新型コロナウイルスの感染拡大はさまざまな産業に大きな影響を及ぼしています。中でも、販売・サービス業の雇用環境は深刻です。
もし、解雇を言い渡されたとしても、その措置は不当かもしれません。不当解雇であれば、撤回を求めたり働けなかった期間の賃金を請求したりすることができます。
本コラムでは、販売・サービス業で働く人が解雇された場合に、不利益を被らないようにするための対応について解説します。
厚生労働省は、新型コロナウイルスが雇用に与えている影響を把握するため、令和2年5月から1週間おきに、休業や解雇に関する情報をとりまとめ、公表しています。
令和3年8月13日時点の集計によると、新型コロナを理由とした解雇・雇い止め予定の労働者(一部すでに解雇・雇い止めされた人を含む)のうち、小売業関係者の累計は1万5339人で、製造業に次いで2番目の多さでした。
販売・サービス業界は、新型コロナの影響を大きく受けている業界といえるでしょう。
なお、総務省の日本標準産業分類によると、小売業には百貨店やスーパーなどの販売業や、ガソリンスタンドなど一般に接客業と考えられている一部サービス業も含まれます。
もし、解雇を言い渡された場合に、まず何をするべきなのでしょうか。
まずは、すぐに解雇の理由を確認しましょう。
労働基準法22条は、労働者が解雇の理由を記載した証明書を請求すれば、使用者は「遅滞なく交付しなければならない」と規定しており、この証明書は解雇理由証明書と呼ばれています。
この解雇理由証明書に記載されている解雇理由に心当たりがあるかどうか、また納得がいくかどうか、確認しましょう。
注意したい点は、解雇理由証明書に記載された理由が明確かどうかです。
常時10人以上の労働者を使用する会社は、就業規則を作成することが義務付けられています。
そして、就業規則にはどういった場合に会社が労働者を解雇できるかなど、あらかじめ解雇の理由を記しておかなければなりません。
また、行政解釈においても、
とされており、解雇理由証明書において明確な解雇理由を示すことが求められています(平成11年1月29日基発第45号)。
証明書に記載されている解雇理由となる事実が
を十分確認する必要があります。
確認し、不当解雇だと思った場合には、解雇の撤回や、未払いの賃金や残業代の請求など、ご自身の利益を守るための行動を起こしましょう。
解雇は大きく、3つに分類できます。
いずれの解雇であっても、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、不当解雇に当たります(労働契約法16条)。
会社によっては、例えば懲戒解雇の場合に、懲戒委員会の開催や弁明機会の提供など、労働者を解雇する上で必要な手続きを定めていることもあります。
定められた手順を踏んでいない場合には、当該解雇が無効になり得るでしょう。
それでは、販売・サービス業ではどのような不当解雇が考えられるのでしょうか?
コロナ禍で売り上げが低下している販売業・サービス業の現状を踏まえると、経営不振を理由とした「整理解雇」が行われている可能性があります。
しかし、会社側が整理解雇を実施するには、過去の判例等において以下の4つの要件を満たす必要があるとされており、ひとつでも欠いていると正当な解雇とはいえなくなると解されています。
商品の販売ノルマを達成できなかったなど、能力不足を理由に解雇されることも想定されます。
しかし、会社は単に成績が悪いという理由だけでは解雇できません。
当該労働者に対し教育や指導を行うなど十分な対策を実施した上で、それでも状況が改善されず、将来にわたってその状態が継続すると判断できるような場合に、解雇の合理的理由として認められるにすぎないのです。
販売ノルマが未達だったとしても、会社が適切な指導を怠った場合や販売ノルマそのものが過大だった場合などは、不当解雇に当たる可能性があることに留意しましょう。
会社の業績が下がっているからという理由で、急に「明日から来なくていい」などと言われる場合もあるかもしれません。
このケースでも、解雇されても仕方ないとあきらめる必要はありません。
労働基準法20条1項は会社が労働者を解雇する際、「少なくとも30日前に予告をしなければならない」と定めています。
また、30日前の予告をしない場合は、労働者に対して30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければいけません。
仮に予告したとしても、その期間が30日に満たないのであれば、不足する日数分の解雇予告手当が必要です(同2項)。
新型コロナに関しては、経営上の理由以外にも、店頭で仕事をしていたところ新型コロナにかかってしまい、入院したことなどを理由に解雇されるケースがあるかもしれません。
しかし、病気が業務に起因する場合は、療養のために休業する期間およびその後30日間の解雇が禁止されています(労働基準法19条)。
業務外の時間に感染してしまった場合でも、正当な解雇であるか判断が必要
また、業務外の時間に感染してしまった場合であっても、それを理由とした解雇には客観的・合理的な理由があるか否かは十分に検討される必要があり、正当な解雇か疑う余地は十分にあります。
それでは、会社から解雇を通知され、不当だと感じた場合に何ができるのでしょうか?
① 退職したくない場合
不当解雇に対しては、解雇撤回をするよう、会社と争うことができます。
直接会社と交渉する以外にも、裁判所の手続きである、労働審判を利用することも可能です。
なお、審判をしても折り合いがつかない場合には、裁判に移行します。
② 退職してもよい場合
また、会社が解雇の撤回に応じたとしても、復職したくない人もいらっしゃるかもしれません。
そうした場合には、会社側と合意できれば一定の解決金が支払われる可能性があります。
第3章でも述べましたが、解雇を予告された日から実際の解雇日までの日数も忘れず確認しましょう。予告がない、あるいはその期間が30日に満たないのであれば、解雇予告手当が支払われなければなりません。
会社が解雇予告手当を支払っていないとしたら、請求すれば受け取れる可能性が十分にあります。
注意! 解雇の撤回を求めるなら、解雇予告手当は請求しない
ただし、会社側と解雇の撤回をめぐって争っている際に解雇予告手当を請求すると、解雇を認めたと受け取られかねません。
あくまで解雇の撤回にこだわるなら、その間は解雇予告手当を請求しないことにも注意が必要です。
未払いの給与や残業代があるなら、それもあわせて会社に請求しましょう。
時効になる前に早めに請求しよう
未払い給与や残業代の請求には時効があります。
の経過で時効となり、請求ができなくなってしまいます。
請求するには、残業代があったことを証明できる証拠集めや、残業代の計算、会社への請求手続きなどが必要ですが、時効も考慮しながらスピーディーに進めることが大切です。
販売業・サービス業は新型コロナウイルスの影響を大きく受け、解雇や雇い止めが増加傾向にあるといえます。
ただし、労働者の解雇にはさまざまな要件が企業に課せられており、こうした要件を満たさない解雇は不当です。
もし、解雇が不当であれば、撤回を求めたり働けなかった期間の賃金を請求したりすることができます。
会社が応じなければ労働審判など裁判所の手続きを利用する選択肢もありますが、いずれにせよ、法に関する多様な知識や経験が必要です。
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