トラックの運転手をはじめとする運送業は慢性的な人手不足の状況にあります。
厚生労働省のサイトによると、トラック運転者の有効求人倍率は、令和4年9月には2.12となっており、全職業平均の1.2を上回っています。
これは平成30年度から見られる傾向です。
こうした状況下では、残業代の未払いや長時間労働の常態化といった違法な労働環境が生じやすいです。
今回は、違法労働かどうかの判断に役立つ労働基準法違反の事例をいくつか紹介した上で、運送業と労働基準法の関係や確認すべきポイントについて解説します。
本ページはベリーベスト法律事務所のコラム記事です。
労働基準監督署(労働局、労働基準局)との間違いに、ご注意ください。
労働基準監督署の所在地はこちら
まずは運送業での労働基準法違反の実情を確認しておきましょう。
平成30年、東京労働局が都内の道路貨物運送業に対して行った臨検監督の結果では、対象となった271事業場のうち220事業場に法令違反が認められました。
違反率としては81.2%にのぼります。
ちなみに過去の法令違反率は、平成29年が208事業場のうち170事業場(81.7%)、平成28年が168事業場のうち134事業場(79.8%)と、概ね80%前後で推移していることがわかります。
違反内容は労働時間の超過のほか、賃金や休日に関するものも多く見受けられます。
具体的な違反事例として、2つの事件を挙げておきます。
この事例では、代表取締役、専務取締役かつ運行管理者は、運転手の疲労困憊を認識していた以上、事故を未然に防止して乗客や乗員の安全を確保するために、運転手に休養を取らせたり、代わりの運転手を準備するなどの対策を講じるべきであったにもかかわらず、これをしなかったことから、被告会社の経済的利益を優先させ、旅客運送事業者として最も重視すべき乗客の安全を軽視したものというほかなく、厳しく非難されるべきである、とされています。
この事例では、運行管理者は、過労運転等を原因とする危険な交通事故が発生しないよう、法令等に定める基準を遵守して自動車運転手の疲労の蓄積を防止するとともに、その運転手に対して過労運転を命じることがないよう十分に注意すべき立場にあったにもかかわらず、本件の過労運転を命じたのであるから、運行管理者による本件各行為は、法を無視する身勝手で悪質なものであり、刑事責任を軽く見ることはできないとされています。
2つの事件からは、時間外労働をさせたことがどれほど量刑に影響を与えているのかがわかります。
運送業に絡んで特に問題となるのは、労働時間と休日です。
そこで、労働基準法および改善基準告示について確認した上で、それらの定めに関する6つのポイントを紹介します。
労働基準法では、労働時間は1日8時間、週に40時間までと規定されています(労働基準法第32条1項)。これを法定労働時間といいます。
いわゆる36協定を締結していれば法定労働時間を超過することも認められますが(同法第36条1項)、それにも制限があり、原則1か月45時間、1年360時間という上限があります(同法第36条4項)。
令和6年3月までは、自動車運送業にはこの延長基準が適用されない、という運用がなされていましたが、令和6年4月1日以降は適用されるようになりました。
きちんとこの制限が守られるよう、厚生労働大臣告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が策定されています。
これが「改善基準告示」と呼ばれるものです。
この告示は労働基準法に直接の根拠を持つものではありませんが、関係労使の代表を加えた小委員会における検討結果に基づき中央労働基準審議会から報告がなされ、厚生労働大臣が告示として官報に掲載し一般に公表したものであるため、遵守が要請されます。
改善基準告示では、自動車運転者の拘束時間は
とされています(改善基準告示第4条1項2号)。
また、
という目安もあります。
拘束時間とは?
労働時間、休憩時間、その他の使用者に拘束されている時間をいいます(改善基準告示第2条かっこ書き)。
手待ち時間(荷待ち時間)については、運転時間や整備・荷扱いの時間と同様、労働時間に含まれます。
休息期間とは、使用者の拘束を受けない期間で、勤務と次の勤務の間にあって、直前の拘束期間における疲労の回復を図るとともに、睡眠時間を含む労働者の生活時間として、その処分は労働者の全く自由な判断にゆだねられる時間をいいます。
この休息期間については、、原則11時間以上、短くても下限は9時間の休息が必要と定められており、勤務と勤務の間が8時間以上空いていなければなりません。
運転時間についても、
といった限度が定められています(改善基準告示 第4条1項6号、7号)。
休日とは
をいい、30時間を下回ってはならないとされています。
運送業において、職場の実態が労働基準法違反なのかを判断するのは、なかなか難しい場合もあります。
そこで、確認すべきポイントを押さえておきましょう。
労働基準法や改善基準告示に示された時間を超えて労働した場合、残業代が支払われなければなりません(労働基準法第37条1項)。
すなわち、36協定がない場合に、1日8時間、週に40時間を超えて労働した場合に残業代は発生します。一方で、36協定がある場合には、改善基準告示に示された時間を超えない限り残業代は発生しません。
そのため、弁護士に相談し、残業代の未払いがないかを確認されることをおすすめいたします。
運送業で問題となりやすいのが、長時間労働です。人手不足や業界構造の問題も絡むため、労働が長時間化しやすいのは確かです。
特に運転業務は過労が事故などを招きかねず、事故を起こした場合には被害者から損害賠償請求されたり、場合によっては刑事事件として扱われたりするリスクも高くなります。
毎日どれほど長時間労働したのかを記録しておき、弁護士に相談することをおすすめいたします。
先輩ドライバーや上司などからのパワハラも見過ごせない問題です。
無茶な行程を押し付けられそうになったり暴言を吐かれたりするような場合、上司からのメールやLINEを残しておいたり、音声を録音しておいたりして、パワハラの証拠となるものを集めておくことをおすすめいたします。
違法または過酷な労働環境におかれている場合、できれば改善を図りたいと考える方もいらっしゃるかと思います。
方法としては、労働基準監督署への相談・通報が考えられます。
具体的な方法としては3通りあります。
です。
電話は「労働条件相談ほっとライン」(平日17時~22時・土日祝9時~21時)で、メールは「労働基準関連情報メール窓口」(24時間)で受け付けています。
また、相談窓口は労働基準監督署(平日8時30分~17時15分)にあります。お近くの監督署で相談されるとよいでしょう。
こうした相談は匿名でも行えますが、匿名の場合は緊急性が低いと判断され、対応が後回しにされる可能性もあります。
残業代を少しでも多く支払ってほしいとお考えの場合は、法的な知識が必要不可欠です。
残業代が未払いの可能性がある場合、個人での交渉はそもそも相手方である会社から相手にされないことも少なくありません。
そこで、法律事務所へ相談して今後の対策などのアドバイスを受けることが重要となります。
労働審判や裁判だけでなく、弁護士が代理人として会社との交渉をしてくれるため、手続きや交渉に関する手間を省くことができます。
今回は運送業における労働基準法および改善基準告示、そして違反事例やチェックすべきポイントなどを説明しました。
ご自身の労働環境を振り返って違反ではないかと思われる場合には、一人で抱え込むよりもまず労働基準監督署や弁護士に相談することが選択肢のひとつとなるでしょう。
また、未払い残業代等を請求するにあたっては、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。法的なアドバイスを提供するほか、会社との交渉などをサポートします。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を
今すぐには弁護士に依頼しないけれど、その時が来たら依頼を考えているという方には、ベンナビ弁護士保険への加入がおすすめです。
何か法律トラブルに巻き込まれた際、弁護士に相談するのが一番良いと知りながら、どうしても費用がネックになり相談が出来ず泣き寝入りしてしまう方が多くいらっしゃいます。そんな方々をいざという時に守るための保険が弁護士費用保険です。
ベンナビ弁護士保険に加入すると月額2,950円の保険料で、ご自身やご家族に万が一があった場合の弁護士費用補償(着手金)が受けられます。残業代請求・不当解雇などの労働問題に限らず、離婚、相続、自転車事故、子供のいじめ問題などの場合でも利用可能です。(補償対象トラブルの範囲はこちらからご確認ください。)
ご自身、そして家族をトラブルから守るため、まずは資料請求からご検討されてはいかがでしょうか。
提供:株式会社アシロ少額短期保険 KL2022・OD・214