大企業が早期退職者を募集するなど、バブル世代ともいわれる50代を対象にしたリストラが、大企業でも加速しています。
50代は子どもの教育費や老親の介護費用、老後資金の準備など、経済的な悩みが多い時期です。そんな中、突然リストラをされてしまったら、転職や起業をするといっても条件はなかなか厳しく、不安も大きいでしょう。
そこで、本コラムでは会社から退職勧奨されたり、突然の解雇を言い渡されたりしたときの対処法、不当解雇の判断基準、不当解雇を争う場合の手続きの流れ、解決金などについて、お伝えしていきます。
近年、消費税の増税や消費低迷などの影響により、早期・希望退職者を募集する会社が増加しています。
東京商工リサーチの調査によると、令和3年1~3月に早期・希望退職者を募集した上場企業は41社で、前年同期23社の約2倍にもなっています。今後も、企業の規模や業種を問わず、退職勧奨や解雇などのリストラは増加していくものと予想されます。
では、50代でリストラされそうなときは、どのように対処すれば良いのでしょうか。
本章では、退職勧奨をされた場合の対処方法や、解雇に納得がいかない場合の初動の注意点についてお伝えします。
「退職勧奨」とは、いわゆる「肩たたき」と呼ばれるもので、会社から「辞めてくれないか」とすすめられることです。
会社が従業員を一方的に解雇する場合、30日前に解雇予告(労働基準法第20条1項)をしなければならない、など法的な規制があります。
また、解雇事由については「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です(労働契約法第16条)。
解雇は従業員の生活に大きな影響を与えるので、法的に高いハードルが設けられているのです。そのため、まず法的な規制が解雇より緩い「退職勧奨」をして、人員削減を推し進めようとする会社もあるのです。
しかし退職勧奨には強制力がないので、従業員がこれに応じる義務はありません。
また、しつこく勧奨を続けたり、「クビにするぞ」と脅したり、不当な配置転換などの嫌がらせをされたりする場合には、「退職強要」となります。
退職強要は、不法行為として慰謝料を請求することも可能な場合があります。
会社から解雇されそうな場合や解雇予告をされた場合には、会社に対して「解雇理由証明書」を請求しましょう。
請求を受けた会社には、解雇理由証明書を交付する義務があります(労働基準法第22条)。解雇理由証明書が交付されず、その後、労働審判などになった場合には、会社が明確な解雇理由を示すことが出来なかったものと考えられ、交付されなかった事実が従業員にとって有利な事情となります。
交付を求めるという意思表示の内容を立証できる証拠として提出できるよう、内容証明郵便で請求しましょう。それが難しい場合には、文書または電子メールなど証拠が残る形で請求することをおすすめします。
解雇を言い渡されたとしても、不当解雇であれば、交渉や労働審判などの法的手続きにより、解雇の撤回を求めることができます。
そのためにも、解雇されることに納得がいかない、その会社で働き続けたいと思う場合には、その旨をはっきりと会社に伝えましょう。
解雇予告手当や退職金を受け取ったり、会社に言われるまま退職届を提出したり、出勤しなかったりなど、退職を認める行為は避けなければなりません。
退職勧奨を受けていた場合には、合意退職(労働契約の合意解約)とされるおそれがあります。
50代で退職勧奨を受けてしまい今後の生活が不安、という場合には、そのまま退職を受け入れるべきではありません。
会社に残りたい場合には撤回を、そうでない場合には妥当な解決金を求めて行動をするべきです。
本章では、行うべきことについて解説します。
「解雇理由証明書」や「解雇予告通知書」を確認し、書かれていることが事実であるか、法律上有効であるかを確認します。
なお、先にも述べましたが解雇の無効を求める場合には、解雇予告手当や退職金の請求・受領(ずりょう)、有給休暇買い取りの申請などは行わないようにしましょう。
いずれにしても交渉によって解決を図ることができれば、法的手続きによる解決に比べて、時間や手間、費用を抑えられます。
「会社が交渉に応じてくれない」、「解雇の撤回を認めない」、「提示された条件に納得できない」など、交渉による解決ができない場合には、労働審判を申し立てることも解決策のひとつです。
労働審判では、1名の裁判官と2名の審判員が立ち会い、当事者の話し合い(調停)による解決を図ります。原則として3回以内で終了するので、早く解決することが期待できます。
また、労働審判の調書は裁判の判決と同じ効力があり、合意した未払い賃金や退職金の支払いなどがない場合は、強制執行(差し押さえ)が可能です。
交渉や労働審判の結果に納得できない場合や未払い賃金だけでなく慰謝料を請求したい場合、会社側が、解雇が有効だと強固に主張している場合には、不当解雇について徹底的に争うために、民事訴訟(労働裁判)を検討すべきでしょう。
① 会社側も弁護士を付けてくる可能性が高い
不当解雇を裁判で争って敗訴した会社は、未払い賃金だけでなく、高額な解決金や慰謝料も支払わなければなりません。
そのため会社側も弁護士を付けて、徹底抗戦してくる可能性が高いでしょう。
証拠を元に法的に戦う必要がありますので、必ず弁護士と相談して対策をとりつつ、裁判に臨むことが必要です。
② 裁判になると長期化するケースが多く、職場復帰は難しい
裁判は提訴から判決まで半年~1年以上かかるケースが多く、現実的には会社に復帰するのは難しいでしょう。
労働者側も「裁判までして争った企業でこれ以上働く気は起きない」という方が多く、会社から解決金や慰謝料を支払ってもらい、そのまま退職となるケースが一般的です。
会社と交渉するにしても裁判するにしても、その間、賃金がなくなり、生活に不安が生じることは間違いありません。
この場合には、ハローワークに行き「失業保険の仮給付」を申請しましょう。
退職したわけではないので、失業保険を申請することはできませんが、仮給付なら会社と不当解雇を争っている場合でも、申請可能です。
また、会社との係争が終わった後、給付金を返還しなければならないケースもありますので、その点、注意が必要です。
なお、健康保険に関しては、会社が健康保険組合に「被保険者資格喪失届」を出してしまうと、利用することができなくなります。
不当解雇と認める判決や審判が出された場合には、解決までに自分で支払った医療費を取り戻すことが可能です。
前述した通り、解決金や慰謝料を支払ってもらい、そのまま退職となるケースが一般的ですが、「解決金の相場はいくら?」「退職金はどうなるの?」と気になる方も多いでしょう。
あくまで一般論ではありますが、以下の通りです。
不当解雇の解決金には、解雇から解決するまでの未払い賃金に加えて、退職金の上乗せ分や解雇前後のトラブルに対する慰謝料なども含まれることがあります。
あくまでも参考ですが、解決金の相場は賃金月額に換算すると数か月から1年分程度となるケースが多いようです。もちろん、人によっては相場以上になるケースも、相場以下になるケースもあります。
「この解決金は適正額か」ということは、ご自身では判断することは難しいでしょうから、疑問に思ったら弁護士に相談してみると良いでしょう。
今の会社との不当解雇問題に決着がつき、50代で別の会社に転職したとしても、新たな会社での在籍年数が短くなってしまうため、十分な退職金を得ることができないことが予想されます。
実際にいくら退職金が出るのかは、会社の規定によって異なりますので、一概には言えません(退職金の制度自体がない会社もあります)。
ですが、退職金制度がある会社の場合、不当解雇であることが立証できれば、有利な条件で退職でき、退職金の上乗せを要求することができるケースもあります。
50代となると、退職金を老後資金のあてにしている方も多いでしょうから、不当解雇を争う際に「退職金の請求をどうするか」という点についても、弁護士としっかり相談しておくと良いでしょう。
以上、不当解雇をされた場合の対処法について解説してきました。
とはいえ、会社との交渉や労働審判などにひとりで立ち向かうのは大変難しいことです。
子育てや介護などで時間がない、今後の人生のために適切な解決金を得たいといったプレッシャーがある場合は、なおさらでしょう。
そこで本章では、弁護士に相談した場合の具体的なメリットを解説します。
弁護士なら、解雇の有効性について法律知識に基づいて判断できます。
加えて、会社との交渉の仕方、証拠の集め方などについて、適切なアドバイスをすることも可能です。
労働者個人では会社が交渉に応じてくれなかったり、知識不足につけこまれて丸め込まれたりするおそれがありますが、弁護士なら必要以上に譲歩することなく、有利に交渉を進めることが期待できます。
弁護士が会社と交渉することで、解雇が撤回される可能性も高くなるでしょう。
また、会社に復帰をしない場合でも、未払い賃金だけでなく、退職金の上乗せ、慰謝料の支払いなども請求可能です。有利な和解金を得ることで、退職後、安定した生活が期待できるでしょう。
弁護士は、労働審判や民事訴訟などの法的手続きをした場合、必要な書類の準備、勝訴の可能性や解決時期、獲得できる解決金などについて見通しや意見を教えてくれます。
会社側が弁護士を付けて反論してきた場合でも、こちら側も法的な見解・証拠を元に対処することができます。
まずは自分の置かれている現状を包み隠さず全て伝えましょう。
どんな状況にあるのか弁護士が把握することは、今後の方針を考える上で、非常に大切なことです。
また、今後の手続きの流れ、交渉を依頼した場合や法的手続きとなった場合の弁護士費用、解決までの期間、獲得できる解決金額の相場などについても、契約前に遠慮なく質問しておくべきです。
弁護士に相談する場合には、次のような証拠を準備しておくと、より充実した法律相談を受けることができるでしょう。証拠を元に、より深い話がしやすくなります。
もちろん、前述したような証拠が現在手元にない場合でも弁護士に相談して構いません。
勤務体系や会社の状況により、どんなものが証拠になるのかは異なりますので、弁護士が話を聞いた上で、証拠の集め方からアドバイスします。
また証拠をそろえるのが難しい場合、弁護士から会社に対して開示請求を行うこともできます。
法律で、「使用者(会社)は、労働者名簿・賃金台帳や労働関係に関する重要な書類を5年間(当分の間は3年間です。)保存しなければならない」と定められていますので、タイムカード等の勤務記録の開示を求めることが可能です。
会社が従業員を解雇するハードルは高く、簡単に解雇することは認められません。
不当解雇に対しては、労働者側からの撤回請求が可能です。
50代での解雇・リストラとなると、老後や今後の生活への影響が大きいでしょうから、ひとりで悩むのではなく、できるだけ早い段階で弁護士に相談するのが最善策です。
不当解雇問題の解決は、実績豊富なベリーベスト法律事務所にお任せください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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