長い転職活動の末ようやく正社員の採用先を見つけても、試用期間中に突然「本採用しない」と通告されるケースがあります。遅刻も欠勤もしないでまじめに働いてきたのに、試用期間中にクビ(解雇)にされてしまった場合、泣き寝入りするしかないのでしょうか?
結論から言うと、会社と交渉したり戦ったりする方法はあります。現に、会社と労働者の間に発生する問題を裁判所が間に入って話し合いで解決する制度、「労働審判」は平成30年には3630件が裁判所に新たに受け付けられましたが、その後令和元年には3665件、令和2年には3907件と徐々に増加しています。
今回は、試用期間中にクビ(解雇)にされてしまった場合の法的な考え方や対処方法、解雇通知を受けたときに確認すべきポイントについて、弁護士が解説します。
(出典:平成30年、令和元年、令和2年 司法統計)
そもそも試用期間はどのようなものなのでしょうか?
実は、「試用期間」は法律用語ではないので、法律上の明確な定義はありません。
試用期間とは、一般的には、本採用の前に行われる社員としての適格性を判定するための期間を意味します。
たとえば3ヶ月間の試用期間が設けられた場合、「正社員」という立場ではあっても、その間会社によって適格性を観察されます。その結果、問題がなければ試用期間の終了とともにそのまま本採用となりますが、もし適格性がないと判断されたら試用期間中や終了時に本採用を拒絶されてクビにされる可能性があります。
では、試用期間中やその終了時に本採用を拒否されてクビになってしまうというのは、法的にはどういうことなのでしょうか。
試用期間中の会社と労働者の契約関係は「解約権留保付労働契約」と理解されています。
つまり、会社と労働者との間には、すでに労働契約が成立しているけれども、会社は試用期間に労働者を解雇できるという権利をもっているということです。
したがって、試用期間中やその終了時に本採用を拒否されてクビになることは、法的には「解雇」されることなのです。
試用期間は「試験的に観察を行い、結果として適正がなかったら本採用を拒絶できる期間」です。そうであれば、会社は「気に入らなかった」という理由で、自由に本採用を拒否してクビ(解雇)にすることができるのでしょうか?
実は、試用期間であっても、解雇に関する会社の裁量には制限が設けられています。
前述のとおり、試用期間とはいっても労働契約が締結されている以上、本採用の拒否は解雇に当たり、法律上解雇には一定の制限が設けられているからです。
労働契約が成立していない段階、つまり採用前であれば会社は自由に断ることができますが、試用期間はすでに労働契約が成立していて、単に会社側に解約権があるというだけなので、解雇するにも理由が必要となるのです。
それでは、具体的にどのようなケースであれば、会社が試用期間に本採用を拒否して対象者を解雇できるのでしょうか?
判例では、留保解約権に基づく解雇の場合、通常一般の解雇よりは広く解雇の自由を認めても良いと判断されています。
ただし、そうであったとしても全く自由に解雇が認められるわけではありません。
留保解約権にもとづく解雇は、その趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な場合にのみ認められる、と判断されています。
具体的には、試用期間中の勤務状況などによって、雇い入れた時点では知ることのできなかったような事情が判明し、それによって雇用を継続することが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨や目的からして客観的に相当であると認められるような場合にのみ、解雇が認められます(三菱樹脂事件。最高裁判所昭和48年12月12日判決)。
このように試用期間にクビ(解雇)にするには、「客観的な事情」が必要ですから、会社側が「社風に合わない」と判断したからといって容易にクビ(解雇)にできるものではありません。
就業規則において「本採用が適当でないと判断した場合には解雇できる」という記載があっても、法的にはクビ(解雇)にすることが認められない可能性があるのです。
試用期間に解雇されたとき、会社が説明する解雇理由が合理的なものでなかったら、受け入れる必要はありません。
試用期間にクビにされるとき、会社から従業員に対し「解雇予告(解雇通知)」が行われることが多いです。労働基準法上、解雇するには30日以前に解雇予告をするか、日数が足りない場合には不足分の「解雇予告手当」を支払わなければならないとされているからです(労働基準法20条1項、2項)。
試用期間に解雇予告を受けたとき、「クビにされた」と思い、ショックを受けて泣き寝入りをしてしまう方がいますが、そうではなく、証拠を残して不当解雇を争う準備をすべきです。
安易に解雇(クビ)に応じず、まずは以下のような点をチェックしましょう。
まずは、会社に対して解雇理由証明書の発行を求めましょう。
解雇理由証明書とは、会社が考える解雇理由が記載されている書類です。
解雇理由証明書に書かれている情報が、後に裁判などで不当解雇を認めてもらうのに大変役立つ可能性があります。
会社は従業員を解雇したとき、従業員側から請求があれば、遅滞なく解雇理由証明書を発行しなければならないと法律で決められています(労働基準法22条)。早期に解雇理由証明書を取得しておくことが大切です。
解雇について会社側と話し合うときには、会話内容を録音しておきましょう。 話の中で、相手がいい加減な解雇理由を主張していたら、その録音データによって後から会社の主張する解雇理由が合理的でないことを証明できる可能性があるからです。
会社が主張する解雇理由が「能力不足」の場合の考え方をご説明します。
能力不足と言われた場合でも、そもそも達成不可能なノルマを課せられた場合や、いじめに遭って仕事を任されなかった場合などには、「能力不足」が正当な解雇理由にはならず、解雇が違法となる可能性が高いでしょう。
能力不足による解雇が認められるのは、会社が社員教育をしっかり行い、それでも能力が足りない社員には配置転換などの措置をとり、それでも本人に改善のきざしがなく解雇しか選択肢がない場合などです。
試用期間中に病気や怪我をしたことによってクビにされてしまうケースもあります。
しかし、試用期間中に怪我や病気をしたからといって解雇が認められるわけではありません。
そもそも、怪我や病気が業務上のものであった場合、休業期間や休業後30日間は解雇できないことが法律上定められています(労働基準法19条1項)。
私傷病のケースであっても、復帰後どうしても雇用を維持することが困難なケースでのみ、解雇が認められているのです。
病気や怪我による休業の場合の取扱いについては、就業規則に規定があることが一般的なので、確認してみると良いでしょう。
会社の営業不振により、整理解雇(リストラ)されるケースもあります。この場合、会社都合によるクビですから、解雇の要件は厳しくなります。
具体的には、人員削減の必要性や解雇回避のための努力、人選の合理性や解雇手続きの妥当性が必要です。
試用期間中の場合、人選の合理性は認められやすいとも考えられますが、そもそも人員削減の必要性がない場合や解雇を回避するための努力を何らしていない場合には、整理解雇とは言っても不当解雇となります。
試用期間中に犯罪行為を行ったり会社に損害を与えてトラブルを起こしたりすると、懲戒解雇される可能性があります。
ただし、懲戒解雇するには懲戒事由を就業規則に定めておく必要がありますし、懲戒権の濫用にならないように、解雇の合理的な理由があることが必要です。
懲戒権の濫用と判断されたら解雇は違法・無効となり、雇用を継続させることが可能となります。
試用期間にクビ(解雇)にされてその理由に納得できないとき、どのように対応すれば良いのか、また解雇の問題を弁護士に相談するメリットも合わせてご紹介します。
まずは、労働組合に相談する方法があります。労働組合に相談すると、労働組合が企業側と団体交渉をしてくれます。団体交渉は賃金などの労働条件の引き上げなどのためにも行われますが、これによって企業側に不当解雇を撤回させられる可能性があります。
次に、労働基準監督署に相談する方法があります。
労働基準監督署は、域内の企業が労働基準法違反の行為を行っていないか監督する政府の機関です。違法行為が発見されると、対象企業を摘発して刑事責任を追及したり、行政指導を行ったりします。
ただ、労働基準監督署は会社が違法行為を行っていたら指導勧告してくれますが、不当解雇かどうかは解雇が労働基準法に違反する場合などの例外的な場合を除き、多くは民事上の問題であり、労働基準監督署はこうした民事上の争いには積極的に介入しないので、解雇問題を相談してもあまり効果がない可能性もあります。
解雇問題について裁判所で労働審判を申し立てる方法があります。
労働審判とは、労働者と会社間のトラブルを解決するための専門的な手続きです。
原則3回の期日で終了するので、スピーディに不当解雇問題を解決できます。
ただし当事者は裁判所の決定(審判)に異議を出すことができるので、必ずしも最終的に不当解雇問題を解決できるとは限りません。
試用期間終了時にクビにされたときには、弁護士に相談する方法が非常に効果的です。
①適切なアドバイス
弁護士は、労働法や関連する判例に詳しいので、会社による試用期間中の解雇や本採用の拒否が違法かどうかを適切に判断できます。
そもそもクビ(解雇)になったのが妥当なのかどうかわからない場合には、まずはその点から弁護士に相談してはっきりさせておくと良いでしょう。
②交渉や労働審判、労働訴訟を依頼できる
また、弁護士が労働者の代理人となって、会社に解雇を撤回するよう交渉することも可能ですし、労働審判や労働訴訟の代理人としてこれらの手続きを進めることもできます。
③会社側が真剣に対応する
会社側も、弁護士がついていたら真剣に対応する可能性が高まりますし、不当解雇を撤回する可能性も高くなります。
④会社に戻りたくない場合にも対応してもらえる
試用期間の解雇トラブルでもめると、もはやそのような会社に復職したくないケースもありますが、その場合にも弁護士に相談することにより、適切な方向で会社側と交渉を進めてもらえます。
具体的には未払賃金や慰謝料を支払ってもらって退職を受け入れるという解決方法をとります。依頼者は弁護士にこうした対応を任せている間に、転職や失業保険の受給などの手続きを進めることができます。
試用期間にクビ(解雇)にされてしまい、納得できない方は多いでしょう。
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ご相談いただけましたら、適切な対応方法や注意点についてのアドバイスをいたしますので、試用期間にクビにされたら、泣き寝入りをせずに弁護士までご相談ください。
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