「働き方改革」や「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」という言葉が社会に浸透しているものの、毎日の長時間労働で心身の不調をきたすのではないかと心配な方も少なくないでしょう。
長時間労働は、脳や心臓の疾患を引き起こしたり、うつ病などの精神障害を発症させたりするおそれがあります。厚生労働省では、脳・心臓疾患を原因とする死亡(過労死)のリスクが高まる時間外労働時間の基準、いわゆる「過労死ライン」を定めています。
本記事では、過労死ラインとはどんな基準か、日本の長時間労働の現状、過労死ラインを超過して働き続けている場合に取るべき3つの対処方法などについて解説します。
最初に、過労死ラインとはどのような基準を指すのか、日本における長時間労働の現状とあわせて解説します。
「過労死ライン」は、労働基準監督署が労災認定をする際に、脳血管疾患や心臓疾患が過重な労働により発生したのかを判定する際に用いられる、厚生労働省が定める基準です。
「この基準を超過して長時間労働をすると、自然経過を超えて脳や心臓にダメージが発生し、過労死に至るおそれがある」と考えられています。
過労死の労災認定は、身体的負荷をもたらす異常な事態、短期間の過重業務など、さまざまな判断基準により判断されますが、「過労死ライン」を超えて労働していた状態で脳血管疾患や心臓疾患を発症した場合、原則として労災認定を受けることができます。
「過労死ライン」の具体的内容としては、
もしくは
場合には、過重な労働と脳血管疾患や心臓疾患との関連性が強いと判断されます。
また、過労死ラインを超えていなくても、長時間労働について会社の違法性が認められる場合があります。
労働基準法第32条では、法定労働時間は「1日8時間、1週40時間」と定められており、会社が法定労働時間を超過して労働者を働かせる場合には、労働組合または労働者の過半数代表と36(さぶろく)協定を締結し、労働基準監督署に届出をしなければなりません。
36協定で定めた時間を超過して働かせた場合には、会社や労務管理の責任者は、労働法基準法第119条により「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」の刑罰を科せられる可能性があります。
日本経済団体連合会が実施した「2020年労働時間等実態調査」によれば、一般労働者の総労働時間数は従業員規模数を問わず、平成29年から平成30年・平成31年/令和元年にかけて減少しています。
その要因のひとつは、平成31年4月に施行された働き方改革関連法でしょう。(出典:日本経済団体連合会ホームページhttps://www.keidanren.or.jp/journal/times/2020/0917_12.html)
また労働政策研究・研修機構がまとめた資料によれば、平成29年から令和2年にかけて総労働時間は徐々に減少傾向にありましたが、令和3年以降は若干増加しつつあります。令和2年の総労働時間数や所定外労働時間数は、平成31年(令和元年)から減少しています。(出典:労働政策研究・研修機構ホームページhttps://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/shuyo/0401.htmlより)
一方で、行政機関や医療・福祉機関、業務量が急増している運輸・郵便業、恒常的に過重労働となっている教員など、過労死ラインの超過が問題となっている業種もあります。
たとえば、日本教職員組合による「2021年 学校現場の働き方改革に関する意識調査」によると、教員の時間外労働時間は、短縮傾向にあるものの、依然として一日平均2時間54分でした。過重労働については、まだまだ改善のための対策が求められているのが現状なのです。(出典:日本教職員組合ホームページ「2021年 学校現場の働き方改革に関する意識調査」https://www.jtu-net.or.jp/wp/wp-content/uploads/2021/12/ebf2a69840156756fb12833bd9f988d7-3.pdfより)
過労死ラインを超すような過重労働が続いている場合に、労働者ができることは大きく分けて3つあります。
まずは上司や人事担当部門に、労働時間の実態や課されている業務の量、自分の体調の現状などを伝えて、労働時間や業務量を調整できないか相談してみましょう。
もし、相談しても改善されない場合には、雇用契約書や就業規則、タイムカードなどの証拠を集めて、外部機関に相談してみるのも方法です。たとえば次のような相談先があります。
① 法定労働時間を超えた場合の残業代
労働時間には、労働基準法が定める「法定労働時間」と、就業規則や雇用契約書で定めている「所定労働時間」があり、通常、所定労働時間は法定労働時間の範囲内で設定されます。
「法定労働時間」を超えた場合の残業代については、以下のように計算します。
② 割増率
割増率は働いた時間帯や労働時間によって違います。
法定労働時間を超えた場合には25%以上、法定労働時間を超え、かつ22時から5時までの深夜時間帯に残業した場合の割増率は50%以上です。
月に60時間を超える法定時間外労働についても、割増率は50%以上となります(中小企業は令和5年3月まで適用猶予)。
③ みなし残業制
また、「20時間分の残業代を含む」など、基本給に一定時間の残業代が含まれている「みなし残業制度」が採用されている場合でも、みなし残業時間を超えた残業については残業代が発生します。
なお、「みなし残業制度」の定めによっては、残業代の支払いとは認められない場合がありますので注意が必要です。
長時間労働が慢性的になっている企業においては、労働時間管理が適正に行われなかったり、会社側がさまざまな理由をつけて残業代の支払いを制限したりすることがあります。
もし、未払い残業代があるのなら、ご自身で給与明細やタイムカード、勤務時間のメモなどの証拠を集めておきましょう。
証拠をそろえたら、会社に対して残業代を請求することができます。
未払い残業代を請求することは労働者の権利です。
権利を適切に主張することで、支給されるべきであった残業代を得るだけでなく、会社が長時間労働の是正に取り組むことも期待できるでしょう。
ですが、悪質な会社の場合には証拠を隠蔽したり、自分で証拠を集めて残業代を請求しても、主張を無視されるようなケースもあります。
そういった場合には、前述したような外部機関や弁護士への相談をお勧めします。
もちろん、ご自身での証拠集めが難しい場合は、証拠がないまま相談しても大丈夫です。
証拠の集め方や、どんなものが証拠になるのか、具体的なアドバイスを受けることができます。
会社との間で長時間労働の是正など、労働問題の改善・解決を目指す場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
労働基準監督署などの外部機関は、労働者個人の代理として会社と交渉するなどの積極的な介入は行いません。
また、個人で会社と交渉しても、「労働時間は削減できない」「残業を支払う義務はない」などと主張されて、場合によっては配置転換や退職勧奨などの嫌がらせを受けるおそれもあるでしょう。
弁護士なら、長時間労働の是正や未払い残業代・損害賠償などの請求について、代理人として会社との交渉をスムーズに進め、早期の問題解決につなげられる可能性があります。
労働審判や裁判となった場合でも対応できますので、長時間労働で悩んでいる方は、まずは弁護士に相談してください。
過労死ラインとされる「1か月間に100時間」あるいは「2~6か月間平均で80時間」を超える過重労働は、脳血管疾患や心臓疾患を引き起こし、死に至るリスクもあります。
もし、過労死ラインを超過して働いている場合には、会社に対して長時間労働の是正を求めましょう。場合によっては未払いの残業代や慰謝料なども請求できます。
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