新型コロナウイルスの感染拡大により、バスやタクシーなどの運転手は深刻な影響を受けています。国土交通省によると、観光客の減少や外出自粛などで、タクシー事業者の多くが、運送収入が令和元年比で3割以上減少している状態が続いています。また、バス業界も厳しい現状に直面しており、貸し切りバスを運行する事業者の多くが、コロナ禍で70%以上の収入減を経験しています。
こうした苦境の中で、事業者が運転手を解雇する事例が相次いでいます。人員削減を目的とした従業員の解雇は、一定の要件を満たしていなければ認められませんが、そうした解雇の中には要件を満たしていない不当解雇も少なくありません。
ですが不当解雇であった場合、解雇の撤回を求めたり、未払いの賃金を請求などの対応が可能です。本コラムでは、不当解雇された場合にどう対応すればよいかを弁護士が解説します。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、運転手を取り巻く雇用の現状は厳しさを増しています。
令和3年7月6日、福岡県糟屋郡志免町にあったタクシー会社の元運転手17人が、新型コロナによる業績悪化を理由とした整理解雇は無効だとして、会社を相手取り、賃金の支払いなどを求めて福岡地裁に提訴しました。
会社は令和2年4月22日に全従業員に対して翌月31日まで休業することを通告し、営業を再開しないまま同年5月下旬に6月30日付の全員解雇を言い渡したということです。
原告の運転手らは、以下の通り主張しています。
この主張が認められれば、整理解雇の要件がそろっていないことになるため、裁判官が「解雇は不当」と判断する可能性があります。
なお、令和2年8月21日には、宮城県内にあるタクシー会社の解雇をめぐる仮処分で、仙台地裁が、解雇された運転手の主張を認め、休業手当の一部を支払うよう命じる決定をしています。この事例でも、雇用調整助成金を活用しなかったことが問題視されていました。
令和3年3月9日には、福岡県にある観光バス会社の解雇をめぐる仮処分で、福岡地裁が解雇された男性運転手の主張を認めて、バス会社に対し、未払い賃金月約18万5000円を支払うよう命じる決定をしました。
会社は貸し切り観光バス事業を営んでいましたが、新型コロナのあおりを受けて令和2年5月には売り上げがゼロになっていました。
男性運転手が解雇されたのは令和2年3月で、福岡地裁は以下の通り、解雇は無効と判断しました。
運転手の解雇において、どのようなケースが不当解雇にあたるかを解説します。
会社は経営を維持するため、一定の要件を満たした場合には、人員を削減する整理解雇ができます。
整理解雇を行うためには、4つの要件がそろっていなければなりません。
① 人員削減の必要性
1点目は、人員削減の必要性があるかどうかです。
整理解雇を実施するには、累積赤字があるなど、会社が厳しい状態に陥っていなければなりません。
② 解雇を回避するための措置を取ったか
2点目は、解雇を回避するための措置を取ったかどうかです。
人員削減は会社にとって最後の手段といえ、経営陣の報酬カットや新規求人の停止など、整理解雇の前に十分な対策を講じたかがポイントです。
③ 解雇対象者は公平に選ばれたか
3点目は、解雇対象者が公平に選ばれたかどうかです。
労働組合の活動をさかんに行っていたことなどを挙げて、会社が対象者を恣意(しい)的に選ぶのは認められていません。
④ 手続きの妥当性
4点目は、解雇手続きが妥当かどうかです。
会社の経営状況や整理解雇の必要性、時期などを労働組合や従業員に適切に説明したかも、欠かせない要素です。
これら4点を満たしていない整理解雇は不当解雇にあたる可能性があります。
ノルマを達成できなかったことなど、単に能力不足を理由に従業員を解雇した場合も、不当解雇にあたる可能性があります。
会社は、従業員の能力が不足しているときは、指導や研修などを通じて能力の向上を図る必要があります。手だてを尽くさずに能力不足という理由だけで従業員を解雇するのは不当解雇の可能性があります。
入院や妊娠期間中に従業員を解雇するのも、不当解雇の可能性があります。
労働基準法第19条は、従業員が業務上のけがや病気で療養が必要になった場合、療養期間とその後30日間は「解雇してはならない」と規定しています。
また、出産前後の女性が休業している間とその後30日間についても「解雇してはならない」と定めており、こうした期間に従業員を解雇すれば、不当解雇です。
勤務態度が悪いことを理由に従業員を突然解雇するのも、不当解雇にあたる可能性があります。
仮に、従業員が遅刻や欠勤を繰り返していても、会社が改善するよう働きかけていなければ、突然の解雇は不当とみなされるでしょう。
解雇を言い渡され、それを不当と感じたときは、どう対応すればいいのでしょうか。
会社と直接交渉し、解雇の撤回を求めることができます。会社が交渉に応じない場合は、労働組合に相談するのもひとつの手段といえるでしょう。
会社は原則、労働組合の団体交渉を拒否できません。
ただし、団体交渉したからといって、会社が解雇を撤回する保証はない点に注意が必要です。
会社の解雇が不当である場合、さかのぼって賃金を請求することができます。
もし不当解雇がなければ、継続して就労していた期間があるはずです。その期間に働いて得られたであろう給料は、請求の対象になります。
不当な解雇を言い渡した会社に戻る意思がない場合には、金銭的解決を目指すことになります。
会社がどうしても応じない場合は、解雇の撤回や賃金の支払いを求めて、裁判に打って出る方法があります。
個人の労働に関するトラブルについては、通常の訴訟とは異なる労働審判を利用できます。
示された結論に当事者のどちらかが異議を申し立てると、労働審判の効力が失われ、通常の訴訟に移行します。
整理解雇に4つの要件があったように、解雇が不当かどうかを判断するには、さまざまな状況を考慮しなければなりません。
会社と解雇の違法性をめぐって争っても、会社の言い分が正当であれば、費やした時間は水泡に帰してしまいます。
早めに弁護士に相談し、解雇が不当かどうかを適切に判断した上で、交渉に移った方がよいでしょう。
また、弁護士が会社と交渉することになれば、会社は裁判沙汰への発展を意識するかもしれません。
不当解雇をめぐって裁判となれば、ニュースとして報じられる可能性があり、会社にとっては社会的な信用にかかわる事態です。裁判になることは避けたいという心理がはたらけば、交渉がスムーズに進み、話し合いだけで解決できるかもしれません。
会社との交渉から労働審判や訴訟に至るまで、一連の手続きは弁護士に一任できます。
状況によっては、交渉よりも法的手続きに移行した方が解決を早められる場合もあるので、一貫して弁護士に対応してもらうのも選択肢といえます。
新型コロナの感染拡大で解雇が相次ぐなど、タクシー・バスなどの運転手を取り巻く雇用環境は厳しくなっています。
しかし、会社は単に経営が悪化したという理由だけで従業員を解雇できません。
整理解雇には4つの要件があり、その4つを総合的に判断して無効かどうかが判断されます。
不当解雇の場合は、会社に対して解雇の撤回を求められるだけでなく、解雇後に生じたはずの賃金も請求できます。
会社が解雇の撤回や賃金支払いの要求に応じない場合には、通常の訴訟よりも早く結論が得られる「労働審判」も利用できるので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
突然の解雇など、雇用に関して困っていることがあれば、ベリーベスト法律事務所へお気軽にご相談ください。
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