従業員が退職する際、会社から「ボーナスを返せ!」と返還を求められるケースがあります。しかし、法律的には、ボーナスを返還する必要はありません。もし会社が強要にあたる行為をする場合には弁護士へご相談ください。
また、退職予定があることを理由に、ボーナスが減額されるケースもよく見られます。ボーナスの減額を受けた場合にも、法的な妥当性を検証するために、弁護士に相談することを検討してください。
本コラムでは、退職時に会社からボーナスの返還を求められた場合や退職予定を理由にボーナスを減額された場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
退職することを理由に会社から支給済みのボーナスを返せと迫られたとしても、従業員は、会社の要求に応じる必要はありません。
会社が従業員に対して「退職時には支給済みのボーナスを返還すべき」という旨をあらかじめ義務付けることは、労働基準法に違反する可能性があります。
労働基準法第16条では「賠償予定の禁止」が規定されており、労働契約の不履行についての違約金や損害賠償の予定を契約で定めることが禁止されているためです。
更に労働基準法5条では「強制労働の禁止」が規定されており、従業員の意思に反して労働を強制させる不当な拘束手段と認められる可能性もあります。
労働契約や就業規則などにおいて、従業員に退職時のボーナス返還を義務付けることは、賠償予定の禁止や強制労働の禁止の定めに抵触することから、労働基準法違反となります。
仮に返還規定が労働契約や就業規則などで定められていたとしても、公序良俗違反(民法第90条)により無効とされるのです。
したがって、会社が労働契約や就業規則などを根拠にボーナスの返還を求めてきても、従業員は会社の要求に応じる必要はありません。
法律では、会社との合意によって従業員が任意にボーナスを返還することまでは、禁止されていません。
しかし、従業員が「任意で」返還したという建前であっても、実際には「会社から強制された」とみなされるべき事例は多いでしょう。
一般的に会社は従業員に対して優越的地位にあるため、「会社の圧力に従業員が屈してしまったのではないか」という推論がされるからです。
もし、会社から「ボーナスを返還しろ」という強制的な圧力をかけられたと感じられた場合には、弁護士に相談してください。
労働契約や就業規則において「将来に対する期待」に相当する部分のボーナスの計算方法等が規定されており、かつ、基準時において退職予定があるにもかかわらず会社にその旨を伝えていなかった場合には、例外的にボーナスの一部を返還する義務が生じる可能性があります(東京地裁平成8年6月28日判決等。後述)。
ただし、あくまでも「将来に対する期待」に相当する金額の返還のみが認められるのであって、ボーナス全額の返還は認められないと考えられます。
また、労働契約や就業規則の規定それ自体が公序良俗違反等に該当する可能性もあるので、会社の要求に従う前に、契約や規則について弁護士に確認することをおすすめします。
ボーナスは、毎月支給される賃金とは異なり、会社の裁量による部分が大きい特殊な賃金です。
以下では、労働基準法におけるボーナスの位置付けについて解説します。
労働基準法では、「賃金」について以下のように定義されています。
ボーナスは上記条文中で「賞与」として例示されており、労働の対象として使用者から労働者に支払われるものとして「賃金」に該当します。
そして、ボーナスも賃金である以上、労働基準法に基づく以下の規定が適用されるのです。
ボーナスは「臨時の賃金」とされており(労働基準法第24条第2項)、労働基準法との関係では、会社に必ず支給が義務付けられるものではありません。
しかし、ボーナスの支給について使用者と労働者の間で合意した場合には、使用者は合意内容に拘束されるため、労働者に対して賞与を支払う義務を負います。
この場合、ボーナスの支給額や計算方法などについては、労働契約の定めに従うことになります。
なお、ボーナスの支給に関する事項は、就業規則にも規定する必要があります(同法第89条第4号)。
したがって、労働契約とともに就業規則を確認すれば、ボーナスの支給に関する基準やルールをある程度は把握できるでしょう。
前述のとおり、退職者や退職予定者に対して、すでに支給されたボーナスの返還を義務付けることはできません。
しかし、これから支給される予定のボーナスについては、退職が予定されている従業員への支給額の減額が認められる可能性があります。
従業員に支給されるボーナスには、以下のような複合的な意味合いが含まれています。
退職予定者については、上記のうち「将来に対する期待」の要素がなくなるため、ボーナスの減額が正当化される可能性があるのです。
どの要素が大きなウエイトを占めるかは、ケース・バイ・ケースで判断されます。
もし、「将来に対する期待」の要素が大きな比重を占めている場合には、ボーナスがかなりの割合で減額されることも覚悟しなければならないでしょう。
東京地裁平成8年6月28日判決の事案(ベネッセコーポレーション事件)では、中途退職した従業員に対して、会社が支給基準に基づきながら、支給済みの金額と本来の金額の差額をボーナスから返還することを求めました。
裁判の結果、東京地裁は、「将来に対する期待の程度の差に応じて、退職予定者と非退職予定者の賞与額に差を設けること自体は不合理でなく、禁止されない」と判示したのです。ただし、会社が82パーセント余りのボーナス減額を主張した点については、「在社期間が7か月間と短いことを考慮しても、減額割合が多すぎる」と判断されました。
結果として、東京地裁は、「過去の賃金とは関係のない純粋の将来に対する期待部分」に対応する減額幅として、非退職予定者の賞与額の20パーセントのみを認めて、その限度で労働者に対してボーナスを返還することを命じたのです。
ボーナスの持つ意味合いや、上記の裁判例などをふまえると、以下に挙げる要素をいずれも満たす場合には、ボーナスの減額が認められる可能性が高いと考えられます。
なお、ボーナスの支給条件として、ボーナス支給日における在職を定めること自体は、適法であると解されるのが一般的です。
退職を理由に会社からボーナスの返還を求められたり、ボーナスを減額されたりした場合には、まずは会社の要求が正当であるかどうかについて、法的な観点から検討することが大切です。
その際には、専門的な観点からのアドバイスを受けるために、労働基準監督署や弁護士に相談することをおすすめします。
ボーナスの返還や減額に法的な根拠があるかどうかは、労働契約や就業規則の内容から分析する必要があります。
まずは労働契約や就業規則の内容を確認して、「返還や減額の根拠規定があるかどうか」「返還や減額を求められている金額は合理的な水準であるかどうか」などを検討しましょう。
ボーナスの返還や減額は労働基準法に関する問題のため、労働基準監督署が相談を受け付けています。
※参考:全国労働基準監督署の所在案内(厚生労働省)
労働基準監督署に相談すれば、労働基準法に基づくボーナスの取り扱いなどについて、基本的なアドバイスを受けられます。
ボーナスに関する基本的な知識を得たい場合には、まずは労働基準監督署に相談してみるとよいでしょう。
会社に対して具体的な反論を行いたい場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、労働者の代理人として、法的な根拠のないボーナスの返還や減額を拒否して、会社に対して毅然とした主張を展開することができます。
立場が強い会社に対しても、専門的知識を持つ弁護士のサポートを受ければ、対等以上に渡り合うことができるでしょう。
退職に伴い、会社からボーナスの返還や減額を主張されてお困りのときは、労働問題への対応についての知見が豊富な弁護士に相談してください。
従業員が退職予定であることを理由に、会社がボーナスの返還や減額を主張してきた場合、労働契約や就業規則の内容を確認して、法的な根拠があるかどうかを検討することが必要になります。
弁護士は、ボーナスの取り扱いに関して法律の専門家として分析したうえで、必要とあれば会社に対して毅然とした反論を行うこともできます。
ベリーベスト法律事務所では、賃金・長時間労働など、会社とのトラブルに関して労働者からのご相談を受け付けております。
ボーナスの支給などに関して、会社から不当な扱いを受けてしまった場合には、お早めにベリーベスト法律事務所へご連絡ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を