本来であれば支払われるはずの給与が支払われない「未払い給与」の問題は、重大な社会問題となっています。また、昨今の不況下では、給与が支払われないことにより、生活が困難になって危機に陥る可能性も高まっています。
労働者には、未払いの給与を支払うように会社に請求する権利があります。ただし、未払い給与の請求権には時効も存在します。そのため、給与の未払いが発覚したら、速やかに対応を開始することが重要なのです。
本コラムでは、未払い給与の支払いを会社に請求する方法や、請求する際の注意点について、べリーベスト法律事務所所属の弁護士が解説いたします。
給与の未払いは、友人・知人同士のお金の貸し借りのように個人間のトラブルで片付く問題ではありません。
れっきとした違法行為であり、違反に対しては罰則も定められているのです。
労働基準法第24条では、次の事項が定められています。
まず、賃金は「通貨」で支払われる必要があります。通貨とは、わかりやすく言えば「お金」のことを指します。
また、「法律の定めによって国内で流通している貨幣」という意味でもあります。
そのため、日本国内での給与の支払いは、「円」による支払いが原則となるのです。
ただし、法令若しくは労働協約であらかじめ特別に規定されていれば、住宅の貸与や自社製品などによる支払いも認められています。
また、給与はあらかじめ決められた支払日に、直接労働者本人へ全額を支払うことが原則となっています。
会社が「会社の業績が悪いので今月は給与を支払えない」という理由で「来月まで支払いを待ってほしい」と労働者にお願いすることは、原則的には違法であるのです。
賃金支払いの原則に違反した会社への罰則としては、労働基準法第120条1号の規定により、30万円以下の罰金が定められています。
労働基準法第11条では、「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいうと定められています。
「給与」や「賞与(ボーナス)」、「手当」などは、名称に関わらず、すべて「賃金」とされているのです。
未払い給与の請求対象となる賃金の具体例は、下記のとおりになります。
なお、休業手当・割増賃金・年次有給休暇の賃金について未払いが生じた場合には、労働基準法第114条の規定により、労働者の請求があれば裁判所が付加金の支払いを命じることが可能です。
ただし、付加金の請求は違反のあった時から5年以内にしなければなりません。
付加金は、賃金未払いをおこなった会社に対するペナルティとして、裁判所が認めた範囲で加算されます。
未払い給与を請求する権利には、「時効」があります。
時効が到来してしまった未払い給与は、請求をおこなっても会社から支払いを断られてしまうおそれがあります。そのため、未払い給与の時効について理解して、時効が到来する前に請求をおこなうことが重要となります。
労働基準法第115条が改正されたことによって、未払い給与の時効は5年とされましたが、当分の間経過措置により以下のように定められています。
つまり、月々の給料や残業代の未払いが発生していても、3年を過ぎてしまえば会社から「時効が過ぎている」として支払いを拒まれる可能性が生じるのです。
そのため、未払い給与の請求は、3年以内におこなうことが原則となります。
なお、上記に述べましたとおり労働基準法の改正により、令和2年4月1日以降に支払い期日が到来した賃金については、時効が「3年間」となっていますが、令和2年3月31日以前に支払い期日が到来した賃金については、時効は「2年間」です。混同しないように、注意してください。
また、改正労働基準法115条により、消滅時効の起算点が明確化されました。
賃金等請求権の消滅時効の起算点は、現行の労働基準法の解釈・運用を踏襲し、客観的起算点である賃金支払日を維持し、労働基準法上明記されました。
「未払い給与がある」と気付いてから、請求に向けて手続きをはじめた段階でも、時効の到来は着々と近付いてきます。
そのため、未払い給与の存在に気付いた時点で時効を止めるための手続きも行ったほうが、給与の回収がより確実になります。
未払い給与の時効を止める方法のなかでももっとも手軽なものが、会社に対して「催告」をおこなうこと
です。
「未払い給与が存在するので、支払ってください」という旨の要求を明記した内容証明を会社に対して送付すれば、催告が成立して、時効を6か月間止めることができます。
未払い給与を請求するための流れは、以下のようになっています。
まずは、会社に対して「未払い給与の支払いを求める」旨を明記した請求書を送ることになります。
請求書を送る際には、内容証明を利用することで「いつ、どのような内容を伝えたのか」という客観的な記録を残すことができます。この記録は、請求書を送った後にも会社が給料を支払わなくて裁判に発展した際には、証拠として活用できることになるのです。
請求書を送った後は、会社の対応を待つことになります。
請求書を送っても会社が対応してくれない場合は、未払い給与が発生している事実を客観的に証明する証拠を準備したうえで、労働基準監督署へ申告しましょう。
労働基準監督署は労働基準法をはじめとした労働関係の法令について監督する機関です。会社が未払い給与を支払わない場合には、会社に対して指導を与えてくれる可能性があります。
ただし、証拠が不充分な場合には、労働基準監督署は対応してくれない可能性があります。また、労働基準監督署にできるのは指導や刑事事件化することであり、裁判所の判決のような「支払いをしなさい」という強制力を伴う命令を発する権限はありません。
労働基準監督署が指導をおこなった後にも会社が未払い給与を支払わない場合には、強制力のある命令を下す権限を持った機関である、「裁判所」を頼りましょう。
給与未払いの問題では、裁判所に「労働審判」の申立てをおこなうことになります。
労働審判とは、個々の労働者と事業主との間に生じた労働関係に関する紛争を、裁判所において、原則として3回以内の期日で、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的として設けられた制度・手続きです。
裁判所の審判官・審判員が審理をおこなうことで、紛争が速やかに解決される可能性が高い点が特徴です。
労働審判の期日は、上記に述べたように3回まであります。それまでに労働者と会社の双方が合意すれば、「調停」が成立することになります。
一方で、合意が得られない場合には、判決と同じ効力を持つ「審判」を裁判所が下すことになるのです。
労働審判の結果に対しては、労働者・会社の双方が「異議申立て」をおこなうことができます。
どちらかによる異議申立てがおこなわれた場合には、「労働審判」から「通常裁判」へと移行することになります。ただし、労働審判の内容が引き継がれるので、はじめから裁判がやり直されるわけではありません。
通常裁判へと移行するための異議申立ては、労働審判の結果が告知されてから2週間以内におこなわなければいけないことに留意してください。
また、労働審判を経ずに通常裁判を起こすことももちろん可能です。
未払い給与の請求を行う際には、弁護士に手続きの代行を依頼することで、問題が解決される可能性を高めることができます。
現在の勤務先である会社に対して「未払い給与を支払ってほしい」と請求することは、職場の人間関係やキャリアに悪影響を及ぼす可能性もあり、心理的に抵抗感を抱かれる方が多いでしょう。
また、以前の勤務先であっても、元社員のことを軽んじて未払い給与を請求しても取り合わない可能性があります。
弁護士に依頼すれば、現在の勤務先や以前の勤務先に対する未払い給与の請求を代行させることができます。自分ではなく弁護士におこなわせることで、心理的な負担から解放されます。また、元社員のことを軽んじる会社であっても、弁護士からの要求であれば真剣に対応する場合があるのです。
これにより、未払い給与の問題が早期に解決する可能性が高まります。
未払い給与を請求しても会社が支払わない場合には、労働審判や通常裁判をおこなうことになります。審判や裁判においては、「未払い給与が存在する」という事実を客観的に示す「証拠」が重要になります。
しかし、賃金や労働時間に関する書類や記録は会社が保管していて、労働者側が独自に用意できる証拠では不充分な場合も多いです。すでに退職した勤め先の未払い給与を請求する場合には、証拠集めはなおさら困難になります。
弁護士には、証拠集めを代行させることもでき、会社が保管している証拠資料の開示請求をおこなうのです。これにより、労働審判や通常裁判になった場合でも、未払い給与が支払われる可能性が高まります。
未払い給与を請求するときには、労働者側で未払い給与の正確な金額を算出する必要があります。
未払い給与の金額を算出するためには、労働時間や1時間あたりの給与額などの細かな情報に基づいた複雑な計算が必要となる場合もあります。労働者個人でこの計算をおこなうことは困難である場合も多いでしょう。
弁護士に計算を代行させたほうが、より確実に正確な金額が算出できるでしょう。
労働者には未払い給与を支払ってもらうように会社に請求する権利があります。
ただし、請求権には時効があるために、先延ばしせずに請求に向けた手続きを速やかにすすめることが重要となります。
弁護士に依頼すれば、証拠集めや未払い給与の正確な金額などを代行させられ、問題が早期に解決する可能性が高まります。
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