長引く新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の社会経済活動に大きなダメージを与えています。新型コロナに起因した解雇・雇止めは10万件以上に上っており、中でも製造業の解雇・雇止め問題は深刻な状況です。
しかし、新型コロナを理由にした解雇・雇止めも、会社がルールにのっとって行っていなければ不当だとして認められない可能性があります。
本コラムでは、新型コロナで解雇・雇止めにあった、または解雇・雇止めされそうな場合に労働者ができることについて、弁護士が解説します。
まずは、現在日本で問題になっている「コロナ解雇」の状況について見ていきます。
厚生労働省は、新型コロナにより業績が悪化した企業の解雇、雇止めの状況について調査を行い、調査結果を逐次、公表しています。
その調査によれば、感染拡大が始まってから令和3年5月14日時点までに、新型コロナに起因した解雇や雇止めで仕事を失った人の累計は、見込み数も含めて10万3593人に上るようです。
この人数はハローワークなどで把握できた範囲の数なので、新型コロナによる失業者がすべて含まれているとは限りません。また、集計には、すでに再就職した人が含まれている可能性もあります。
とはいえ調査結果からは、新型コロナが雇用に及ぼしている影響の大きさがよく分かります。
なお、この失業者のうち、パート・アルバイト、派遣社員、契約社員などの非正規雇用労働者の人数は、令和2年5月25日から令和3年5月14日時点までで累計4万8227人に上りました。非正規雇用労働者への影響も深刻であることがわかります。
新型コロナに起因する解雇、雇止めで失業した労働者数を業種別にみると、もっとも多いのが製造業で2万3068人、続いて小売業が1万3746人、飲食業が1万2681人などとなっており、製造業への影響の深刻さがうかがえます。
たとえば国内主要製造業である自動車産業では、新型コロナの感染が拡大しはじめた頃から生産調整が本格化し、国内の自動車生産台数は感染拡大前の4割程度まで落ち込んだようです。
その影響は部品メーカーなどの中小製造業の企業にも及んだものとみられ、大規模な解雇、雇止めにつながったものと考えられます。
新型コロナウイルスを理由とした解雇・雇止めも、企業が以下のルールにのっとって行っていなければ、不当とみなされる可能性があります。
労働契約法16条は、
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
と定めています。
企業による労働者の解雇には、普通解雇、懲戒解雇等いくつかの種類がありますが、コロナ禍による業績悪化を理由とする解雇は、人員削減を目的とするものであり整理解雇と呼ばれるものです。
企業が労働者を適法に解雇するためには、客観的に合理的な理由があり、社会常識に照らして相当だと認められることが必要です。
加えて整理解雇の場合には後述するように「人員削減の実施が十分な必要性に基づいている」「解雇を回避するための努力をした」などの要件も満たしていなければなりません。
客観的で合理的な理由がない、あるいは会社が解雇回避のための努力をしておらず、そのため解雇が社会的相当性を欠くと判断されるケースは不当解雇にあたる可能性があります。
労働契約法17条では、期間の定めのある労働契約について、
やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない
と定めています。
本条文の趣旨は、使用者に対し、当該期間は労働力の確保を保証し、他方、労働者に対して契約期間中は雇用が確保される利益を付与することにあります。
当該趣旨から契約期間中は労使共に「やむをえない事由」がなければ契約を解除できません。
この要件の判断は、労働契約法16条の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」という要件よりも厳格に判断されます。
したがって企業は、特別な理由がない限り、契約期間中に労働者を解雇することはできません。
期間の定めがある契約の場合、当該契約は期間が満了すれば終了となるのが原則です。
このように契約期間満了により契約が終了し、労働者の雇用契約上の地位が消滅することを「雇止め」と呼びます。
企業が労働者に対して雇止めを行った場合、労働者は解雇された場合と同様の立場に立たされることになります。
そこで労働契約法19条は、労働者の雇用を保護するため雇止めに対して解雇する場合と同様の要件を要求する場合があることを定めています。
まず同法の条文を示します。
第十九条
柱書
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
1号
当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
2号
当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
条文は、柱書と1号、2号で構成されていますが、まず柱書の内容について説明します。
新型コロナウイルスの感染拡大を理由とした解雇や雇止めに正当性があるかどうかを判断する際のポイントを解説します。
正社員などの整理解雇は、次の4要件を満たしているかどうかがポイントです。
すべての要件を満たさない解雇は不当だとして撤回を要求できる可能性があります。
労働契約法19条(雇止め法理)が適用される非正規雇用労働者については、正社員などと同じ4要件に準じた基準によって、その雇止めに客観的・合理的な理由があるかどうかが判断されます。
また、厚生労働省は、期間の定めがある労働契約について、労使間の紛争防止のため、労働基準法14条2項に基づき「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」を定めています。
この基準では、
などと定めています。
当該基準は、労働基準法14条2項に基づくものであり、法律上労働者に対して明示することが求められているので、単なる行政上の指針ではなく法的効力を有します(労働基準法15条1項 同法施行規則5条1項1号の2参照)。
したがって当該基準に反して有期労働契約の労働者の雇止めが行われた場合には、雇止めの違法性を主張できます。
たとえば契約社員として長く同じ会社で働いていて雇止めにあった場合、
といったことがあれば、雇止めが違法であるとして争える可能性があります。
雇止めの理由に納得できなかった場合は、受け入れる前に一度、弁護士までご相談ください。
解雇は、会社が一方的に労働契約を終了させることをいい、労働者の意思とは関係なく進められます。
これに対し、会社が労働者に自ら退職するよう促す「退職勧奨」は、労働者が同意して初めて退職となります。
退職勧奨に応じて退職届を提出してしまうと、撤回するのは難しくなります。
会社から退職勧奨を受けても、条件などに納得していないなら退職に同意すべきではありません。
会社から「この仕事に向いていないから辞めたほうがよいんじゃないか」と言われ続けたり、到底達成できないようなノルマが課せられたり、まったく仕事が与えられないといったような退職勧奨があったとしても、その職場で働きたいと思うようでしたら、退職には同意せず、弁護士までご相談ください。
実際に新型コロナウイルスを理由とした解雇・雇止めに遭ったとしたら、どうすればいいのでしょうか。
新型コロナを理由とする解雇が正当だと判断されるには、前述した整理解雇の4要件を満たさなければなりません。
会社が解雇回避の努力をしたとは思えないような場合や、解雇予定日の30日前までに解雇予告が行われていない場合などは、解雇は不当として撤回を要求できる可能性があります。
非正規労働者の雇止めケースでも、契約を打ち切らざるを得ない特別の理由がない場合や、30日前までの予告がない場合など、撤回の要求が可能な場合があります。
解雇・雇止めが不当である場合、退職する前に労働した分の賃金はもちろん、退職後の賃金(不当に解雇・雇止めされなければ支払われていたはずの賃金)についても請求することができます。
ただし、未払い賃金や残業代の請求権は2年(令和2年4月1日以降に発生したものについては3年)で消滅するため注意が必要です。時効を考慮し、手続きは早めに進めましょう。
また、30日前に解雇・雇止めの予告が行われていない場合には、平均賃金の30日分にあたる「解雇予告手当」を請求できます。解雇予告から解雇日までの期間が30日に満たない場合は、不足日数分の解雇予告手当が必要です。
ただし、解雇予告手当は、解雇を受け入れることを前提として請求するものなので、解雇が不当であるとして撤回要求を考えている場合には、請求しないように注意しましょう。
解雇や雇止めに納得がいかない場合は、労働組合や労働基準監督署に相談するという方法があります。
しかし、労働組合や労働基準監督署では、その解雇・雇止めが無効かどうかの具体的な判断まではしてもらえません。
弁護士に相談すれば、解雇や雇止めの正当・不当について法律に基づいたアドバイスを受けることや、弁護士が代理人となって労働者に不利にならないよう会社と交渉もします。
話し合いがまとまらず労働審判や裁判に発展した場合でも最後までサポートを受けることができます。
厳しい雇用情勢が続き、新型コロナウイルスに起因する失業は10万件を超えました。
中でも製造業の状況は深刻です。
しかし、解雇・雇止めは法令で定めたルールにのっとって行われたものでなければ正当とは認められず、撤回の要求ができる場合があります。
ベリーベスト法律事務所なら不当解雇に関する相談は初回60分が無料です。
解雇・雇止めにお悩みの方は、どうぞ気軽に弁護士までご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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