妊娠中の女性を解雇することについては、労働基準法や男女雇用機会均等法などの法律に様々な禁止規定が置かれています。このことは人を雇用する立場である会社は当然に知っておくべき情報です。
しかし、いまだに妊娠を理由とした解雇その他の不利益な扱いをする会社が存在します。会社へ妊娠を報告したところ「クビを宣告された」「辞めるように勧められた」などのケースでは、どのように対応すればよいのでしょうか。
この記事では、妊娠中の女性に対する解雇をテーマに、法律が定める内容や相談先、対応の方法について解説します。
妊娠中や産休・育休中であることを理由に労働者を解雇することは複数の法律で禁止されており、不当解雇にあたります。
会社は、就業規則や労働契約において「妊娠や出産をした場合には退職する」などとあらかじめ定めることや(男女雇用機会均等法第9条1項)、妊娠や出産、産休取得などを理由に解雇などの不利益取扱いをすることはできません(同条2項、3項)。
妊娠中および出産後1年を経過しない女性に対してなされた解雇は原則として無効です(同条4項)。
労働基準法第19条では、産前産後の休業中およびその後30日間の解雇は原則として禁止されています。
また育児・介護休業法第10条では、労働者が育児休業の申請や取得をしたことを理由とした解雇その他不利益取扱いは禁止されています。
育児・介護休業法では、一定の条件を満たす労働者が請求した場合の所定外労働の制限(第16条の8)や時間外労働の制限(第17条)なども定めていますが、これらの請求などを理由とした解雇その他不利益取扱いも禁止対象です(同法第16条の10、第18条の2など)。
不利益取扱いとは、次のようなあらゆる不当な扱いを含みます。
妊娠を理由に解雇された場合の相談先や、どのように対応するべきかについて解説します。
まずは
相談先は人事部や総務部、コンプライアンス部などが考えられるでしょう。適切な部署から指導してもらい解決できれば安心して働き続けられます。
もっとも、解雇の場合には、会社として解雇の決定をしているのが通常でしょうから、会社内で相談することは意味がないことが多いでしょう。
そのような場合には、(2)以下の対応をとりましょう。
該当する窓口がない場合や、相談できない状況がある場合は、社外の窓口への相談を検討しましょう。たとえば次の相談先があります。
社外の相談先の一例
会社の対応が違法なのか知りたいといった場合には、先に外部の窓口へ相談してもよいでしょう。
妊娠を理由に解雇されたものの勤務の継続を希望する場合には、会社に対して解雇の無効を主張し、解雇の撤回を求める必要があります。
「妊娠を理由とした解雇は法律で禁止されているのだから不当であり無効だ」と、根拠を示したうえで撤回を求めるのがよいでしょう。
しかし中には「うちは小さい会社だから法律なんて関係ない」などと主張する会社や、辞めるように仕向けてくる会社があるかもしれません。
そのような場合には労働問題に詳しい弁護士へ相談し、対応方法を検討しましょう。
会社へ解雇の無効を主張するにあたり、どのような活動が必要なのでしょうか。
留意点とあわせて解説します。
妊娠を理由とした解雇は違法なので、会社からの指示に従う必要はありません。
退職届の提出の強要やしつこい退職勧奨、嫌がらせ(マタハラ)などを受けた場合でも、解雇や退職に合意する書類にサインしないことが重要です。
後日、法的措置を講じて会社と争う場合、退職に合意する書類にサインがあると、あなたが納得し、自ら辞めたという証拠になってしまいます。執拗な退職勧奨などを受けている場合は、書類などにサインをせず、早期に弁護士へ相談してください。
会社が「解雇理由は妊娠ではなく他の理由だ」と主張してくるケースも想定されます。
このときは、解雇理由が妊娠であり、不当だと示す証拠を集めます。
まずは労働基準法第22条にもとづく解雇理由証明書の交付を請求しましょう。もっとも、解雇理由証明書には、解雇の理由が妊娠だと記載されない可能性が高いでしょう。
そこで、解雇理由証明書記載の解雇理由が真実でないことを示すため、たとえば上司や社長が「わが社では産休は認めていない」などの発言を記録した音声データや、メールの履歴などの証拠があると有益です。
この点も弁護士へ相談すると何が証拠となり得るのか助言を受けられます。
集めた証拠とともに、解雇の無効を主張する内容の書面を作成します。直接渡す、普通郵便で送るなどした場合、会社から「そんな書類は受け取っていない」と主張されるおそれがあるため、内容証明郵便を利用するとよいでしょう。
ここまでの行動をしても会社が変わらない場合は、次の法的措置を検討しましょう。
解雇理由が違法だと証明されれば解雇は無効になるため、労働者に就労意思があることを前提として、解雇後の賃金が請求可能です。
法的措置を検討する場合は、証拠の収集や手続き面の負担を軽減するためにも弁護士のサポートを受けるのが賢明でしょう。
妊娠した女性は法律により、以下のようなさまざまな保護を受けられます。
妊娠中および出産後の女性が健康診査などで医師からの指導を受けた場合には、その指導事項を守ることができるように、会社が措置を講じる必要があります(男女雇用機会均等法第13条)。
たとえば勤務時間の短縮や時差出勤、休憩時間の延長、作業の制限などが挙げられます。
妊娠中および出産後1年を経過しない女性を、危険な業務や有害な業務に就かせることは禁止されています(労働基準法第64条の3第1項)。
具体的な範囲は女性労働基準規則で定められており、たとえば次の業務が該当します。
妊娠中および出産後1年を経過しない女性が請求した場合には、時間外労働や休日労働、深夜業を課すことが禁止されます(労働基準法第66条2項、3項)。
仮に変形労働時間制の適用を受けていたとしても、女性が請求した場合には、会社は1日および1週間の法定労働時間を超えて働かせることができません(同条1項)。
妊娠中の女性が請求した場合には、産前6週間から休業できます(労働基準法第65条1項)。産後8週間を経過しない女性は、請求の有無にかかわらず休業できます(同条2項前段)。
なお、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、医師がその女性について認めた業務に限り就くことは可能です(同条2項後段)。
妊娠を理由に会社をクビにする行為は不当解雇であり無効です。
不当に解雇された場合は、社外の相談窓口や弁護士への依頼を検討しましょう。
相談できる先は多数ありますので、
労働問題の解決実績が豊富な弁護士が力を尽くします。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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