出張が多い仕事だと、「移動時間が労働時間に含まれるのだろうか?」と疑問に感じる方も多いでしょう。
移動時間は、実際に業務を行っている時間ではありませんが、使用者によって義務付けられ、使用者による拘束が認められる場合には、労働時間に該当し移動時間に対しても賃金が支払われる可能性があります。移動時間が労働時間に含まれるかどうかは、まず移動時間が労働時間に含まれるケース、含まれないケースを理解しておくとよいでしょう。
本コラムでは、移動時間が労働時間に含まれる・含まれないケース、移動時間が労働時間に含まれていない場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
移動時間が労働時間に含まれるかどうかを判断するには、労働基準法における労働時間の考え方を理解しておく必要があります。
労働基準法における労働時間とは、「使用者による指揮命令下に置かれている時間」と定義されています。
そのため、移動時間が労働時間に含まれるかどうかについても、「使用者による指揮命令下に置かれている時間であるかどうか」という観点から判断することになります。
そして、使用者による指揮命令下に置かれているというためには、使用者の明示または黙示の指示に基づいていることが要求されています。
したがって、契約上は移動時間を労働時間に含めないと定めていたとしても、使用者による指揮命令下に置かれた時間と評価できる場合には、会社に対して移動時間に相当する賃金を請求することができます。
このように、労働基準法における労働時間に該当するか否かの判断は客観的に定まり、労働契約、就業規則、労働協約等の定めによって左右されるものではありません。
労働基準法では、1日8時間・1週40時間を法定労働時間と定めており、これを超えて働かせるためには、労働者の代表者との間で36協定の締結および届出が必要としています。
労働者は、36協定の締結・届出により時間外労働が可能になりますが、無制限に残業を命じられるわけではありません。
時間外労働の上限は、休日労働を含まず月45時間・年360時間を原則とすると定められていますので、臨時的な特別の事情がなければ、上限を超えることはできません。
なお、臨時的な特別の事情がある場合でも、時間外労働の上限は以下のように定められています。
業務中に移動時間が発生するよくある例としては、以下が挙げられます。
では、どのような場合に業務における移動時間が労働時間に含まれるのでしょうか。
以下では、移動時間が労働時間に含まれる可能性の高い3つのケースを紹介します。
所定労働時間内の移動時間は、会社から何か連絡があれば対応することを強いられているまま移動をしていますので、使用者の指揮命令下に置かれている時間として、労働時間に含まれるといえます。
所定労働時間外であっても、移動中に会社からの指示で業務が発生する場合には、使用者の指揮命令下に置かれている時間と評価されますので、労働基準法上の労働時間にあたります。
例としては、以下のものが挙げられます。
通勤は、所定労働時間外の行動であり、通勤時間をどのように使うかは労働者の自由とされていますので、基本的には労働時間にはあたりません。
しかし、以下のような場合は労働時間にあたります。
移動時間が労働時間に含まれないケースとしては、以下の2つが挙げられます。
移動中の時間を労働者が自由に過ごすことができる場合には、使用者の指揮命令下に置かれているとはいえず、労働時間には含まれません。
移動時間中に会社からの指示があったとしても、すぐに対応しなくてもよいケースであれば、使用者の指揮命令下に置かれているとはいえないため、労働時間にはあたりません。
こういったケースでは、移動時間中に具体的な業務が発生するわけではありませんので労働時間には含まれません。
移動時間が労働時間にあたるにもかかわらず、それに対して賃金の支払いがない場合には、以下のような対処法を検討しましょう。
移動時間が労働時間に含まれるにもかかわらず、賃金が支払われていない場合は、違法な賃金不払いの状態です。
そのため、移動時間が労働時間に該当する場合、労働者は、移動時間に相当する賃金を会社に請求することができます。
また、移動時間が時間外労働に該当する場合には、25%以上の割増率により増額した割増賃金を請求することもできます。
営業職など移動時間の多い職種では、未払い賃金や残業代の金額も高額になりますので、しっかりと請求していくようにしましょう。
会社に対する未払い賃金の請求を自分ひとりで対応するのが不安だという場合には、次で述べるような相談先に相談しましょう。
労働組合とは、労働者の権利を守るために組織された労働者の団体です。
労働組合には、団体交渉権という非常に強い権利が認められていますので、未払い残業代の問題についても労働組合が会社と交渉をして解決してくれる可能性があります。
ただし、規模の小さい会社では労働組合がなかったり、労働組合があっても形骸化しているなど役に立たないこともありますので注意が必要です。
労働基準監督署とは、労働基準法などの法令を会社に遵守させるために指導・監督を行う機関です。移動時間を労働時間として扱わない場合、賃金未払いの状態となりますので労働基準法に違反します。
そのため、労働基準監督署に相談すれば、会社への調査を実施し、指導や是正勧告などにより違法状態の改善が期待できます。
ただし、労働基準監督署による指導・勧告には、強制力がありませんので、会社が従わない場合には十分な効果を発揮できません。
移動時間に相当する未払い賃金を請求するのであれば、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、労働者の代理人として会社と交渉を行うことができますので、一人で対応が不安なときでも安心して任せることができます。
また、会社との交渉が決裂すると、労働審判の申し立てや訴訟の提起が必要になりますが、それについても弁護士に任せることができます。
未払い賃金の請求は、弁護士へ依頼されるとよいでしょう。
弁護士に依頼するメリットについては、こちらで解説しています。
会社に対して、移動時間に相当する未払い賃金(残業代)を請求する際には、以下の点に注意が必要です。
未払い賃金には、時効があります。
時効期間が経過してしまうと、消滅時効が成立し、未払い賃金を請求する権利が失われてしまいます。そのため、未払い賃金を請求する場合には、時効期間が経過する前に対応しなければなりません。
具体的な時効期間は、未払い賃金が発生した時期に応じて以下のように決められています。
なお、時効の完成が迫っているという場合には、会社に対して残業代の請求をすることで時効の完成を6か月間猶予することができます。
その際には、残業代請求をしたという証拠を残すためにも、残業代請求は内容証明郵便を利用して行うようにしましょう。
移動時間に対する賃金を請求するためには、労働者の側で移動時間が労働時間に該当することなどを証拠により立証していかなければなりません。
証拠がなければ移動時間に相当する賃金を請求することはできませんので、会社に請求する前にしっかりと証拠を集める必要があります。
どのような証拠が必要になるかは、具体的な事案によって変わってきますので、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。
移動時間中に会社の業務が発生するなど使用者の指揮下に置かれている場合、移動時間は労働時間に含まれます。
ただし、移動時間中にすぐに対応しなくてよい業務が発生した場合や自由に使える時間がある場合は、労働時間には該当しません。
移動時間に相当する賃金の請求をお考えの方は、弁護士のアドバイスやサポートが必要になりますので、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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