「会社から解雇されたにもかかわらず、退職の手続上は自己都合退職とされてしまった」「会社に退職理由の訂正を求めても応じてもらえない」
このように、実際の退職理由と書類上の退職理由が違うケースは少なからず存在し、中には解雇の要件を満たさない「不当解雇」が問題となる場合もあります。
退職理由や不当解雇について会社と争う方法はあるのでしょうか? また自己都合退職ではなく、会社都合退職扱いとすることに成功した場合に、労働者側にはどのようなメリットが生じるのでしょうか?
今回は、解雇が自己都合退職とされてしまった場合の対処法を解説します。退職理由によってご自身にどのような影響があるのかもあわせて確認しましょう。
※公開:2020年02月06日、更新:2020年10月20日
退職は一般に「会社都合退職」と「自己都合退職」に分けられますが、具体的に何が違うのでしょうか。
① 会社都合退職
会社都合退職とは、解雇や倒産、事業所の廃止など、労働者の意思とは関係なく退職を余儀なくされる場合をいいます。
特に労使間でトラブルになりやすいのは解雇です。そのため、解雇が有効と認められるための手続要件として30日前までの解雇予告、または30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(労働基準法第20条)。
② 自己都合退職
自己都合退職とは、キャリアアップのため、結婚や出産のためなど、あくまでも労働者本人の希望による退職をいいます。
③ 失業給付を受ける際、会社都合の方が有利
退職は会社都合退職と自己都合退職に大きく分けられますが、ハローワークの失業給付(基本手当)などの手続に際しては、離職票に記載の退職理由ごとにさらに細かい区別がなされます。
たとえば労働契約の内容と実際に働いたときの条件に大きな相違があったため自ら退職した場合には会社都合退職扱いとなり、失業給付に関しては「特定受給資格者」という扱いになり、解雇と同じく受給の期間や開始時期などで有利になります。
明らかに解雇なのに、会社はなぜ自己都合退職として取り扱うのでしょうか?
① 労働者から争われるリスクを避けるため
たとえば退職理由を解雇(会社都合退職)として処理した場合、労働者から解雇が不当であると争われるリスクがあります。
解雇が有効であると認められるためには厳しい要件が法律で定められているため、解雇の有効性を労働者から争われると、たとえ会社側に解雇の有効性を証明できる証拠が揃っていたとしても、その対応に追われることになりますし、証拠が揃っていない場合には解雇は無効であると判断されることになります。
② 助成金を受けられなくなる可能性があるため
また、国の助成金制度には、一定の間、解雇していないなどの条件を満たす必要があるため、解雇にすると会社は助成金を受け取れなくおそれがあります。
つまり会社はこうしたリスクを避けるため、実態は解雇であっても自己都合退職として取り扱うケースがあります。
会社側が自己都合退職または正当な解雇だと主張していても、実は不当解雇と判断されるケースがあります。
「辞めてください」などの直接的な言葉を使わず、遠回しな言動を通じて退職を勧めることを退職勧奨といいます。
最終的には自らの意思で退職を決意する点で解雇とは異なり、労働者自身も「最後は自分で決めたことだから」と、不本意ながらも受け入れてしまうことが多いです。
解雇が有効であると認められるための要件は厳しく、後々会社が行った解雇を争われて解雇無効と判断されることを回避するため、会社はまず退職勧奨によって辞めさせようとするでしょう。
しかしあくまでも勧奨なので労働者はこれを拒むことができます。
労働者が退職することを拒否しているのに執拗に退職勧奨が続いた結果退職するに至った場合、不当解雇となる可能性があります。
たとえば、次のようなケースはもはや退職強要となり、これによって被った精神的苦痛等は損害賠償の対象ともなり得ます。
本来は会社都合退職なのに、いつの間にか自己都合退職にされるケースがあります。
たとえば、「〇〇さんの経歴に傷がつかないためには自分で辞めたほうがいいよ」などと言われ、退職届や退職願を提出させられるケースです。
本来、労働者にとっては退職しない方がメリットがあるにも関わらず、会社が退職した方がメリットがあるように労働者を誤認させて労働者に退職届や退職願を提出させたのであれば、会社都合退職と認定される可能性があります。
退職届や退職願は、退職を法的に成立させるために必須の書類ではありませんが、特に退職届は自分の意思で退職した証拠として扱われてしまい、後で覆すのが難しくなります。そのため、退職届や退職願の提出には慎重になるべきです。
もっとも、すでに退職届などを提出してしまったという場合でもその有効性を争う等対処法があるので、あきらめる必要はありません。
では会社都合退職であるにもかかわらず自己都合退職とされてしまった場合、どのように対処すべきでしょうか。
まずは当該会社都合退職の理由が解雇である場合、当該解雇が有効であるかどうかを判断する必要があります。
そして、解雇の有効性が疑われる場合には、解雇の有効性を争って復職を求めることもできますし、復職までは求めずに退職理由を自己都合退職から会社都合退職に変更するように交渉することもできます。
解雇の有効性を争ったり、退職理由の変更を求める際に、労働者が会社に提出した退職届が自己都合退職であることを裏付けるものとして労働者にとって不利益な証拠として用いられる可能性は高いですが、その場合でも対処法がある場合もあります。
以下で、具体的に説明します。
解雇の有効要件として、労働契約法第16条では、
退職理由が解雇であれば、一般的には会社都合退職にあたります。
ところが、会社から、労働者の責任による解雇であるため、自己都合退職であると主張される場合があります。このように当事者で退職理由について認識に齟齬が生じた場合には、労働基準監督署や弁護士など客観的な判断をしてくれる相手に相談しながら交渉するべきです。
交渉等により自己都合退職から会社都合退職への変更が認められ、離職票の理由記載欄にも変更を得られると、次の転職に向かってすすみやすくなるでしょう。
退職届を提出した経緯として、以下のような事情があれば退職届の無効を主張できる可能性があります。
こうしたケースでは、会社の行った行為が脅迫・暴行・強要といった犯罪にあたる余地があるため、会社に対する損害賠償請求が認められる可能性もあります。
ただし法律上、退職届の無効が認められるのは容易ではないため、法律の専門家である弁護士へ相談することをお勧めします。
また、ハローワークに対して異議申立てをすると、事実関係の調査を経て、会社都合退職に値する一定の理由があったと判断される場合もあります。
そのような判断に至れば、失業給付を受給する上で労働者にとって有利になるため、ハローワークへの申立てを検討することは有益でしょう。難しい場合は弁護士へ相談することをおすすめします。
労働者にとって、退職理由を自己都合退職から会社都合退職に変更するメリットは、主に経済的な部分にあります。
① 失業給付の金額・期間が有利になる
具体的には、自己都合退職の場合には3か月間失業給付を受け取れない(※)ため、失業給付を当面の生活費に充てることができません。
(※令和2年10月1日以降に離職した方は、正当な理由がない自己都合により退職した場合であっても、5年間のうち2回までは給付制限期間が2か月となります)
他方、会社都合退職ならば7日後に給付されるため非常に有利です。また、給付期間も自己都合と比べて会社都合退職の方が長いため、トータルで受け取れる失業給付金額が会社都合退職の方が多く、安心して転職活動に専念できるでしょう。
② 国民健康保険税で優遇される可能性がある
また、会社都合退職の場合は、自己都合退職の場合と違い、国民健康保険税においても優遇される可能性があるため、納税額を抑えることもできます。
デメリットは、転職活動のリスクと負担の問題です。
前職を辞めた理由が会社都合退職だった場合に、採用担当者の不安材料になる可能性は否定できません。倒産や経営不振など明確に答えられる理由があれば大きな問題にはなりませんが、質問に対する対策は必要となります。
会社と争う期間や労力も要するため、ご自身や、場合によってはご家族の負担も生じます。
ご自身のケースで会社と争うべきか、どう対処するのが適切なのかは、弁護士へ相談して決めるとよいでしょう。どの対処法を取る場合でも、弁護士のサポート弁護士のサポートを受ければ負担は大きく軽減されるはずです。
退職理由は主に社会保障の面に影響があり、退職後の生活にもかかわってくる問題です。
納得のいかない理由で退職に追い込まれたにもかかわらず、自己都合退職として処理されたのであれば、まずは当該退職理由が解雇に当たるのかを検討してみましょう。
検討の結果、退職理由が解雇に当たるのであれば退職理由の変更を求めることができます。また、解雇に当たる場合には、当該解雇が有効であるか、適切な手続が行われたのかを確認しましょう。不当解雇が疑われる場合には、解雇の撤回や損害賠償を求めることも可能です。
ただし、退職理由が解雇に当たるかどうか、不当解雇かどうか、損害賠償請求が認められるかどうかの判断は、法律知識がないととても難しいです。
また、会社と争うことが必ずしもご自身にとって最適な方法となるわけではないため、弁護士へ相談してから行動を起こすのが望ましいでしょう。
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