失業保険は、失業期間中に国から給付される手当です。会社を退職してから次の就職先が決まるまでの生活を支えるために設けられている制度です。失業保険は、解雇された場合でも一定の要件を満たせば受給することができます。
しかし、退職の理由などによって、受給される金額や受給日数などの条件が異なります。自分のケースではどうなるのかをぜひ知っておきましょう。最近の統計に目を向けると、令和2年度の一般被保険者への受給資格決定件数は、151万3612件で前年比12.4%増となっています。それだけ、失業保険給付の申請をしている人が多くなっているのが現状です。
今回は、解雇された場合の失業保険の受給条件や手続き方法のほか、不当解雇だった場合の対処方法、65歳以上の解雇の場合の失業保険はどうなるのかについて、詳しく解説します。
(出典:雇用保険事業年報 令和2年度)
雇用保険における給付のひとつとして、失業した人が求職期間中に生活を安定させるための「基本手当」があります。これが一般的に失業保険や失業手当と呼ばれるものです。
また、一般に雇用保険の「特定受給資格者」(雇用保険法23条2項)に該当する退職を会社都合退職、それ以外の退職を自己都合退職と呼ぶことがあります。
特定受給資格者とは、倒産・解雇等により再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた者のことです。賃金が大幅に減額された、賃金が未払いだった、育児休業制度の利用を不当に制限された、パワハラを受けたといった場合も該当する可能性があります。
一方、転職等の理由で本人から申し出をして離職した場合や、自己の責めに帰すべき重大な理由で解雇されてしまった場合等は、自己都合退職です。
ただし、自己都合退職でも、出産や介護、配偶者の転勤など、正当な理由が認められる場合は、「特定理由離職者」として「特定受給資格者」と同じ受給資格を得ることができます(雇用保険法13条3項、同法附則4条、雇用保険法施行規則19条の2)。
失業保険は、求職活動中で、かつ、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない「失業の状態」にある人なら、被保険者期間の要件を満たすことで支給されます。解雇された場合でも同様です。
しかし、必要な被保険者期間、いつから受給できるか、金額はいくらかなどの条件は、会社都合退職と自己都合退職で異なります。
② 給付制限期間
自己都合退職の場合は3ヶ月間の給付制限があります(雇用保険法33条1項)。
③ 受給日数(所定給付日数)
受給日数は、退職事由、被保険者期間、年齢によって算定されます。
自己都合退職では年齢は関係ありませんが、会社都合退職では年齢によって細かく分けられています。
失業保険は、次の計算式により給付額が決まります。
リストラによる解雇や普通解雇、退職勧奨など、会社都合による離職だったのに、離職票の離職理由の欄が自己都合となっているケースも少なくないようです。
会社が自己都合にしたい理由としては、雇用関係の助成金の申請を予定している場合や受給している場合が考えられます。助成金は、申請の前後に解雇などを行っていないことを支給要件としていることがあるからです。
もし、定められた期間内に解雇があった場合には、申請を諦めるか、受給した助成金を返還しなければならなくなる可能性があります。
また、会社側が不当解雇であることを認識している場合は、解雇無効や損害賠償請求の訴えを避ける目的で、離職理由を自己都合にすることもあるようです。
このような場合、会社側は退職の際に自己都合を理由とする退職届の提出を強制することがあるので、はっきりと提出の拒否をするとともに、強制された証拠を残しておきましょう。また、解雇を言い渡された場合は、解雇通知書や解雇理由証明書の交付を求めましょう。
それでも、離職票に自己都合と記載されていた場合には、ハローワークに退職の経緯などを説明して、会社に訂正を求めます。会社が訂正に応じない場合は、ハローワークに異議を唱えることや、雇用保険審査官に対して審査請求を行うことができます。
その場合には、解雇理由証明書などの資料を用意しておくとよいでしょう。
前述のとおり、離職理由によって基本手当の支給開始時期や支給期間に大きな違いがあるので、求職期間中の生活を安定させるためにも、きちんと異議を申し立てましょう。
65歳以上の被保険者が離職した場合は、失業保険ではなく「高年齢求職者給付金」が支給されます(雇用保険法37条の2~37条の4)。
高年齢求職者給付は、月額ではなく一括で受給することができます。
受給要件は次のとおりです。
基本手当日額は、失業手当と同じ計算式により算出されます。
受給日数は、被保険者期間が1年未満は30日、1年以上は50日です。
退職事由による受給日数の違いはありませんが、基本手当と同様に自己都合退職の場合は3ヶ月の給付制限があります。定年や契約期間満了、解雇、病気やケガ、介護などやむを得ない理由による離職の場合は制限なく受け取ることができます。
受給期間は、離職日の翌日から1年間なので、受給条件を満たす場合は早めに申請しましょう。
また、失業保険と年金を同時に受給することはできませんが、高年齢求職者給付は年金と同時に受給することができるというメリットがあります。
失業保険を受給するまでの具体的な流れは、次のとおりです。
会社から「離職票1、2」を交付してもらいます。
離職票の交付をしてもらえない場合などは、ハローワークに問い合わせましょう。
失業保険の手続きは、自分の住所地を管轄するハローワークで行います。
「求職申込書」に記入し、職員の方から希望の職種や、離職票記載の退職理由と事実が相違ないか等、簡単な質問を受けます。
雇用保険受給説明会に参加し、受給や求職活動についての説明を受けます。雇用保険受給説明会の開催日時は受給資格認定の際に指示されるので必ず出席しましょう。
終了後に、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」が交付され、次回の来所日(失業認定日)が指示されます。
失業認定日の前日までに、月に1回以上の求職活動を行います。
失業認定は、初回失業認定日から原則として4週間に1度行われます。「失業認定申告書」には、求職活動の状況やアルバイトなどの収入を記入します。
失業認定から通常5営業日で、指定口座に振り込まれます。
「不当解雇」とは法律や就業規則の規定等を守らずになされる解雇することです。
復職したい場合は、解雇の無効確認と復職を求めて、会社側との交渉や労働審判、訴訟の提起を行います。
しかし、争うにしても、会社は解雇をしたとして賃金を支払わないわけですから、当面の生活資金が心配です。そのようなときのために、失業保険には仮給付という制度があります。受給手続きの流れは通常の失業保険の手続きとほとんど同じですが、解雇の無効について紛争があることを証明する書類が必要です。
たとえば、労働審判申立書、裁判所への訴状などです。
もっとも、これは仮に給付されるに過ぎませんので、解雇の無効が認められ復職した場合は、受け取った失業保険を返還する必要があります。
また、和解によって、退職をすることを前提に金銭的解決を図る場合もあります。
その場合、退職日を和解成立日にした場合には失業保険を返還する必要がありますが、解雇された日を退職日とすれば、失業保険を返還せずに済む可能性があります。
解雇の有効性を争う場合は、失業保険に関する問題だけでなく、解雇予告手当や退職金の受領、退職届の提出など、慎重に判断するべき問題がたくさんあります。
もし、解雇通告された場合は、すぐに弁護士に相談しましょう。
弁護士の適切なアドバイスにより、意思に反して解雇に同意させられることなく、会社との交渉や労働審判、裁判において有利に進めることができます。
今回は、解雇された場合の失業保険の受給条件や手続き方法について解説いたしました。
解雇による退職でも失業保険を受け取ることができますが、不当解雇などの労働問題は、早い段階で弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士を代理人として会社へ解雇が無効であるとして復職を求めたり、和解交渉を進めたりすることで、解雇の撤回や解決金を獲得することができる可能性が高まります。
また、本来受け取るべき退職金や解雇予告手当、未払残業手当などの支払を求めることも可能です。
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