令和2年度の個人による自己破産の新受事件数(裁判所の事件数のこと)は7万1678件で、平成27年度の6万3856件から8000件近く増加しました。令和元年度(平成31年度)の7万3095件からは減少していますが、5年間で水準が上がったといえます。
自己破産すると、ローンが組めなくなるなど一定の制約はありますが、会社をクビになるわけではありません。会社が自己破産したという理由だけで従業員をクビにすれば、不当解雇にあたる可能性があります。資格についても制限がかかるものはありますが、永久に制限がかかるわけではありません。
一方で、給与やボーナスなどは一部、差し押さえられる可能性があります。本記事では、どういう場合にどれほど差し押さえられるのか、自己破産は仕事にどういう影響を与えるのかといった点について、弁護士が解説します。
自己破産を理由に、会社をクビになることはあるのでしょうか。
自己破産したことだけを理由に、会社は従業員をクビにはできません。
会社による従業員の解雇が認められるのは
です。
この条件に該当しないと不当解雇になります。
自己破産は私的な問題であり、多くの場合、従業員が会社に対して負っている労務提供の義務とは無関係です。自己破産したからといって労務を提供できなくなるわけではありません。
労務を引き続き提供できるにもかかわらず、自己破産という理由だけで従業員をクビにするのは、客観的に合理的な理由を欠いているといえるでしょう。
もし、自己破産を理由として解雇を言い渡されたならば、それは不当解雇の可能性があります。
不当解雇の場合、解雇の撤回を求めたり、解決金、解雇予告手当や未払いの給与、残業代などを請求したりできます。解雇が不当かどうかは重要なポイントです。
就業規則で「自己破産したら解雇」と定められていた場合はどうなる?
常時10人以上の従業員を雇っている会社は、就業規則にあらかじめ解雇の理由を記しておかなければなりません。
仮に会社が就業規則に「自己破産した場合は解雇する」などと記載していても、就業規則そのものが無効である可能性があります。
ただし、自己破産を理由とした解雇が認められる例外的なケースもあります。
会社の経理など、お金に関する業務を担当していた場合、会社は従業員の配置転換が可能です。配置を換えようとしたにもかかわらず、転換先が見つからなかったときは、解雇が認められることもあるでしょう。
次に、自己破産が仕事に影響する可能性について説明します。
自己破産だけを理由に従業員をクビにできないのと同様に、会社は自己破産を直接の理由として異動や降格を命じることはできません。
ただし、経理などお金に関係する業務を担当している場合は、配置転換を命じられる可能性はあります。
また、法律上、破産者に行わせてはいけない業務もあるので、このような場合には、配置転換を命じられてしまいます。
破産手続き開始が決定されると、一定期間、資格制限を受ける可能性があります。
場合によっては、資格によって許可された仕事ができなくなるため注意が必要です。
資格の制限は、破産者としての状態が解かれる「復権」まで続きます。
業務に必要な登録が取り消された場合でも、復権後に、再度登録をすることで、資格に基づく仕事が再開できます(ただし、登録が取り消された場合には、一定期間、再登録できない資格も存在します。)。
復権には、以下の2パターンがあります。
自己破産をすると、財産が没収されてしまうというイメージがあるかもしれませんが、財産が没収されるのは、ある程度まとまった財産がある方等に限られます。
また、財産が没収されるとしても、財産の全てが没収されるわけではありません。
生活する上で不可欠な財産や、仕事に不可欠な道具などは没収の対象外とされています。
自己破産すると、給与や退職金に影響するのでしょうか。
自己破産が給与やボーナスに影響する可能性はあります。
破産手続き開始決定時点で支給されることが決まっている給与やボーナスがあれば、手取り額の4分の1が没収対象となり、4分の3が没収対象とならない「自由財産」として手元に残ります。
たとえば、1月19日に破産手続き開始が決定し、1月25日に支給される給与の手取り額が16万円だった場合、没収対象は4万円で、12万円が「自由財産」として残ります。
ただし、このように給与の金額が標準的な金額であれば、給与額の4分の1が没収されてしまうと、生活が困難になってしまいます。そのため、実際には、裁判所が給与の全額を自由財産として扱ってくれることが多いでしょう。
破産手続開始決定時に支給が決まっていない将来の給与やボーナスは自由財産です。
破産手続き開始決定前に支給されたボーナスは要注意!
注意が必要なのは破産手続き開始決定前に支給されたボーナスです。
自由財産として手元に残せる現金や預金には上限があります。
現金は99万円以下とされ、ボーナスの支給によって所持している現金が99万円を超えると、超えた分は没収対象になります。
預金については、多くの裁判所の取扱いでは、残高が20万円を超える場合には、没収の対象となります。
破産者が生活していく上で不可欠な財産と判断されれば自由財産として扱うことができる「自由財産拡張」という仕組みもありますが、拡張してもなお超える分については、没収されます。
退職金に関しても、一部没収の対象になる可能性があります。
東京地裁だと、破産手続き開始決定時点で間近に退職の予定がある場合は、退職金の4分の1、すぐに退職する予定がない場合は退職金支給見込み額の8分の1が没収の対象になります。
いずれのケースも、算出した結果が20万円以下であれば、没収されることはありません。
また、確定給付企業年金や確定拠出年金などは差し押さえが禁止されているため、没収の対象とはなりません。
自己破産をすると、一時的に制限を受ける資格や職業はあります。
弁護士や司法書士、宅地建物取引士、通関士など「士」がつく資格は一般に士業(しぎょう)と呼ばれていますが、自己破産すると一時的に資格制限が生じるものもあります。
宅建業法18条は「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」について、宅地建物取引士の登録を受けることができないと規定しています。このような規定を欠格条項といい、該当する場合には資格が失効します。
士業の中には、自己破産が欠格条項になっているものがあるため、注意が必要です。
もっとも、破産者としての地位が解かれる「復権」後であれば、改めて登録などを受ける必要があることもありますが、仕事を再開できます。
一部士業以外にも、貸金業務取扱主任者や生命保険募集人、証券外務員といった資格は、自己破産が欠格条項になっています。
既に登録等を受けている場合には、自己破産をすることで、登録等が取り消されてしまう可能性があり、仮に登録が取り消された場合には、その業務を継続することができません。
また、警備員や古物営業所の管理者、質屋の管理者、風俗営業所の管理者など、使用者が、復権を得ていない破産者に行わせてはいけない業務もあります。
会社役員については、士業のように欠格条項があるわけではありません。
しかし、民法653条は破産手続きの開始決定を受けると、委任が終了すると規定しています。
会社役員は従業員が結ぶ雇用契約とは異なり、会社と委任契約を結んでいます。委任契約が自己破産により終了すれば、その地位を失うことになります。
取締役を継続するためには、株主総会で改めて取締役選任決議を行う必要があります。
商工会議所の会員についても、自己破産が欠格事由とされています。
その他の一部団体企業でも、破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者について会員資格を失う規定を定めていることがあります。
そうした団体企業で役員に就いている場合、会員資格を失うと役員も退くことになります。
どちらも対応が可能です。
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