近年、診療報酬改定による業績悪化などが影響して、薬剤師を取り巻く雇用環境に影が差しています。
勤務している薬局などから解雇を告げられ、不安になっている薬剤師の方もいらっしゃるでしょう。ただし、使用者(会社)が労働者(従業員)を解雇する際は、法律で定められた要件を満たしていなければなりません。要件を満たしていない解雇は、不当解雇とされるのです。
本コラムでは、薬剤師の方が解雇に納得できない際にどのような対応をすればよいのか、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
薬剤師の雇用環境悪化の要因は、診療報酬改定による業績悪化だけではなく、薬剤師数の増加も原因と考えられています。
薬学部の新設などにより薬剤師の数は年々増えており、厚生労働省の平成30年医師・歯科医師・薬剤師統計では薬剤師数が31万1289人に上りました。
同統計によると、薬剤師が従事している施設・業務別でもっとも多かったのは「薬局」の18万415人で、全体の58.0%を占めています。薬局の経営環境が厳しくなっているにも関わらず、多数の薬剤師が薬局業界に集中しているのが現状といえるのです。
また、厚生労働省の令和元年度衛生行政報告例によると、同年度末時点における全国の薬局数は6万171施設で、全国のコンビニエンスストア店舗数5万5924軒(JFAコンビニエンスストア統計調査 月報2020年12月度)より多く、競争が激しくなっていることも、経営環境悪化の一因と考えられます。
まずは自身が薬局等の使用者(※)と締結している契約の種類を確認しましょう。
※薬剤師であれば、勤務先の会社、雇用主が使用者にあたります。
業務委託契約であると言えれば労働法による保護を受けることが出来ませんが、使用者との契約形態が雇用契約であれば、労働基準法や労働契約法による保護を受けることが出来ます。
なお、契約書には「業務委託契約」等と書かれていても、実態が雇用契約と変わりないようでしたら、やはり労働基準法や労働契約法による保護を受けることが出来るので、迷ったら弁護士に相談すると良いでしょう。
解雇には、大別して、① 整理解雇、② 普通解雇、③ 懲戒解雇の3種類があります。
それぞれ解雇の正当性について判断するための要素がことなりますので、自身がなされた解雇がいずれの種類に該当するか確認しましょう。
まずは、整理解雇から解説します。
整理解雇は、使用者が経営不振に陥り、それを理由に労働者に解雇(一般的にいうリストラ)を告げたケースです。
しかし、使用者が経営不振を理由に労働者を解雇する場合であっても、条件を満たしていなければ不当解雇に該当する可能性があります。
経営不振を理由とした解雇は整理解雇にあたりますが、漠然と経営状態が悪いからというだけで労働者を解雇することはできません。
整理解雇が正当と認められるか否か、次の4つの要素を総合的に考慮して判断されます。
たとえば、役員報酬のカットや希望退職の募集等の措置を講じず、あるいは何等の説明もなく突然解雇を言い渡したような場合には、「解雇を回避するための措置を十分に講じていない」として、不当解雇とみなされる可能性があるのです。
労働者の業務態度が悪いことを理由に解雇された場合、これはもっとも一般的な形態の解雇であるとして、普通解雇と称されます。
このような解雇の場合、労働契約法16条は、
が必要と規定しています。
使用者が、労働者が上司の指示に従わないことを理由に当該労働者を解雇した場合、その解雇に客観的合理性があるか否かは、指示の内容、指示の理由、労働者が指示に従わないことによって社内の規律を乱したか、または経済的打撃を与えたか等、諸般の事情を考慮して判断されることになります。
労働者が使用者の指示に従わなかったとしても、それによって使用者に何らの悪影響も発生していなかった場合、解雇に客観的合理性があるとは評価され難いこととなります。
また、労働者が指示に従わなかったからと言って、即刻解雇を言い渡すことはできません。使用者は、労働者が使用者の指揮命令に従うよう指導したり、戒告や減給などの段階的な措置を講じず、解雇という究極的な処分を突然下した場合、当該解雇は、社会的相当性がないとして、違法となる可能性があります。
能力不足を原因として解雇を言い渡される方も多くいらっしゃるはずです。
能力不足を原因とする解雇に「客観的合理性」が認められるには、
など、厳しい要件を満たしていなければなりません。
例1:売り上げが低いことを理由に解雇された場合
薬剤師の場合、売上が低いことを理由に解雇されたとしても、薬品は処方箋が無ければ売り渡すことができず、また薬剤師の側から積極的に薬品を販売するべき業種ではないという性質上、解雇が合理性を有すると判断される可能性は低いでしょう。
例2:患者とのコミュニケーションに問題があるとして解雇された場合
また、薬剤師が、使用者から、患者と会話などのコミュニケーションを取れない等の理由によって解雇されたとしても、処方箋通りの医薬品を供給していた以上は、顧客である患者や使用者に経済的・身体的な悪影響を与えるものではありませんから、この場合も解雇理由に合理性があると判断される可能性は低いでしょう。
規律違反などを理由とした懲戒解雇も、不当解雇になる可能性があります。
まず、懲戒解雇が有効となるためには、解雇についての
が必要である他、
が必要となります(労働契約法15条)。
例:薬剤師試験の合格時期を詐称していた場合
例えば、薬剤師が学歴や国家試験合格時期を詐称していたなどの経歴詐称は懲戒事由になり得ますが、就業規則に経歴詐称を懲戒解雇事由とすると記載しているかは重要なポイントです。
また、解雇である以上、理由の客観的合理性は必須ですから、故意に経歴を詐称したのか、当該経歴詐称が重大なものと認められるかなども考慮されるべき事項となります。
勤務している薬局などから解雇を言い渡されたときに、薬剤師がとるべき適切な対応方法・流れは、以下の通りです。
解雇を言い渡されたら、まずは、勤務先に「解雇理由証明書」の発行を請求しましょう。
解雇理由証明書とは、文字どおり使用者などが労働者を解雇した場合の理由が記載されたものです。
労働基準法第22条では、解雇理由証明書の請求があったときには「遅滞なく交付しなければならない」と定めています。
そして、解雇理由証明書は、解雇されて会社から閉め出されてしまった後でも、解雇を予告されてから実際に解雇されるまでの間でも請求することができます。
また、同法は常時10人以上の労働者がいる使用者に就業規則の作成を義務付けており、就業規則にはどういった場合に労働者を解雇するのか、あらかじめ解雇の理由を記しておかなければなりません。
などの確認作業も必要になるため、就業規則や労働条件が分かる資料を事前に準備しておくとよいでしょう。
解雇について使用者と争う際、労働者が目指すべき結果は、①職場復帰、あるいは②金銭的解決の2択が主となります。
① 職場復帰を目指す場合
解雇の撤回と就労の意思を示す場合、原則職場復帰と解雇後の賃金支払いを求めて、交渉することになります。
解雇の撤回を求めると同時に就労の意思があることを示しましょう。
② 金銭的解決を目指す場合
交渉を進める中で、解雇された労働者が退職を認める代わりに使用者が一定のまとまった金員を支払うことで合意する、という形で金銭的解決を目指す場合があります。
当事者双方がこのような考えになるためです。
解雇を争っている期間の賃金も請求できる
また、あわせて解雇を争っている期間の賃金も請求できます。
民法第536条2項では、以下のように規定されています。
この条文によれば、不当な解雇は「債権者の責めに帰すべき事由」であり、不当解雇によって仕事ができなくなった期間の賃金は請求可能ということになります。
解雇の撤回と就労の意思、あわせて賃金請求も文書にして、使用者などに送付しておくとよいでしょう。
使用者などが不当解雇を認めない場合には、労働審判や訴訟(労働裁判)といった法的手続きに進むことも可能です。
労働審判では、通常の訴訟と比べて迅速に結論が決まります。
裁判官と労働問題の専門家からなる労働審判委員会の下で審理が行われ、原則的に、3回以内の期日で手続きが終了します。
また、労働審判委員会が当事者双方の出席のもとで事情聴取を行い、調停が成立するケースもあります。
労働審判は迅速に問題の解決を図る手続きですが、示された結論にどちらか一方が異議を申し立てると労働審判の効力は失われて、通常の訴訟に移行することになります。
薬剤師として勤務しながら解雇されたときには、弁護士に相談したほうがよい理由を解説します。
まず、使用者を相手に不当解雇をめぐって争う際、弁護士に依頼した場合、労働者に代わり使用者と交渉してくれます。
法律について深い知識をもつ弁護士が使用者と交渉することによって、解雇を撤回させられる可能性が高まります。
使用者などによる解雇が不当である場合には、慰謝料を請求できます。
また、解雇をされた場合には、残業代等の賃金が未払いとなっているケースも少なくありません。
弁護士は解雇の撤回を求めるだけでなく、代理人として未払い残業代を請求することも可能です。
といったような場合は、解雇・残業代請求、併せて弁護士に相談してみるとよいでしょう。
使用者による解雇が正当かどうかを判断するためには、当該解雇に客観的合理性や社会的相当性が存在するのかについて吟味しなければなりません。
この作業には、法律に関する深い知識と豊富な経験が欠かせないので、弁護士に任せたほうが安心です。
薬剤師の雇用環境は悪化しており、勤務している薬局などの経営状況によっては、解雇を言い渡されるおそれもあります。
ただし、労働者を解雇するには法律で要件が定められており、要件を満たしていなければ不当解雇に該当します。
薬剤師として勤務しながら解雇されて、お悩みを抱えている方は、労働問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にまで、お気軽にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を