定年後の再雇用時には、定年前よりも大幅に給与が減額される例がよく見られます。
ある程度の減額は受け入れざるを得ないものの、大幅な減額は違法となる可能性があります。
本記事では、定年後の再雇用による給与の大幅減額に納得できない場合の対処法について、まとめました。
定年後の再雇用時における給与減額の可否や判断基準、給与減額の違法性を主張する方法などを弁護士が解説します。
高年齢者雇用安定法では、各事業主に定年後の再雇用制度などの整備を義務付けています。
まず初めに、定年後の再雇用制度の概要を説明します。
事業主は60歳から64歳までの高年齢労働者について、以下のいずれかの「雇用確保措置」を講じなければなりません(高年齢者雇用安定法第9条)。
定年後の再雇用制度は、上記のうち②に該当します。
対象労働者が希望すれば、定年後も雇用契約を継続するというものです。
なお、同じ会社で再雇用するケースのほか、グループ会社において再雇用されるケースもあります。また、定年を境に雇用形態が変更されるケースも少なくありません(給与の減額、配置転換など)。
また、65歳から70歳までの高年齢労働者についても、事業主には「就業確保措置」を講じる努力義務が課されています。
就業確保措置として認められているのは、以下の通りです。
就業確保措置は努力義務なので、実際に導入している事業主は少数ですが、高年齢労働者に配慮して70歳までの再雇用制度を設けている企業もあります。
定年後の再雇用制度を利用することにより、高年齢労働者は以下のメリットを得られます。
その一方で、定年後の再雇用制度には、労働者にとって以下のようなデメリットもあります。
判断基準について、次の章から詳しく解説します。
定年退職後に再雇用された労働者については、合理的な理由があれば、定年退職時に比べて給与を減額してもよいと解されています。
その理由としては、以下の各点が挙げられます。
また、労働者の賃金については、団体交渉などによる労使自治に委ねられるべき部分が大きいと考えられています。
そのため、再雇用後の給与減額について労働者本人の同意を得た場合のほか、団体交渉などの経過が適切に給与制度へ反映されている場合にも、給与の減額は認められる可能性が高いです。
ただし、再雇用の前後で業務内容や配置転換の範囲などが大きく変わらないにもかかわらず、定年退職時に比べて給与を大幅に減額することは、違法の可能性が高いと考えられます。
再雇用後の労働者に対しても「同一労働同一賃金」が適用されるためです。
要するに、雇用形態にかかわらず同じ職務内容であれば、同額の賃金を労働者に支払うという制度になります。
待遇差が不合理であるかどうかは、業務内容や責任の程度、配置転換の範囲などに差があるか否かによって判断されます。
定年後に再雇用した事情も考慮することが認められますが(後述)、それだけの理由では、大幅な給与の減額が認められにくいです。
再雇用時における給与減額の可否が問題となった裁判例をご紹介します。
最高裁平成30年6月1日判決では、有期雇用の嘱託社員が定年後に再雇用された際、賃金の20%強が減額された事案が問題になりました。
最高裁は同一労働同一賃金の考え方を前提としつつ、有期雇用労働者と無期雇用労働者の労働条件の相違が不合理であるか否かを判断するに当たって、定年退職後に再雇用された者である事情を考慮してよいとしました。
その上で、個々の賃金項目について検討を行い、精勤手当と超勤手当(時間外手当)の一部を除いて、嘱託社員の請求を棄却した原審判決を支持しました。
同最高裁判決の判示を踏まえると、定年後の再雇用時においては、ある程度の賃金の減額は受け入れざるを得ないと考えられます。
参考:地位確認等請求事件(最高裁平成30年6月1日判決)
名古屋地裁令和2年10月28日判決では、自動車学校の正社員であった2人の従業員が定年後に再雇用された際、賃金が大幅に減額された事案が問題となりました。
再雇用後の基本給は、従業員のうち1人が定年退職時の40%台前半、もう1人が定年退職時の45%程度でした。
業務実績に連動する手当などの条件は改善されていましたが、それでも定年退職前と同等の業務を行った場合に受け取れる賃金額は、定年退職前の60%前後にとどまることになりました。
名古屋地裁は、前掲最高裁判決を引用しつつ、有期雇用労働者と無期雇用労働者の労働条件の相違が不合理であるか否かを判断する際には、定年退職後の再雇用者である事情を考慮できるとしました。
しかしながら、再雇用の前後で業務内容やその変更範囲には相違がなかったにもかかわらず、定年退職時と比較して大幅に賃金が減額された結果、若手正職員の基本給や同年代の賃金センサスを下回ることになった点を指摘しました。
さらに名古屋地裁は、会社と従業員の間で賃金の減額に関する合意があった事情や、その交渉過程が賃金制度に反映された事情が見受けられないこと、および基本給が労働の対償の中核に位置していることなどを指摘した上で、上記のような大幅な待遇差は不合理であると判断しました。
結論として名古屋地裁は、基本給について定年退職時の額の60%を支給すべき旨、および基本給の増額分を各種手当や賞与に反映すべき旨を判示し、会社に対して実際の支給額との差額の損害賠償を命じました。
同名古屋地裁判決を踏まえると、業務内容や配置転換の範囲が再雇用前後で大きく変わらない場合には、基本給の大幅な減額は違法と判断される可能性が高いと考えられます。
ただし、「再雇用後の基本給は定年退職時の60%以上」という明確な基準が存在するわけではありません。適法に減額できる賃金の額は、個別の事情に応じて具体的に判断されます。
参考:地位確認等請求事件(名古屋地裁令和2年10月28日判決)
定年後の再雇用時に給与が減額されたことについて納得できない場合は、以下の方法で給与減額の違法性を主張しましょう。
定年後の再雇用時に給与を減額されてしまい悩んでいる方は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、再雇用時の給与減額が不合理かどうかについて、法的な観点からアドバイスいたします。
また、会社に対して給与減額の違法性を主張するに当たり、弁護士が会社との交渉や労働審判・訴訟の手続きを代行いたします。
弁護士のサポートを受けることにより、不合理な給与減額が是正され、適正な水準の給与を受け取れるようになる可能性が高まります。
再雇用時の給与減額に納得できない方は、お早めに弁護士へご相談ください。
相談料・費用
同一労働同一賃金の相談料・費用については、こちらをご確認ください。
定年退職後の再雇用時における給与の減額は、ある程度の水準までは受け入れざるを得ませんが、大幅な減額は違法の可能性が高いです。
再雇用に伴う給与の減額に疑問を感じている方は、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士に依頼することで、同一労働同一賃金や各種法令、裁判例に基づき、会社に対して待遇差別の是正を求めることが可能です。
ベリーベスト法律事務所は、会社とのトラブルに関する労働者のご相談を随時受け付けておりますので、ご自身の待遇にお悩みの方はお気軽にご相談ください。
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