厚生労働省が公表している「令和4年雇用動向調査結果の概要」によると、令和4年の1年間で離職した一般労働者の数は441万4900人でした。
このなかには予期せぬ解雇や出産・介護など、自分で離職のタイミングを調整できない事例もあったことでしょう。
上記のような予期できない退職ではなく、転職など自身の退職のタイミングを調整できる場合なら、会社からの退職を検討するうえで大きな悩みのひとつとなるのが、「ボーナス(賞与)」です。
たとえば、ボーナスの支給日前に退職届を提出すると「辞める相手にボーナスは払えない」「満額は支給できない」といった不利益を受けてしまうのではないかと不安になるかもしれません。
本コラムでは「ボーナス支給日前の退職」をテーマに、ボーナスの支給条件や適切な退職のタイミングについて弁護士が解説します。
(出典:「令和4年雇用動向調査結果の概要」(厚生労働省) )
ボーナスの支給日前に退職、あるいは退職する意思を伝えたり退職願を提出した場合、支給の対象から外されてしまったり、減額されたりするのではないかと不安を感じている方もいらっしゃるでしょう。
ボーナスの支給日は、会社によって異なりますが、一般的な会社の場合、夏のボーナスは7月5日~15日頃、冬は12月5日~15日頃に支給されるケースが多いです。
そのため、夏のボーナスを受け取る少し前の6月末や、1年が終わる12月末のタイミングで、転職したいと考える人が増える傾向にあります。
そのような方は、「退職するタイミングは、いつ伝えたらボーナスを満額受け取れるのか」というお悩みを抱える方が多いのではないでしょうか?
ここでは、ボーナスの一般的な考え方などに触れながら、ボーナス支給日前に退職すると実際にどのような影響が生じるのかを解説します。
一般的に「ボーナス」や「賞与」と呼ばれるものは、正社員あるいはそれに準ずる従業員に対し、年に1回、2回(例:6月末~7月中旬、12月上旬~12月末など)、企業によっては3~4回など、月々の賃金とは別に支払われる賃金を指していると考えられています。
しかし、それらは年間の支給回数に多少の差があるほか、最初からボーナス支給なしという企業も実はめずらしくありません。
このように企業によって差があるのは、「法律による定めがないから」という理由からです。
月々の給与や労働時間・休みなどは労働基準法による定めがありますが、ボーナスに関する規定は存在しません。
労働基準法第11条では「賃金」について「賃金・給料・手当・賞与など名称を問わず労働の対償として支払われる」旨が規定されており、ボーナスと称されるものはあくまで賃金の一部とされているだけなのです。
したがってボーナスは就業規則や労働契約などの労使間の合意において規定されるもので、支給の回数や時期、評価や計算の方法は会社側が自由に決めているという実情があります。
ただし、厚生労働省が作成した「モデル就業規則」には、賞与に関する事項が挙げられており、算定対象の期間に応じてボーナスが支給される仕組みと、支給額は業績・勤務成績などに応じて算定されるなどの一般的なケースが示されてはいます。
前述のとおり、ボーナスに関する規定は所属する会社の就業規則や労働契約で示されているのが一般的です。
したがって、どのような基準でどの程度のボーナスが支給されるのかを知るには、労働契約や就業規則における規定を調べると答えが出てくるでしょう。
労働契約におけるチェックポイントは次のとおりです。
ここで注目したいのが「支給日在籍条項」です。
ボーナスの支給日に会社に在籍している従業員を対象にボーナスを支給する旨が規定されている場合、たとえ算出期間において在籍していても、支給日に在籍していなければ支給対象から外れてしまいます。
労働契約において支給日在籍条項が定められている場合、ボーナス支給日に在籍していない従業員に対する支払い義務は生じません。
つまり、ボーナス支給日前に退職した従業員は、支給対象とはならないのです。
算定期間中に在籍しているのだから会社への貢献に応じてボーナスが支給されないと違法だと主張したくなるかもしれませんが、法律上も会社側に支払いの義務はないのでこの場合は適法です。
このような扱いが認められるのは、ボーナスが「過去の貢献に対する報奨」という性格とともに「将来への期待」という性格もあわせ持っているからともいえます。
ただし、以下のような場合などでは、支給対象に含まれる可能性があります。
支給日在籍条項が定められている場合、ボーナスの支給日を経過して計画的に退職したとしても差し支えはありません。
すでに出社せず有給休暇を消化中の状態でも、会社に籍が残っている限りは支給対象とするのが原則です。
ボーナスの支給日後に退職しても問題にはならないのが原則ですが、労働契約や就業規則において、ボーナスの算定基準に「将来への期待値」が具体的に示されている場合は減額されるおそれがあります。
退職予定者へのボーナス減額に関する裁判例として、平成8年6月28日に東京地裁において判決が下された「ベネッセコーポレーション事件」が参考になるでしょう。
退職を検討しているのであれば、あわててボーナス前に退職を伝えるのではなく、ボーナスが問題なく支給されて、減額されることもないタイミングでの退職を目指すのが賢明です。
まず、退職のスケジュールを立てる前に、所属する会社の労働契約や就業規則をしっかりとチェックしましょう。支給日在籍条項が定められているのか、算定基準に将来への期待値が含まれているのかを確認するほか、退職予定者に対する減額率なども明記されているのかをチェックします。
ボーナス支給に絡みながら円満な退職を実現するには、次の2点に注意したスケジューリングが必要です。
この2点に配慮すれば、支給日在籍条項も、算定基準に将来への期待値が含まれていても、ボーナスの満額を受け取りながら円満に退職できるでしょう。
ただし、ボーナス支給日にはすでに次の算定期間の勤務に従事していることになるので、ボーナス支給日の前後に大きな業績を残した場合が問題になるでしょう。
特に、業績がボーナスに大きく反映するようなセールス職などでは、退職を急いだことで次期のボーナスを捨てることになります。
退職を検討している時点の業績などもしっかりと考慮したうえで、退職の意思を伝えたり退職届を提出する必要があります。
ご自身だけで判断できない場合は、弁護士に相談してアドバイスをもらうことをおすすめします。
ボーナスの支給後に退職すれば、不支給や減額を受けることなく、満額のボーナスを受け取ったうえで退職が可能です。
ところが、ボーナスと退職の関係でトラブルに発展する事例も少なからず存在します。
このようなトラブルに巻き込まれた場合も、弁護士への相談をおすすめします。
労働に関する法令の知識が深く、これまでに数多くの労働トラブルを解決してきた実績が高い弁護士に依頼すれば、ボーナスの不支給や減額が適法なのか違法なのかを正確に判断できるでしょう。
また、不支給・減額や返還請求が不当であると考えられる場合は、弁護士が代理人として会社との交渉にあたることも可能です。
会社が交渉に応じない場合は裁判所の手続きによって決着を望むことも可能ですが、個人での対応は困難でしょう。
弁護士に一任すれば、対応の手間を解消できるだけでなく、具体的な証拠を示して対抗できるので、ボーナスの満額を問題なく受け取れる可能性が高まります。
会社から退職することは重要な決断です。お世話になってきた会社や上司への後ろめたさを感じることもありますが、これまでの実績を無視されてボーナスが不支給・減額となることは許されないでしょう。
退職とボーナスの関係で悩んでいる、退職予定を理由に不支給や不当な減額を受けたなどのトラブルに巻き込まれた場合は、労働問題の解決実績が豊富な弁護士への相談をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、これまでにも数多くの労働問題を解決してきた実績があります。退職予定を理由にボーナスが支払われなかった、減額されたなどでお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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