「退職届を提出しても受理してもらえない」「退職の意を伝えたところ会社から「無責任! 違約金を払え!」と脅された……」会社を辞めたくても、スムーズに退職できないケースがあります。こうした強引な引き止めは「在職強要」とも呼ばれます。
しかし労働者には退職する自由があるので、無理やり在職する必要はありません。
今回は、不当な在職強要を受けて退職できない場合の対処法について弁護士が解説していきます。
そもそも退職したいのにやめさせてもらえない「在職強要」とはどのようなことなのか、事例でみてみましょう。
在職強要とは仕事を辞めたいのに退職を認めてもらえず、退職できないことです。
会社が従業員に在職を強要するので「在職強要」と言われ、最近特に問題になっています。
在職強要によって退職できない事例としては、以下のようなものがあります。
会社による在職強要を受けて退職できない場合、どのようにするのが良いのでしょうか?
そもそも労働者は会社を辞めたいときに自由に辞めることができるのか、労働者の「種類」ごとに確認していきましょう。
「期間」の定めのある雇用契約の社員のケースからみていきます。期間の定めのある雇用契約とは、契約社員や派遣社員など「3か月間」「1年間」などの雇用期間が決まっている労働契約です。
この場合には、基本的に期間が終了するまで退職することはできません。ただし「やむを得ない事由」があれば、契約期間中の退職も認められる可能性があります。たとえば病気や怪我をして働けなくなった場合、親の介護などがやむを得ない事由に該当します。
もっとも、最初の契約から1年以上が経過した日以後は、いつでも退職することができます(労働基準法137条)。
次に「期間の定めのない雇用契約」の労働者をみてみましょう。期間の定めのない雇用契約とは、特に契約期間を定めない労働者のことです。一般的な「正社員」は、期間の定めのない雇用契約です。
この場合、労働者は原則として「2週間前」に退職の意思を告げることにより、退職することが認められています(民法第627条1項)。退職の理由はどのようなものでもよく、人間関係の悩みや業務上の悩みなどでもかまいません。
このルールは民法にはっきり書かれているので、労働者には「退職する自由」が認められていると言え、会社が在職強要することは態様によっては違法となる可能性があります。
■月給制(月末締め)の場合
月給制など「期間によって報酬を定めた場合」には、「期間の前半までに」解約の申入れをすることにより、次期からの雇用契約を終了させることが可能です。
つまり月給制(月末締め)の場合には、月の前半までに退職を申し出ることにより、次月から退職が認められるということです。
■年俸制の場合(報酬を定めている期間が6か月以上にわたる従業員)
一方、年俸制の場合には少なくとも「3か月前」までに退職の申し出をしなければなりません。
民法第627条3項では、「6か月以上の期間によって報酬を定められている場合の解約の申し入れは、3か月前にしなければならない」と規定しています。年俸制でお勤めの方は、ご注意ください。
なお上記の民法の規定に従わず「明日から退職します」などと言うことも可能ですが、そういったケースでは、会社から2週間は待ってほしいとか、今月末まではいてほしいと慰留を受ける可能性がありますし、それに従わず会社に損害が生じた場合には損害賠償請求をされる可能性もないとはいえないので、注意が必要です。
以上のように正社員の場合には、基本的に2週間前に会社に退職の意思を告げれば退職が認められます。
ただし会社によっては、就業規則で「1か月前に退職を申し出なければならない」など、2週間より長い期間が定められているケースもあります。
このような場合、民法と就業規則のどちらが優先されるのでしょうか?
難しいところですが、民法が労働者を保護する規定をおいている以上、会社の都合で労働者に不利に修正するのは好ましくないことから、基本的には民法の規定が優先されるものの、1か月程度であれば、その合理性が認められる可能性もあります。もっとも、3か月程度の長期になれば、無効と判断される可能性が高いと思われます。
以上より会社を辞めたいときには、基本的には2週間前(就業規則に1か月程度の範囲内で期間が定められている場合にはその期間前)に退職意思を告げ、会社と話合いをして退職を認めてもらうのがもっともスムーズと言えます。
以下では違法な引き止めに遭って退職できない場合の対処方法を、ケースごとに解説します。
ひとつ目のパターンは、会社側から「後任が見つからないから退職は許さない」「引き継ぎができていないので退職は認めない」などと言われて退職できないケースです。
ただし、後任が見つかるかどうかは企業側の都合であり、労働者には関係のないことです。上記のとおり労働者側には辞める自由があるので、これを理由に退職できないことにはなりません。
会社があくまで退職を認めないなら、あなたがはっきり退職の意思を示した証拠を残すため、内容証明郵便で退職通知を送り、控えを手元に残して対応しましょう。
会社から「今やめるなら迷惑をかけられるので、残りの給与を払わない」と言われ退職できないケースも多々あります。
しかし、いつ退職するとしてもすでに発生した給与を支払うのは会社の義務です。
退職後も未払い給与の請求はできるので、シフト表や業務日報など証拠の写しをとり、給与明細書や雇用条件通知書などの資料を手元に集め、退職をしてから請求すると良いでしょう。
会社が離職票を出してくれないといった嫌がらせをする場合があります。失業保険の受け取りをさせないように圧力をかけてきて、在職強要するのです。
その場合、まずはハローワークに行って相談し、ハローワークから会社に離職票の発行を促してもらうのが良いでしょう。
それでも離職票を発行してくれない場合には、ハローワークの職権によって離職票を出してもらえる手続きがあります。ハローワークに対し、労働者が被保険者でなくなったことの「確認の請求」を行い、その確認がとれたらハローワークが離職票を交付してくれます(雇用保険法第8条)。
会社から「懲戒解雇にするぞ」と脅されて退職できない方もいます。
しかし懲戒解雇は、会社が恣意(しい)的に適用できるものではありません。懲戒処分となる事由もないのに懲戒解雇することは認められません。
このような会社の言い分に理由はないので従う必要はなく、あなたは会社を辞めることができます。退職金を減らされたり、退職金がカットされたりすることもありません。
「退職したい」と告げると、会社から「有給を消化させない」と言われて嫌がらせを受けるケースもあります。しかし有給休暇は法律(労働基準法)によって労働者に認められた権利であり、会社が取得させないのは違法です。有給取得には理由は不要であり、有給中に転職活動や旅行をしてもかまいません。
会社が有給取得を認めないので困った場合には、労働基準監督署で労働相談をしてみるのもひとつの方法です。有給を取得させないのは違法なので、労基署が会社に注意してくれる可能性もあります。会社が有給取得を拒絶したことがわかる資料を持参して相談に行きましょう。
退職自体は認めても、会社から退職金を出してもらえないケースもあります。しかし、退職金規定のある会社では、退職金の支給は義務です。退職金が未払いであれば、退職後に請求することも可能です。
退職金規定の写しを取得し、会社から「退職金を出さない」と言われたときの連絡書やメールなどを手元に集めて後からの請求に備えましょう。
退職しようとすると「違約金を払え」「損害賠償請求する」などと脅されて退職できないケースがあります。
しかし、雇用契約などで労働契約に違反したことを理由とする違約金や損害賠償の予定をすることは禁じられています。またあなたが会社の備品を壊してしまった場合でも、必ずしも全額の賠償をする必要はありませんし、賠償しないと退職できないことにもなりません。借金を理由に仕事を強要することできませんので、会社に対して借金があったとしても退職できない理由にはなりません。会社から金銭関係で脅されたとしても、気にせず退職してかまいません。
在職強要をするような会社は、必要な残業代も払っていない可能性があります。その場合、残業代請求も可能なので、退職前に資料などの準備をしておきましょう。
残業代請求は退職後も可能です。転職活動をしながら弁護士に残業代請求を依頼することも可能ですし、転職先で仕事をしながら残業代請求をしてもかまいません。
ただし残業代が認められるには、残業代が発生していたという証拠が必要です。証拠がなかったら、会社から残業代を否定されたときに反論できませんし、残業代の計算もできず請求が困難となる可能性があります。
残業代の証拠は在職中の方が集めやすいので、退職前にできるだけ多くの資料を収集しておきましょう。
残業代請求で有効な証拠は、以下のようなものです。
その他、どのようなものが残業代請求の証拠として有効か自分では判断がつきにくい場合、弁護士に法律相談してみてください。
会社が認めないので「退職できない」といった場合、たいていは法的に正当な理由はありません。弁護士などの法律の専門家に依頼して、適切な対応をとって退職を実現しましょう。
会社が在職を強要することはできませんし、会社の意に反して退職した場合でも、残業代も給料も退職金も請求できます。「退職できない」と泣き寝入りする必要はないので、正しい情報を集め、認められる権利はきちんと行使しましょう。
退職にかかわるトラブルでお困りの方はベリーベスト法律事務所までご相談ください。当事務所は在職強要の解決に多数の実績があるほか、弁護士があなたの代わりに会社と話し合って円満退職をサポートする「退職サポートプラン」もご用意しております。
残業代請求に関するご相談は何度でも無料、在職強要に関するご相談は初回相談は60分まで無料です。
どうぞお気軽にお問い合わせください。
労働問題に関するご相談
労働問題のお問い合わせ・相談のご予約はこちら。
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使用者には、毎月の基本給はもちろん、残業代や休日手当など、労働契約や就業規則で定めた賃金を期日通りに支払う義務があります。したがって、これらの賃金が期日通りに支払われていなければ、会社は労働基準法に違反していることになります。
しかし、実際に不払い賃金を請求しようとしても、会社がまったく応じてくれない、何をすればいいか分からないという方は多いのではないでしょうか。
不払い賃金を請求するためには、請求額の計算や証拠集めなどが不可欠ですが、請求権には時効があり、迅速な対応が必要です。
このコラムでは、不払い賃金の請求を適切な方法でスムーズに進めるために、知っておくべきこと、取るべき手段について、弁護士が詳しく解説します。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、経済は全国的に落ち込み、企業の業績が悪化しています。働いている会社の経営状態が悪化することは、労働者にも直接的な影響を与えます。会社から休業を命じられたり、「コロナで売上が減少したので、来月から給料を5万円減額する」などとして、会社から一方的に給料カットを言い渡されている労働者の方もいらっしゃるでしょう。
しかし、会社としては、休業を命じる場合には休業手当を支払わなければならない場合がありますし、給料の減額については、原則として、会社と労働者の間で合意が必要とされます。
本コラムでは、コロナウイルスの影響による休業で「休業手当」が支払われる場合と支払われない場合や、一方的な給料カットに対して労働者がとれる対策について、弁護士が解説します。
「毎日夜遅くまで残業をさせられている」、「会社に訴えても長時間労働が改善されない」
あなたがこのような状況にある場合、勤務先である会社は36協定に違反している可能性があります。労働基準法第36条に規定された協定であることから36協定と呼ばれていますが、具体的にはどのような協定なのでしょうか。違反した会社にはどんな罰則が科せられるのでしょうか。
本コラムでは、36協定の概要や罰則、労働基準法違反となるケースやその場合の対応方法について、弁護士が解説します。
労働問題に関するご相談
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