ドラマなどで「お前のような無能な社員はクビだ」と言い渡されるシーンがありますが、この解雇方法は、現実では違法の可能性が高いです。
全地方裁判所が、解雇などを理由として地位確認を求めた労働審判を受けた件数(新受)は、令和6年で1661件でした。中には違法な解雇が断行されたケースもあるかもしれません。
本コラムでは「能力不足の解雇」に注目し、その対応について、弁護士が解説します。
能力不足を理由とした解雇といっても、単に他の労働者と比較して能力が低いだけなのか、それとも業務遂行に支障がある程度なのかなど、能力不足の程度によっても解雇が認められるか否かは異なってきます。
また、労働者の雇用条件や立場によっても、解雇が正当なものとして認められるのかの判断が異なってくる可能性があるため注意が必要です。
基本的に「能力不足」のみを理由とした解雇が認められるケースは必ずしも多くはありません。
会社に勤めていると、ミスを連発してしまう・期待されたノルマを達成できないといったこともありますが、これらの事情のみでは、解雇が認められるような「能力不足」とまでは認められない可能性も十分にあります。
法律上解雇が認められる程度の能力不足とは、雇用関係が維持できないほどの重大なものであって、改善の見込みがないものだと考えられており、「他の労働者と比べて評価が低い」程度であれば解雇は認められないでしょう。
労働契約法第16条は、解雇について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」について無効であると明示しています。
他の労働者と比べて業績が低いという理由だけでは、このハードルを超えることは非常に難しいため、能力不足の解雇を言い渡された場合に、その解雇の無効を主張することは十分に考えられます。

新卒採用などの一般募集における雇用では、採用時点で対象者がもつスキルや役割などを具体的に期待していないのが通常です。
採用後の教育や実務を通じて、キャリアを形成しながら能力の成長を期待するものであるため、一時的な成績不振があったとしても、それだけで直ちに「能力不足」であると認められる可能性は高くありません。
試用期間中においては、本採用にいたっていない段階なので「企業側は能力不足と感じた者を自由に解雇できる」と誤解している企業も少なくありません。
しかし、試用期間であっても、解雇に関する会社の裁量には制限が設けられていますので、そう簡単に能力不足を理由に解雇をすることはできません。
試用期間中の解雇については、こちらのコラムで詳しく解説しています。併せてご覧ください。
これまでの職務経験や資格などを生かしてヘッドハンティングされたケースのように、地位を特定して採用された場合には、一般的な採用とは別の期待をもって労働契約が結ばれていると考えられます。
このようなケースでは、期待を満たさない能力不足に対する解雇は、その他一般の従業員の場合と比べて認められやすくなる可能性があります。

能力不足を理由とした解雇が認められる事例は多くはありませんが、過去の事例を見ると裁判所は、以下の判断要素を用いて「解雇が適法か」どうか判断をしていると考えられます。
解雇理由として認められる「成績不良」とは、営業成績が悪い、作業効率が低いといったものだけを指すわけではありません。
たとえば会社に重大な損害を与える、企業経営や業務運営に重大な支障をおよぼすなどのことを指し、そのような著しい成績不良が認められた場合には、解雇が適法とされることがあります。
労働契約法16条に定められているとおり、解雇には「客観的に合理的な理由」が必要となります。
そのため、仮に能力不足が著しいと判断された場合であっても、その判断が会社の上層部や上司の感覚だけで下されたものであれば、客観的で平等な評価によるものとは言えません。
能力不足による解雇が認められるためには、前提として、労働者の能力が客観的な数字や指標によって評価されている、評価制度や目標の設定に問題はないといった、客観的で平等な評価によって判断されていることが必要となります。
労働者の能力不足が著しい場合で、改善の余地も見込めない場合は、解雇が適法とされることがあります。
ここでいう「改善の余地がない」とは、他部署への配置転換や指導・研修などの手だてを尽くしても改善されない状況を指していると考えられます。
そのため、たとえば、採用した人に全く指導をしないまま放置し、業績が上がらないから解雇したいというケースでは、まずは指導等を行うことによって改善の機会を与えるべきであり、解雇は回避すべきという判断になりやすいと考えられます。
対象となる労働者の能力不足によって、実際に業務に支障が生じ、会社に損失が出ている場合は、解雇が適法と認められやすくなります。
ある労働者ひとりの能力が不足しているとしても、企業経営や業務運営に重大な支障が生じていないのであれば、解雇という重大な処分を行うことは相当ではないと判断される可能性があります。

能力不足を理由とした場合に限らず、会社から解雇を宣告された場合にはまず「解雇通知書」と「解雇理由証明書」の交付を求めましょう。
特に、解雇をめぐって労働者と会社側とで交渉をしている中で、あるいは労働審判や訴訟へと進んだ場合に、会社側が解雇理由として当初説明していた理由とは別の理由を主張してくることも考えられます。
ですので、解雇通知書、解雇理由証明書を取得し、早い段階で会社側の言い分を確定させておくことが有益です。
不当解雇の撤回や、未払いとなっている解雇予告手当・未払い賃金などの交渉は、労働者個人では困難です。
その場合、弁護士へ依頼し労働審判や裁判を起こすといった方法を取ることが考えられますが、その際には解雇通知書と解雇理由証明書が重要な証拠になります。

また、実際には能力不足を理由として解雇されたのに、離職票に「自己都合退職」と記載されているという場合は、不当解雇に当たる可能性があるほか、失業手当の給付制限期間や受給額においても、解雇やその他会社都合退職による離職の場合と比べて不利になってしまいます。
解雇をめぐって争いになった際に、会社側が、「自己都合退職」と記載された離職票を根拠に、労働者が自分から辞めたのであるから、そもそも解雇などしておらず、労働契約法16条の解雇規制自体を受けない、という主張をしてくるおそれもあります。
そして、このような記載のある離職票を受け取って、実際には自己都合退職ではなく解雇である等の反論等もせず長期間放置していると、後から解雇を争うことが困難になることも考えられます。
40代男性・Aさんは、製造業の会社に営業職の幹部候補として中途入社しました。しかし数年後、「期待した働きができていない」として能力不足を理由に解雇通知を受けました。
解雇理由証明書には抽象的な記載しかなく、具体的な指導や改善の機会も与えられていませんでした。
弁護士が調査したところ、解雇理由には具体性や客観性が乏しく、解雇は社会通念上相当とはいえない可能性が高いと判断しました。
訴訟も視野に入れて会社と交渉した結果、裁判に至る前の段階で和解が成立し、退職と引き換えに約340万円の解決金を受け取る形で解決しました。

客観的・合理的な理由が存在しない、社会通念上相当であるとは認めがたい解雇であれば、不当解雇にあたる可能性があります。
会社から能力不足による解雇を言い渡された場合は、会社側の言い分をうのみにするのではなく、弁護士への相談を検討することが重要です。
また、不当解雇を示す証拠の集め方をアドバイスしたり、有利な退職条件を引き出すべく会社と交渉をしたり、労働審判や裁判で本人の代理人となることができます。
能力不足を理由に解雇を求められているなら、まずは解雇理由が正当なものであったのかを確認すると同時に、弁護士へ相談することをおすすめします。

会社から「能力不足」を理由にクビを言い渡されてしまうと、まず会社の期待に応えられなかった自分を責めてしまうかもしれません。
しかし、能力不足を理由とした解雇には非常に厳しい条件があり、その条件を満たして適法と認められる解雇は必ずしも多くはないのが現実です。
能力不足を理由に解雇されてしまったことが納得できないとお悩みであれば、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
不当解雇をはじめとした労働トラブルの解決実績を豊富にもつ弁護士が、全力でサポートします。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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