有給休暇を取得しようとする場合に悩むのが有給休暇の申請理由です。会社によっては、有給休暇を取得する際に詳しい理由を尋ねられたり、理由によっては有給休暇の取得を認めてもらえなかったりするところもあるようです。
本コラムでは、そもそも、有給休暇の申請理由を会社に伝える義務はあるのかどうかから、申請理由によって有給休暇の取得の可否を判断することは違法ではないかという点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
有給休暇とはどのような制度なのでしょうか。
また、有給休暇を取得する場合にはどのような理由で取得すればよいのでしょうか。
有給休暇とは、正式には「年次有給休暇」といい、文字通り会社を休んでも給料が支払われる休暇日のことをいいます。労働者が心身の疲労を回復して、ゆとりのある生活を送ることができるよう法律上認められている休暇です。
有給休暇は、以下の要件を満たした場合には当然に発生する権利です(労働基準法39条1項)。
この条件を満たした場合には、6か月間継続勤務した翌日に10日間の有給休暇が付与されます。
● 1年半以上継続勤務した場合
そして、1年半継続勤務した場合には、1日加算した11日の有給休暇が付与され、2年半継続勤務した場合には、さらに1日加算した12日の有給休暇が付与され、3年半以降は1年ごとに各2日加算した有給休暇が付与されます。
この加算年数は20日(6年半継続勤務後)になるまで認められます。(以上「労働基準法39条2項」)
● 1年度内に有給休暇を取得し切れなかった場合
なお、1年度内に有給休暇を取得し切れなかった場合、時効により2年間で消滅することになっているので(労働基準法115条)、逆に言えば、次年度までは繰越しが可能ということになります。
● 「会社に有給休暇の制度がない」は認められない
有給休暇は、法律上当然に認められる権利ですので、「会社に有給休暇の制度がない」という理由では、労働者からの有給休暇の取得を拒むことはできません。
有給休暇を取得する際にその理由を明らかにすることを求める会社も多いようです。
しかし、法律上、労働者が会社に有給休暇の申請理由を伝える義務はありません。
有給休暇は、労働者に与えられた権利ですので、理由の内容を問わず労働者からの有給取得申請があった場合には、使用者はそれを認めなければならないのが原則です。
理由を提出しなければ有給休暇を認めないという制度は、労働基準法に照らして違法となります。なお、使用者に対しての罰則もあり、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑」となっています。
労働者の側から有給休暇申請をしたとしても、以下のようなケースでは、希望した時期に有給休暇を取得することができなかったりする場合があります。
労働者が有給休暇の取得申請をしたとしても会社側が「時季変更権」を行使した場合には、労働者が希望する時期での有給休暇取得は認められません。
で判断されます。
たとえば、繁忙期に有給休暇の取得申請があった場合や複数の労働者から同じ時期に有給休暇の取得申請があった場合に、代替要員確保の努力をしたが困難であるといった事情がある場合には、会社側の時季変更権が認められる可能性がでてきます。
取得時期を変更できるだけで、有給自体を拒むことはできない
ただし、時季変更権は、あくまでも有給休暇を取得する時期を変更することができる、ということに過ぎません。
したがって、労働者が希望した有給休暇を取得すること自体を拒むことができるというわけではありません。先ほども述べましたが、会社が有給休暇の取得自体を拒むことは違法です。
また、会社が、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して年5日有給休暇を取得させないというケースも違法です。ご自身がどのくらい有給休暇をとれているかも確認してみましょう。
使用者と事業場の過半数代表が有給休暇を与える時季について労使協定を結んでいた場合には、使用者は、労使協定に基づいて、有給休暇を与える時期を指定することが出来ます。この制度のことを、計画年休と呼びます(労働基準法39条6項)。
有給休暇を取得する際には、法律上は、理由を伝える必要はなく、「私用のため」という理由でもよいとされています。ここでいう「私用」とは趣味や旅行など個人的な用事でなくても構いません。結婚式やお葬式、家族の用事、病院へ行く、公的な手続きを行う、などはすべて「私用」であると考えられています。
有給休暇を取得する際には、会社に理由を伝える必要はありませんし、会社から理由を求められたとしても単に「私用のため」と伝えればよいです。(「私用のため」と伝えても、会社が納得せずしつこく理由を聞かれても、申告する義務は一切ありません。)また、私用の理由を言わないと有給を取得させてもらえないような場合は、違法となる可能性があります。
しかし、実際には、有給休暇の取得理由が不要であるということに理解のない上司もいます。「私用のため」だけでは納得してもらえない、という場合には、4章を参考に取得理由を上司に伝えましょう。
なお、虚偽の理由で有給休暇を取得したとしても、有給休暇が無効になるということはありません。
しかし、懲戒処分の対象になる可能性もありますので注意が必要です。
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