会社の不正が労働者の内部告発によって明らかになることは少なくありませんが、自分の勤めている会社を告発したとしたら、どうなるのでしょうか。
本コラムでは、内部告発に対して起こりうる会社からの報復、実際に報復を受けたときの対処方法について解説します。
内部告発者を守るための「公益通報者保護制度」の詳しい内容や、内部告発に関する裁判事例、さらに報復として解雇された場合にするべきことなどを確認しましょう。
会社の不正や違法行為を、社会の利益のために通報することは有意義なことです。
しかし内部告発をした労働者には、報復として会社で不利益な扱いを受けるおそれがあります。内部告発に対して起こりうる報復の例を解説します。
内部告発へのいわば「仕返し」として、報復人事が行われることがあります。
人事権者が報復を目的とし、労働者に対し降格や異動を命じるケースです。
それまで携わっていた業務から外し、ひたすら雑事に専念させるといった例などもあります。
「パワハラ」も、起こりうる報復の1つです。
パワハラとは、以下の通りと定義づけられています。
労働施策総合推進法30条の2
職場において行われる優越的な関係を背景とした⾔動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること
報復人事もパワハラの一種と言えますが、そのほかにも「無視をする」「職場で孤立させる」「暴言をあびせる」といった例があります。
報復でもっとも重いのが「解雇」でしょう。
しかし解雇は、会社がいつでも自由に行えるというものではありません。
労働契約法16条では、客観的に合理的な理由なく、社会通念上相当と認められない場合に解雇することはできないと定められています。
そのため会社側が退職を強要し、自主退職へ追い込もうとする場合があります。
内部告発をした場合、第1章でご紹介したようなことが起こる可能性がありますが、それを防ごうという法律もあります。
内部告発をした労働者が不利益な取り扱いを受けることのないよう、国は「公益通報者保護制度」を設けています。制度の仕組みについて詳しく解説します。
たとえば「リコール隠し」や「食品偽装」など、国民生活の安全・安心を損なう企業不祥事は、内部告発をきっかけに明らかになることも少なくありません。
こうした企業不祥事による被害拡大を防ぐために内部告発することを、「公益通報」といいます。
政府は平成18年4月、公益通報を行った労働者を保護し、さらに国民の生命、身体、財産を保護することを目的に「公益通報者保護法」を施行しました。それを踏まえて創設されたのが「公益通報者保護制度」です。
公益通報者保護制度では、どこへどのような内容の通報を行えば公益通報として保護されるのか、というルールが定められています。
どんな内部告発でも公益通報として認められるわけではなく、いくつかの要件を満たす必要があります。
具体的な要件の内容は次の通りです。
公益通報者保護法で保護される通報者は、通報内容に関わる会社などの「労働者」であることが必要です。
労働者には、正社員、正職員だけではなく、パート・アルバイトなども含まれます。
また公益通報は取引先や派遣先に関しても行うことができるので、取引先の労働者や派遣労働者も保護の対象です。
通報する内容は、特定の法律に違反する犯罪行為、または刑罰につながる行為であることが求められます。
「特定の法律」として通報の対象になる法律は、個人の生命・身体の保護に関わる法律から、消費者の利益や環境の保全、正当な競争の確保に関する法律などが定められています。
公益通報者保護制度の通報先には、次の3つが定められています。
通報先によって、保護される要件が異なります。
令和2年6月に改正公益通報者保護法が公布され、令和4年6月までに施行されることになっています。
改正によって、従業員数300人を超える事業者には、「内部通報に適切に対応するための必要な体制の整備」が義務付けられました。
具体的には、以下のような措置です。
これらの体制の整備によって、通報者が安心して通報を行いやすくし、会社としても自ら不正を是正しやすくするのが目的です。
こうした法律があったとしても、労働者側と会社側で裁判となった事例は少なくありません。
本章では、実際にあった内部告発の事例として、2つの裁判例を紹介します。
経緯
市民生活協同組合に勤務する原告の職員らは、当時の副理事長と専務理事2人によって市民生活協同組合が私物化されていると、生協関係者に告発文書を送るなどしました。
これに対して副理事長らは、職員らを懲戒解雇や長期間の自宅待機処分にしたというのが事件のあらましです。
職員らは、懲戒解雇や自宅待機処分が報復的行為や名誉侵害行為に当たり、精神的損害を被ったとして、副理事長らに損害賠償を求めました。
裁判の結果
判決では、内部告発の内容には正当性があると認められました。
職員らに対する懲戒解雇や自宅待機、配転命令などが正当な内部告発への報復を目的としたものであると判断した上で、副理事長らの不法行為責任を認め、慰謝料の支払いを命じました(平成15年6月18日大阪地裁堺支部判決)。
経緯
製紙業大手の大王製紙で、関係会社の取締役総務部長などを歴任した原告の従業員は、「会社が不正経理やマネーロンダリングを行っている」とする内部告発文書をマスコミなどに公表しました。これに対し会社側は従業員を降格処分にし、遠隔地にある営業所の所長として子会社への出向を命じました。
しかし、原告の従業員はこれに応じなかったため、会社側が従業員を懲戒解雇にしたというのが事件のあらましです。
原告の従業員は、会社側がまったく合理性のない配置転換命令を乱発し、無効な降格処分や懲戒解雇をするなどしたことが不法行為だとし、損害賠償などを求めました。
裁判の結果
しかし判決では、原告による内部告発文書が「会社経営陣の失脚」という背信的な目的で作成されており、会社の名誉を著しく傷つける内容で、会社の機密事項を漏えいさせたという点でも問題があったと指摘しました。
その上で、従業員の行為は会社の秩序を乱すものとして懲戒規定にも該当し、配転、降格処分は有効だと判断しました。
一方、出向命令拒否による懲戒解雇については無効としました。
営業所の所長は、「所長」という肩書であっても物流業務の一担当者にすぎない役職であり、関係会社の取締役などを歴任した従業員の配置転換先としては、降格処分を受けたことを考慮しても「余りに不相応」などと判断したのです(平成28年1月14日東京地方裁判所判決)。
報復として解雇すると言われた場合、一刻も早く弁護士に相談しましょう。
何も対処をしないままだと、さらに会社からの圧力が強くなり、不当な扱いを受けてしまう可能性があり、精神的な負担も大きくなることが予想されます。
そもそも、会社は基本的に、内部告発をしたことを理由として労働者を解雇することはできません。報復として解雇されたとき、あるいは解雇されそうなときは、まず弁護士と相談しましょう。
実際に解雇された場合は、解雇無効を主張し、復職を求めることが可能です。解雇が無効ならば、従業員として地位を失っていないということになります。
そのため、不当な解雇により仕事をすることができなかった期間の賃金も請求することが可能です。
また、復職する意思がない場合も、解雇無効を主張した上で、会社側と退職金の上乗せの交渉をするなどの選択肢があります。
自身の状況や会社側の対応などを踏まえ、取るべき対応について考えましょう。
ここまで、内部告発をした場合に起こりうることや内部告発者を守る法律などを解説してきました。
内部告発をしたことへの報復として労働者を解雇するのは違法です。
一定の要件を満たした内部告発であれば、告発者は「公益通報者保護制度」によって、会社から不利益な扱いを受けないよう保護されます。
それでも内部告発によって会社から報復された、あるいはされそうになったら、労働問題の実績が豊富なベリーベスト法律事務所へぜひご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を
今すぐには弁護士に依頼しないけれど、その時が来たら依頼を考えているという方には、ベンナビ弁護士保険への加入がおすすめです。
何か法律トラブルに巻き込まれた際、弁護士に相談するのが一番良いと知りながら、どうしても費用がネックになり相談が出来ず泣き寝入りしてしまう方が多くいらっしゃいます。そんな方々をいざという時に守るための保険が弁護士費用保険です。
ベンナビ弁護士保険に加入すると月額2,950円の保険料で、ご自身やご家族に万が一があった場合の弁護士費用補償(着手金)が受けられます。残業代請求・不当解雇などの労働問題に限らず、離婚、相続、自転車事故、子供のいじめ問題などの場合でも利用可能です。(補償対象トラブルの範囲はこちらからご確認ください。)
ご自身、そして家族をトラブルから守るため、まずは資料請求からご検討されてはいかがでしょうか。
提供:株式会社アシロ少額短期保険 KL2022・OD・214