厚生労働省によると、令和4年3月新卒者のうち内定を取り消された人は50人でした(出典:厚生労働省ホームページ)。
このデータはハローワークへの報告をもとに算出されているため、実際に内定が取り消された学生はさらに多いと考えられます。
就職活動の努力が実を結び、ようやくつかんだ内定を取り消された学生のショックは計り知れないでしょう。
内定の段階では労働契約が成立したと考えられているため、企業が内定を取り消す際には在籍中の労働者を解雇するのと同様に厳しい制限を受けます。では、これが「内々定」の取り消しだった場合はどうなるのでしょうか?
本コラムでは内々定の意味を確認しながら、内々定の取り消しが違法になるケースや企業に損害賠償を請求し得るケースについて解説します。
まずは「内々定」の意味や「内定」との違いについて解説します。
内々定とは?
内々定とは、一般的に企業から求職者に対する採用予定通知のことを指します。
内定を出す前の段階で「○月になったら正式な内定を出します」と伝える口約束のようなものです。
企業が内々定を出す目的は、優秀な学生を早期に確保するためです。
近年の就職市場は人手不足や少子高齢化などを背景に学生に有利な売り手市場が続いているため、正式な内定までに学生が他社へ流れてしまうケースも少なくありません。
そこで企業は内々定によって学生の囲い込みを図ろうとしていると考えられます。
内定とは?
内定とは、学生が企業から採用通知書等を受け取り、学生が企業に入社承諾書等を提出することによって学生と企業が相互に意思確認をし、労働契約が成立した状態のことをいいます。
上記における労働契約は、「始期付解約権留保付労働契約」と呼ばれています。
内定はいわば条件付きでの労働契約ですが、簡単に取り消しができるわけではありません。
判例によると、内定の取り消しが認められるのは、以下の場合のみとされています。
企業側の恣意的な理由で内定を取り消すことは許されませんし、業績悪化を理由にした取り消しの場合も整理解雇に準じた検討が必要となる等、内定は法的な保護を受けます。
これに対し内々定はまだ労働契約は成立していないため、内定のような法的保護は受けないのが原則です。
内々定の取り消しで問題となるケースは、「内定」「内々定」という言葉の表面的な意味ではなく、実質的に始期付解約権留保付労働契約が成立しているかどうかで判断されます。
たとえば以下のような制約があれば内々定ではなく、内定が成立したとされる可能性があります。
内々定の段階では、企業と求職者は法的に拘束される関係にありません。
そのため求職者から内々定を辞退することはもとより、企業から取り消すことも原則として違法となりません。
内々定が取り消しになるのは、求職者側の理由によるものと、企業側の理由によるものがあります。
求職者側の理由で取り消しになるのは、たとえば以下のようなケースです。
また、求職者にとっては酷なことですが、健康状態の悪化や大きなケガなどにより就労不能となったなどの理由で内々定が取り消されるケースもあります。
企業側の理由で内々定が取り消されてしまうケースもあります。
たとえば、内々定後の急激な業績悪化により人員削減の必要性が生じ、新卒採用の見直しを余儀なくされたケース、自然災害の発生により設備が大きな被害を受けたため事業の継続が困難になったケースなどが考えられるでしょう。
労働契約の成立が認められず、内々定の取り消しが許される場合であっても、労働契約が確実に締結されるであろうとの内々定者の期待が法的保護に値する程度に高まっていたときは企業に対して損害賠償請求が認められる可能性があります。
では具体的にどのようなケースで内々定取り消しによる損害賠償請求が認められるのかを、裁判例を確認しながら見ていきましょう。
事案の概要
不動産会社から内々定の通知を受けていた求職者が、経営状況の悪化を理由に内定通知書交付日の2日前に内々定を取り消されたため、当該取り消しは違法であるとして、企業側に損害賠償を請求した事案です(コーセーアールイー事件)。
裁判所の判断
裁判所は、内々定後に具体的労働条件の提示・確認や入社に向けた手続等は行われていないこと等を理由に、始期付解約権留保付労働契約の成立は認められない、としました。
他方で、企業が7日後に内定通知書を交付するという連絡をしているのに、そのわずか約5日後に内々定を取り消したことについて、その連絡をした前後で経営環境が激変したとは認められず、求職者に対して経営状況が悪化している事情や突然の方針転換の説明もなかったため、信義則違反による不法行為に基づく慰謝料の請求を認めました。
(福岡高等裁判所 平成23年2月16日判決等)
上記の裁判例のように、内々定の取り消しについて、採用に対する期待が確実に高まっていたと認められるケースや取り消しに至るまでの経緯や方法が不誠実だったケースでは、信義則違反と判断され、不法行為に基づく損害賠償請求が認められる可能性があります。
また、企業側が内々定だと認識していても、実際には内定と同視できるケースもあります。たとえば他社への就職活動を禁止するなど求職者に対する拘束の度合いが強い場合等です。
内々定は原則として法的拘束力を持たないとはいえ、内定への期待が高まるのは事実であり、取り消されてしまえばショックを受けてしまう人も少なくないでしょう。
内々定を取り消されてしまった場合にどのような対応ができるのかを解説します。
まずは企業に対し、内々定の取り消し理由を確認しましょう。企業との交渉や裁判も見据えて、メールや文書など証拠として残る形での回答を求めるのが賢明です。
取り消し理由の文書をもとに、ご自身が通う大学のキャリアセンターなど就職相談窓口へ相談しましょう。個人が企業と交渉するよりも、大学の窓口などを通じて交渉するほうが誠実な対応が期待できます。
また全国56箇所にある新卒応援ハローワークでは内定取り消しなどに関する特別窓口が設置されていますので、今後の対応などについて相談するのもひとつの方法です。
内々定の取り消しが違法・不当な行為であるか否かは、個別の事案によって異なります。
その判断には法的知識が必要となりますので、求職者自身やそのご家族が見通しを立てるのは困難でしょう。企業との交渉や裁判での主張も容易ではありません。
労働問題に詳しい弁護士であれば内々定の取り消しが違法・不当かどうかを個別に判断し、適切な解決案をアドバイスします。
損害賠償や慰謝料の請求を考えている場合は、一度弁護士に相談されることをおすすめします。
内々定の段階では労働契約が成立していないため、取り消しは基本的に違法ではありません。しかし内定の取り消しと同視できるケースや、そうでなくても取り消しの方法や経緯が不誠実だったケースなどは企業に責任が発生する可能性があります。
内々定の取り消しが違法・不当かどうかの判断は非常に難しいため、ご自身のケースではどうなるのか悩んだら弁護士へ相談することをおすすめします。
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