたい方は、残業代チェッカーをご利用ください。
未払い残業代があることがわかったときは、会社に対して残業代請求を行う必要があります。未払い残業代請求は、以下のような方法で行います。
まずは、会社に対して残業代の支払いを求める内容証明郵便を送付します。
内容証明郵便を利用するのは、残業代請求をしたという証拠を残すという理由だけでなく、時効の完成(時効により請求権が失われる)を阻止する意味があります。
残業代請求には、以下のような時効があります。
内容証明郵便で残業代請求をすると、法律上の催告にあたりますので、残業代の時効の完成を6か月間猶予することができます。
特に、時効の完成が迫っている事案において有効な手段となりますので、残業代請求をする際には必ず内容証明郵便を利用するようにしてください。
その際は、内容証明を確実に配達したことを証明できる「配達証明」も一緒につけるようにしましょう。
未払い残業代が生じていることが判明した場合、残業代請求を進めていくことになりますが、不安や疑問点がある場合には以下の相談先に相談するとよいでしょう。
労働基準監督署とは、管轄内の企業が労働基準法や労働安全衛生法などの関係法令を遵守するよう監督指導を行う行政機関です。
労働基準監督署では、労働者からの相談にも無料で対応していますので、未払い残業代に関する悩みがあるときは労働基準監督に相談することができます。
労働基準監督署は、労働者による申告により残業代未払いの疑いが生じたときは、事業所への立ち入り調査などを行い、その結果を踏まえて指導や是正勧告などを行ってくれます。
ただし、労働基準監督署の役割は、「労働基準法違反の有無を調査し、違反しているのであればこれを是正すること」にあるため、「労働者個人の未払い残業代の回収」を直接の目的として動くことはあまりありません。
そのため、相談しても「自分で残業代を請求してみてください」と言われることが多いのが実情です。
労働組合とは、労働条件の改善や経済的地位の向上などを目的として、労働者が主体となり組織する団体です。
労働者個人での交渉では、会社が誠意をもって対応してくれないケースであっても、労働組合による団体交渉権を行使することで会社が交渉に応じてくれる可能性もあります。
残業代が未払いになっている疑いが生じたときは、弁護士に相談するのがおすすめです。
労働基準監督署とは違い、弁護士は「個人の労働問題の解決」を目的としています。
弁護士に相談をすることで、残業代請求に必要になる証拠をアドバイスしてもらうことができ、複雑な残業代の計算や請求も弁護士に任せることができます。
労働者個人では対応が難しい会社との交渉も弁護士が代理人として対応することができますので、会社も真摯に対応してくれることが期待できます。
また、会社との交渉が決裂した場合でも、弁護士が引き続き労働審判や訴訟に対応しますので、未払い残業代の問題が解決するまで安心して対応を任せることが可能です。
自分ひとりで対応するのが不安だという方は、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。
残業代請求をする際には、労働者の側で未払い残業代の存在とその額を証明しなければなりません。そのためには、証拠は不可欠となりますので未払い残業代の証拠を集めるようにしましょう。
未払い残業代の証拠になるものとしては、以下のようなものが挙げられます。
どのようなものが証拠になるのか分からない場合や、不安な場合は、まずは弁護士に相談することを優先しましょう。
どんなものが証拠になるか、弁護士が集め方をアドバイス・サポートします。
内容証明郵便が会社に届いたら会社との交渉を開始します。
会社が未払い残業代の存在を認めれば、具体的な金額や支払い方法、支払時期などの条件を詰めていくことになります。
交渉の結果、合意に至ったときは口約束だけで終わらせるのではなく、必ず合意書などの書面を作成するようにしてください。
交渉はご自身でもできますが、交渉の段階から弁護士に任せることで様々なメリットがあります。
会社との交渉が決裂したときは、労働審判の申し立てや裁判(訴訟提起)を検討します。
労働審判は、会社と労働者との間で生じた労働トラブルを迅速かつ実効的に解決するための手続きで、裁判に比べて迅速な解決が期待できます。
裁判の前に必ず利用しなければならないわけではありませんが、話し合いの余地があるなら早期解決が可能な労働審判を利用してみるとよいでしょう。
労働審判や裁判となると、法的な知識が不可欠です。
弁護士に依頼して、一緒に会社と戦っていくことをお勧めします。
残業時間の平均は、月13.8時間ですが、サービス残業など統計にあらわれない残業時間もありますので、実際の残業時間の平均はそれよりも多いと考えられます。
残業時間には、法律上、上限が設けられていますので、残業時間の上限を超過して働いているような方は、残業代が未払いになっているかもしれません。
特に、建設業・ドライバー・医師など長時間残業が常態化しているような職業の方は、一刻も早く弁護士に相談することをおすすめします。
未払い残業代請求を検討している方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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