上司から「あなたに、この仕事は向いていないんじゃない?」などと繰り返し迫られたら、精神的に追い込まれてしまう方は少なくないでしょう。中には自ら退職することを考える方もいるかもしれません。
このように、解雇を通告するのではなく、ダメだしや嫌みを繰り返す、理由もなく仕事の内容を減らす、無視する、などの行為で、労働者を精神的に追い詰めて自ら退職させるのが「追い込み退職」です。
あくまで労働者の自主退職を促す行為のため、解雇はしたいものの不当解雇の訴訟トラブルを回避したい会社によって都合よく利用されることがあります。
本コラムでは、追い込み退職のよくある手法を紹介しながら「追い込み退職は違法行為なのか、追い込み退職をされたら損害賠償請求は可能か」など、労働者が知っておくべき法律知識を弁護士が解説します。
追い込み退職とは、具体的にどのような行為を指すのでしょうか。
追い込み退職の概要とよくある手口を解説します。
① 退職勧奨自体は、必ずしも違法ではない
まず前提として、雇用上のミスマッチから上司が部下に退職をすすめること自体は必ずしも違法行為ではありません。労働者の意思を尊重する形で退職するよう説得し、最終的に退職するかどうかは労働者に自由に決めさせる行為に関しては、法律上問題はありません。
このように、会社が労働者に対して、自発的に退職をするよう説得することを、「退職勧奨」といいます。
② 行き過ぎた退職勧奨は、違法になる可能性がある
一方、追い込み退職とは、嫌がらせやいじめ、言葉による攻撃など、いわゆるパワーハラスメント(パワハラ)に該当するような行為によって労働者を精神的に追い詰め、自ら退職をするように仕向ける行為です。
つまり追い込み退職とは、パワハラ型の退職勧奨ともいえるでしょう。
このように、労働者を精神的に追い詰めるような行き過ぎた行為は、退職するか否かの判断に関して労働者の自発的な意思を阻害するため、違法になる可能性があります。
追い込み退職が「違法な退職勧奨」にあたるかどうかの線引きは、具体的にどのような行為がどの程度あったかによって判断されます。
追い込み退職の手口はさまざまですが、主に次の3つのタイプに分類されます。
たとえば、以下のような行為が該当します。
など
など
など
会社はなぜ解雇ではなく、労働者を追い込んでまで自己都合退職という形にしたいのでしょうか。
まず、会社側として、有効に解雇をすることが簡単ではないということが挙げられます。
解雇とは、会社が一方的に労働関係を解消することです。
解雇は、労働者の生活や経済状況に大きな影響を与えるため、有効に解雇をするためには、厳しい要件が課されています。
有効に解雇を行うための要件について、労働契約法第16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。
たとえば「病気やケガによって就業が不能になった」「仕事の遂行能力が不足している」「体調不良による欠勤が続く」「あいさつしないなど勤務態度が不良」などといった事由があったからといって、直ちに有効に解雇ができるというわけではありません。
能力不足や勤務態度を理由とする場合であっても、著しい能力不足や勤務態度不良が認められ、改善の余地がなく、解雇することがやむをえない場合にのみ、有効に解雇をすることができます。
このように、労働者が働く権利は法律で守られており、会社はそう簡単に労働者を解雇することはできないのです。
「客観的に合理的な理由」がなく、「社会通念上相当である」と認められない解雇は、不当解雇として訴訟トラブルに発展すれば、労働者から会社に対して労働者としての地位の確認や、金銭的な請求がされることになります。
その結果、不当解雇として解雇が無効となれば、会社には解雇後の賃金の支払いが命じられ、それが相当高額になる可能性もあります。
このようなリスクを回避するため、会社は解雇ではなく自主退職に追い込むという手段を用いるのです。
しつこく退職を迫るなどの手口で労働者が退職に追い込まれた場合、労働者は会社に対して損害賠償を請求することができます。
では、実際にどのような場合に損害賠償の請求ができるのでしょうか。損害賠償の可否を判断する基準について解説します。
「1」で述べたように、退職勧奨とは、会社から労働者に退職を勧めつつ、退職の最終判断は労働者の自発的な意思にゆだねる行為です。労働者はこれに応じて会社を辞めることもできる一方、拒否して勤務を継続することもできます。
しかし、退職勧奨が執拗(しつよう)に行われたような場合は、社会的相当性を逸脱した態様でなされた「退職強要」として、違法行為とみなされるケースもあります。
具体的な裁判例をみていきましょう。
① 日本航空事件(東京地裁平成23年10月31日)
労働者が文書で明確に自主退職を拒否した後にも、長時間の面接や、「いつまでしがみつくつもりなのか」「辞めていただくのが筋です」「懲戒免職になった方がいいのか」など、強く直接的な表現を用いた退職勧奨が行われたことから、違法な退職勧奨と判断されました。
② 下関商業高校事件(山口地裁下関支部昭和49年9月28日)
市の教育委員会の担当者が、退職をしない旨明らかにしている教諭らに対し、それぞれ10回以上も教育委員会への出頭を命じたこと、長時間におよぶ退職勧奨を繰り返したこと、退職するまでは勧奨を続ける旨の発言を繰り返し、心理的圧迫を加えたことなどから違法な退職勧奨と判断されました。
追い込み退職が不当な退職強要にあたる場合、会社に対して損害賠償の請求をすることができます。もっとも、損害賠償請求のために訴訟をすることとなった場合には、十分な証拠がなければ請求は認められません。
そこで、退職前に以下のような証拠を集めておきましょう。
① メモ・日記などに行動を記録する
繰り返し追い込み退職されている状況をメモに残しておくと、有利な証拠になる可能性があります。
メモを残すに当たっては、いつ、どこで、誰に、何回、何をされた(いわれた)のか、会社側からされた行為やそのときの状況はすべてできる限り具体的に残すようにしましょう。
② 音声録音
口頭による退職勧奨が行われている場合には、ボイスレコーダーなどを使って録音をしましょう。会社での会話を無断で録音することに抵抗があるかもしれませんが、このような場合の録音は原則として違法な証拠とはなりません。
ご不安な場合は事前に弁護士に相談することをおすすめします。
退職前、退職後にかかわらず、退職を迫られたと感じたら、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
適法な退職勧奨にとどまるのか、違法な退職強要にあたるのかは、判断が難しいケースもあります。
弁護士であれば、会社のやり方が法的に問題ないのか、状況から的確に判断できます。
また、しつこい退職勧奨に対する対処法や、有効な証拠の集め方など、今後の交渉に有利となる専門的なアドバイスを受けることも可能です。
また、未払いの賃金や残業代があれば、あわせて弁護士に相談しましょう。
未払い残業代の算出はもちろん、残業代請求に当たってのアドバイスも受けられます。
未払い賃金や残業代として適正な金額が得られるようであれば、つらい職場は辞めて転職しようという前向きな気持ちになるかもしれません。
弁護士に相談することで、自分にとってどのような選択肢が望ましいのか、冷静に考えるきっかけになるでしょう。
無視する、ダメだしを繰り返す、仕事の内容を減らすなど、パワハラに該当するような行為によって退職に追い込む「追い込み退職」は、違法行為にあたります。
会社がしつこく退職を迫ってくるなど、不当な追い込みによる退職強要でお困りなら、労働問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にぜひご相談ください。
パワハラ型の退職勧奨に対する対処法や、有効な証拠の集め方など具体的な対策をアドバイスし、問題解決に向けて尽力いたします。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を