支払われるべき賃金が支払われていない場合、労働者には、労働時間や証拠をもとに未払い賃金の額を算出し、その支払いを請求する権利があります。
しかし、請求したくとも、その具体的な方法や対象となる賃金、有効な証拠の集め方など、分からないことも多く悩んでいる方もいるのではないでしょうか。また、請求はしたものの会社が応じないために、途方に暮れている方もいるかもしれません。
どのような理由であれ、正当な賃金が支払われないことはあってはなりません。本コラムでは、未払い賃金の支払いを請求する際の流れや、請求の対象となる賃金、内容証明書の書き方などについて、弁護士が詳しく解説します。
給与や残業代の未払いは、違法な行為です。下記に詳しく解説します。
労働基準法第24条は、賃金について、
支払われなければならないと定めています。
これは「賃金支払いの5原則」と呼ばれ、労働の対価として賃金は必ず支払わなければならないことを前提に、その支払い方法を定めたものです。
また、同法第37条は、使用者が労働者に時間外労働(原則として1日8時間・週40時間を超えた労働)をさせた場合や、休日および深夜に労働させた場合において、割増賃金を支払わなければならないと定めています。
なお、割増賃金の額は、家族手当、通勤手当等を除いた(同第5項)「通常の労働時間または労働日の賃金」(同第1項)をもとに算出されます。
① 「賃金」の対象
労働基準法第11条は、「賃金」の意味を、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定めています。
基本給など、毎月定期的に支払われる賃金はもちろん、下記も「賃金」に含まれます。
② 賞与やボーナスなどの一時金の場合
そして、賞与やボーナスなどの名称の一時金であっても、就業規則や労働契約書で支給条件の定めがあり、支払いの有無や支払額が使用者の裁量によって決められるものでなければ、「賃金」に該当する可能性があります。
③ 退職金など、使用者の裁量によって支払いが決まる場合
また、退職金も、支払いの有無などが使用者の裁量によって決まる場合は、恩給的なものに過ぎないので「賃金」に該当しませんが、就業規則などで支給条件が明確に定められている場合は、「賃金」に該当する可能性があります。
④ 「賃金」に該当するかどうか迷ったら弁護士に相談してみよう
使用者が労働者に支払う金銭が「賃金」に該当するかどうかは、就業規則などに定めがあるか、労使慣行や労使の合意により支払い条件が明確にされているか、といった視点で判断されます。
どこまでが請求の対象か悩んだら、まずは労働問題の経験が豊富な弁護士に相談してみることをおすすめします。
以下は、未払い賃金を請求するための主な方法です。
以下で、順番にご説明します。
まず、未払い賃金が発生しているという証拠を収集します。会社との話し合いや労基署への申告、弁護士への相談の際にも、証拠は重要となります。
何が証拠となるのかについては、詳しくは3章で解説いたします。
次に、話し合いの場を設けるよう会社にはたらきかけます。
直属の上司への相談が難しければ、人事部に相談しましょう。
しかし、短期解決のためには円満な話し合いが望ましいものの、個人対会社のやりとりでは、会社を話し合いのテーブルにつかせることさえハードルが高いものです。
会社との話し合いが困難な場合、未払い賃金の支払いを求める書面を内容証明で送付することも検討しましょう。内容証明による支払請求は民法上の「催告」に当たり、支払請求権の消滅時効の完成を6か月間阻止することができます。
ただ、それでも会社が請求に応じない場合には、この6か月の間に、労働審判の申立てや訴訟提起などをする必要があります。
賃金が支払われない場合、労働基準法違反として労働基準監督署に申告することも可能です。労働基準監督署とは、厚生労働省の組織であり、賃金不払いや不当解雇などに関する相談を無料で行っています。
ただし、違法性が認められた場合であっても、労働基準監督署が行うのは、原則として、会社への指導や是正勧告です。未払い賃金の支払いを会社に強制する措置を行うことはできません。
このように、賃金未払いへの対策はいくつかありますが、会社が支払いに応じるとは限りません。また、会社に対する未払い請求を法律知識の乏しい個人で行うことはハードルが高く、時間や精神的負担が大きいケースも少なくありません。何より、労働問題を個人で解決することは、精神的負担が大きいものです。
早期に信頼できる弁護士に相談することで、賃金未払いの対象である労働時間の特定、証拠集め、内容証明書の手続き、会社への代理交渉など、多くの事柄が問題解決に向けてスムーズに進むことが期待できます。
ひとりで悩まず、賃金未払いなどの労働問題に知見のある弁護士へ相談することも、ひとつの有効な手だてです。
賃金の未払い請求における立証責任は労働者側にあります。
会社と話し合いをする場合は勿論、労働基準監督署に申告する、労働審判や裁判などの法的措置を講じるといった場合にも、未払い賃金があるとの認定をする根拠、つまり証拠が必要です。
証拠の種類には、たとえば次のようなものがあります。
これらの書類が残っている場合は、コピーを取るなどして、手元に残しておきましょう。
証拠が書類で残っていない場合には、以下のようなものも証拠となる可能性があります。
複数の証拠を組み合わせることで、残業や賃金未払いが証明できる場合もあるので、できる限りの書類をそろえましょう。
内容証明の作成方法や書き方のポイントを解説します。
以下は基本的な記載項目です。
未払い賃金の計算をするためタイムカードなどの労働時間がわかる書類が必要です。手元にない場合は、会社へタイムカードなどの開示を請求する必要があります。
しかし、会社には、これらの資料を開示しなければならないという法的義務はありません。そこで、弁護士を通して開示を請求することで、開示を受けられる可能性が高まります。
内容証明の謄本を作成する際には次のようなルールがあります。
詳しくは、郵便局のホームページにも掲載されています。
請求書は3部用意します。
郵便局の窓口へ提出しますが、集配郵便局および支社が指定した郵便局に限られます。
あらかじめ提出する予定の郵便局へ、内容証明の取り扱いがあるか確認しておくのがよいでしょう。
送付する際には書留郵便としたうえで、オプションで配達証明をつけます。
会社が郵便物を受け取った事実とその日付を証明できるので、「受け取っていない」などの言い逃れを回避できます。
法的措置としては、以下の方法があります。
請求額が60万円以下の場合、少額訴訟制度を利用することが考えられます。
通常訴訟より簡単な手続きで、1回の期日で訴訟の取り調べが終わるため、時間的な負担は少ないといえるものの、その期日で残業や未払い賃金の額を立証できなければ、請求が棄却されてしまう可能性があります。
また、会社側の申立てがあった場合や事実関係が複雑な場合は、通常訴訟に移行してしまう場合があります。
一般的に、早期解決を目指すのであれば、訴訟よりも労働審判を選択するのが相当といえます。労働審判は原則3回以内の期日で終了するため、訴訟よりも短期間で決着するためです。また、調停成立による解決にも期待できます。
ただし、付加金の請求が難しくなります。
付加金とは?
付加金とは一定の賃金の未払いが、その期間や経緯などから悪質だと判断された場合に、会社に科せられるペナルティーをいいます(労働基準法第114条)。
裁判所は、一定の未払い賃金と同額の付加金の支払いを命じることができますが、労働審判では付加金の支払い命令は下されにくい、というのが通例です。
労働審判で決着がつかない場合は、訴訟に移ります。
訴訟であれば、付加金も含めた納得できる額の金銭を獲得できる可能性があります。
ただし、決着がつくまで半年から1年、場合によっては数年の長期戦になる場合があります。また、訴訟になる労働問題は、事実関係が複雑であることが多く、会社との話し合いや労働審判をする場合にもまして対応が困難です。
ご自身で対応するよりも、労働問題に詳しい弁護士に依頼し、対応を任せるのが賢明です。
以上、内容証明の送り方や法的措置による請求方法についてご説明しましたが、
「会社に未払い請求をしたい」と思った段階で、弁護士に相談いただくのがおすすめです。
未払い請求をする場合、証拠を集め、法的な計算式に則って正確な未払い賃金の額を算出しなくてはなりません。法的に認められる証拠はどれなのか、正しい未払い賃金の額を算出できているのか、一般の方には判断が難しい上、時間もかかるでしょう。
また、たとえ証拠をそろえて未払い賃金額を算出できたとしても、個人で会社という組織相手に戦うことは、精神的な負担が非常に大きいものです。
弁護士に依頼をすれば、請求の準備や会社への対応を、依頼者の代わりに行ってくれます。
基本的にあとはお任せで大丈夫ですので、負担が大きく軽減されます。
労働者から内容証明を送っても、悪質な会社の場合、労働者の訴えを無視してくるケースもあります。
ですが、弁護士名義で内容証明を送ることにより、会社側に「弁護士が出てきた!ちゃんと対応しないとマズイ!」とプレッシャーを与えることができますので、訴えを無視される危険が小さくなります。
賃金の請求権には、2年の消滅時効があります(労働基準法115条)。そのため、動くのが遅くなればなるほど、請求できる額が少なくなってしまいます。
※なお、改正民法を踏まえ、2020年4月以降に支払われるべき賃金については、特例で、当面の間3年に延長されています。
限られた時間の中で的確な対応ができるのは弁護士だけです。
弁護士が介入すれば会社が法的な問題として公にされることをおそれ、任意の交渉に応じる可能性が高まります。法的知識をもとにした主張により、納得できる結果へつながることが期待できるでしょう。
給与や残業代の未払いはれっきとした違法行為です。ご自身やご家族の生活を守るためにも、決然とした態度で請求していきましょう。
ただし、個人で直接請求しても会社が簡単に支払うとは限りません。証拠を集め、法的な根拠をもとに的確に請求することが大切です。証拠の種類や集め方がわからない、会社との交渉に負担を感じるといった場合には弁護士のサポートを得るのがよいでしょう。
労働問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所が力を尽くしますので、まずはご相談ください。
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