平成31年4月から「働き方改革関連法」が順次施行され、残業は法的に厳しく取り締まられるようになりました。しかし、現実には、「毎日サービス残業ばかり」「土日も返上して働いている」などと悩まれている方も少なくないでしょう。
厚生労働省の報告によると、過労死などによる労災請求は近年増加傾向にあり、令和元年には2996件もの請求がありました。業務上のストレスでうつ病となり、自殺を図る人もあとを絶たず、深刻な社会問題になっています。
長時間の残業は、場合によっては違法となるケースもあります。具体的にはどのくらいの残業で違法となるのでしょうか。残業代の請求方法とあわせて解説します。
まずは違法残業となるラインから確認します。
働き方改革関連法(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)が平成31年4月から順次施行され、時間外労働の上限規制が設けられました。
① 時間外労働の上限規制が設けられた理由
時間外労働とは、労働基準法(以下「労基法」)で定められた1日8時間及び週40時間(特例適用小規模事業は44時間)以内の法定労働時間を超える労働時間をいいます。
従来は、法律による時間外労働の上限規制はなく、法的な強制力をもたない厚生労働大臣の告示による一応の基準が設けられているだけでした。そのため、長時間におよぶ時間外労働が常態化していたのです。
働き方改革関連法により、時間外労働は原則として「月45時間、年360時間」という上限が設けられました(労働基準法36条4項)。
月45時間といえば、1日2時間程度の残業が上限ということになります。
② 上限を超えることができるのは、「臨時的な特別の事情がある場合」だけ
この上限を超える時間外労働が認められるのは、臨時的な特別の事情がある場合に限られます。
臨時的な特別の事情とは、次のような具体的な事情を就業規則に定める必要があります。
「業務上やむを得ない場合等」という抽象的な定めは認められません。
働き方改革関連法では、臨時的な特別な事情がある場合にも上回ることのできない時間外労働の上限も設けられました。
具体的には、以下のルールを守らなければ、労基法違反になります。
この上限規制ルールは、たとえ労使間で合意があっても変えることはできません。
上記の時間外労働の上限規制については、建設事業、自動車運転者、医師などについて令和6年3月31日まで猶予されています。
また、新技術・新商品等の研究開発業務については、上限規制の適用が除外されました。
「残業」は労基法に定められた基準の範囲内でしか認められません。この範囲を超えた場合は違法残業となり、会社側が処罰を受けることになります。
では、残業はどのような法律の規制を受けるのでしょうか?
労基法は、原則として、労働時間を「1日8時間、週40時間」までと定めています(労働基準法32条)。これを「法定労働時間」といいます。
使用者が、法定労働時間を超えて労働者に労働させる(時間外労働)ためには、労使間で協定(通称「36(サブロク)協定」)を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出をしなければなりません(労働基準法36条)。
36協定を締結しないで労働者に違法に労働(残業)させた場合は、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」(労働基準法119条1号)が科されるおそれがあります。
36協定を締結して時間外労働をする場合であっても、その上限は、原則として「月45時間、年360時間」とされています(労働基準法36条4項)。
さらに、臨時的な特別の事情があり、労使間で合意する場合であっても、
といった上限規制を超えた場合は違法となり、処罰の対象となります。
罰則の内容は、36協定を締結しないで労働させた場合と同様、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」となります。
今回の法改正は、時間外労働について、罰則付きの上限規制が設けられたという点が画期的です。
このように長時間労働を厳しく取り締まるのは、労働者の健康を確保等するとともに、ワーク・ライフ・バランスの改善を図る等、労働環境を整備して女性や高齢者等の労働参加を促進する等を目的としています。
特に長時間労働の常態化は、脳や心臓疾患のほか、うつ病などの精神疾患も発症させ、労働者の健康を著しく害しますから、罰則による強制力を伴う時間外労働の上限規制は、過労死等を防止する有効な手立てとなるでしょう。
また、長時間労働を解消し、仕事と家庭の両立を可能とする労働環境を整備することは、少子高齢化に伴う生産年齢の人口減少に直面する現状に対応する政策的側面も持ち合わせています。
上限規制の新たな導入により、働き方改革は大きく一歩前進したといえるでしょう。
しかし、いまだに違法な残業命令やサービス残業が多く見られるのが実情です。
残業代は労働の対価です。
会社が支払ってくれない、誠実に対応してくれないからとって諦める必要はありません。未払残業代が発生している場合は、どのように対応すべきなのでしょうか?
未払残業代を請求するためには、証拠の収集が何よりも重要です。
ただ単に「残業代を支払ってほしい」と訴えたところで会社は対応してくれないこと多いでしょう。客観的な資料に基づき、残業代を計算して請求する必要があります。
未払い残業代の請求には、次のような資料が有力な証拠となります。
すでに退職しているなど資料の入手が難しい場合は、弁護士に依頼することで、会社から資料を取り寄せられることもあります。
証拠をそろえ、未払残業代が計算できたら、会社に請求をしていきます。
法律上は、労働審判や裁判をすることもできますが、まずは早期解決に向けて、話し合いによる解決を目指す方がよいでしょう。
交渉を始めるときは、会社宛てに内容証明書を送るのが一般的です。
残業代の請求は消滅時効期間(未払賃金を請求できる期間)があるため、できる限り早めに動きましょう。
内容証明書を送ることで、消滅時効期間の満了を一時的に止めることができます。
残業代等の賃金請求権は、令和2年4月1日以降に支払われる賃金は当面3年の消滅時効期間とされています(それ以前の未払賃金は2年の消滅時効期間となります)。
弁護士に依頼すれば、未払残業代の複雑な計算から会社との交渉まで一任できるので自分自身で交渉するより負担が大幅に軽減されるでしょう。
会社との交渉で解決できない場合は、労働審判または通常訴訟を起こします。
労働審判は、原則として3回以内の手続きで終結し、迅速な解決が図れるため、まずは労働審判の申立てをするのがよいでしょう。
労働審判では調停が試みられますが、調停が成立しない場合は、原則として、労働審判委員会が審判を行います。
当事者のどちらかがその審判に異議を申し出れば、通常訴訟に移行することになります。
労基法に違反する残業を強いられている状況においては、残業代を支払ってくれれば問題ないと済ませるわけにはいかないでしょう。違法残業を強いられている場合の対処法を解説します。
時間外労働についての上限規制を超えて残業しているならば、直ちに改善を要望しましょう。特に長時間労働の常態化は、健康を害するおそれが高いので、改善申入れを躊躇すべきではありません。
長時間労働やサービス残業を強いられている場合、勤務先を管轄する最寄りの都道府県労働局や労働基準監督署に相談するという方法もあります。
相談する前に、まずは違法残業の事実や未払残業代を証明する証拠を集めておくとよいでしょう。
労働基準監督署が違法残業や未払残業代があると認めると、会社に対し、指導や是正勧告をしてくれることがあります。
しかし、この指導には法的な強制力はないため、開き直った会社が従わないということもあり得ます。
労働基準監督署は、あくまで会社を指導・監督する立場であり、残業代を回収してくれるわけではないので注意が必要です。
なお、労働基準監督署は電話での相談も可能です。証拠を準備したら、来署の前にまずは電話相談してみるのもよいでしょう。
未払の残業代があれば、弁護士が代理して請求することができます。
残業代の請求には、上記したとおりの消滅時効期間(請求できる期間)があるので、なるべく早めに弁護士に相談しましょう。
残業代の証拠集めや、正確な残業代を計算することは、長時間労働が続き物理的拘束状態に置かれ精神的にも疲弊している人にとっては、きわめてハードルが高いといえます。
特に会社を相手にひとりで戦うのは、労働者にとって大きな負担でしょう。
弁護士に相談すれば、証拠集めの具体的なアドバイスをもらえたり、労働者に代わって交渉の窓口に立つことができるため、心身の負担は大きく軽減されるはずです。
長時間労働は、確実に労働者の健康と生活を害していきます。「サービス残業」を当たり前とせず、自分の健康と人生は、自分自身が守っていく必要があります。
残業代が支払われておらず、会社に要望しても改善されないという場合は、長時間労働の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にぜひご相談ください。
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