有給休暇は、退職する際に、残っている分すべてを消化することができます。会社の「有給消化の拒否」「有給分の賃金や残業代が支払われない」といった行為は違法の可能性があります。
厚生労働省が公表している「就労条件総合調査の概況」によると、令和5年において、労働者1人に付与された有給休暇の平均日数は16.9日、実際に取得した有給休暇の平均日数は11.0日でした。これは昭和59年以降で最高となっています。
有休を消化しつつ円満退職するためのステップを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
労働者が退職するときは、残っている有給休暇を消化することができます。
正当な理由もなく会社が有給消化を拒否することは違法です。
年次有給休暇は、労働基準法に基づいて労働者に付与される有給の休暇です。
労働者は原則として、自由なタイミングで有給休暇を取得できます(労働基準法第39条第5項本文)。
例外的に、使用者が有給休暇の取得時季を変更できる「時季変更権」を行使できる場合もありますが、取得自体を拒否することは認められません。
したがって、間もなく退職しようとする労働者は、退職前に有給休暇をすべて消化することができます。
有給消化によって、働かなくても賃金をもらえる期間ができることは、労働者にとって大きなメリットと言えるでしょう。
有給休暇は、正社員などのフルタイム労働者だけでなく、契約社員やパート・アルバイト、派遣労働者などにも継続勤務期間と所定労働日数に応じて付与されます。
具体的な有休日数について、一覧表で見てみましょう。
フルタイム労働者(正社員など)に付与される有給休暇の日数
継続勤務期間 | 有給休暇の日数 |
---|---|
6か月 | 10日 |
1年6か月 | 11日 |
2年6か月 | 12日 |
3年6か月 | 14日 |
4年6か月 | 16日 |
5年6か月 | 18日 |
6年6か月以上 | 20日 |
なお、フルタイム労働者は正社員に限りません。
以下のいずれかに該当する労働者です。
フルタイム労働者でない労働者の場合に付与される有給休暇の日数
(契約社員、パートタイム、アルバイトなど)
所定労働日数 | 1週間 | 4日 | 3日 | 2日 | 1日 |
---|---|---|---|---|---|
1年間 | 169日以上 216日以下 |
121日以上 168日以下 |
73日以上 120日以下 |
48日以上 72日以下 |
|
継続勤務期間 | 6か月 | 7日 | 5日 | 3日 | 1日 |
1年6か月 | 8日 | 6日 | 4日 | 2日 | |
2年6か月 | 9日 | 6日 | 4日 | 2日 | |
3年6か月 | 10日 | 8日 | 5日 | 2日 | |
4年6か月 | 12日 | 9日 | 6日 | 3日 | |
5年6か月 | 13日 | 10日 | 6日 | 3日 | |
6年6か月以上 | 15日 | 11日 | 7日 | 3日 |
正社員でない人が退職する際にも、有給消化ができることを覚えておきましょう。
退職代行サービスを利用して、会社に有給消化の意思を伝えることは可能です。
会社が応じれば、有給消化をして退職することができるでしょう。
ただし、会社が有給消化を拒否する、有給の賃金を支払わないなどの場合、退職代行業者に交渉を依頼すると非弁行為という違法行為にあたる可能性があります。
有給消化に関する会社との交渉は、弁護士に依頼することをおすすめします。
会社とのトラブルを避け、円満に有給消化をして退社したい場合は、以下のステップにしたがって対応を進めましょう。
まずは会社の就業規則を確認して、有給休暇に関するルールや手続きを確認しましょう。
会社の就業規則は、労働基準法上のルールと照らし合わせることが大切です。
就業規則の内容が、労働基準法に比べて労働者に不利である場合は、労働基準法のルールが優先して適用されます。
たとえば、労働基準法で6か月以上勤務した労働者に10日の有給休暇を付与することが義務付けられているにもかかわらず、就業規則で「6か月勤務後に5日のみ有給を与える」と定められていた場合、その部分は無効となります。
有給日数は、早めに会社の勤怠システムで確認しておきましょう。
また、就業規則と労働基準法のルールを読み合わせると、適切な日数の有給休暇が付与されているかが分かります。そこからすでに取得した日数を差し引くと、退職前に取得できる有給休暇の日数を計算できます。
なお、労働基準法では義務付けていませんが、会社が独自に規定を設けて、有給休暇の買い取りを行っている場合もあります。
消化できなかった分は給与に換算してもらえないか確認してみるとよいでしょう。
有給消化の時期は、原則として労働者が自由に決められるため、自分である程度のスケジュールの目途を立てておきましょう。
引継ぎ先との連携や転職活動の状況などを考慮しつつ、無理なく有給消化できるスケジュールにしておくことが、円満退職につながります。
業務の引継ぎを済ませたうえで最終出社日を迎え、有給消化に入るのが一般的です。
有給消化のスケジュールや退職日などを決めたら、会社に対して退職する旨と有給消化をする旨を伝えましょう。
会社からは引き止められたり、退職や有給消化の時期をずらすよう求められたりする可能性があります。
会社の求めに応じるかどうかは、自分の都合や職場の人間関係などを総合的に考えて判断しましょう。
会社にしつこく引き止められて困っているときは、弁護士に相談することをおすすめします。
有給消化に入る前に、業務の引継ぎを済ませておくことが望ましいです。
きちんと引継ぎを行えば、職場の人間関係を良好に保ったまま退職することができるでしょう。対応事項を早い段階から整理しておき、計画的に引継ぎを行いましょう。
ただし、引継ぎに関して会社側の無理な要求に応じる必要はありません。会社から不当な要求を受けたら、弁護士のサポートを受けながら毅然と拒否しましょう。
業務の引継ぎが済んだら有給消化に入り、最終出社日を迎えます。
最終出社日には、関わりのあった上司や同僚、部下などに挨拶をしましょう。
きちんとした形で別れと感謝を伝えれば、良好な人間関係を保つことができます。
退職金や未払いの賃金は、退職後しばらくしてから振り込まれるケースが多いです。
満額支払われているかどうかをしっかり確認しましょう。
入金日を数日過ぎても振り込みが確認できない場合や、振り込まれた額が不当に少ない場合は、弁護士への相談をおすすめします。
会社が退職前の有給消化を拒否することは、労働基準法違反にあたります。
もし不当に有給休暇を拒否されたら、以下の窓口などへ相談しましょう。
特に弁護士には、有給消化に関するトラブルへの対応を全面的に任せられます。
退職前後の会社とのトラブルに備えたい場合や、すでにトラブルが発生している場合には、弁護士へご相談ください。
会社を退職する際に発生することが多いトラブルの内容と、その対処方法を解説します。
いずれも弁護士の退職サポートを受ければ、適切な形で解決できる可能性が高まります。
有給消化中であるにもかかわらず、出勤するよう不当に強要された場合、労働基準法に抵触する可能性があります。
有給消化中の労働者は、会社側の出勤要求に応じる義務を負いません。
有給休暇が不当に搾取されないように、毅然と拒否することをおすすめします。
会社がしつこく出勤を求めてくる場合は、弁護士に相談しましょう。
弁護士は労働基準法の根拠を示しながら、会社の不当な要求を拒否します。
有給休暇の日数がたくさん残っていて、予定している退職日までに有給休暇を消化しきれないこともあります。
退職の時点で有給休暇が残っていても、会社が任意に応じる場合を除き、その買い取りを請求することはできません。
有給休暇をすべて消化してから退職したいなら、退職日を後ろにずらすことを会社と交渉してみましょう。
転職先への入社日などとの関係で、退職日を後ろにずらすことが難しい場合は、残念ながら有給を諦めざるを得ないケースもあるでしょう。
労働者が有給を消化しきれない場合でも、会社が労働基準法に違反することはありません。
労働者が自分で決めた退職日を会社に伝えたにもかかわらず、会社が勝手に退職日を後ろ倒しにすることは原則として違法です。
正社員などの無期雇用労働者であれば、2週間以上前に会社へ申し入れれば退職できます。内容証明郵便などで退職届を会社に送付しましょう。
会社に届いた日から2週間が経過すると、その時点で退職したことになります。
会社から退職日の引き延ばしを受けて困っているときは、弁護士に相談しましょう。
弁護士は会社とのやり取りを代行し、適切に退職日や退職条件などを調整します。
退職前後の時期において、有給消化中の賃金や、未払いとなっていた残業代が支払われないトラブルも散見されます。
賃金未払いなどの問題を解決するためには、弁護士のサポートが役立ちます。
弁護士は会社との交渉を代行するほか、会社が支払いを拒否し続ける場合は裁判手続き(労働審判や訴訟など)も行います。
退職に関するトラブルに幅広く対応し、適切な解決へと導くことができるのが、弁護士です。退職や有給消化に関するトラブルは、早い段階で弁護士にご相談ください。
有給消化をしてから退職する場合は、早い段階から綿密なスケジューリングをすることが大切です。円満退職に向けて、余裕を持って行動を始めましょう。
ただし、退職に伴い、不当な引き止めや有給・残業代の未払いなど、会社とのトラブルが発生するケースもあります。退職トラブルが発生したら弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、退職サポートや未払い残業代請求などのご相談を随時受け付けております。まずはお気軽にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を