労働者が企業秩序に違反する行為をした場合、会社から懲戒処分が行われます。譴責(けんせき)処分は、懲戒処分の一種であり、懲戒処分のなかでも戒告などに次いで比較的軽い処分といわれています。
しかし、譴責処分を受けると、人事考課に悪影響が生じることになりますので、給料や昇進に影響が生じるおそれがあります。
今回は、譴責処分の内容や対象となる行為などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
譴責処分とはどのような内容の処分なのでしょうか。以下では、譴責処分の内容と対象となる行為の例について説明します。
譴責処分とは、企業秩序に違反する行為をした労働者に対して行われる懲戒処分の一種です。懲戒処分には、さまざまな種類がありますが、譴責処分は、懲戒処分のなかでも戒告などに次いで比較的軽い処分といわれています。
譴責処分は、労働者に対して、始末書を提出させて厳重注意を行うことを内容としています。
なお、譴責処分は、法律上の制度ではありませんので、譴責処分を設けるかどうかは、会社が自由に定めることができます。懲戒処分の内容として譴責処分があるかどうかは、会社の就業規則を確認するとよいでしょう。
譴責処分は、懲戒処分のなかでも比較的軽い処分ですので、さまざまな行為が対象となり得ます。代表的な例を挙げるとすると以下のような行為があります。
会社から譴責処分を受けた場合、どのような影響があるのでしょうか。
譴責処分は、労働者に対して始末書の提出を求めることを内容とする処分ですので、譴責処分を受けたとしても直ちに給与を減らされることはありません。
しかし、会社には人事権がありますので、人事考課にあたって譴責処分を受けたことをマイナスに評価される可能性があります。人事考課にあたってマイナスに評価されたことで、昇進や昇給が遅れたり、役職を外れるたりすることがあれば、結果的に給与が減少するという不利益が生じることもあります。
譴責処分自体には、減給という効果はありませんが、将来の査定においてマイナスに扱われる可能性もありますので注意が必要です。
譴責処分には、労働者の給与を減少させる効果はありませんので、譴責処分を受けたことを理由に直ちに退職金を不支給・減額することはできません。
しかし、退職金の計算にあたっては、在職時の給与や地位のランクをポイントにして計算することも一般的です。そのため、譴責処分を受けたことにより、人事考課でマイナス査定となり、昇進や昇給が遅れれば、譴責処分がなかった場合と比べて、退職時の給与が少なくなる場合があります。このような場合には、結果的に退職金も減る可能性があります。
転職する際に、譴責処分があったことを履歴書に書く必要があるかどうかが問題になります。これに関して明確に判断した裁判例はありませんが、譴責は、懲戒処分のなかでももっとも軽い処分であり、刑事罰とは異なりますので、履歴書に記載する必要まではないでしょう。
ただし、転職先の会社が素行調査などを行った場合には、譴責処分の事実が知られる可能性もありますので注意が必要です。また、転職先での面接の際に、「懲戒処分を受けたことがありますか」と聞かれた場合に、「ない」と回答してしまうと、経歴詐称の問題に発展するリスクもありますので、慎重な検討が必要です。
懲戒処分には、譴責処分以外にどのような種類の処分があるのでしょうか。以下では、譴責処分以外の懲戒処分の内容について説明します。
戒告・訓告とは、労働者に対して反省を求めて、将来に向けて戒める処分をいいます。基本的には、譴責処分と同様の処分になりますが、譴責処分が始末書の提出を求められるのに対して、戒告・訓告は、口頭での戒めが行われるのみであるため、譴責処分よりやや軽い処分であることになります。
減給とは、労働者の給料を一方的に一定額減らす処分をいいます。
労働者が遅刻、早退、欠勤をした場合には、それに応じた額が給与から差し引かれますが、これはノーワークノーペイの原則に基づいて行われるものですので、懲戒処分としての減給とは異なります。
なお、減給には、労働基準法第91条によって減給できる金額についての制限があります。具体的には、以下の金額を超えて減給することは認められません。
出勤停止とは、会社との労働契約を維持しながら、労働者の就労を一定期間禁止する処分のことです。
期間中は、会社から賃金の支払いはなく、勤続年数にも通算されないという扱いが一般的です。なお、懲戒処分をするかどうかの調査のために、労働者に自宅待機が命じられることがありますが、これは業務命令に基づくものですので、懲戒処分としての出勤停止とは異なります。業務命令に基づく自宅待機命令であれば、原則として賃金の支払いが必要になります。
降格とは、労働者の役職、職位、職能資格などを引き下げる処分をいいます。
降格には、人事権の行使として行われるものと懲戒処分として行われるものの2種類があります。どちらの降格に該当するかによって、処分の根拠が異なってきますので注意が必要です。
諭旨解雇とは、会社が労働者に対して退職を勧告し、労働者に退職届を出させたあとで解雇する処分をいいます。会社の勧告に従って退職届が提出されれば退職扱いとなりますが、退職届が提出されない場合には懲戒解雇へと進むことが予定されています。
諭旨解雇は、懲戒解雇相当といえる重大な非違行為があった場合に、会社への貢献度や反省などを踏まえて温情措置としてなされる処分になります。
懲戒解雇とは、懲戒処分のなかでももっとも重い処分であり、会社が一方的に労働者との間の労働契約を終了させる処分をいいます。
懲戒解雇は、労働者にとっても重大な不利益処分となりますので、法律上の厳格な要件を満たさない懲戒解雇については、無効となる可能性があります。
以下のような譴責処分は、不当な処分である可能性があります。
譴責処分などの懲戒処分は、労働契約上当然に行うことができるわけではありません。懲戒処分は、一種の制裁罰にあたりますので刑事罰と同様に、明確な根拠が必要になります。そのため、懲戒処分を行うにあたっては、就業規則において懲戒事由と懲戒の種類が定められていなければなりません。
たとえば、就業規則に「譴責」が定められていないにもかかわらず、譴責処分を受けた場合には、不当な懲戒処分にあたる可能性があります。
労働契約法15条では、懲戒処分には「客観的に合理的な理由」が必要とされています。これは、労働者の行為が、就業規則上の懲戒にあたっているかどうかで判断される、ということを意味します。
たとえば、対象とされる行為が就業規則上の懲戒事由に該当していない場合や、懲戒事由に該当することが証拠上明らかでないような場合には、不当な懲戒処分にあたる可能性があります。
譴責処分も不利益処分に該当しますので、適正な手続きを踏んで行うことが必要になります。具体的には、就業規則で弁明の手続きや懲戒委員会の開催が定められている場合には、これらの手続きを踏む必要があります。
懲戒処分は、制裁罰の一種になりますので、懲戒事由とのバランスを考慮して具体的な処分を選択しなければなりません。懲戒事由に比べて処分が重すぎるという場合には、懲戒権の濫用にあたり、当該懲戒処分は無効となります。
たとえば、一度の遅刻や、ささいなミスを理由として譴責処分を受けたという場合、懲戒権の濫用にあたる可能性があります。
譴責処分は、懲戒処分のなかでも比較的軽い処分ですが、譴責処分を受けたことが人事考課でマイナス評価されると将来の昇進や昇給に悪影響が生じる可能性があります。そのため、譴責処分のもととなった行為に心当たりがないなど不当な処分の疑いがある場合には、しっかりと争っていくことが大切です。
不当な懲戒処分を争う場合には、労働組合や弁護士に相談するという方法があります。労働組合は、労働者が団結して労働条件の維持・改善についての交渉を行う組織ですので、労働者個人で対応するよりも希望を実現できる可能性が高くなります。
また、弁護士に相談をすれば、譴責処分が有効であるかどうかを法的観点から判断してもらうことができ、不当な処分であれば労働者の代わりに会社と交渉行い、処分の撤回を求めていくこともできます。
会社から不当な処分を受けた場合、労働者個人では争うのが難しいケースも多いため、弁護士など第三者に相談するようにしましょう。
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