新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の要請や入国制限措置で、観光・宿泊業は深刻な影響を受けています。
観光庁がまとめた令和3年版「観光白書」によれば、宿泊予約は令和3年1月~6月までの期間、約5割の施設が令和元年度同月比で50%以上の減少となっているのです。今後も、厳しい状況が続くことが予想されます。
この状況は、観光業や宿泊業ではたらく労働者にも影響を与えており、多くの従業員が新型コロナを理由に解雇されています。いわゆる「コロナ解雇」ですが、解雇されてしまった方々は、生活に関する不安を抱えていることでしょう。
本コラムでは、新型コロナを理由に解雇された方が活用できる、経済的な支援制度を紹介いたします。また、労働者が解雇されたときに実施できる対応についても解説します。
厚生労働省は、労働局やハローワークに寄せられた相談・報告をもとに、解雇・雇い止めなどの予定がある労働者(解雇等見込み労働者数)のタイムリーな動向を集計しています。
令和3年10月15日分の集計結果によると、宿泊業の解雇等見込み労働者数の累積数は1万3440人と、累積数の大きな上位10業種のなかでも4番目に多い人数となっているのです。
また、観光庁が発表している令和3年版「観光白書」によれば、宿泊業界ではたらく人は平成31年と令和元年の月平均が約62万人だったところ、令和2年の月平均は約55万人となり、約11%も減少しています。
また、正規雇用者の減少数は約6%だったのに対し、非正規雇用者の減少数は約14%となっています。非正規雇用者は、コロナによる影響をより強く受けているのです。
これらのデータをふまえると、宿泊業における新型コロナの影響は非常に大きく、ほかの業種と比べても深刻であると考えられるでしょう。
新型コロナウイルス感染症を理由に解雇されてしまった労働者は、収入が途絶えることにより、経済的に困窮するおそれがあります。
そのような労働者の救済にむけて、日本には複数の経済的な支援制度が用意されています。生活の維持や立て直しをするために、制度の概要は知っておくべきでしょう。
以下では、令和3年8月現在の情報をもとに、支援制度について紹介します。
なお、以下で紹介する支援制度(1)(2)の申請期間は令和3年11月末日までとなっています。
もっとも、申請期間が延長になる可能性もありますので、申請を希望される際には、受付可能な期間か事前に確認しましょう。
まず、新型コロナの影響による休業や失業により生活費が不足した場合に利用できる特例貸付制度を紹介します。
① 緊急小口資金
主に休業した方を対象として、緊急かつ一時的に生計の維持が困難になった場合に、以下の貸付がおこなわれます。
② 総合支援資金
主に失業した方・世帯を対象として、生活に困窮し、日常生活の維持が困難な場合に原則3か月以内の貸付がおこなわれます。
いずれも保証人は不要であり、無利子で利用できます。貸付金なので償還する必要がありますが、償還時においてもなお所得の減少が続く住民税非課税世帯については償還が免除されます。
なお、上記の特例貸付を利用できず、かつ世帯の収入・資産状況、求職活動状況などの要件が一定の基準を満たす場合には、以下の支援金を利用できます。
③ 新型コロナウイルス感染症生活困窮者自立支援金
支給期間は原則3か月で、支援金が支給されます。
離職・廃業から2年以内、または休業などにより収入が減少し、離職などと同程度の状況にある世帯に対して、一定期間、家賃相当額が支給される制度です。
受給にあたり収入・資産・求職活動状況などの要件を満たす必要があります。
支給期間は原則3か月です。
支給額は、単身世帯の人数やお住まいの市区町村によって異なります。
たとえば東京都特別区の場合は単身世帯が5万3700円、2人世帯が6万4000円、3人世帯が6万9800円となります。
新型コロナの影響により収入が減少し、国民年金保険料の納付が困難となった場合には、保険料の免除や猶予が受けられます。
そのほか、国民健康保険や後期高齢者医療制度、介護保険の保険料の納付が困難となった場合にも、保険料の猶予・減免や分割払いなどが認められる場合があるのです。
解雇を言い渡された後、不利な状況に陥るのを避けるために従業員ができることについて、解説します。
解雇を受け入れる意思がない場合や、「解雇が不当ではないか」と疑問を抱いている場合は、まずは会社に対して、「解雇に納得できない」という旨を明確に伝えることが大切です。
たとえば、解雇予告手当や退職金は、解雇が成立したことを前提にして受け取れるものです。これらの金銭を請求する行為は「解雇を受け入れた」とみなされるため、後から解雇無効を主張することが難しくなってしまいます。
また、解雇後に何ら意思表示をしなかった場合にも、就労意思がなかったとして解雇後の賃金を請求できなくなるおそれがあります。
このような不利益を回避するために、「解雇を受け入れない」という旨の意思表示は明確におこなうようにしましょう。
解雇には、普通解雇や懲戒解雇などの種類があります。
新型コロナウイルス感染拡大による業績悪化を理由にした解雇は、使用者の経営上の理由による解雇といえるため、一般的に「整理解雇」にあたります。
整理解雇は、「業績が悪化していること」だけを理由に認められるものではありません。
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、権利の濫用にあたるとして無効になるのです(労働契約法第16条)。
また、整理解雇については、以下の4つの要件を考慮して有効性が判断されます。
解雇の4要件を満たさず一方的になされた解雇は違法とみなされる可能性が高いでしょう。この場合には、解雇の撤回要求や就労できなかった期間の賃金を請求することができます。
解雇を受け入れる場合は、離職票などの必要書類を持ってハローワークで基本手当(いわゆる失業手当)を申請することで、当面の生活費をカバーできます。
離職票に書かれた離職理由が解雇・倒産などの会社都合である場合には、自己都合(正当な理由がある場合は除く)の場合と比べて、基本手当が支給される日数や支給開始日が有利になります。
しかし、会社都合の解雇であるにもかかわらず離職理由が自己都合になっていることも多々あります。
この場合、そのままでは有利な措置が受けられなくなってしまいますので、ただちに会社に対して離職理由の訂正を求めましょう。
もし会社が訂正に応じない場合でも、ハローワークに相談して解雇の事実を証明すれば、訂正される可能性があります。
なお、離職理由が解雇だと「転職活動が不利になるかもしれない」と不安になるかもしれませんが、新型コロナの影響による解雇のように本人に責任のない理由であれば、基本的には転職で不利になることはありません。
それよりも、正しい離職理由をもとに申請をおこなうことのほうが重要です。
新型コロナウイルス感染症を理由に解雇された場合には、不利益をできるだけ回避するために、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
労働局の特別労働相談窓口や労基署など行政への相談をおこなうこともできますが、弁護士に相談したほうが、早期かつ個人の実情に対応した方法でトラブルを解決しやすくなります。
不当解雇にあたるかどうかは、法律の問題です。
とくに新型コロナを理由にした解雇は、会社側の主張にも一定の合理性があるケースもあるため、難しい判断が必要となります。
弁護士に相談すれば、「解雇の無効を主張できる状況なのか」などについて、アドバイスを受けることができます。
弁護士が代理人として会社と交渉することで、会社側が解雇を撤回するなど態度を軟化させる可能性もあります。裁判にまで発展した場合でも、弁護士であれば的確に主張・立証することができるでしょう。
とくに不当解雇を主張して解雇の無効を争いたい、解雇された後の未払い賃金を請求したいなどの希望がある場合には、早めの対応が大切です。
解雇から間もない時期であれば解雇の証拠も集めやすく、ご自身に有利な展開となる可能性を高められます。
解雇を言い渡されそうになった、あるいは解雇を言い渡された際には、早急に弁護士に相談しましょう。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、観光・宿泊業は深刻なダメージを受けています。雇用に対する影響も大きく、業績悪化を理由に解雇されるケースも少なくありません。
しかし、なかには正当とはいえない解雇も存在するため、弁護士に相談のうえご自身の状況を冷静に判断することが大切です。
新型コロナを理由とした解雇に納得できない場合は、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
労働問題の解決実績が豊富な弁護士が、問題解決にむけて全力でサポートします。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を