政府主導で「働き方改革」の諸対策が進められていますが、今もなお長時間労働は深刻な社会問題のひとつです。
長い労働時間に苦しみ、自身の労働環境を改善しようと努力をしてみても、労働者個人の力だけではどうにもならない場合も少なくありません。
本コラムでは、具体的に何時間を超えたら長時間労働となるのか、長時間労働で悩んだ場合の相談先、また退職を決意した際に不利な条件で会社を去る事態を防ぐための対応について解説します。
厚生労働省の毎月勤労統計調査(令和2年分結果確報)によると、パートタイム労働者を除く一般労働者の総実労働時間は160.4時間でした。
そのうち、労働協約や就業規則で定められた始業から終業までの所定内労働時間は148.0時間、残業や休日出勤などの所定外労働時間は12.4時間にのぼりました。
産業全体の平均出勤日数は19.4日で、これを基に年間の休日日数を計算すると、132.2日になります。
業界別で労働時間がもっとも長かったのは「運輸・郵便業」で、総実労働時間は174.7時間です。所定内労働時間の150.4時間こそ4番目の長さでしたが、時間外労働24.3時間は全産業で唯一の20時間台となっており、出勤日数19.8日も3番目の多さでした。
では、具体的に何時間以上の労働を「長時間労働」と呼ぶのでしょうか。
労働基準法は原則として1日8時間、1週間で40時間を超えて労働させてはならないと規定しています。
ただし、労使間で時間外労働の上限や時間外労働を行う業務の種類などを定めた協定を結び、労働基準監督署に届け出れば、この限りではありません。
この協定は、労働基準法第36条に基づいていることから「36(サブロク)協定」と呼ばれています。
もっとも、36協定を結べばいくらでも時間外労働が認められるわけではなく、原則として月45時間、年間で360時間という上限が設けられています。
何時間以上が「長時間労働」という法律上の定義はありませんが、36協定の上限である月45時間がひとつの目安になるといえるでしょう。
年間休日日数についても、法律の最低日数は定められていません。
法定労働時間(週40時間)で1年間(52週)働いた場合、合計は2080時間になります。
1日8時間の勤務を続けたとすると出勤日数は260日となり、残る105日は休日です。
この105日が年間休日日数の最低ラインとも考えられています。
36協定により可能となる時間外労働の上限(月45時間・年間360時間)はあくまで「原則」である点に注意が必要です。
これまでは協定の中に特別条項を設ければ、事実上は無制限に時間外労働を行わせることができました。
しかし、2019年4月に施行された改正労働基準法で、特別条項があったとしても時間外労働に上限を設けなければならなくなりました。
というもので、違反すれば使用者に対し6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
この「月100時間、2~6か月平均80時間」は「過労死ライン」とも呼ばれており、残業時間が過労死ラインを超えるとストレスなどで健康障害のリスクが高まるとされています。
過労死ラインを超える水準での長い残業時間が続いている場合は、心身の健康を維持するための対策が必要になるでしょう。
長い労働時間はストレスとなって蓄積し、「もうこんな会社辞めたい」と感じるきっかけになってしまいます。残業時間について職場の上司に相談でき、働く環境が改善されるのであれば、それに越したことはありません。
しかし、労働者からの相談や訴えに対して真摯に改善策を講じてくれる会社は多くないのも現実です。
そうした場合に、会社を辞めることなく職場環境を改善するには、誰に相談すればいいのでしょうか。
労働基準監督署は、労働環境・労働条件などに関する相談や、会社がきちんと法令を守っているかの監督・指導を担当している厚生労働省の出先機関です。
法令違反の疑いがあれば調査に乗り出し、違反が確認されれば是正勧告などを行います。
勧告を受けた会社は、違反をどのように是正したかの報告を求められます。
勧告そのものに法的拘束力はないものの、虚偽報告や問題の放置は刑事事件に発展する可能性があります。
労基署に相談することで職場環境の改善につながる可能性はありますが、違反の疑いがなければ労基署が動いてくれる見込みは低くなります。
また、労働者に代わって個別の問題を会社と交渉してくれる機関ではない点に留意が必要です。
労働者に代わって会社との団体交渉を進めてくれる相談窓口が「労働組合」です。
会社は正当な理由なく団体交渉を拒否できないため、一人で立ち向かっても相手にされないとき、労働組合は有効な選択肢となります。
ただし、時間外労働などをめぐり、組合と会社が交渉したからといって、必ずしも問題が解決されるわけではありません。
裁判を起こすとなれば、個人での対応は難しいので弁護士のサポートが必要になるでしょう。
会社に労働組合がない場合
会社に労働組合がない場合は、全国労働組合総連合(全労連)が無料で開設している「労働相談ホットライン」への相談も一つの手です。
一般的なアドバイスの提供に限られるため、直接の問題解決につながるわけではないものの、状況に応じた適切な相談先を教示してもらえます。
具体的に問題を解決したいのであれば、弁護士への相談がおすすめです。
弁護士に依頼すれば、労働者に代わって会社と交渉を進めることが可能です。
また交渉が妥結しない場合には裁判で問題解決を図ることもできますので、交渉から裁判に至るまでの手続きを一任できるという利点があります。
また、長時間労働をしている方は残業時間も長いことでしょう。
もし残業代が支払われていなければ、残業代請求についてもあわせて相談することをお勧めします。
残業代請求の方法や退職のタイミングなども含めて、総合的なアドバイスやサポートを受けることができます。
労基署や労働組合に相談しても、長時間労働が改善しなければ退職の決意は変わらないかもしれません。
こちらでは退職する場合にやっておくべきことについてご紹介します。
会社を辞めた後、必要な手続きを行えば失業手当を受給できます。
ここでポイントになるのが、離職理由が「自己都合」か「会社都合」のどちらになっているかです。
失業手当の受給、自己都合と会社都合の違い
会社都合であれば失業手当は最短で7日後から給付されますが、自己都合だと2か月以上の期間を要します。また、給付日数も自己都合では90~150日なのに対し、会社都合では90~330日と幅が広くなっています。
給付開始までの日数 | 給付日数 | |
---|---|---|
自己都合 | 2か月以上 | 90~150日 |
会社都合 | 最短で7日後 | 90~330日 |
つまり、会社都合のほうが失業手当の受給の際に有利な条件になるということです。
自己都合の退職でも、条件を満たせば会社都合として扱われるケースもある
自ら退職した場合でも、離職日直近の6か月のうち月100時間を超える時間外労働があるなど条件を満たせば会社都合として扱われる可能性があります。
労働時間の証拠となるタイムカードや給与明細書などを保存しておき、提出できる準備をしておくことが肝要です。
未払いになっている残業代があれば会社に請求しましょう。
この場合も、離職理由の確認と同様に、タイムカードなどの証拠があるかどうかが重要です。弁護士に依頼すれば、弁護士が証拠に基づき残業代を正確に計算し、金額を明示して会社と交渉します。
会社が支払いに応じない場合は労基署に相談することも有効です。
申告が認められれば会社に対し指導や勧告が行われる可能性もあります。
「みなし残業」でも残業代を請求できる可能性がある
裁量労働制など、一定時間分の残業代を固定して給与に含む「みなし残業」制を採用している会社では、会社側が「残業代は発生しない」と誤解しているケースもあります。
しかし、みなし残業であっても、雇用契約書などで定めた一定時間分を超過した残業については支払いの対象です。
長い労働時間に苦しみ、会社を辞めたいと思っても、なかなか会社が辞めさせてくれない場合もあります。
そんなときは、弁護士による「退職サポート」の活用を検討しましょう。
会社都合の退職にあてはまる時間外労働を強いられて退職を余儀なくされたとしても、会社はハローワークに提出する離職票に「自己都合」と記入する場合があります。
離職理由の異議申し立ても可能ですが、その際には書類を作成する必要があります。
弁護士による退職サポートを利用すれば、弁護士が異議申し立て手続きを代行してくれるだけでなく、未払い残業代などの請求もまとめて依頼することが可能です。
退職時に予想されるトラブルを未然に防ぎたいと考えるなら、弁護士に退職の手続きを任せるのが安全でしょう。
詳しくはこちらの「在職強要」のページをご覧ください。
「長時間労働」に法律上の明確な定義はありません。36協定の上限である「月45時間」の時間外労働がひとつの目安といえますが、月100時間超の「過労死ライン」を指すという考え方もあります。
また、長い残業時間に悩み「会社を辞めたい」と思ったときには、労働基準監督署や労働組合に相談できます。
ただし、相談窓口を利用したからといって、必ず問題が解決できるわけではありません。
やむを得ず退職を決意したなら、未払いの残業代などは労働者の正当な権利として、きちんと会社に請求しましょう。
退職の手続きなどでお困りのときは、労働問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所へご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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