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労働条件・ハラスメントの弁護士コラム

時給計算の端数の切り捨ては違法? 意外と知らない法的ルール

2024年10月16日
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時給計算の端数の切り捨ては違法? 意外と知らない法的ルール

時給計算で働いている派遣などの方は、「30分以下は切り捨て」などの時給計算における端数の切り捨てについて気になっている方もいらっしゃるでしょう。

労働時間の端数処理の方法は法律で規定されているため、会社が違法な端数の切り捨てを行っていると、大きな問題に発展することがあります。

本コラムでは、時給計算等における端数の切り捨てについて焦点をあてて、法的に正しい計算方法や未払分が発生している場合の対処法などを解説します。

1、時給切り捨ては労働基準法違反

  1. (1)時給は原則として1分単位で計算しなくてはならない

    時給計算等における端数の切り捨ては、本来的には労働基準法の定めに反する違法行為です。時給計算等の大前提として、労働者の時給は原則として1分単位で計算しなくてはなりません。

    なぜなら、労働基準法第24条第1項において

    賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない

    と定められているからです(賃金全額払いの原則)。
    この定めは、たとえ1分であっても無給で労働させることは許されないことを示しています。

    そもそも、労働基準法第24条第1項は、勤務時間の管理を「1分単位で行わなければならない」ということを直接定めているわけではありませんが、たとえ1分であっても、それに対して賃金が支払わなければならないということを定めた規定です。

    切り上げであれば違法ではない
    もっとも、当然ですが、切り捨てるのではなく、切り上げるのであれば違法ではありません。労働者の有利に計算することは禁止されないので、1時間に満たない時間を1時間として計算することには何ら問題ありません。

  2. (2)1か月を通算したときの労働時間の30分未満・以上の扱い

    労働基準法の定めに従えば、割増賃金の計算における労働時間も1分単位で厳密に計算するのが基本です。

    ただし、厚生労働省の通達(昭和63年3月14日基発第150号)によれば、1か月を通算して計算する場合は、30分以上1時間未満を1時間に切り上げることとしたうえで、30分未満を切り捨てることが可能です。

    ポイント
    • 1か月を通算して30分未満の端数が出た場合は切り捨て
    • 30分以上の端数は1時間に切り上げることが可能

    たとえば、割増賃金の対象となる時間外労働が40時間15分だった月は、15分については切り捨てが可能となり、割増賃金の対象となる労働時間は合計40時間になります。
    一方で、40時間45分だった月は、45分を1時間に切り上げて、合計41時間が割増賃金の対象となる労働時間ということになります。

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2、割増賃金の端数処理

問題となりやすい「割増賃金の計算」について、もっと詳しく見ていきましょう。
ここでは、割増賃金の端数処理について計算例を交えながら解説いたします。

  1. (1)1時間あたりの賃金の50銭未満・以上の扱い

    時間外労働に対する割増賃金を算出する場合は、その月の給与額から1時間あたりの賃金(時給)を計算して1.25を乗じることになります。

    このとき計算した1時間あたりの賃金(時給)について、1円未満の端数は、50銭を基準に切り捨て・切り上げが可能です。

    • その月の時給が1250.2円の場合:0.2円を切り捨てて1250円になる
    • その月の時給が1250.7円の場合:0.7円を1円に切り上げて1251円になる
  2. (2)1か月の割増賃金額における50銭未満・以上の扱い

    1か月分の割増賃金の総額に1円未満の端数がある場合も、1時間あたりの賃金計算(時給計算)のケース(上記(1))と同様に50銭未満で切り捨て、50銭以上で切り上げが可能です。

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3、1か月の賃金支払額における端数処理

労働基準法における基本原則は「賃金全額払い」ですから、1か月単位でも1円単位で正確に給与が支払われるのが原則です。
ただし、一定額に満たない賃金を処理する場合は端数処理が認められます。

  1. (1)1か月の賃金支払額における50円未満・以上の扱い

    1か月の給与総額から所得税などを控除した賃金支払額に100円未満の端数がある場合、50円未満を切り捨て、50円以上を切り上げて計算できます。

    • 賃金支払額が40万1111円の場合:11円を切り捨てて40万1100円になる
    • 賃金支払額が40万1175円の場合:75円を100円に切り上げて40万1200円になる
  2. (2)1か月の賃金支払額における1000円未満の翌月繰越し

    1か月の賃金支払額に1000円未満の端数がある場合は、翌月の賃金に繰越しが可能です。

    • 当月の賃金支払額が40万1990円:990円を繰り越して40万1000円になる
    • 翌月の賃金支払額が40万2500円:前月繰越分(900円)のうち500円を加算して40万3000円にして、残りの490円を繰り越す
    • 翌々月の賃金支払額が40万3510円:前月繰越分(490円)を加算して40万4000円になる

    これら(1)と(2)の端数処理は、あらかじめ就業規則に処理内容を定めておく必要があり、就業規則に定めずに(1)または(2)の端数処理を行った場合は労働基準法違反となります。

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4、ノーワーク・ノーペイの原則が適用される場合とは

  1. (1)労働をしていない時間は賃金支払いの対象にはならない

    労働した時間に対して漏れなく賃金を支払う必要がある一方で、労働をしていない時間は賃金支払いの対象にはなりません

    たとえば、始業時間が9時であるのに1時間の遅刻をして10時から始業した場合、遅刻した1時間について会社は賃金を支払う義務を負いません。
    この考え方を「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます。

    民法第624条においても

    労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない

    と定めています。
    労働をしていない時間について、労働者は「報酬」(賃金)を請求する権利がありません

  2. (2)実際に働いた労働時間まで賃金カットすることは原則として違法

    とはいえ、たとえば、会社が

    労働時間を15分単位で計算するので、1分でも遅刻したら15分の遅刻とみなす

    として賃金をカットすることは、実際に労働をした時間(1分の遅刻の場合は残りの14分)までもが無給となってしまうため原則として違法です。

  3. (3)制裁(懲戒処分)として減給をする場合

    もっとも、頻繁に遅刻する労働者に対し、制裁(懲戒処分)として減給をするという場合には、労働基準法第91条において認められる範囲内で就業規則に減給を定めた場合に限り、実際に遅刻した時間にかかわらず減給をすることも可能になります。

    減給の目安
    労働基準法第91条の規定によれば、減給は1回について1日分の平均賃金の半額が限度です。

  4. (4)遅刻以外でノーワーク・ノーペイの原則が適用されるケース

    遅刻のほかにも、ノーワーク・ノーペイの原則が適用されるものとしては次のケースがあります。

    • 早退
    • 欠勤
    • 産前産後・育児休業
    • 介護休業
    • 自然災害など不可抗力による休業
  5. (5)ノーワーク・ノーペイの原則が適用されないケース

    ① 有給休暇の場合
    一方で、有給休暇の場合には、休暇を取りながらもその期間中の賃金を支払ってもらえるため、ノーワーク・ノーペイの原則が適用されないということになります。

    ② 会社都合による休業や自宅待機の場合
    会社都合による休業や自宅待機などについても、民法536条2項や労働基準法第26条の適用があるため、基本的にはノーワーク・ノーペイの原則が適用されません

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5、賃金計算で疑問に感じたら弁護士へ相談を

毎月しっかり給与明細をもらっていても、時給計算や労働時間の計算が正確におこなわれているのかを確認したことがある方は多くはいらっしゃらないかもしれません。

また、遅刻や残業について「労働時間は15分単位で計算するので15分未満は切り捨てる」などという説明を受けたとしても、法的にはそれにしたがう必要はありません

一度ご自身で時給計算をしてみると、時給の計算方法に疑問が出てくるかもしれません。
そのような場合には正確な計算が必要となりますが、労働法令に関する知識や経験、証拠の正確な精査などを要するので、証拠資料をそろえて弁護士に相談されることをおすすめいたします。

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6、まとめ

ご自身の派遣先において時給計算等に不正などはないものと信じたいところです。
しかし残念ながら、時給計算等において違法な端数の切り捨てが行われているケースは存在します

「私の派遣先で、時給計算等で違法な端数の切り捨てが行われているかもしれない」などの疑問を感じた場合には、労働トラブルの解決実績を豊富にもつベリーベスト法律事務所にご相談ください。

この記事の監修者
萩原達也

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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