左遷とは、今までよりも地位の低い役職や能力に見合わない業務などに異動させられることをいいます。一般的には、左遷は、ネガティブな言葉として使われますが、実務経験を積ませるための左遷などポジティブな意味でも使われることがあります。
会社からの業務命令として左遷を命じられた場合、基本的には従う必要がありますが、左遷の経緯や態様によっては違法な左遷になるケースもあります。そのような違法な左遷を命じられた場合には、しっかりと争っていく必要があります。
今回は、左遷の概要と違法な左遷を命じられた場合の対策について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
そもそも左遷とはどのような状態のことを意味するのでしょうか。
左遷とは、今までよりも地位の低い役職や能力に見合わない業務などに異動させられることをいいます。左遷という言葉は、中国で右を尊び、左を卑しんだことに由来しています。
「配置転換」や「出向」との違い
左遷と似たような言葉に、「配置転換」があります。
配置転換とは、同じ企業内で職種や勤務地、職務内容などを変更することをいいます。
配置転換は、左遷のようにネガティブな異動だけに限らず、いわゆる栄転のようなポジティブな異動も含む言葉です。
なお、他企業への異動は、配置転換ではなく「出向」になります。
左遷というと一般的には、ネガティブな言葉として用いられていますが、左遷理由によってはポジティブな人事異動であるケースもあります。
たとえば、左遷によって不慣れな業務を担当することになったとしても、それは将来の管理職候補として実務経験を積んでほしいという理由で異動を命じられることもあるでしょう。また、役職が下がったとしてもより活躍しやすい環境で働かせるために異動が命じられた、といった可能性もあります。
このようにポジティブな理由での左遷もありますので、異動を命じられたとしてもすぐに「左遷させられた」と落ち込むのではなく、上司や人事部などに配置転換の理由を確認するようにしましょう。
その際に理由が不明確であったり、説明をしてくれなかったりする場合、違法な左遷である可能性があります。
では、どのような左遷であれば違法になるのでしょうか。
詳しくは、次の項目で具体的な裁判例を挙げながら説明します。
以下では、左遷が人事権の濫用にあたるかどうかが問題になった裁判例を紹介します。
事案の概要
Yは、在日アメリカ人の小中学校および高等教育を行う学校です。Xは、Yに雇用され、学校内外の掃除などを業務とする施設管理部部長の地位にありました。
Xは学校の出入り業者から仕事発注の見返りに、長期かつ多額の謝礼を受け取ったり、管理部用務係主任のリベートの受領(じゅりょう)を知りながら放置したりしていたなどの問題行動がありました。
そこで、Yは、Xに対し、Xの取引業者から許可なく謝礼等を受け取ることが就業規則に反するとして、懲戒処分として降格と減給処分を行いました。
Xは、Yによる懲戒処分が無効であるとして、裁判所に施設管理部長たる地位の確認、
差額賃金及び差額賞与等の支払の訴えを提起しました。
裁判所の判断
懲戒処分をするためには、就業規則上の根拠が必要であるところ、Yには就業規則上、懲戒処分としての降格の規定はないため懲戒処分としての降格はできないと判断しました。
他方、人事権の行使としての降格処分であれば就業規則の定めがなくても可能であるとして、Xの問題行動を理由として降格処分をすることには、相当な理由があると判断しました。
したがって、本件では、YによるXへの降格処分は有効であるとされています(東京地裁判決平成13年8月31日)。
事案の概要
Xは、平成12年4月にY社の営業担当取締役に任命されましたが、同年9月から平成15年5月までの間に4度にわたって降格・減給処分を受けました。
Xは、これらの降格・減給処分が無効であると主張して、裁判所に訴えを提起しました。
裁判所の判断
Xが営業担当取締役に任命されてから、第1次降格処分がでるまでの期間は、わずか6か月であり、この間のXの営業成績には特に問題がなかったことから、第1次降格処分は、人事権を濫用したものであり無効と判断しました。
そして、その後の第2次から第4次までの降格・減給処分は、いずれも無効な第1次降格処分を前提としたものであることから、すべて無効であると判断されました。
つまり、人事権の行使が、考慮すべき事実を考慮せず、考慮すべきでない事実を考慮してなされた等、使用者の裁量の範囲の逸脱又は濫用が認められる場合には、降格が人事権の濫用として無効となる場合があると考えられていることになります。
なお、この裁判が確定後、Xは、Yに出社しましたが、社長から就労を拒否されてしまったため、8か月間の自宅待機を余儀なくされました。
その後、復職が認められましたが、会社や社長との確執から業務命令を拒否していたところ、懲戒解雇をされてしまいました。Xは、裁判で解雇無効を争ったものの、これについては敗訴となっています(東京高裁判決平成17年1月19日)。
以下では、退職させるための左遷が問題となった裁判例を紹介します。
事案の概要
Y銀行では、営業成績の悪化を受け、新経営方針を徹底させるため、新経営方針に積極的に協力する社員を昇格させて、消極的な社員を降格する人事を行いました。
この人事によりXは、課長から指揮監督権のない役職に降格させられ、20代の若手社員が担当する総務課の受付業務を命じられました。
Xは、このような降格・配転は、中高年管理職を退職に追い込むための意図によるものであるとして、慰謝料の支払いを求めて裁判所に訴えを提起しました(東京地裁判決平成7年12月4日)。
裁判所の判断
Yでは新経営方針の推進・徹底が急務とされていたため、新経営方針の推進に積極的に協力しない管理職を降格することには高度の必要性があったとして、Xを降格したことは裁量権の範囲内であると判断されました。
しかし、異動先の総務課の受付業務は、勤続33年で課長職まで経験したXにはふさわしくない職務にあたると判断しました。
そして、そのような配転は、Xの人格権を侵害し、職場内外で孤立させ、Xの勤労意欲を失わせ、退職に追いやる意図でなされたものであり、裁量権を逸脱した違法なものであって、不法行為を構成するとして、慰謝料100万円の支払いを認めました。
事案の概要
Y社では、経常利益が減少を続けており、赤字転落もあり得る経営状態であったことから、Xを含む10人に退職勧奨を行いました。退職勧奨を受けたXは、自宅待機を命じられ、1年以上の自宅待機となったうえに、部長職から係長職への降格、年棒を従前の半額まで減額をさせられました。
その後、Yから解雇されたため、Xは、解雇無効などを争って裁判所に訴えを提起しました。
裁判所の判断
裁判所は、YがXに対して退職勧奨をするとともに、一方的に部長から係長に降格し、給与を従前の半額に減額しており、このような左遷には必要性・合理性が認められず、人事権の濫用にあたると評価し、本件解雇は無効であると判断しました(東京地裁判決平成18年9月29日)。
このような違法な左遷であった場合には、それに応じる必要はありませんので、左遷を断ったとしても業務命令違反にはなりません。
また、違法な左遷を断ったことを理由に解雇されても、不当解雇にあたる可能性が高いでしょう。
事案の概要
Xは、エステティックサロンや化粧品販売などの事業を行うY社でマネジャー(部長職)として勤務していました。Xの職務遂行にあたっては、スタッフへの強い叱責や不適切な言動などがあったことから、Yは、Xに対し、降格・減給処分を行いました。
さらに、Yは、Xに対する出向を命じ、その後退職勧奨を行ったもののそれに応じなかったため、最終的にXを解雇しました。
Xは、本件解雇が不当解雇であるとして、裁判所に訴えを提起しました。
裁判所の判断
Xの部下への接し方や指導手法に問題があったことから、降格処分には必要性・合理性があり、人事権の範囲内の処分だと認めました。
他方、降格により賃金が減額され、年俸にして450万円以上の減額がなされたことについては、Yから会社の賃金体系の全体が明らかにされておらず、賃金規定も証拠として提出・開示されておらず、減額の客観性及び合理性が明らかではなく、降格に伴う減額幅としては過大だとして、減給処分については無効だと判断しています(東京地裁判決平成20年2月29日)。
左遷を命じられた場合、労働基準監督署に相談することはできるのでしょうか。
労働基準監督署とは、事業所が労働基準法などの労働関係法令を順守しているかどうかを監督・取り締まりをする機関です。
労働者の申告などをきっかけに事業所に立ち入り検査を行い、法令違反が確認された場合には、指導や是正勧告により法違反状態の改善を図ります。
そのため左遷についても、違法な左遷を受けた場合には、労働基準監督署へ相談することが可能です。
上述のとおり、違法な左遷については労働基準監督署へ相談することができますが、労働基準監督署への相談にはメリットとデメリットがあるので、それぞれ確認しておきましょう。
左遷が違法だと思ったらまずは弁護士にご相談ください。
左遷が違法であるかどうかは、左遷の経緯や目的などから総合的に判断する必要があります。一般の方では、左遷の違法性を判断するのは難しいですが、弁護士であれば豊富な知識や経験に基づいて適切に判断することができます。
また、違法な左遷により解雇されてしまったような場合には、不当解雇を理由に争うことが可能です。
弁護士であれば労働者の代理人として会社と交渉をしたり、労働審判や訴訟などに対応したりすることができますので、精神的な負担も大幅に軽減できます。
弁護士が対応することで、交渉に応じてもらいやすくなるなどのメリットもありますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談してから解決までの一般的な流れを紹介します。
左遷というとネガティブなイメージを持ちますが、実際にはポジティブな理由による左遷であることもあります。そのため、まずは上司や人事部に事情を確認してみましょう。
そのうえで、違法な左遷を受けて困っている方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
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