物価高騰などの影響を受けて、厳しい経営状況に陥った会社から、「ある日突然、解雇を言い渡された」といったケースは少なくありません。
本来、解雇というのは会社が自由に行えるものではありません。労働基準法などが定める厳格なルールを守り、常識的に相当だと認められる理由がなければ、会社は労働者を辞めさせることはできないのです。
もし突然、理不尽な理由で解雇を言い渡されたという場合は、不当解雇に当たる可能性があります。不当解雇と判断されたケースでは、会社に慰謝料等を請求できる可能性があります。
本コラムでは、どのような解雇理由が不当解雇に該当するのか、また、会社に慰謝料等を請求できる場合の対処法について、弁護士が詳しく説明します。
労働契約法第16条は、解雇について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。そのため、理不尽な理由での解雇は、無効となる可能性があります。
以下で、解雇の理由ごとに、解雇の有効性が疑われるケースを見ていきましょう。
仕事上のケガや入院により、出社できないことを理由に解雇するのは違法の可能性があります。「業務上の傷病による療養期間とその後30日間」は労働基準法第19条の定めによって解雇が禁止されているためです。
また、業務上の傷病ではないケガや入院であっても、就業規則に私傷病休職の定めがある場合には、所定の期間休職しても回復する可能性がないことが客観的に明らかなときを除いて、私傷病休職制度に従わなければなりません。
ケガによってこれまでと同じようには働けないけれども、他の業務であれば可能という場合には、別の業務への配置転換を検討した上で、解雇をする必要があります。
また、「産前産後の休業期間とその後の30日間」の解雇も禁止で、産休中の女性労働者を解雇するのも違法となります。
この禁止期間経過後であっても、妊娠中及び出産後1年を経過しない女性の解雇については、解雇の理由が妊娠・出産を理由とするものでないことを証明しない限り無効となり、また、育児・介護休業の取得を理由とする解雇も禁止されています。
「やむを得ない事情」がある場合には、解雇が認められる場合も
ただし、
でも解雇が認められる場合があります。
大災害の被害など「やむを得ない事情」で事業の継続ができなくなってしまったときや、療養中の労働者に対し打切補償を支払ったときなどです。
なお、大災害の被害などにより事業の継続が不可能になったことにより、使用者が労働者を解雇する場合、所轄労働基準監督署長の認定を受ける必要があります。
また、打切補償を支払う規定は、労災保険制度が整備される前に制定された規定であり、現在は、使用者に代わって国が労災補償を行う労災保険の利用が一般的です。
「本人の国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇」も労働基準法第3条で禁止されています。「外国人」「特定の宗教の信者」などを理由に辞めさせることはできません。
本人の能力不足や勤務成績を理由とした解雇では、
を考慮して、解雇の有効性が判断されます。
たとえば、「時々ミスがある」などの軽微な理由で解雇することは出来ません。
また、営業成績などが社員の中で相対的に低かったに過ぎない場合や、教育、指導が尽くされていない場合にも、解雇の有効性に疑問が残るでしょう。
他方で、高度な専門知識や能力を備えていることを前提に中途採用された場合には、一般的に、解雇は有効とされやすいです。
では、労働者本人に「勤務態度に問題があった」「職務規律に違反した」といった理由での解雇は認められるのでしょうか。
こうした場合には、労働者の落ち度の程度や会社が被った被害の程度などを多角的に考慮しながら、解雇の有効性を判断します。
たとえば「何回か遅刻した」、「何度か報告書の提出を忘れた」などの軽微な理由では、解雇は認められません。
他方で、何度注意しても労働者が態度を改めず、改善の兆しがないようなケースでは、解雇が有効となる可能性もあります。
また、勤務態度に問題があった場合や、職務規律に違反した場合、懲戒解雇がなされる可能性もあります。
懲戒解雇は要件を明示しておかなければならない
懲戒解雇は、懲戒処分の1つであり、最も重い処分です。
労働者が極めて悪質な規律違反や非行、会社の秩序を乱す行為をしたとき、懲罰として行われます。
懲戒解雇をするためには、会社はあらかじめ就業規則などで懲戒解雇の要件を明示しておかなければなりません。
懲戒解雇の有効性の判断は厳しい
また、懲戒解雇の有効性は、同じ理由で普通解雇をする場合と比べて、より厳しく判断されるため、懲戒解雇が無効となった場合に備えて、同時に普通解雇がなされることがあります。
懲戒解雇と合わせて普通解雇がなされていない場合には、たとえ労働者が問題行動を起こしていたとしても、解雇が無効となる可能性があります。
会社の経営悪化で人員削減を行うための解雇を整理解雇といい、いわゆる「リストラ」も整理解雇にあたります。
整理解雇では、以下の4つの要件(要素)をもとに、解雇の有効性が判断されます。
たとえば、役員報酬の削減や、希望退職者の募集などもなく、突然解雇を言い渡されたという場合には、整理解雇は無効となるでしょう。
次に、労働基準法が規定する、解雇のための手続きについてみていきましょう。
解雇の理由が正当でも、会社側は労働基準法第20条の定めに従い、解雇しようとする日の少なくとも30日前までに「解雇予告」をしなければなりません。
ただし「解雇予告手当」として平均賃金の30日分以上を支払えば、即日解雇も可能です。予告期間が30日に満たないときは、不足の日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払うことで、解雇が可能になります。
また労働者側に責任がある場合は、即日解雇が認められる可能性もあります。
たとえば
などです。
この場合は解雇予告手当の支払いは必要ありません。
法的に根拠のない理由で解雇された人は、会社に対して何ができるのでしょうか。
慰謝料の請求が認められるケースなどについて説明します。
解雇が不当だと主張する方は、まず解雇の無効や撤回を訴えましょう。
解雇が無効と判断されれば、解雇後に就労できなかった期間の賃金を請求すること、復職を請求することも可能です。
慰謝料は、不当に解雇されたことで受けた精神的苦痛に対する損害賠償です。
不当解雇されたということに加え、会社に不法行為があったと証明された場合に請求できます。
合理性を著しく欠いた解雇などは不法行為に当たる可能性があります。
ただし、バックペイ(解雇後の賃金)の請求が認められる場合や、不法行為によって財産的損害が補償される場合には、慰謝料が認められていないケースがほとんどです。
解雇が不法行為と認定され、会社に慰謝料の支払いを命じたケースには、以下のような裁判例があります。
M商事セクハラ事件(平成11年3月12日東京地裁判決)
女性の従業員が上司からセクハラを受け、いったんは会社の斡旋を受けて上司との間で示談が成立しました。
しかし、その後、上司が女性の解雇を会社に求めていると勘違いした女性が憤り、上司との間で争いになりました。女性は、個人的な争いで社内の秩序を乱したとして会社側から退職勧奨を受け、解雇されたというのが事案の概要です。
判決は、会社がセクハラ問題の本質を見抜くことができず、「個人的な争い」で社内秩序を乱したとして解雇したことを不法行為とし、それによる精神的苦痛を受けた女性への慰謝料50万円の支払いを命じました。
また、慰謝料に加えて、6か月分の賃金と賞与と同額の財産的損害の賠償が認められています。
平成28年2月19日東京地裁判決
塾講師が、退職を申し出ると同時に残業代の請求をしたところ、塾側から、引継ぎ期間中に懲戒解雇されたという事例です。
解雇理由は、塾講師が、生徒から滞納月謝の回収を怠っており、生徒の父母とのつながりがあると疑われることなどでした。また、塾側は、その塾講師を解雇した後、従業員の面前で、原告を解雇したこと等を公表し非難しました。
判決は、解雇理由が、塾講師が滞納者の父母に不正に便宜を図っているような表現であることや、従業員の面前で、解雇の事実等を公表し、原告を非難したこと、離職票に重責解雇と記載され、再就職の不安が生じたこと、解雇から1年以上紛争が継続していることなどを考慮して、120万円の慰謝料を命じています。
また、慰謝料に加えて、退職予定日までの給料や、再就職が困難になったことを理由に、解雇後6か月分の賃金と同額の損害賠償、残業代、退職金などの支払いも命じられています。
平成28年9月23日東京地裁判決
うつ状態や、パニック障害などの診断を受けた従業員が、傷病手当申請書を会社に提出したところ、その1月後、会社から、普通解雇されたというものです(ただし、解雇後に解雇が撤回されています。)。
解雇理由は、「出勤常ならず、改善の見込みもないこと」、「勤務時間中に他社の労務に服していたこと」というものでした。
判決は、うつ状態等によるやむを得ない欠勤であるにもかかわらず、職場復帰の可能性を十分に検討せず、協議を尽くすることなく解雇したことは、配慮が不十分であり、うつ状態の原告に追い打ちとなる精神的衝撃であるとして、慰謝料30万円の支払を命じています。
この事案では、うつ状態により欠勤をしていたため、バックペイの請求は認められていません。
平成31年3月19日大阪地裁判決
塾講師の原告が、元生徒(交際開始時19歳)と交際したところ、元生徒が両親から虐待を受けたことを切っ掛けに、塾講師の家で同居を開始するようになりました。
その後、生徒の親が、塾に対して、異常な抗議を行い、塾講師は、塾に対して退職を申し出たものの、塾側が、懲戒解雇としたという事案です。
判決では、特に詳細な理由が明らかになっていませんが、30万円の慰謝料が認められています。この事例では、退職金や割増賃金の請求はされていますが、バックペイや、財産的損害の請求はされていない事案でした。
会社の不法行為を立証し、慰謝料を請求するために必要なことを説明します。
「解雇通知書」は、会社が労働者に解雇の意思を伝える文書です。
また、会社都合の解雇であることを示す重要な書類でもあります。受け取っていない場合は、必ず会社に発行してもらいましょう。
「解雇通知書」を受け取ったら、文書に記載されている「解雇の日」の確認が必須です。
通知書を届いた日から解雇の日までが30日に満たないときは、解雇予告手当を請求できる可能性があります。
さらに、通知書に「解雇理由」が記載されているか確認してください。
通知書で解雇理由が十分に確認できない場合は、「解雇理由証明書」の発行を求める必要があります。
労働基準法は「労働者が解雇の予告がされた日から退職の日までの間、解雇の理由について証明書を請求した場合は、遅滞なくこれを交付しければならない」と定めており、会社に速やかに出すよう要求できます。
会社の不法行為を立証するには、証拠が不可欠です。
解雇通知書、解雇理由証明書に加え、雇用契約書、解雇に関する会社とのやりとりの記録なども証拠になります。
不当解雇で慰謝料を請求するのは簡単なことではありません。
労働問題に詳しい弁護士に相談をしましょう。
弁護士には、会社の不法行為を立証するための証拠集めや、関係がこじれている会社との交渉を依頼することができます。
もちろん、裁判になった場合の弁護活動に関する相談も可能です。
近年、物価高騰などの影響による業績の悪化で、企業の人員削減、早期退職者の募集などのニュースをよく耳にするようになりました。
しかし、会社からの一方的な理由での解雇は、労働基準法に反した不当解雇に該当する可能性があります。会社から解雇を言い渡されたら、そのままサインしてしまうのではなく、解雇の理由を確認してみましょう。
ただし、実際には不当解雇かどうかの判断は簡単ではありません。
様々な証拠を集めた上で総合的に判断し、解雇に違法性があるか、法的根拠を立証しなくてはならず、会社という組織を相手にひとりで戦うのは、ハードルが高いでしょう。
不当解雇かもしれないが判断できず困っている、慰謝料を請求したいがどうしたらいいか分からないなどのお悩みを抱えている方は、労働問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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