有期雇用労働者の雇用契約を更新せず、契約期間満了をもって終了させることを「雇い止め」といいます。
雇い止めは原則として適法ですが、雇い止め法理や無期転換ルールによって無効となることがあります。不当な雇い止めに遭ったと感じている場合は、対応について弁護士のアドバイスを受けましょう。
本記事では雇い止めについて、概要・無効となるケース・裁判例・不当な雇い止めに遭った場合の対処法などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「雇い止め」とは、有期労働契約(有期雇用契約)の期間満了に伴い、契約を更新せず終了させることをいいます。
雇い止めの対象となるのは、期間の定めがある労働契約を締結している労働者(=有期雇用労働者)です。たとえば契約社員などが雇い止めの対象となります。
雇い止めとは異なり、有期労働契約を雇用期間の途中で終了させることや、期間の定めがない労働契約を終了させることは「解雇」と呼ばれます。解雇は雇用継続に対する労働者の期待を裏切るものであるため、雇い止めよりも厳しい規制が設けられています。
また、派遣先が派遣労働者の受け入れを中止することは俗に「派遣切り」と呼ばれています。派遣労働者を雇用しているのは派遣元事業主なので、派遣先が行う派遣切りは、雇い止めと解雇のいずれにも当たりません。
使用者による雇い止めは原則として適法ですが、雇い止め法理に抵触する場合や、無期転換ルールが適用される場合には無効となります。
契約自由の原則によれば、契約期間が満了した後、同じ契約を更新するかどうかは原則として当事者の自由です。
有期労働契約についても、基本的には契約自由の原則が適用されます。期間満了時における有期労働契約の更新は、使用者と労働者の合意によって行うのが原則です。
したがって、使用者が契約の更新を拒否すれば(=雇い止め)、原則として有期労働契約は終了します。
しかし、有期労働契約が繰り返し更新されているなど、契約更新が確実であると労働者が期待するのが普通であるような状況もあり得ます。こうした状況では、労働者の期待を保護するため、雇い止めについても解雇に準じた規制を行うのが合理的です。
そこで、労働契約法 第19条では「雇い止め法理」を定めています。
雇い止め法理により、以下の要件をいずれも満たす場合は、有期労働契約が更新(再締結)されたものとみなされるため、雇い止めが無効となります。
上記(a)および(c)の要件を満たすかどうかについては、以下の要素などを総合的に考慮して判断されます。いずれかの要素のみによって適法・違法が判断されるのではなく、総合的な判断となる点にご留意ください。
さらに、有期雇用労働者の雇い止めについては「無期転換ルール」(労働契約法第18条)が適用されることもあります。
無期転換ルールは、以下の要件をいずれも満たしているうえで、労働者が使用者に対して無期労働契約の締結を申し込んだ場合に適用されます。
この場合、使用者は労働者からの申し込みを承諾したものとみなされ、有期労働契約が無期労働契約へ自動的に転換されるため、雇い止めは無効となります。
有期雇用労働者の雇い止めが無効と判断された裁判例を2つ紹介します。
約3年間派遣労働者として働き、その後有期労働契約を締結して3年間働いていた学校の嘱託職員が雇い止めに遭った事案です。
本件において、嘱託職員が締結する有期労働契約の期間は1年であり、過去2度にわたって更新されていました。
東京地裁は以下の理由を挙げたうえで、有期労働契約がなお数回にわたって継続されることに対する嘱託職員の合理的な期待利益を認定し、雇い止めを無効と判示しました。
本件が発生した時点では、労働契約法においてまだ雇い止め法理(平成24年8月10日に施行)が定められていなかったため、東京地裁は解雇権濫用の法理(労働契約法第16条)に従って判断を行いました。しかし、その判断の枠組みは現行の雇い止め法理にも通じています。
5年5か月にわたって勤務した有期雇用労働者が雇い止めに遭った事案です。労働者は雇い止め法理に基づく雇い止めの無効と、有期労働契約の無期転換を主張しました。
宇都宮地裁は、無期労働契約の締結申込権が発生するまでは、使用者には労働契約を更新しない自由が認められているから、無期労働契約の締結申込権の発生を回避するため更新を拒絶したとしても、それ自体は格別不合理ではないとしました。
しかしその一方で、以下の理由を挙げたうえで、労働者の雇用継続に対する期待は合理的な理由に基づくものであるとし、本件労働契約は労契法19条2号に該当するとして、雇い止めを無効と判示しました。
また、契約期間が5年を超えていたことから、有期労働契約の無期転換も認められました。
労働者が不当な雇い止めに遭ってしまったら、以下の対応を行いましょう。
雇い止めまたはその予告を受けた労働者は、使用者に対して雇い止めの理由に関する証明書の交付を請求できます(労働基準法第14条第2項、雇い止め基準※)。
※正式名称:有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準
反論の方針を検討するため、まずは雇い止め理由の証明書の交付を会社に対して請求しましょう。
雇い止めの無効を主張するためには、雇い止め法理や無期転換ルールの要件を満たすかどうかについて、法的な検討が必要不可欠です。
弁護士にご相談いただければ、どのような反論が効果的かについてアドバイスいたします。実際に会社と対峙(たいじ)する際にも、代理人として弁護士を伴えば安心です。
雇い止めの無効を主張するに当たっては、契約更新に関する期待を抱くことが合理的である事情を訴える必要があります。
具体的には、業務内容が恒常的・基幹的なものであることや、契約が反復的に更新されていたことなどの事情が労働者にとって有利に働きます。業務内容が分かる資料や、勤務期間・更新回数が分かる契約書などの証拠をできる限り確保しましょう。
雇い止めの無効については、まず会社との間で協議を試み、まとまらなければ労働審判・訴訟などの法的手続きを通じて争います。
いずれの手続きにおいても、法的な根拠に基づいて雇い止めの無効を主張することが大切です。弁護士にご依頼いただければ、協議・労働審判・訴訟の各手続きについて適切に対応いたします。
会社から雇い止めを受けた際には、速やかに弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士は、雇い止めが有効か無効かを検討したうえで、労働者としてとり得る対応についてアドバイスいたします。実際に会社と争う際には、弁護士が代理人として協議・労働審判・訴訟などの手続きを代行いたします。
本格的に雇い止めの有効性を争いたい方は、お早めに弁護士までご相談ください。
有期雇用労働者の雇い止めに対する規制は解雇よりも緩やかですが、雇い止め法理や無期転換ルールによって無効となることがあります。もし不当な雇い止めに遭ってしまったら、弁護士を代理人として争いましょう。
ベリーベスト法律事務所は、雇い止めに関する労働者のご相談を随時受け付けております。雇い止めの無効を主張して復職を目指したい方や、解決金の支払いを受けたい方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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