労働者の方が会社を退職する際、ボーナスをもらえるかどうかは重大な関心事でしょう。退職が迫った時期のボーナス支給については、有給消化中の場合や会社都合退職の場合など、問題となるケースも多いところです。
退職時期によってはボーナスがもらえなくなるケースもあるので、労働契約の内容等を踏まえて退職時期の調整を行う必要があるかもしれません。
今回は、退職時に知っておくべきボーナス(賞与)の取り扱いについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
従業員が会社を退職する際、ボーナスをもらえるかどうかを知るためには、労働契約書や就業規則・賃金規程等により、労働契約の内容をチェックする必要があります。
まずはボーナスについて、法律・契約上の基本的な取り扱いを確認しておきましょう。
労働基準法では、ボーナス(賞与)は「賃金」として位置づけられています(労働基準法第11条)。
労働基準法上の賃金は、会社に法律上の支給義務があるものと、法律では支給が義務付けられていないものに分かれています。
毎月の基本給や残業代などは、会社に法律上の支給義務がある賃金の典型例です。
まず、会社は、ボーナスなどの賞与を除く賃金を、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません(同法第24条)。これがいわゆる基本給です。
また、残業代については、通常の賃金に対して一定以上の割増率を乗じた金額の支給が義務付けられています(同法第37条)。
これに対して、ボーナスの支給を義務付ける規定は、法律上存在しません。
したがって、労働者がボーナスを受け取る権利(会社がボーナスを支払う義務)は、労働基準法その他の法令に基づいて当然に発生するものではないのです。
労働基準法上はボーナスの支給義務がなくても、労働契約の内容としてボーナスを支給する旨が定められていれば、契約に従って会社は労働者にボーナスを支払う義務を負います。
労働基準法に規定がない以上、ボーナス支給の有無・金額・条件などは、基本的に労働契約の規定に従って決まることになります。
ただし、ボーナスについて明確な支給基準等を定めているケースは少なく、会社の裁量を広く認めるような規定ぶりとなっているケースが大半です。
そのため、ボーナス請求権(支給義務)の有無や金額を巡って、会社と労働者の間でトラブルに発展することがあります。
ボーナス支給日(賞与支給日)の時点ですでに退職していたり、退職届を提出済みであったりする場合、ボーナスが不支給または減額とされる場合があります。
ボーナスを不支給・減額とする会社の取り扱いが正当かどうかを判断するには、労働契約の内容を分析・検討することが必要です。
退職者・退職予定者のボーナス不支給・減額について、主なチェックポイントは、以下の3点です。
「支給日在籍要件」とは、支給日時点で会社に在籍していることを条件として、従業員にボーナスを支給することを定めるルールです。
支給日在籍要件を定めることは、ボーナスの支給条件として不合理ではなく、有効と解されています(最高裁昭和57年10月7日判決など)。
支給日在籍要件が定められている場合、支給日時点ですでに退職していると、ボーナスを一切受け取れないので注意が必要です。
そのため、退職前にボーナスを受け取りたい場合には、退職日がボーナス支給日の後に来るように、転職先を含めてスケジュール調整を行いましょう。
「在職期間要件」とは、ボーナスの計算期間のうち、一定以上の期間会社に在籍している従業員にのみボーナスを支給することを定めるルールです。
ボーナス支給日の直前期に中途入社した従業員などをボーナスの支給対象から外すために、在職期間要件が設けられるケースがあります。
仮に支給日在籍要件が設けられていなくても、退職時期によっては在職期間要件に抵触し、ボーナスの支給を受けられなくなることがあるのでご注意ください。
退職届が提出されているなど、ボーナス支給日の時点で退職することが決定している場合に、ボーナスを不支給・減額とする旨が定められるケースもあります。
ただし、退職予定によるボーナス不支給・減額規定については、有効ではないと判断した裁判例も見られるところです。
そもそもボーナスを支給する目的は、以下の要素などが複合的に組み合わさっています。
上記のうち、従業員が退職することによって妥当しなくなるのは「将来への動機付け」という目的のみです。
したがって、ボーナスを支給する目的が上記のような要素の組み合わせによる場合、退職予定者のボーナスのごく一部を減額するだけであればまだしも、全額不支給としたり、大部分を不支給としたりする取り扱いは不合理であると考えられます。
たとえば東京地裁平成8年6月28日判決では、中途退職した従業員のボーナスを、会社規定に従って82%余り減額した事案が問題となりました。
これに対して東京地裁は、「過去の賃金とは関係のない純粋の将来に対する期待部分」に対応する減額幅として、20%の減額のみを認める判決を言い渡しています。
このような裁判例を踏まえると、退職予定者のボーナスを全額不支給とすることは認められないケースも多くあると考えられます。
会社からの退職が決まった従業員は、最後の数週間程度を残っている有給休暇の消化に充てるケースが多いでしょう。
有給消化期間に入っている場合でも、労働契約に基づく支給要件に該当すれば、ボーナスの支給を受けることができます。
もっとも上記のとおり、退職予定による不支給・減額規定等が問題になることはあります。
労働契約の内容に加えて、裁判例なども踏まえたうえで、会社のボーナス支給に関する取り扱いが合理的かどうかを正しく判断することが重要になります。
整理解雇の対象になるなど、会社都合での退職を余儀なくされる場合、会社が自主的にボーナスの精算を行うケースも多いです。
しかし会社によっては、退職時期を、支給要件を満たさなくなる時期に意図的に設定して、ボーナスを不支給とする例も見られます。
もし会社都合退職を強いられた場合、ボーナスの取り扱いはどうなるのでしょうか。
会社都合退職の場合にも、原則的には労働契約の規定に従って、ボーナスの支給の有無や金額が決定されます。
したがって、まずは労働契約の内容に照らして、ご自身のケースがボーナスの支給要件を満たしているかどうかを確認することが先決です。
もし支給要件を満たしていれば、ボーナスを受け取る権利があります。
一方、支給日の直前に退職させられた結果、支給日在籍要件を満たさなくなるなど、会社都合退職を強いられたことによって、ボーナスの受給資格を失うケースも想定されます。
会社都合退職の場合、従業員側は基本的に退職時期を自分で決めることができません。
会社が一方的に退職時期を決めたことにより、従業員がボーナスの受給資格を失ってしまうとすれば、不公平な結果が生まれてしまいます。
この点、労働者の責に帰すべき事由がないにもかかわらず、会社都合での退職を余儀なくされた事案において、支給日在籍要件を満たさないことを理由にボーナス全額を不支給とする取り扱いを違法と判示した裁判例があります(東京地裁平成24年4月10日判決など)。
もし会社都合退職に伴いボーナスを不支給とする旨の説明を会社から受けた場合、上記のような裁判例を基にして反論することが考えられるでしょう。
ご自身で会社と交渉するのが難しい場合や、会社の態度が強硬で解決の道筋が見えない場合には、弁護士にご相談ください。
「退職者・退職予定者はボーナスをもらえない」と会社から説明を受けたとしても、その取り扱いは労働契約や法律に照らして適切でない場合があります。
退職の直前・直後におけるボーナスの支給について、会社の説明に納得できない場合には、弁護士へのご相談がおすすめです。
ベリーベスト法律事務所は、ボーナスの不支給や減額・未払い残業代請求・不当解雇など、会社とのトラブルに関する労働者からのご相談を随時受け付けております。
ボーナスの支給を巡って会社とトラブルになった場合には、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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