「定年後も働いてほしいが、給与は6割になる」と言われたら、不安になる方は多いのではないでしょうか。
厚生労働省の令和7年「高年齢者雇用状況等報告※」によると、65歳までの雇用確保措置を実施している企業は99.9%でした。そのうち65.1%の企業が、継続雇用制度を導入しています。
定年退職後の再雇用は広く行われていますが、賃金の減額割合によっては生活への影響が大きくなるおそれもあります。
本コラムでは、再雇用での給与減額が違法になりうるケースや相談先・利用できる給付制度などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
出典:「令和7年高年齢者雇用状況等報告」(厚生労働省)
定年後の再雇用で給与が減額されたとしても、それだけでただちに違法になるわけではありません。
再雇用では、定年前と同じ条件が続くとは限らず、仕事内容や責任・役割の変化に応じて賃金が見直されることがあります。
実際に適法かどうかは、定年前後の職務内容、責任の範囲、配置転換の有無、退職金や年金との関係、労使交渉の経緯などを踏まえて判断されます。
以下では、どのような理由や配慮があれば給与の減額が認められやすいのかを見ていきましょう。
給与減額が認められやすいのは、定年前と比べて仕事内容や責任が実際に軽くなっている場合です。
たとえば、以下のような事情があれば、賃金差に一定の合理性が認められる可能性があります。
再雇用後に賃金の見直しが行われること自体は不自然ではありませんが、重要なのはあくまで実態です。単に「再雇用だから減額する」というだけでは足りず、実際に仕事や責任・働き方がどう変わったのかが問われます。
再雇用後の給与減額が適法かどうかを考えるうえでは、会社に相応の配慮があるかも重要です。
たとえば、退職金の支給・年金との接続を意識した調整給・労使交渉の経緯などは、裁判でも考慮される事情になりえます。
また、会社が労働者に対して、なぜその金額になるのか、定年前と何が違うのかをきちんと説明しているかも重要です。
説明されていれば適法になるわけではありませんが、待遇差の内容や理由を明らかにすることは、労働者の不安や不満を軽減するうえでも重要です。
もっとも、給与減額の適法性は、基本給・賞与・各種手当をまとめて判断するのではなく、それぞれの賃金項目の性質や目的に応じて判断されることがあります。
たとえば、出勤を奨励する趣旨の手当などは、定年前後で仕事内容が大きく変わらない場合、支給に差を設けることが不合理と判断される可能性があります。
このように、給与減額が違法かどうかは、金額だけでなく処遇全体を見て判断されます。実際の裁判でどのような点が重視されたのかは、次の章で具体的に見ていきましょう。
再雇用後の給与減額が適法かどうかは、一律に決まるわけではありません。
裁判では、仕事の内容や責任・賃金の性質・退職金や年金との関係などを踏まえて判断されています。
以下では、再雇用制度の給与減額が問題となった裁判の事例を解説します。
名古屋自動車学校事件は、定年後再雇用された元教習指導員2人が、仕事内容が同じなのに賃金を大きく減額されたのは違法だとして差額の支払いを求めた事件です。
「給与が6割になれば必ず違法」ではない
なお、この事件は「給与が6割になれば必ず違法」という判断を示したものではありません。
再雇用後の賃金減額が違法かどうかは、職務内容や賃金項目の性質、労使交渉の経緯などを踏まえて個別に判断されます。
長澤運輸事件は、定年後再雇用されたタンク車の運転手らが、正社員とほぼ同じ業務にもかかわらず手当や賞与に差があるのは違法だとして争った事件です。
この事件からは、再雇用後の給与減額は、賃金項目ごとの性質や会社側の配慮を踏まえて個別に判断されることがわかります。
再雇用後の給与減額が違法かどうかは、状況によって判断がわかれます。
そのため、「6割まで下がったから違法」と決めつけるのではなく、事情を整理したうえで適切な相談先に相談することが大切です。
労働問題について相談できる主な窓口として、次の4つが挙げられます。
会社との関係を良好に保ちたい場合は、まず人事課や直属の上司、事業主に相談するのが現実的です。再雇用後の給与は、制度の説明不足などによって不満や行き違いが生じている場合もあります。
「なぜこの金額になるのか」「定年前と比べて何が変わるのか」を確認するだけでも、見通しが立つ可能性があります。
とくに、給与の内訳や評価方法・役職の有無・賞与や手当の扱いは、口頭だけでなく書面でも確認したいポイントです。
再雇用後の待遇差については、会社に対して内容や理由の説明を求めることができる場合があります。会社からどのような説明を受けたかは、給与減額の合理性を考えるうえでも重要です。
その後、社外へ相談する場合
その後に社外へ相談する場合でも、会社からどのような説明を受けたか、説明内容に納得できない点はどこかを整理しておくと、相談が進めやすくなります。
社内に労働組合がある場合は、相談先として検討しましょう。
労働組合では、個人では主張しにくい待遇の問題を、会社との交渉事項として取り上げてもらえる可能性があります。
とくに、再雇用者が複数いて同じような不満が出ている場合は、個人の問題ではなく制度の問題として扱いやすくなるでしょう。
社内に組合がない場合でも、社外の労働組合に相談する方法があります。
実際に、連合(日本労働組合総連合会)では労働相談を無料で受け付けており、電話やメールによる相談が可能です。
総合労働相談コーナー
公的な窓口に相談したい場合は、全国の労働局や労働基準監督署に設置されている「総合労働相談コーナー」の利用を検討しましょう。
総合労働相談コーナーでは、賃金の引き下げを含む幅広い労働問題について、無料で相談を受け付けています。
必要に応じて労働局長による助言・指導や紛争調整委員会によるあっせんの制度を案内してもらえる場合があります。
また、労働基準法違反などが疑われる場合は、行政指導の権限をもつ部署につないでもらえます。
労働条件相談ほっとライン
夜間や土日祝日の相談であれば、厚生労働省の「労働条件相談ほっとライン」を利用するのもおすすめです。
労働条件相談ほっとラインでは、労働条件に関する不安や疑問について電話で相談できます。
法的に争うべきか迷っている場合や、会社への伝え方も含めて慎重に進めたい場合は、弁護士への相談が適しています。
弁護士であれば、再雇用後の給与減額が違法といえるかどうかについて、実態を踏まえて個別に判断できます。
また、会社との交渉の代行や、法的手続きに移行する際のサポートも可能です。
再雇用後の給与減額に納得できず対応に悩んだときは、弁護士への相談を検討しましょう。
定年後の再雇用による給与減額の影響を和らげる代表的な制度が、「高年齢雇用継続給付」です。
以下では、制度の概要と給付額の目安について順に解説します。
高年齢雇用継続給付は、再雇用後の賃金低下による負担を和らげるための制度です。
60歳以降の労働者の就業意欲を維持し、雇用の継続を支援・促進することを目的としています。
対象になるのは、主に雇用保険の加入期間が通算5年以上あり、60歳以後も働き続け、60歳到達時等の賃金月額と比べて賃金が75%未満に下がった方です。
支給要件が細かく決められているため、実際に受給できるかどうかは会社やハローワークを通じて確認することになります。
給与が6割になった場合、給付額の目安は60歳に到達した日がいつかで変わります。
なお、60歳に達した時点で雇用保険の被保険者期間が5年に満たない方は、その後に被保険者期間が5年に達した日を基準に判断されます。
令和7年3月31日以前に60歳に到達した方は各月に支払われた賃金の最大15%、令和7年4月1日以降に60歳に到達した方は最大10%が上限です。
もっとも、実際の給付額は支給限度額や月ごとの賃金額によって変わります。
正確な金額を知りたい場合は、厚生労働省の資料を参考にしながら、自身で試算してみるとよいでしょう。
参照:「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」(厚生労働省)
定年後の再雇用で給与が6割になったとしても、それだけでただちに違法と決まるわけではありません。実際には、合理的な理由や相応の配慮があるかどうかを含めて総合的に判断されます。
もっとも、生活に大きな影響が出るような減額であれば、見過ごしてよい問題ではなくなります。まずは人事課や上司・労働組合などに相談し、それでも不安が残るときは公的機関や弁護士に相談することも検討しましょう。
また、高年齢雇用継続給付の支給要件を満たしていれば、一定の補填(ほてん)を受けられます。
再雇用後の給与が6割と聞いて不安になったとき、違法かどうかをひとりで抱え込む必要はありません。
使える制度を確認しながら、必要に応じて適切な相談先を利用することが大切です。
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