入院をして会社を休んでいたことを理由に、会社からクビにされることはあるのでしょうか。
入院には、業務上のケガや病気によって入院した場合と業務外の場合があり、入院を理由した解雇が不当だと判断されるケースがある一方、解雇が認められるケースもあります。
本稿では、入院を理由に不当解雇となるのはどのようなケースなのか、弁護士が説明します。あわせて、長期入院によりクビにされた場合の対応方法についても詳しく解説します。
労働者が入院して休んでいることを理由に、クビにすると告げ、会社が労働者を一方的に辞めさせることは、法律上認められているのでしょうか。
入院を理由とした解雇が違法だと判断されるケース、違法性がないとされるケースについて、それぞれ説明します。
「入院」と一口に言っても、なぜケガをしたのか、なぜ病気になったのかによって、事情は大きく変わります。
具体的には、仕事中の事故によるケガ、職場環境に起因する病気など「業務上の傷病による入院」の場合と、業務とは関係ない「私傷病による入院」の場合で違うということです。
業務とは関係ない「私傷病」の入院の場合、法律的な雇用保障がない
私傷病による入院では解雇される可能性があります。
私傷病については、法律的な雇用保障がないのです。私傷病の場合、会社には、療養のための休職制度などを設ける法律上の義務は課せられていません。
会社の独自制度や就業規則などで、規定されているケースもある
しかし会社によっては、私傷病の療養のための病気休暇制度や休業制度を独自に設け、就業規則などで規定しているケースがあります。
ただし、病気休暇や休業制度を設けている会社でも無期限で休職が可能になるわけではなく、休職可能期間の上限も就業規則などで定めているのが一般的です。
休職期間の上限を超えて休んでおり復職が見込めない場合は、解雇あるいは自然退職となるおそれがあります。
一方で、業務上の傷病に関しては、労働基準法19条で「解雇制限」が定められています。
労働基準法19条
使用者は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。
ただし、使用者が打切補償を支払う場合または天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない
つまり、業務上の傷病を治療するために休業している期間と休業後の30日間は原則、解雇が禁止されているということです。自然退職も同様です。
しかし例外として、「打切補償」を支払った場合、大地震などの大きな自然災害によって会社の事業の継続が不可能となった場合は、解雇が可能になるとされます。
打切補償とは
「打切補償」については、労働基準法81条に具体的な規定があります。
労働基準法81条
療養開始後3年を経過しても業務上の負傷または疾病が治らない場合、使用者は平均賃金の1200日分の打切補償を行い、その後は労基法の規定による補償を行わなくてもよい
という内容です。
まとめ
以上をまとめると、業務上の傷病で入院した場合、
ということです。
入院を理由に解雇されたケースで、退職金や失業保険の扱いがどうなるのかを解説します。
退職金制度は法律で決められた制度ではありません。退職金制度の有無、計算や支給の方法は会社によって異なります。
会社に退職金制度がある場合は、就業規則や退職金規定、雇用契約書などに具体的な支給条件が定められており、労働者はそれらの条件に基づいて退職金を請求することができます。
退職金は、「定年」「早期退職優遇」「自己都合」「会社都合」など、退職の理由によって額が異なり、「会社都合」の場合は積み増しになるのが一般的です。
入院を理由とした解雇が、「自己都合」として扱われるか、「会社都合」になるかなどは、それぞれ会社の就業規則や退職金規定で確認することが必要です。
解雇された場合、一定の条件を満たせば、雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)を受給することができます。
基本手当の受給資格は雇用保険法13条に定められています。
倒産や解雇、自然退職などで失業した場合は、離職の日以前の1年間(※3)に、被保険者期間が通算して6か月以上ある場合でも受給が可能となります。
さらに受給要件として、以下の点が求められます。
したがって、私傷病、業務上の傷病いずれの場合でも、入院していて働くことができない場合は、解雇されても雇用保険の基本手当を受給することはできません。
働くことが可能となってから、受給申請をする必要があります。受給期間には限度がありますので、必要に応じて、受給期間の延長をしましょう。
入院していて働くことができない場合は、私傷病のケースでは支給開始から1年6か月までは健康保険の傷病手当金を受給することが可能です。
退職後でも一定の要件を満たせば受給可能です。業務上の傷病では、労災保険から休業補償を受け取ることができ、退職後も支給されます。
労働契約法16条では、以下のように規定しています。
労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする
すなわち、客観的に合理的だと納得できて、社会常識に照らして妥当だと判断できる場合に限り、解雇が認められるということです。
会社が、私傷病での入院を理由に解雇する場合でも、一定期間の病気休暇を認め、配置転換を検討するなどした上で、「復職が不能」と判断することが合理的に納得できるようにすることが必要でしょう。
さらに、解雇することが客観的に合理的で、社会常識に照らして妥当だと認められるケースでも、会社には踏まなければならない手続きがあります。
それが「解雇予告」です。
「解雇予告」は労働基準法20条に定められています。
労働基準法20条
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
という内容です。
私傷病の場合、入院を理由に会社から解雇される可能性があるというのは、これまで説明した通りです。
会社は就業規則などで、「精神または身体の障害により業務に耐えられない」ことを解雇事由のひとつに定めれば、ケガや病気によって「業務に耐えられない」労働者を解雇することができるようになります。
一方で、「業務に耐えられない」ことが明らかではないにもかかわらず、解雇されてしまったようなケースでは、私傷病による入院でも解雇が不当とされる可能性もあります。
入院を理由にクビになり、不当解雇の可能性がある場合に、労働者ができることについて解説します。
解雇に客観的に合理的な理由がなく不当だと判断された場合、労働者は会社に対し、解雇の撤回を要求することができます。
解雇されたことによって働くことができなかった間の賃金や慰謝料の請求が可能になるケースもあります。
また、解雇に必要な「解雇予告」が行われていない場合は、解雇予告手当を請求することができます。
不当解雇かどうかを確認するためには、解雇の経緯や状況を把握することが必要となります。
解雇を告げられたならまず、解雇予告のルールにのっとって30日以上前に行われているか、解雇日を確認しましょう。
さらに会社に対し、「解雇理由の証明書」の発行を求めることが重要です。
労働基準法22条では、以下のように定められています。
労働基準法22条
労働者が退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
解雇の予告がされた日から退職までの間に、労働者が解雇の理由について証明書を請求したときは、使用者は遅滞なく、交付しなければならない
証明書に記載された解雇の理由が、「病気やケガによって業務に耐えられない」ことであれば、実際には「業務を続けられる」状態であると主張することによって、解雇撤回を求めることも可能となります。
「業務が続けられる」状態といっても、必ずしも休職前の仕事に戻れる必要はありません。病気休暇の延長、別な業務への配置転換など、会社側の対応によって業務を続けることが可能なケースであっても、「業務が続けられる」状態と判断されることもあります。
そうしたケースでは、会社に解雇を回避するために必要な配慮を求めましょう。
「業務を続けられる」と主張ための証拠を準備する
「業務を続けられる」と主張するためには、証拠が必要です。
証拠となり得るのは、これまでの勤怠記録、解雇を告げられたとき、または会社の担当者と話し合った際のメモや音声ファイル、病院の診断書などです。
入院を理由とした解雇通知を受けたらまず、弁護士まで相談することをおすすめします。
弁護士ならば、不当解雇に当たるかどうかの判断が可能です。不当解雇と判断される場合、解雇撤回や慰謝料請求などについてアドバイスをすることができますし、必要な証拠集めなども行うことができます。
特に入院中であれば、ひとりで必要な対応に当たることは困難でしょう。
労働問題の経験が豊富な弁護士に依頼すれば安心できることでしょう。
入院を理由にした解雇は、業務上の傷病か私傷病かによって、正当・不当の判断が変わります。私傷病の場合は解雇が正当とされる可能性もありますが、業務を続けられると主張することで、解雇撤回を求めることが可能な場合もあります。
病気による長期入院のために解雇を言い渡された場合は、本当に会社を辞めなければならないのか確認するためにも弁護士に相談することが重要です。
労働問題の経験が豊富なベリーベスト法律事務所までぜひ、ご相談ください。
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