厚生労働省が公表している「令和4年労働争議統計調査の概況」によると、労働争議における要求事項の17.4%が、解雇反対や被雇用者の復職となっており、解雇によるトラブルが多いことがわかります。
労働契約法は解雇について厳しい制限をかけており、使用者は、いつでも自由に労働者を解雇できるわけではありません。
それでも、法律に違反する不当解雇は数多く行われているため、万が一、解雇を言い渡された際には、まずは、その解雇が不当解雇にあたらないか、しっかりと確認する必要があります。
また、仮に、解雇が有効であっても、労働基準法は使用者に対して解雇予告を義務付けており、一定の場合を除いて、使用者は、30日前に解雇を予告するか、解雇する労働者に対して一定額の金銭を支給しなければなりません。
もっとも、実際には「今日でクビだ」と一言述べられただけで、事前の解雇予告がなく、解雇予告手当の支給もされていないケースも散見されるため、仮に解雇が有効であっても解雇予告手当についてしっかりと請求すべきでしょう。
本コラムでは、解雇の基本的なルールに触れながら、不当解雇にあたるケースや、仮に解雇が有効であっても受領することのできる解雇予告手当について弁護士が解説します。
(出典:厚生労働省ホームページhttps://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/14-r04-04.pdf)
働いている会社から解雇を通告された場合、驚くとともにこれからの収入が失われてしまうという恐怖に駆られることでしょう。
もっとも、解雇は労働者の生活の基盤を奪うものであるため、法律は解雇に関する厳密なルールを定め、労働者を保護しています。
当該解雇が労働法に反する不当解雇であった場合、解雇は無効ですから、労働者は職場へ復職を求めることができますし、解雇によって働けなくなった期間中の賃金を全額請求することもできます。
解雇は、解雇事由に応じて大きくわけて3つの種類があります。
就業規則の定めに準じて、労働力の低下や成績不振、勤務状況の悪化などを理由になされる解雇です。
労働契約法16条は、
と定めており、解雇が有効となるためにはこの要件をクリアする必要があります。
① 客観的に合理的な理由とは何か?
「客観的に合理的な理由」とは、簡単にいうと、解雇されてもしかたがないような事実が存在することです。たとえば能力不足の事実等がこれに当たります。
② 社会通念上相当とは何か?
「社会通念上相当」といえるかは、上記事実があることを前提に、本人の反省の態度や過去の勤務態度、年齢等の情状面や、他の労働者の処分との均衡、使用者側の対応等に照らし判断され、解雇が過酷といえる場合には、社会通念上の相当性は認められません。
普通解雇がなされた場合には、これら2つの要件を満たしているのか具体的な事実を確認し検討することになります。
会社の経営不振や経営の合理化を理由に人員を削減する解雇で、一般に「リストラ」などと言われます。整理解雇にも上述した労働契約法16条の適用があります。
もっとも、整理解雇の有効性判断は、裁判例の集積によってより具体的な判断基準が確立されています。
具体的には、以下の4つの要素を基準に判断がなされます。
使用者はときとして、会社経営の不振を理由とした解雇を行いますが、実際は経営不振というのは解雇の口実に過ぎないこともあり、そのような場合は、上記要素が認められないでしょうから、整理解雇は無効となります。
懲戒解雇とは、企業秩序に違反した労働者に対して課される一種の制裁罰としての解雇です。
懲戒解雇されうる行為としては、経歴詐称、無断欠勤、業務命令違反、セクハラやパワハラ、犯罪行為等が考えられます。
懲戒解雇についても解雇が有効であるためには客観的合理的理由と社会通念上の相当性が求められます。
そして、懲戒解雇は懲戒処分の一種であり極めて重い処分であることから、重大な非違行為があったか、弁明の機会が与えられていたか等、その有効性の判断は普通解雇に比べ、より慎重になされることになります。
労働契約法に違反する解雇は不当解雇として無効になります。
無効となった場合、解雇はなかったこととなり雇用契約が継続していることとなるため、労働者は使用者に対して復職するための就業環境を整えるよう求めることができます。
また、解雇となって就労できなかった期間の賃金を請求することもできます。
これを「バックペイ」といいます。
「働いていないのに給料がもらえるの!?」と思われる方もいるかもしれませんが、解雇された場合、労働者が働けていないことは会社の行為に起因するものであり、労働者のせいではありませんので、労働者は賃金請求権を失わないことになります。
そのため、裁判で不当解雇ということが認定された場合、相当高額なバックペイを取得できることも多々あります。
では、解雇が有効だった場合、労働者はなにもいえないのでしょうか?
結論として、解雇が有効であっても、30日以前の解雇予告を受けていなかった場合には、解雇予告手当を請求することができます。
ここでは、「解雇予告手当」についてみていきましょう。
労働基準法第20条1項は以下の旨を定めています。
これを「解雇予告」といいます。
解雇予告の方法は、口頭で「◯月◯日をもって解雇する」と伝えた場合でも有効です。
しかし、解雇の手続きにおいては、いつ解雇予告があったのかが非常に重要なため、書面での通知が望ましいでしょう。
また、同条2項では以下のとおり定めています。
これが、解雇予告手当です。
つまり、解雇予告手当を支払えば即日でも解雇が可能です。
言いかえれば、事前の解雇予告がなく、さらに解雇予告手当の支払いもないのに「明日から来なくてもいい」と言われ解雇された場合、労働者は、解雇予告手当の請求をすることができます。
労働基準法第20条1項但し書きによると、解雇予告は、大規模な自然災害などによって事業が存続できないほどの損害を受けた場合や、労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合には、免除されます。
ただし、その場合にも労働基準監督署長の認定が必要なので、容易に免除されるものではありません。少なくとも、使用者の判断のみでこれを省略することはできません。
解雇予告手当の金額は、労働基準法の定めによれば「30日分以上の平均賃金」です。
まず確認しておくべきは「平均賃金」の計算方法でしょう。
① 平均賃金
次の計算式で算出できます。
たとえば、以下のように平均賃金額を算出することができます。
② 解雇予告手当の最低額の計算
算出した平均賃金額に、解雇予告がなされた日から実際に解雇される日までの日数を乗じれば、解雇予告手当の最低額が算出可能です。
ただし、日給・時給・出来高払いの場合等所定労働日数が少ない場合にまでこのような計算方法をとると、平均賃金額が極めて低くなる可能性があります。
そこで、次の計算式で、算出した金額が、上記計算額よりも高くなる場合は、その額が最低保証額として保証されることになります。
③ 解雇予告手当の対象外になるケース
なお、下記の条件に該当する場合は、解雇予告手当の対象外になるため注意が必要です(労働基準法第21条)。
労働基準法の定めに従わずに、解雇予告や解雇予告手当の支払いがない場合、労働者はどのように対処すればよいのでしょうか?
まず、会社から解雇に関する書類を何も受け取っていない場合、解雇されたことを明確にする証拠として解雇通知書や解雇理由証明書の発行を求めましょう。
解雇通知書が存在しないと「労働者側の都合で退職した」と反論されてしまう可能性があります。
なお、解雇通知書は、会社側が労働者に交付するべき義務を負うものではありません。
労働者からの求めがなければ、交付されないケースもあるので注意が必要です。
解雇通知書の内容をもとに解雇予告手当の金額を計算し、請求をしましょう。
請求は、会社宛てに内容証明郵便で送付します。
口頭や電話、普通郵便などで請求した場合、後々「解雇予告手当の請求は受けていない」などと、会社側から反論される可能性もあります。
そのため、通知の方法は、いつ、どのような内容で会社へ通知したのか証明することができる、内容証明郵便が最適です。
内容証明郵便を送付しても解雇予告手当の支払いがない、または支払いに向けた連絡がない場合は、管轄の労働基準監督署に出向くことをおすすめします。
労働基準監督署に相談すれば、労働基準法の違反を根拠に会社への指導・勧告がなされる可能性があります。結果として、解雇予告手当の支払いが期待できるでしょう。
ただし、労働基準監督署に相談するにあたっては、根拠となる証拠が求められます。
また、個人のトラブルに対して個別に対応はしてくれません。
証拠集めや会社との交渉などは、自身で行う必要があるという点を、留意しておくべきでしょう。
前述した通り、労働基準監督署に相談したとしても、必ずしも個人のトラブルに対して個別に対応してくれるとは限らず、解決が期待できない場合もあります。
そのため、解雇された場合には、まずは弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士に相談すると、以下のようなメリットがあります。
これまで述べてきたように、不当解雇であれば、バックペイを請求することができますし、仮に解雇が有効であっても、適法な解雇予告がなされていなければ解雇予告手当の請求をすることができます。
そのため、まずは自分がおかれている状況を正しく判断する必要がありますが、解雇の有効性判断は法的問題であり、一般の方では容易に判断することができません。
労働事件の経験が豊富な弁護士に相談すれば、自分が置かれている状況を正しく判断することができます。
解雇を取り巻く問題は複雑ですから、自分だけで判断することはせず、弁護士からアドバイスを受けるほうが賢明でしょう。
弁護士に依頼すれば、不当解雇を証明するために必要な証拠について、どのような証拠を集めるべきか有効なアドバイスがもらえます。
不当解雇を証明するために有効とされる証拠については、会社側が保有しているものも多く、すでに解雇されている方であれば証拠の収集が困難というケースもあるでしょう。
証拠がそろわない場合や会社側が提出を拒む場合は、裁判所に証拠保全手続きの申し立てを行うこともあります。
弁護士と委任契約を締結すれば、弁護士が代理人として、会社との交渉や、裁判に発展した場合の訴訟追行も行います。
労働問題のなかでも、解雇はとりわけ争いに発展しやすい問題です。
解雇されるまで雇い主であった会社という組織と、個人が交渉することは、精神的な負担も大きいでしょう。
弁護士が代理人を務めることで、精神的な負担が軽減されるのはもちろんのこと、大ごとにしたくない会社側が交渉に応じることも期待できます。
ドラマなどでは「もうクビだ! 明日から出社しなくてもいい」などと、急な解雇の場面が描かれることもありますが、実際には事前の予告義務が労働基準法によって定められています。法律によって守られている労働者の権利を無視した解雇は、不当解雇にあたります。
解雇予告手当の支払いがない、突然解雇されたなどのトラブルに見舞われた方は、まず弁護士へ相談することをおすすめします。
不当解雇や解雇予告手当の不払いにお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。労働問題の解決実績が豊富な弁護士が、不当解雇に関するトラブルにお悩みの方を強力にサポートします。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を