警察庁ウェブサイトに掲載されている『令和3年版運転免許統計』によると、令和3年に運転免許の停止処分を受けた件数は、全国で19万5940件にものぼったそうです。
また、法務省ウェブサイトに掲載されている『令和3年版犯罪白書』によると、令和2年、無免許運転の送致事件は1万9225件ありました。
営業職や運送ドライバーなど運転業務に従事する人にとって、免許停止処分は仕事にも直結するため、非常に重い処分といえます。では、運転免許が不可欠な職業に就く従業員が事故や交通違反により免停処分を受けた場合、会社をクビ(解雇)になってしまっても仕方がないのでしょうか?
本コラムでは、解雇の定義や解雇の条件に触れたうえで、免停を理由にした解雇が認められるのかについて、弁護士が解説します。実際に解雇処分を受けた場合にとるべき対応についても、見ていきましょう。
まずは、解雇の定義と解雇が認められる条件について確認していきましょう。
解雇とは、従業員の同意なく、会社の一方的な意思により労働契約を解除することをいいます。
同じく労働関係を解消する方法として、「退職勧奨」がありますが、退職勧奨は会社が従業員に対して退職するよう説得し、従業員がこれに応じて退職を選択することです。
退職について従業員の同意がある点で、解雇とは大きく異なります。
解雇には、大きく分けて3種類あります。
① 普通解雇
普通解雇とは、能力不足や勤務態度不良、怪我・病気による就業不能、無断欠勤など、何からの理由で、「労働者とこれ以上は労働契約の履行ができない」と判断された場合に行われる解雇のことです。
② 整理解雇
企業の経営状態が悪化した際に、経営の打開・合理化を目的として、「人員削減のために行う解雇」です。いわゆるリストラのことを指します。
最近では、為替の影響や物価高騰などによる経営危機で、従業員を解雇する企業が増加していますが、それらも整理解雇にあたります。
③ 懲戒解雇
懲戒解雇とは、従業員に重大な規律違反があった場合に、制裁を課すため解雇することをいい、懲戒処分のなかで、もっとも重い処分です。業務上横領などの犯罪を行う、セクハラやパワハラ、重大な経歴詐称をするなどが懲戒解雇事由の典型例です。
労働契約法では、解雇に関して以下のように定められています。
労働契約法 第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
会社は、「客観的に合理的な理由」がなく、「社会通念上相当」であると認められない場合は、従業員を解雇することができません。
「客観的に合理的な理由」とは、客観的に見て解雇を正当化できるだけの理由があることをいいます。「社会通念上相当」とは、従業員の行動や状況、ほかの従業員に対する処分との均衡などと照らし、相当な処分だといえるかということです。
つまり、解雇が処分として厳しすぎると評価される場合は、解雇は認められません。
これが、解雇の基本的なルールです。
では、本題である「免許停止処分(免停)を理由にした解雇」は認められるのでしょうか?
免停とは、一定の期間において運転を禁止する「免許停止」処分のことです。
スピード違反などの交通違反をすると違反点数が加点され、その累積が一定の点数を超えると免停処分となります。
免停期間は、違反点数に応じて30日から180日の期間が定められており、累積点数と前歴の回数によって、最終的な処分の期間が決まります。
たとえば、酒気帯び運転(呼気中アルコール濃度0.15mg以上0.25mg未満)は、1回犯しただけでも免停になります。
免停になったからといって、必ずしも解雇されるとは限りません。
ですが、営業職やドライバーなど運転を前提とした職業であった場合、免停になれば本来の業務を行うことができないため、業務に支障をきたすことになります。
そのため、会社の規定などによっては、業務に支障をきたしたことを理由として、解雇とまではいかずとも、懲戒処分の対象になる可能性はあります。
免停になった場合、従業員は、1か月程度で業務に復活できる可能性もあるので、会社としては、同期間のみ配置転換を行う、休職処分とするといった対応を検討できます。
そこで、免停になった事情等にもよりますが、1回の免停で即解雇とするのは厳しすぎると評価され、解雇は無効となる可能性が高いでしょう。
もちろん、何度も免停を繰り返し、業務に重大な支障をきたしているような場合は、解雇が有効となる可能性が高いでしょう。
近年、飲酒運転に対する世間の声は厳しくなっており、飲酒運転は厳罰化されています。
それに伴い、従業員が飲酒運転をした場合の処分も、厳罰化の傾向にあります。
免停の理由が飲酒運転だった場合、たとえ重大な事故などを起こしていない場合でも、就業規則に定めがあれば、降格や減給などの懲戒処分の対象になるのは避けられないでしょう。
特に、バスやタクシー会社など旅客運送事業を営む会社で運転業務に従事している従業員であれば、会社の信用を毀損したとして、処分が重く傾くおそれもあります。
会社が厳しい判断を下した場合には、懲戒解雇になる可能性もあります。
一方で、会社はそう簡単には「懲戒解雇」の処分を従業員に下すことはできません。
まず、会社は、就業規則等に、懲戒処分の種類(懲戒解雇、戒告等)や、いかなる場合に懲戒処分が科されるかを定めた規定がなければ、懲戒解雇を含む懲戒処分を行うことができません(労働基準法も、制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項を定めるよう求めています(89条柱書、9号))。
つまり、就業規則に懲戒解雇についての定めがなければ、そもそも会社は「懲戒解雇」という処分を下すことができないということです。
そして、懲戒解雇にするためには、就業規則の中で懲戒解雇について定められており、「その規定の事由に該当している」と判断されることが必要です。
また、懲戒解雇は、懲戒処分の中でも最も重い処分ですので、規定への該当性の判断は厳しくなりがちであり、該当していると判断されたとしても、重すぎるとして無効と判断される場合もあります。
なお、懲戒解雇に相当する事情がある場合でも、会社側が懲戒解雇ではなく、「普通解雇」の主張をすることは差し支えなく、普通解雇の主張や、懲戒解雇、普通解雇の双方の主張がなされるケースもあります。
前述した通り、免停になったからといって必ずしも懲戒解雇されるとは限りません。
ですが、もしも懲戒解雇として重い処分が下った場合には、以下のようなリスクが考えられます。
通常、従業員に会社が解雇を伝える場合、少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません。30日前の解雇予告をしない場合、30日に不足する平均賃金を会社側は労働者に支払う必要があります。
労働基準法 第20条1項
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
突然仕事を失ってしまうと、労働者の生活への影響は多大なものです。
そのため、「お前は今すぐクビだ!明日から会社に来るな!」といった、「一方的な即時解雇」ができないよう、法律で定められているのです。
ですが、懲戒解雇の場合は、このルールが適用されない場合があります。
労働基準法20条1項には続きがあり、そのただし書きでは、以下のように書かれています。
但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合または労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
このように、免停が理由で解雇されることになった場合、「労働者の責めに帰すべき事由」と判断され、解雇予告の期間を設けずに即時解雇される可能性も、ゼロではないということです。
※ただし、労働基準監督署の解雇予告除外認定を受ける必要があります(同条3項、19条2項)。
会社の規定にもよりますが、懲戒解雇となると退職金が不支給となるケースも少なくありません。
退職金は、定年までの間、会社に貢献してくれた従業員への慰労金という意味合いもあるため、懲戒解雇になるほどの問題を起こした従業員に対し、支払う必要がないと考える会社も多いためです。
就業規則の規定に、「懲戒解雇処分となった場合には、退職金は不支給とする」といった意味合いの内容が書かれている場合は、退職金をもらうことはできなくなる可能性が高いでしょう。
つまり、懲戒解雇の処分が下されたら、最悪の場合、「退職金も出ず、即クビ」となってしまう可能性もあり得るということです。
免停が理由で解雇となってしまえば、今後の生活の不安も大きいでしょう。
また、「免停で解雇は処分として重過ぎる」と、納得いかない場合もあるでしょう。
では、免停を理由に解雇と言われたら、まず何をすべきなのでしょうか?
まず、2(5)のとおり、懲戒解雇を含む懲戒処分は、就業規則等に、懲戒処分の種類や、いかなる場合に懲戒処分が科されるかを定めた規定がなければ行えません。
そこで、免停になったことを理由に懲戒解雇処分を受けた場合、まずは、就業規則に懲戒解雇について規定があるか、解雇理由が定められているかを確認しましょう。
そもそも、就業規則に規定されている懲戒解雇事由に該当しないケースだった場合は、解雇の無効を主張できる可能性があります。
また、懲戒解雇ではなく、普通解雇であった場合も、同様に就業規則や、雇用契約書の解雇の規定を確認しましょう。
解雇事由に納得ができない場合は、不当解雇だとして会社に対して解雇処分の撤回を求めましょう。
その際、会社に「解雇に納得がいかない」という意思表示をしておく必要があります。
口頭で意思を伝えても、会社から聞いていないなどと反論されてしまう可能性があるため、内容証明郵便などを利用して、書面で通知することが大切です。
会社が従業員を解雇できる条件は厳しく定められています。
実際の解雇理由が条件を満たしていることを確認するために、「解雇通知書」や「解雇理由証明書」といった書類を会社に発行してもらいましょう。
これらの書類は、自主退職ではなく解雇されたという事実を証明する証拠としても有効です。
なお、労働基準法では、労働者が解雇理由証明書を請求すれば、「使用者は遅滞なくこれを交付しなければならない」とされています(労働基準法第22条)。
免停を理由に解雇を告げられたものの納得ができない場合、まずは労働基準監督署や労働組合などに相談する方法が考えられるでしょう。
労働基準監督署は、労働基準法に違反していれば、是正勧告などを行ってくれるので、結果として解雇が撤回される可能性もあります。
ただし、これらの機関は個人の代理人として直接会社と交渉してくれるわけではなく、個人トラブルには介入できません。
また、労働組合は、団体交渉等は行ってくれるかもしれませんが、訴訟や労働審判に発展した場合に、代理人にまではなれません。
そのため、不当解雇に関する相談先としては弁護士をおすすめします。
弁護士は個人の代理人となれるので、会社と交渉することが可能です。会社と直接対峙(たいじ)する必要がなくなるだけでも、精神的なストレスは大幅に軽減されるでしょう。
また、弁護士は、証拠の収集方法についてのアドバイスや、必要な書類の作成など、解決まで全面的にサポートすることができます。
自動車の運転を前提とする職業に就いている方が、免停により従来の業務ができなくなったとしても、それだけを理由に解雇された場合は、解雇の撤回を求めて会社と交渉できる可能性があります。
急に解雇を言い渡された場合は、どうしたらよいか分からず途方に暮れるかもしれませんが、できる限り早く弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、不当解雇、退職推奨に関するご相談を初回60分まで無料で承っております。解雇の理由や条件に納得ができない場合は、泣き寝入りすることなく、ベリーベスト法律事務所までご連絡ください。
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