真面目に勤めていたにもかかわらず、試用期間中にクビを通告されたら、どうすればいいのでしょうか?
こうした場合、会社と交渉する、「労働審判」を起こすなどの手段が考えられます。「労働審判」とは、会社と労働者間のトラブルを裁判所を介して解決する制度です。令和6年には3359件もの労働審判が、新たに受け付けられています。試用期間中のクビと、その対処方法、実際の解決事例について、弁護士が解説します。								
								そもそも試用期間はどのようなものなのでしょうか?
								
								実は、「試用期間」は法律用語ではないので、法律上の明確な定義はありません。
								試用期間とは、一般的には、本採用の前に行われる社員としての適格性を判定するための期間を意味します。
								
								たとえば3ヶ月間の試用期間が設けられた場合、「正社員」という立場ではあっても、その間会社によって適格性を観察されます。
								その結果、問題がなければ試用期間の終了とともにそのまま本採用となりますが、もし適格性がないと判断されたら試用期間中や終了時に本採用を拒絶されてクビにされる可能性があります。
								
								試用期間中のクビ = 法的には「解雇」
								では、試用期間中やその終了時に本採用を拒否されてクビになってしまうというのは、法的にはどういうことなのでしょうか。
								
								試用期間中の会社と労働者の契約関係は「解約権留保付労働契約」と理解されています。
								つまり、会社と労働者との間には、すでに労働契約が成立しているけれども、会社は試用期間に労働者を解雇できるという権利をもっているということです。
								
								したがって、試用期間中やその終了時に本採用を拒否されてクビになることは、法的には「解雇」されることなのです。
							

								試用期間は「試験的に観察を行い、結果として適正がなかったら本採用を拒絶できる期間」です。
								
								そうであれば、会社は「気に入らなかった」という理由で、自由に本採用を拒否してクビにすることができるのでしょうか?
							
										実は、試用期間であっても、解雇に関する会社の裁量には制限が設けられています。
										
										前述のとおり、試用期間とはいっても労働契約が締結されている以上、本採用の拒否は解雇に当たり、法律上解雇には一定の制限が設けられているからです。
										
										労働契約が成立していない段階、つまり採用(内定)前であれば自由に断ることができますが、試用期間はすでに労働契約が成立していて、単に会社側に解約権があるというだけなので、クビにするにも理由が必要となるのです。
									
										それでは、具体的にどのようなケースであれば、会社が試用期間に本採用を拒否して対象者をクビにできるのでしょうか?
										
										試用期間の解雇は「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当な場合」のみ認められている
										判例では、留保解約権に基づく解雇の場合、通常一般の解雇よりは広く解雇の自由を認めても良いと判断されています。
										ただし、そうであったとしても全く自由に解雇が認められるわけではありません。
										
										留保解約権にもとづく解雇は、その趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な場合にのみ認められる、と判断されています。
										
										具体的には、試用期間中の勤務状況などによって、雇い入れた時点では知ることのできなかったような事情が判明し、それによって雇用を継続することが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨や目的からして客観的に相当であると認められるような場合にのみ、クビにすることが認められます(三菱樹脂事件。最高裁判所昭和48年12月12日判決)。
										
										このように試用期間にクビにするには、「客観的な事情」が必要ですから、会社側が「社風に合わない」と判断したからといって容易にクビにできるものではありません。
										
										就業規則において「本採用が適当でないと判断した場合には解雇できる」という記載があっても、法的にはクビにすることが認められない可能性があるのです。
										
										試用期間にクビにされたとき、会社が説明する解雇理由が合理的なものでなかったら、受け入れる必要はありません。
										
										クビが言い渡されるのはいつごろか
										また、試用期間にクビにされるときは、会社から従業員に対し「解雇予告(解雇通知)」が行われることが多いです。
										
										労働基準法上、解雇するには30日以前に解雇予告をするか、日数が足りない場合には不足分の「解雇予告手当」を支払わなければならないとされているからです(労働基準法20条1項、2項)。
										※試用期間中の場合(14日を超えて働いた場合を除く)や、働く期間が2か月以内の場合、季節的な仕事に4か月以内で従事する場合、日雇いの場合は支給対象外(労働基準法21条)
										
										しかし解雇予告が行われた場合でも、それを必ずしも鵜呑みにする必要はありません。
										3章では、クビを言い渡された場合に確認するべき6つのポイントを解説します。
									

								試用期間に解雇予告を受けたとき、「クビにされた」と思い、ショックを受けて泣き寝入りをしてしまう方がいますが、そうではなく、証拠を残して不当解雇を争う準備をすべきです。
								
								安易に解雇に応じず、まずは以下のような点をチェックしましょう。
							
まずは、会社に対して解雇理由証明書の発行を求めましょう。
										会社は従業員を解雇したとき、従業員側から請求があれば、遅滞なく解雇理由証明書を発行しなければならないと法律で決められています(労働基準法22条)。
										早期に解雇理由証明書を取得しておくことが大切です。
									
										解雇について会社側と話し合うときには、会話内容を録音しておきましょう。
										話の中で、相手がいい加減な解雇理由を主張していたら、その録音データによって後から会社の主張する解雇理由が合理的でないことを証明できる可能性があるからです。
									
										会社が主張する解雇理由が「能力不足」の場合の考え方をご説明します。
										
										能力不足と言われた場合でも、そもそも達成不可能なノルマを課せられた場合や、いじめに遭って仕事を任されなかった場合などには、「能力不足」が正当な解雇理由にはならず、解雇が違法となる可能性が高いでしょう。
										
										能力不足による解雇が認められるのは、会社が社員教育をしっかり行い、それでも能力が足りない社員には配置転換などの措置をとり、それでも本人に改善のきざしがなくクビにするしか選択肢がない場合などです。
									
										試用期間中に病気や怪我をしたことによってクビにされてしまうケースもあります。
										しかし、試用期間中に怪我や病気をしたからといってクビにすることが認められるわけではありません。
										
										そもそも、怪我や病気が業務上のものであった場合、休業期間や休業後30日間は解雇できないことが法律上定められています(労働基準法19条1項)。
										
										傷病のケースであっても、復帰後どうしても雇用を維持することが困難なケースでのみ、クビにすることが認められているのです。
										
										病気や怪我による休業の場合の取扱いについては、就業規則に規定があることが一般的なので、確認してみると良いでしょう。
									
										会社の営業不振により、整理解雇(リストラ)されるケースもあります。
										この場合、会社都合によるクビですから、要件は厳しくなります。
										
										具体的には、
										試用期間中に犯罪行為を行ったり会社に損害を与えてトラブルを起こしたりすると、懲戒解雇される可能性があります。
										
										ただし、懲戒解雇するには懲戒事由を就業規則に定めておく必要がありますし、懲戒権の濫用にならないように、解雇の合理的な理由があることが必要です。
										
										懲戒権の濫用と判断されたら解雇は違法・無効となり、雇用を継続させることが可能となります。
									

試用期間にクビにされてその理由に納得できないとき、どのように対応すれば良いのか、またクビのトラブルを弁護士に相談するメリットも合わせてご紹介します。
										まずは、労働組合に相談する方法があります。労働組合に相談すると、労働組合が企業側と団体交渉をしてくれます。
										団体交渉は賃金などの労働条件の引き上げなどのためにも行われますが、これによって企業側にクビを撤回させられる可能性があります。
									
										次に、労働基準監督署に相談する方法があります。
										労働基準監督署は、域内の企業が労働基準法違反の行為を行っていないか監督する政府の機関です。違法行為が発見されると、対象企業を摘発して刑事責任を追及したり、行政指導を行ったりします。
										
										ただ、労働基準監督署は会社が違法行為を行っていたら指導勧告してくれますが、多くは民事上の問題であり、労働基準監督署はこうした民事上の争いには積極的に介入しません。
										
										また、クビにされたときの状況が、法律上の不当解雇にあたるのかの判断もしてくれない場合もあるので、相談してもあまり効果がない可能性もあります。
									
										クビのトラブルについて裁判所で労働審判を申し立てる方法があります。
										
										労働審判とは、労働者と会社間のトラブルを解決するための専門的な手続きです。
										原則3回の期日で終了するので、スピーディに不当解雇問題を解決できます。
										
										ただし当事者は裁判所の決定(審判)に異議を出すことができるので、必ずしも最終的にクビのトラブルを解決できるとは限りません。
									
試用期間終了時にクビにされたときには、弁護士に相談する方法が非常に効果的です。
										依頼者は弁護士にこうした対応を任せている間に、転職や失業保険の受給などの手続きを進めることができます。
									

以下では、長時間労働からの解放を実現し、残業代も獲得できた当事務所の解決事例を紹介します。
							シングルマザーのHさんは、ホテル業に転職して間もなく、試用期間満了を理由に「勤務態度不良」として本採用を拒否されました。Hさんには心当たりがなく、会社からの説明も十分ではありませんでした。
							
							弁護士は会社に対して解雇理由の開示を求め、事実関係を調査して復職を主張しました。労働審判では解雇無効は難しいとのが示されましたが、給料約5か月分に相当する解決金を受け取る形で和解が成立しました。
							
							50代男性・Aさんは、関連会社へ転籍して試用期間付きで勤務していましたが、期間満了前に「能力不足」や「コミュニケーション不足」を理由に解雇を言い渡されました。本人には納得できない点が多く、生活への影響も大きかったため、弁護士に相談しました。
							
							弁護士が勤務状況や経緯を丁寧に整理して解雇の無効を主張した結果、訴訟ではAさんに有利な判断が示されました。Aさんは、訴訟の間に次の転職先を見つけたため、復職ではなく和解を選び、600万円の解決金を受け取って解決に至りました。
							

								試用期間にクビにされてしまったら、納得できない方は多いでしょう。
								
								ベリーベスト法律事務所では、多くの労働者の方から試用期間のクビの問題についてご相談をお受けしています。
								
								ご相談いただけましたら、適切な対応方法や注意点についてのアドバイスをいたしますので、試用期間にクビにされたら、泣き寝入りをせずに弁護士までご相談ください。
								クビのトラブルについて実績豊富な弁護士が力になります。
							
										
										ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
										残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に	お問い合わせください。
									
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